劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

<22 世界の終り>

 

翌朝。

TVの音がかすかに聞こえる。

山崎、昨日から着のままで、毛布にくるまって寝ている。

 

電話音。

 

酒を飲んだようだ。

頭には、ハルコのくれたネクタイを宴会巻きにしている。

 

山崎、もそもと動いて受話器を取ろうとする。

と、ちょうど留守番電話になる。

 

「はい、山崎です。ただいま留守にしております。

御用の方は、発信音の後に、メッセージを入れてください。」

 

ハルコが出る。

 

ハルコ  …ハルコです。…会社に電話したけど、まだ来てないそうなので、

家に電話しました。…昨日の雨、大丈夫だったでしょうか。

…あの…いるんでしょ?…声が聞きた×

留守電切れる。

山崎、再び寝る。

TVの朝の幼児番組が終わる。

 

ヤマザキ  9時か…。

 

ヤマザキ、たばこを出して吸う。

 

山崎  …せかさないのか?

ヤマザキ  …せかしたら動くのか?

 

長い間。

 

ヤマザキ  …おれは5次元精霊だからな。三次元界が一つ滅んだって、

アリの巣がつぶれた程度にしか思えないんだ。

 

間。

 

ヤマザキ  こんな終わり方があってもいい。…たまにはな。

 

聞いているのか、寝ているのか、山崎は動かない。

長く煙を吐くヤマザキ。

 

山崎  …学校を休むとき…。

ヤマザキ  ・・・ん?

山崎  …カゼひいて学校休むときの気分に似てるよ。

ヤマザキ  …ああ…。

山崎  …世界ってのは…おれがいなくても動くんだ。

ヤマザキ  ああ…世界ってなムダの集まりだからな。

山崎  …何時だ?

ヤマザキ  …9時30分…。

山崎  …12時になったらよろしくな。

ヤマザキ  …ああ…。

 

間。

 

電話音。

しかし、今度はヤマザキの携帯電話の方。

 

山崎は寝ている。

ヤマザキ、警戒しつつ、取る。

 

シュドウ  さっさと取れよ。警戒したって始まらん。

ヤマザキ  !…シュドウ…。

シュドウ  久しぶりだったな。…言葉を交わすのは26時間ぶりくらいか?

ヤマザキ  シュドウ…頼む…俺と一緒に戻ってくれ。

シュドウ  まだ言うのか?

ヤマザキ  中央に惑星霊の介入を依頼した。

この次元ごとお前を吹っ飛ばすこともできる。

シュドウ  らしくないな。…わざわざ俺に教えるあたりがな。

そんなことしないで、いきなり切りかかってくればいいだろ?

それとも何か?そうできない理由でもあるのか?

…例えば、宿主がふて寝してて、思うように動いてくれない、とか…。

ヤマザキ  ! …何!?

シュドウ  嬉しいぞ、ヤマザキ。お前でもそんな声出すんだな。

ヤマザキ  くっ…。

シュドウ  …甘いよ。甘すぎる。俺は六次元天精霊になったんだ。

お前の知ってる俺じゃない。

ヤマザキ  それこそらしくないな。状況の優位をアピールして、

精神的優位に立とうってハラがよ。

シュドウ  そうそう、そうやって、他人の揚げ足取ってるお前が一番魅力的だよ。

ヤマザキ  …。

シュドウ  …今度は黙秘か?…まあいいさ。いいか、ヤマザキ…

一度だけチャンスをやる。俺につけ。俺と組んで、この世界を動かすんだ。

ヤマザキ  断る。

シュドウ  まあ聞けよ…ヤマザキ、お前が信じてるのは正義じゃない。

ただの管理だ。順序良く規律正しいことが正義じゃない。

…俺はこの世界を管理することもなく、野放図にしてみようと思う。

たちまち世界は混沌に陥るだろう。…だがな、その中から

自然と湧き上がってくる規則こそが正義だ。…俺はその世界を

作ろうと思う。だが、俺は三次元以上の境界を超えている。

そう長くは持たないだろう。だからお前が必要なんだ。

・・・俺のしたことを見届けるに足る頭をもったお前がな。

ヤマザキ  言いたいことはそれだけか?なら、俺も言わせてもらう。

正義はお前が口にしていい単語じゃない。

シュドウ  …あわてるなよ。正午までは待ってやるさ。正午まではな。

ヤマザキ  ! …貴様…。

シュドウ  俺を侮るなよ…またな。

 

電話切れる。

ヤマザキ、電話を切る。

 

< 続く >

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