劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

< 3 激突 >

 

 

山崎  あのーもしもし?大丈夫?

ヤマザキ  ダメだ…全然大丈夫じゃない…あーくっそーいってー

山崎  腹か?

ヤマザキ  腹だ。

山崎  痛いか?

ヤマザキ  痛い。

山崎  これ飲めよ。

ヤマザキ  何だこれ。

山崎  百草丸、持ち歩いてんだ俺。

ヤマザキ  …てめえ、死にかけてる奴に対して、

ずいぶんなボケふってくれるじゃないか。

山崎  死にかけてるにしちゃずいぶん元気そうじゃないか。

 

再び痛がるヤマザキ

 

山崎  大丈夫?

ヤマザキ  大丈夫じゃねえ。

山崎  腹か?

ヤマザキ  …。

山崎  痛いか?

ヤマザキ  おい!

山崎  これ飲めよ。百草丸…。

ヤマザキ  からかってんのかお前は!

山崎  そうだけど…。

痛がるヤマザキ

 

山崎  大丈夫?

ヤマザキ  くどい!…って、待てよ。お前、三次元人のくせに、

どうして俺と会話できるんだ?

山崎  え?

ヤマザキ  …なるほど、わけは知らんが、死を目前にして、感覚機能が高まったのか…

山崎をじろじろ見る

山崎  …なんだよ。

ヤマザキ  ラッキー。

山崎  ?

ヤマザキ  実はな…俺はさっきの戦いで、致命傷を負ってしまってな。

はっきりいって死にかけてるんだ。

山崎  奇遇だな。俺もだよ。

二人とも、その割には元気そう。

ヤマザキ  そこでだ。

山崎  そこで。

ヤマザキ  ここは一つ協力しないか?

山崎  というと?

ヤマザキ  生物ってのは、肉体が滅んでも、魂さえあれば生きていられる。

でも魂は肉体という入れ物でしか保管できない。

ところが三次元人のお前らは、肉体の30%くらいしか利用してないから、

もう一人ぐらい入る余裕がある。

そこで、お前の体のその余裕の分を貸してくれないか。

山崎  …。

ヤマザキ  むろんただとは言わないぞ。

山崎  デジタル時計でもくれるのか?

ヤマザキ  並外れた耐久力と、ずばぬけた回復力をあげよう。

お前が何で死にかけてるかはしらんが、たかが三次元人、何とでもなる。

山崎  ちょ、ちょっと待てよ。つまり何が言いたいんだよ?

何が何だかさっぱりわかんないよ。

ヤマザキ  ニブい奴だな。あるだろ?そういうの。

山崎  だから何が。

ヤマザキ  遠い星から来てさー。悪い奴追ってきてさー、

地球人巻き添えにしちゃってー、しょーがないから一身同体になってさー。

山崎  そしてピンチの時には身長40mの正義の味方に早変わり!

ヤマザキ  そういうヤツ。

山崎  …誰が。

ヤマザキ  俺が。

山崎  …お前が?

ヤマザキ  そう。

山崎  ………ひょっとして…俺と?

ヤマザキ  そう。

山崎  パス!

ヤマザキ  え?

山崎  だめ、俺忙しいの。そういうの困るんだよ。

ヤマザキ  困るったって、俺だって困ってるんだよ。

山崎  そんなこと俺には関係ない。

ヤマザキ  そう言うなよ。お互い様だろ?一緒に助かろうよー。

山崎  俺は死にたいんだよ。



ヤマザキ  え?

山崎  俺、自殺の最中なんだよ。悪いけど、他当たってくれよ。な。

ヤマザキ  そんな事言ったって…お前、さっきの俺と奴の戦闘見たろ?

あいつ逃げたよ?ケガしてたよ?たぶん回復のためにそこらに

潜んでるよ?あいつが暴れたら三次元人じゃ太刀打ちできないよ?

いいのか?いいのかそうなっても?

地球のピンチを救うのは君しかいないじゃないか!

愛のために立ち上がれ!平和のために立ち上がれ!

胸に無限の勇気を込めて、悪を切り裂く太刀になれ!

山崎  だからそういうの困るんだってだってば。俺一般ピープルなんだからさ。

ヤマザキ  甘いなお前。

山崎  何が。

ヤマザキ  最初はみんなそういうんだ。

山崎  何の話だよ!

ヤマザキ  あ!パンダ!

山崎  え?どこ?

ヤマザキ  スキあり!

山崎の背中に張り付くヤマザキ

もがく二人

山崎  てめえ、きたねえぞ!

ヤマザキ  うるさい、これが本当の死活問題だ。なりふり構ってられるか!

山崎  それが正義の味方のやることか!

ヤマザキ  時と場合によりけりだ!…あ!

山崎  えっ?…って同じ手に乗るか!

ヤマザキ  地面だ。

山崎 …え?

 

思い出したように落下音。

激突音。

暗転。

 

 

< 続く >

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