劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

< 1 落ちる男 >

 

 

山崎  「いっそ消えてしまえたらいい。」

そんなことをわけもなく思ったことはないでしょうか。

今の私がそう考えています。理由なんかありません。

わけもなくそう思ったのです。そして、私はそれをわけもなく

実行しようと思います。これは事故ではありません。

ましてや誰かのせいでもありません。

この世に生を受けた私が、この世から去るという、

ただそれだけのことなのです。

そして、ただ一つはっきりしていることを言えば、

たとえ理由はなかったとしても、

それが私自身の意思によるという、その一点に限ります。

 

…もしもこの世に神というものが存在するなら、

どうか次は人でないものに生まれますように。

…そして、お父さん、お母さん、

またもしいるのなら私を愛してくれたその他の人々へ。

どうか、先立つ不幸をお許しください。

 



山崎、遺書を置き、靴を脱ぎ、丁寧に揃えると、

深呼吸して割とあっさり飛び降りる。

 


マンガチックな落下音。

なかなか音が切れない。

 

山崎  …しかし…飛び降りてから地上まで、こんなに長いとは思わなかったな。

もうちょっと低いビルにすりゃよかった…

いやいや、でもそれで死にきれなかったら、

それこそさらし者だよな。警察とか、消防署とか。

マスコミなんかも来ちゃったりするかも知れないし…

あ、待てよ、遺書なんか読まれたりなんかした日にゃあ、

恥ずかしくて生きてられないよな…死ぬつもりで書いてんだからさ…

やばいな、俺、死ねるかな…

…にしても長いな。

…飛び降りって、途中で意識なくなっちゃうって聞いていたのに、

そんなことないじゃないか。このまま地上にぶつかったら痛いかな。

やだな、俺痛いのダメなんだ。

こんなことなら睡眠薬にすればよかったな…あーあ、退屈退屈…

いっそ誰かもう一人落ちてこないかな。



と、もう一つの落下音。



山崎  え?

< 続く >

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