劇団あとの祭り Vol.5

「TheEND(エンドマーク)は降って来る」

作/福冨英玄

<8 衝突>

 

 

ハルコとデウス、出てくる。


ハルコ、スーパーの袋を持っている。

 

 

デウス ここか?

ハルコ そうよ。

デウス ビルの屋上ではないか。

ハルコ そうよ。

デウス …何か楽しいのか?

ハルコ 夕日が見えるのよ。あと街の明かりもね。

デウス それだけか。

ハルコ そうよ。

デウス 帰る。

ハルコ なんてね、中学生じゃあるまいし、そんなもんで

気晴らしになんかなりますかって。

 

ハルコ、袋からビールを出してデウスに放る。

 

ハルコ 飲も。

デウス 何だこれは。

ハルコ ビールよ。お酒。

デウス 酒か?

ハルコ 好き?

デウス …まあな。

ハルコ あ、そっか…あたしが趣味であんたの左手に

グラス描いたんだっけ。

デウス 何かというと握りつぶす。

ハルコ かっこいいでしょ。

デウス 言っておくが、あれはすごく痛い。

ハルコ まあまあ。

 

ハルコ、デウスの缶のふたをあけてやる。

 

ハルコ はい、乾杯。

デウス うむ。

 

飲む。

 

ハルコ おいしい?

デウス まずい。

ハルコ でしょうね。

デウス 知ってて飲ませたのか。

ハルコ いいじゃない、私が買ってきたんだから。

いらないんならいいわよ。私飲むから。

 

ハルコ、缶を取り上げる。

 

デウス あ、ちょっと待…。

ハルコ そんなにカッコつけなくてもいいのに。

デウス …カイザーだからな。

ハルコ …やっぱりね。

デウス ん?

ハルコ どっちかっていうと憎めないのよね、あんたって。

 

デウス、知らんぷり。

 

ハルコ 嫌いだったのよ。

デウス 何が。

ハルコ ヒーローもの。…嫌いっていうのも違うかな。

描きたくなかったんだ。ヒーローものなんて。

デウス …。

ハルコ プラズマンの連中がうちにいてさ。最終回を描き直せっていうのよ。

思わずカッとなって飛び出してきちゃったけどさ。

デウス …。

ハルコ 知ってた?プラズマンってもともとはテレビ番組だったのよ。

デウス そうなのか?

ハルコ そうなのよ。だからさ…私、そのテレビにあわせて

漫画描かなきゃならなかったの。それが嫌でね。

私だったらこんな展開にしないとか、

私だったらこんなセリフ言わせないとか思っても、

それを言わずに我慢しちゃうのって結構つらいよ。

私にだって、プライドくらいあるんだからさ。

デウス よくわからんが…それなら描くのをやめればいいではないか?

何も無理して描くことはないだろう。

ハルコ うん、まあそうなんだけどね…でもさ、これも

漫画家の仕事じゃない。そう思ったら

やめられなくなっちゃってさ…それにね、

本編も終わっちゃったことだし、

最終回は好きに描いていいって言われたの。

だからさ、今までの展開からすると、

かなり無理して描いてやったの。

だいたいあんたなんか原作では、

妖怪じみたオッサンだったんだからね。

デウス そうなのか?

ハルコ そうよ。しかも自らを改造して戦闘怪人になるの。何男だと思う?

デウス …サメ男。

ハルコ ぶー。

デウス …しゃち男。

ハルコ ぶー。

デウス …まさか。

ハルコ 大王イカ男。

 

デウス、大ショック。

 

ハルコ 知らなかったでしょ。

デウス 知らなかった。

ハルコ 感謝しなさいよ。

 

間。

 

デウス …どうやって終わるつもりだったんだ?

ハルコ 何が?

デウス 最終回だ。戦艦ドローメは結局落ちるのか?

ハルコ うん。でもレッドの捨て身の攻撃で、

戦艦は地球衝突寸前で爆発しちゃうけどね。

デウス 爆発って…爆発するのか?

ハルコ うん。

デウス 86000メートルだぞ。

ハルコ うん。

デウス 無理があるんじゃないのか?

ハルコ 私もそう思う。でもね、最終回のコマはすごいわよ。

戦艦の破片が流星みたいに見えてさ。

それが戦艦が大きいから、もう夜空を埋めるほどでさ。

で、その中をレッドが帰ってくるの。

ボロボロになりながらもね。

デウス ちょっと待て。さっき捨て身の攻撃って言わなかったか?

ハルコ いいじゃない。カッコいいんだから。

デウス …そうか。

ハルコ でもねえ…どうせなら、地球が消滅して終われば

よかったかなあ…。

デウス 消滅…するのか?

ハルコ うん。

デウス 悪が勝って終わるのか?

ハルコ 斬新でしょ?

デウス …そうか。

 

間。

 

ハルコ 人間ってさ。滅びるべきかもしれないね。

デウス !

ハルコ びっくりした?私ってさ、時々意味もなく死にたくなるのよ。

デウス そんなものか?

ハルコ そんなものよ。ならない?

デウス 絶対ならない。

ハルコ 私はなるけどな。土曜日の昼下がりに雨が降ると

間違いなく死にたくなる。逆に、とってもいい天気でも

やっぱり死にたくなるし、こんなふうに静かな夜も時々はね。

デウス …そんなものか?

ハルコ そんなものよ。

デウス そうか。

 

間。

デウス、突然立ち上がる。

 


ハルコ どうかした?

デウス しっ!

 

デウス、耳を澄ます。

 

デウス …やっぱり、この音はドローメの降下する音だ。

おーい私はここだ!早く回収せんか!

ハルコ 無理だと思うよ。

デウス 何?

ハルコ 無理だと思う。

デウス 何が?

ハルコ あのドローメはね、最終回で地球と衝突させるために、

あんたが落っことしたヤツだから、

あんたが叫んだくらいじゃ反応してくれないと思うよ。

デウス …ちょっと待て、じゃあれは今、落っこちている途中なのか?

ハルコ そうだよ…と思う。

デウス どこに。

ハルコ そうね…ここかな。

デウス 馬鹿な!…あれは物語の中の話だ。

あんなものが落ちてきたらいくら私でも止めようがないぞ。

ハルコ 全長86000メートルだからね。今更逃げてもどこまで行けるか…

デウス …お前か?

ハルコ ん?

デウス お前がやっているんだな。

ハルコ だったらどうする?

デウス すぐ止めろ、でないと本当に地球が消滅する…!

まさか…お前、それを望んで…

 

戦艦の降下する音

 

 

<続く>

<前へ>

 


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991