劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

<6 編集室>

 

ところかわって

某出版社編集室(むろん山崎の仕事場) 村松が、電話をかけている

 

村松  …で、今、まさに消えゆかんとする主人公の命をだな。

その勇気に感動した、異世界の戦士は、自分の命をゆずることで

救うんだよ。かくて普段は一般人として暮らしつつも、ピンチの時には一転、

身長40mの正義の味方に変身、がんばれ僕らのヒーローってわけだ。

何?陳腐だ?そうだよ。それがどうかしたかよ。…あのな、お前何か

激しく勘違いしてんじゃねぇのか?誰がお前に歴史に残る大傑作

書いてくれって頼んだよ。お前が何をどう書きたいかなんてのは

問題じゃないんだよ。要は読者が何を求めているかだろ?…そうだよ、

求めてるんだよ、陳腐な奴を。だからお前は、陳腐なストーリー書いて、

枚数稼げばいいんだよ。あとは挿絵と装丁で売れるんだよ。

わかったな。わかったら、とっとと書き直せ。だいたいお前はなあ…

 

いつの間にやらでてきたアラシがフックをおろす

 

アラシ  そのくらいでいいんじゃないですか?編集長。

いくら新人だって、いじめりゃいいってもんじゃないでしょ?

村松  しかしな、大御所の先生のがしちゃったんだから、

新人にがんばってもらわなきゃ、しょうがないじゃないか!

アラシ  今さらあがいたって、なるようにしかなりませんって。

村松  なるようにしかって

アラシ  どうせ遠からず廃刊でしょ?

村松  …君!君には愛社精神というか、自分の仕事に対する誇りというかだなあ…

入ってくるイデ

 

イデ  ちわーっす。あ、ねえ、山崎さん来てる?

アラシ  まだみたいだけど…。

村松  コラ、まだ私の話が…。

イデ  …そっか・・・じゃ、やっぱあれが…。

アラシ  どうかしたの?

イデ  いやね、原稿もらって帰ってくるときさ、駅の方から回ってきたら、

何か人だかりができてるんだよ。「何かな」と思ってのぞいてみたら、

それがどうも飛び降りらしくてさ。で、たまたま新聞社の友人が

来てたもんで、「どうかしたの?」って聞いたら、

「どうも男が一人飛び降りたらしい。屋上に遺書があったから、

たぶん自殺だろう。身元はわからないけど、遺書には

名前が書いてあって、その名字が…

アラシ  …ちょっと…。

イデ  …山崎って言うんだって…。

 

 

アラシ・村松  まっさかー。

村松  あいつにそんな度胸あるわけないだろ。

アラシ  そうそう。

イデ  そっか、そうだよね。俺山崎のことだから「生きることに疲れた」とか

言い出すんじゃないかと思ってさ。

アラシ  あり得るわね。

村松  アラシ!

アラシ  だってほら、山崎君って変にがんばっちゃうとこあるじゃない。

イデ  心配性っていうか、苦労性っていうか。

村松  単に手際が悪いだけだ。やることやらずにおいて、

どうでもいいことに凝るんだあいつは。

アラシ  編集長はそう思っても、山崎君本人はそう思ってないかもしれませんよ。

「俺はがんばってるんだ。それなのに、ああそれなのに、

会社は俺を認めてくれない」

イデ  じゃ何、あてつけで死んでやれってこと?

村松  ちょっと待て、それじゃ私が悪いみたいじゃないか。

 

 

イデ・アラシ  だって…ねえ。

村松  口をそろえるなよ!

イデ  だって、こう言っちゃ何ですけど、編集長日頃から山崎に

きつかったじゃないですか。

村松  別に仕事が原因と決まったわけじゃないだろう…

その…プライベートなことかもしれないじゃないか。

アラシ  会社に15時間以上いたんじゃ、プライベートもへったくれもありませんって。

村松  しかしだなあ…

イデ  あーあ、こりゃ遺書になんて書いてあるか、想像つきますね。

アラシ  新聞社の友達が来てたんでしょ?「会社の上司のMさん」とかだったりして。

イデ  あ、そいつマスコミ関係強いから、2、3日すれば昼のワイドショーのネタだよ、

きっと。

アラシ  「恐怖!!廃刊間近の編集室に、現代の生き地獄を見た!!」とか。

イデ  「いっそ死なせてくれ!!」みたいな。

村松  山崎ぃ!私が悪かった山崎…廃刊を恐れるあまり、お前のことを

考えなさすぎた…私が悪かった…謝ってすむならいくらでも謝ろう。

だから…これ以上私の立場を悪くしないでくれ。どうか…どうか死ぬなら

一人でこっそり死んでくれ。

イデ・アラシ  おいおい。

村松  ああ…目を閉じればお前の姿がはっきりと思い出せる。

今も振り向けば、すぐそこにお前の笑顔が見えるようじゃないか…。

 

振り向く三人。

山崎・ヤマザキ、そこにいる。

 

山崎  …ども…遅れまして。

村松  やぁまぁざぁきぃ!

アラシ  …自殺したんじゃなかったの?

山崎  え?いやまぁ、なんというか…

ヤマザキ  ちょっと、飛び降りたところを、通りすがりの正義の味方に拾われまして。

山崎  …なんて話を誰が信じる!

イデ  なんだよ、いきなり。

山崎・ヤマザキ  何でもない、何でもない。

アラシ  実は飛び降りたんでしょ?でも死にきれなかったとか…。

村松  私のせいじゃないからな!な!お前がどこで何してもいいけど、

社会の迷惑というか…。

イデ  実は生霊とか、そういうオチじゃないだろうな…。

 

など、口々に言う三人。

 

山崎  あの!

 

 

山崎  …原稿とってきます。

 

山崎、ヤマザキ、退場。

 

追って三人、去る。

 

< 続く >

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