劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

<10 二人の関係>

 

 

村松  …山崎のことか。

アラシ  え?…えぇまあ。

村松  そりゃあ俺だって気にはしてるよ。苦労かけてるとは思う。

でも俺だって入社したての頃はずいぶん泣かされたしな。

今だってこれで何かと忙しいし、会社自体がタイヘンな時期なんだ。

乗り越えて行くしかないだろう。

アラシ  いえ、別に、編集長の悪口を言ってるわけじゃ…。

村松  …しかし、実際気になるんだよ。…そりゃあ仕事が激務になるのは

俺のせいじゃないし、そのことについて、罪悪感があるわけじゃないが…

自殺ってのはどうも穏やかじゃないしな。…たとえ逆恨みでもこう遺書に

「会社に殺された」とか、ましてや俺の名前なんか出てきたら…

寝覚め悪いじゃないか。

アラシ  そんなことないですよ。今朝のあれでしたら冗談ですって。

村松  そうか?…そうならいいが…なあ、本当の所、あいつの…その

プライベートはどうなっとるんだ?

アラシ  さあ…とりあえず、特定の相手とかはいないみたいですけど。

村松  じゃあ…夜の営みは?

アラシ  …自営業なんじゃないですか?

村松  …かわいそうな奴。

アラシ  ただねぇ…。

村松  何だ?

アラシ  怪しいと思いません?

村松  だから何が。

アラシ  ハルコちゃんですよ。

村松  …山崎とか?

アラシ  そう。

村松  …そうかぁ?

アラシ  だって、この前、紳士服売り場でハルコちゃん見かけましてね。

なんだか店員とずいぶんやりあってましたよ。「違うカラーはないのか」とか

「別のサイズはないのか」とか。

村松  お前、それずーっと見てたのか。

アラシ  ヒマでしたから。

村松  仕事しろよ。

アラシ  あ、ともかくヒマついでに調べたら、今日、山崎くんの誕生日。

村松  そんなにヒマか、お前。

アラシ  プレゼント買ったんですよ、きっと。んで、今夜二人っきりで食事して、

お酒のんで、「誕生日だからあげるっ!」なーんて、どひゃあああああああ。

村松  大丈夫か、お前。

アラシ  だって…うひゃあああああああ恥ずかしいいいいいいい

村松  …待てよ。そうすると、男編集者と女作者しかも年下ってことになるのか?

アラシ  …まぁそうですね。

村松  それってまずくないか?最悪のケースじゃないか。

アラシ  何が。

村松  ジンクスだよ。作者どうし、編集者どうしはともかく、作者と編集者では

うまくいったためしがないって業界じゃ有名なジンクスだぞ。

アラシ  あ、そうなんですか。

村松  そうか…そうだと知ってりゃ、山崎をあの子の担当にはつけなかったのに。

アラシ  編集長―――

村松  何言ってんだ。お前をつけようとしたら、お前が

「あの二人の方がいい仕事する」って山崎押したんじゃないか!

 

間 

 

アラシ  …何か…すごい罪悪感…

村松  俺は知らん。

 

逃げる村松。

追うアラシ。

 

< 続く >

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