劇団あとの祭り Vol.5

「TheEND(エンドマーク)は降って来る」

作/福冨英玄

<5 ターゲット>

 

 

デウス 愚かなる地球人どもに告ぐ!

貴様らが地上を支配する権利は今をもって停止する。

なぜならば、今この瞬間より地上は

この私が支配するからだ!

愚かなる地球人どもよ、我に従え!

我が帝国に忠誠を誓え!

その者に限り生き残ることを許す。

はむかう者は死をもってその無謀さを知るだろう!

わが名は古代アトランシュ帝国大帝カイザーデウス!

 

ふと気づくと遠巻きにデウスを見ている人、人、人

 

 

デウス 何だ貴様ら…なんだその幻の珍獣でも見るような目は?

えぇい、見世物ではないわ、散れ散れ!

…全くこれから地上の支配者になる者に対して

何という無礼な…この星は無礼者しかおらんのか。

ヤマザキ あーあ、なんだよこりゃ。進化のバランス崩れまくりじゃねーか。

物質文化ばっかのさばらせやがって。

誰かとめるやついなかったのかよ、ほんとに。

デウス おい、貴様。

ヤマザキ え…私?

デウス うまく化けたつもりだろうが、そうはいかん。

貴様、人間ではないな?

ヤマザキ ドキ…いやーおみそれしました。

まさか一目で見破られるとは思いませんでしたわー。

あ、はじめまして。あっちの管理局のヤマザキといいます。

こっちの管理局の人でしょ?いやー、お互い大変ですなあ。

デウス ヤマザキ。

ヤマザキ は?

デウス ドローメがどうなったか知らんか?

予定では今度地球とぶつかるはずなのだが…。

ヤマザキ 何、そのドローメって。

デウス 私の戦艦だ。全長86000mの超ド級戦艦だ。

本当に知らんのか?まいったな、あれがないと

私は力が使えんし、戦闘怪人も呼べんのだ。

ヤマザキ お困りのようですね。

デウス うむ、困っている。

ヤマザキ その割にはえらそうだなあんた。

ま、よくわかんないけど、そのなんとかってのがないと、

仕事ができないわけ?

デウス 仕事…まあ、そんなようなもんだ。

ヤマザキ そりゃ困るなあ。おれ仕事しにきたんじゃないんだから。

…しょうがないな、ほら。

デウス 何だこれは。

ヤマザキ 探知機。知らないの?こっちじゃ装備に入ってないのかな。

ま、とにかくここをこうして、あとはそれの指す方向に

あるはずだから。

デウス 本当か?助かる。

ヤマザキ なるべく強くイメージするようにね。

でないと見失うから。なんだか知らないけど見つけたら

早く仕事にかかってよ。

 

 

デウス去る。

 



 

ヤマザキ しまった、渡して帰っちまえばよかった…。

 

 

ヤマザキ、興味をそそられてディスクを端末に入れる。

同じ音楽。課長登場。

 

 

課長  あらかじめ言っておくが、これはデータファイルだ。

作為的な間があったとしても気にしないように。

さて、おはよう諸君。早速だが、このテープは

自動的に消滅する。3!2!1!

 

うろたえるヤマザキ

 

課長  …というのは冗談だ。調子はどうかね、ヤマザキ君。

ヤマザキ え?

課長 君のことだ。どうせ一人でこっそり見ているんだろう。

いいんだよ、そのつもりで渡したんだから。

ヤマザキ どういう意味です?

課長 実は…ってきみねえ、これはデータファイルだって言ったろ?

電話じゃないんだから、話しかけてどうすんの。

ヤマザキ だって…

課長 まぁいい。さて、お約束の二者選択だ。

ささやかながらいい話と圧倒的に悪い話、どっちがいい?

ヤマザキ 悪い方。

課長 …後悔しないね。

ヤマザキ キライなおかずは先に食う主義。

課長 よかろう。今回君に与えた指令、覚えているかね?

ヤマザキ ファイルを渡せば終わり。

課長  その前だ。

ヤマザキ えぇと…現地の局員が能無しなんで、

たかが次元断層をふさぐのに中央が…

課長 それだ。

ヤマザキ え?

課長  その次元断層だがな。

ヤマザキ はぁ。

課長 中央のシステムで測定したんだが、断層発生による

次元震の震度は瞬間8以上ということがわかった。

ヤマザキ …8以上?

課長  史上最大だ。現地の局員とは連絡がとれん。

まぁ十中八九全滅だろうな。

ヤマザキ そんな。

課長 三次元に介入できる局員の中では、

君が一番クラスが高い。悪いが…。

ヤマザキ 謀りましたね。

課長  そういうな。他に手がなかったんだ。

ヤマザキ …それで終わりですか。

課長 残念だがまだだ。

ヤマザキ まだあるんですか?

課長 断層の収縮率がマイナスになっている。

自然収縮力が働いていない。

ヤマザキ というと?

課長 考えられる可能性は二つだ。

ヤマザキ 断層源にいた現地人がひっかかった?

課長 そう。それも史上最大の断層だからな。

インナースペースがとんでもない勢いで流出している。

このままいくと…。

ヤマザキ どうなるんです?

課長 …前例がないからわからん。だが、わからんだけに、

何が起きても不思議はない。

ヤマザキ 下手すれば高次元にも影響が?

課長 少なからずな。

ヤマザキ …それが本音か。

課長 こうしている間にも断層はどんどん広がっている。

あまり時間はないぞ。流出したインナースペースを

すみやかに回収し、断層をふさいでくれたまえ。

ヤマザキ …ここまでですか?

課長  そうだ。

ヤマザキ じゃ、いい方を。

課長 特例だ。全装備の使用制限を一時停止する。

どんな手を使ってもかまわん。最悪イレーサーの使用も

許可する。それと中央のシステムは

そっちと直結させておく。データは最優先でそちらに送ろう。

まもなくターゲットが特定できるはずだ。他に質問は?

ヤマザキ そのターゲットについてなんですが…あれ?

さっきこのファイルはただのデータファイルだって言って…

課長 このテープは自動的に消滅する。3!2!1!

ヤマザキ わああ!!

課長 どかーん!

 

うろたえるヤマザキ。

もちろんなにごとも起こらない

ため息をつきつつヤマザキ、キーを叩く。

 

 

ヤマザキ …野村ハルコ…こいつか。それと…

なんだこのプラズマンってのは…それと…あれ?

…あ!…こいつさっきの!…くそ!ちょっと、さっきの人!

 

ヤマザキ、去る。

 

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