劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

<8 契約>

 

 

間。

 

ヤマザキ  ♪怪獣退治に使命をかけて〜

山崎  燃える街にあとわずか〜♪

山崎  断る!

ヤマザキ  何で。

山崎  冗談じゃない。つまり、丸一日、お前の非常識で幼稚な

ヒーローごっこに付き合ったあげく、得られるメリットは

「死んでもいいよ」って許可だけか?そんなの取引以前の問題だ!

ヤマザキ  そうは言ってない。

山崎  じゃ、俺のメリットって何だよ。

ヤマザキ  「安らかな死」ってので、どうだ?

山崎  ?

ヤマザキ  どういう方法を使ったって、肉体的には健康なお前が死ぬからには、

苦痛が伴う。そこでだ。俺がちょいとばかり力を使えば、

二四時間後に一切の痛みも苦しみもない死を約束してやるよ。

三次元人ごときの力じゃ原因は絶対わからないから、

誰の迷惑にもならないし、お前が望むなら、お前に関する周囲の人

全ての記憶を消去してもいい。

山崎  それって…つまり、俺という人間は、最初からいなかったことになる…。

ヤマザキ  …というわけだ。それとも誰かへのあてつけなら、

お前の死体をそいつん家に運んでやってもいいけどな。

そのくらいのアフターサービスはつけるぜ。

山崎  …断る。

ヤマザキ  え?

山崎  やっぱりだめだ。何かフェアじゃないよ。そんなの。

ヤマザキ  じゃあ、どうするんだよ。

山崎  自分の死に場所くらい、自分で見つけるよ。

ヤマザキ  見つからなかったら?

山崎  …耳の穴にスポーク突っ込みゃいいんだろ?

ヤマザキ  …痛いぞ?

山崎  …我慢する。

ヤマザキ  よせよ。出来ないことは出来ないって言ったほうがいい。

山崎  …俺にはムリだって言いたいのか?

ヤマザキ  そうだよ。

山崎  う…。

ヤマザキ  …あのな。俺と合体できる個体には絶対条件があるんだよ。

お前はそれを見事に満たしていた。だから合体できたんだ。

その条件って、何だと思う?

山崎  …。

ヤマザキ  精神的に近い存在であること。

言ってみれば、同じ考え方ができることだよ。

あの時、俺も、そしてお前も思いは同じだった。

「死にたくない」俺もお前も強く願った。だから合体できた。

もしお前が本気で死にたいと思っていたなら、

俺たちはとっくの昔に死んでいたはずだ。

山崎  俺が寸前でビビったってのか?

ヤマザキ  …まあな。

山崎  俺は意気地なしだってのか?

ヤマザキ  それを言っちゃあ身も蓋もない。

山崎  …。

ヤマザキ  心配するなよ。俺が殺してやるさ。明日の正午までつきあってくれたらな。

山崎  ビジネスってわけか?

ヤマザキ  そうだよ。

山崎  正義の味方ってのは見返りを期待しないんだろ?

ヤマザキ  そんな都合のいいヤツがいるなら紹介してくれよ。

山崎  …。

ヤマザキ  さあ、どうする?

山崎  …正午までつきあえばいいんだな。

ヤマザキ  ああ。

山崎  12時より前に怪獣をやっつけたら。

ヤマザキ  …そんなにうまくいくとは思えんが…まぁ、好きにしろ。

死なせてほしけりゃすぐ殺してやるし、12時まで待ってもいい。

山崎  じゃあ、12時になってもやっつけられなかったら?

ヤマザキ  …約束どおり、殺してやるよ。

山崎  俺が死んだら、お前も死ぬんだろ?いいのかそれで。

ヤマザキ  救援信号は出してある。12時までには仲間が来て助けてくれる。

そうなればお前と合体している必要性がなくなるからな。かまわんよ。

山崎  …本当に12時でいいんだな。

ヤマザキ  ああ。

山崎  保証は。

ヤマザキ  ない。俺を信じろ。

山崎  無茶言うな。

ヤマザキ  そりゃそうだ。

山崎  …。

ヤマザキ  いやならいいんだぜ。俺だって死にたかないが、

まぁお前がいやだってんなら仕方ない。

山崎  …。

ヤマザキ  さあ、どうする?

山崎  …わかったよ。その話のった。

 

ヤマザキ、握手を求める。

去る。

 

< 続く >

< 前へ >

 


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991