劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 0章 序章 >

 

真冬の夜の港。

汽笛の音と波の音。

ときおり、灯台の光がきまぐれに辺りを照らす他は、

明かりらしいものはない。

遠くみえる街の明かりを、倉庫の屋根が切り妻に区切り、

その下はのしかかるような闇 ――――――  。

ホームレスも、TPOを知らないアベック達も出てこない。

 

そんな、笑っちゃうくらい完成された舞台に男が入ってくる。

目深に被った帽子、首からたらしたマフラーと、

そして第二の皮膚と化した必殺のトレンチ。

そんな、鼻血のでるような「ハードボイルダー」である。

 

男、中央まで歩くと低く喋り始める。

 

大神  …街の様子はずいぶん変わっていた。あれから3年、

当然といえば当然だ。

昔のここは、もっと暗くて…もっと湿っていた。要するにヤクの取引には

もってこいだった。…今はダメだ。灯台の光が乱反射して、辺りを

やかましく照らしやがる。…ま、それだけ平和になったってことか…。

 

言うなれば、ここは社交場だったのだ。

俺たち麻薬捜査官とバイヤー達の、神聖にして冒されざる場所だった。

「市民」という名の羊をねらう狼と、それを阻止せんとする番犬たちが、

互いに牙を磨きあう…そんな場所だったのだが…。

 

汽笛。

辺りを見渡す、男。

海風。

男、襟を立てる。

 

大神  …いや、変わらないものがあった…潮の匂いに混じる排ガスとそして…

(ニヒルな笑み)…相変わらず…血なまぐさい風だ…。

 

男、懐から煙草を出すと、一本くわえる。

風を避けて、手で火をおおう。

照り返しで浮かび上がる男の、煙で眉をひそめた顔。

 

(大勢)  そこまでだ!

大神   ! (眉をあげるが、動かない)

(大勢)  麻薬捜査官、大神 明!お前を逮捕する!

 

男、悠然と初めの一息を吐き出すと、立ち上る煙の向こうで

壮絶な笑みを浮かべて見せる。

銃声!

暗転。

 

音楽と共に、タイトルインの雰囲気。

 

 

 「ハァドボイルドの犬達」

  作 / 福冨英玄  

 

 

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