劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 15章 エピローグ >

 

 

事務所。

ドアが開く。

ミサキが入ってくる。どこか沈んでいるよう。

ミサキ、机につく。

ミサキ、仕事にかかろうとするが、手につかない。

ミサキ、懐からライターを出す。しばらく見つめるが、

それを机に置き、奥の部屋へひっこむ。

 

間。

 

果たして、不死身のタフガイ=大神 明は死んだのか?

 

ドアが開く。

大神がこっそり入ってくる。

大神、きょろきょろと当たりを見渡す。

大神、机の上にライターを見つけると懐にしまう。

大神、こっそり出て行こうとする。

奥の部屋へのドアが開く。

 

ミサキが入ってくる。

ばったり顔をあわせる二人。

 

間。長い間。

 

ミサキ  …。

 

ミサキ、大神など見えないかのように、机につくと、仕事を始める。

所在なげな大神。

 

大神  「…俺は不死身のタフガイなのさ。特に満月の夜はな」By平井和正。

ミサキ  …(無視)

大神  …別に隠してた訳じゃないんだが…

ミサキ  聞いてないわ。

大神  …(いたってシリアスに)…「プリーチャー」が生きている。禁煙法の

支配する暗黒時代は、まだまだこれからだ。だから俺は追わなきゃ

ならない。俺は走り続けなきゃならない。

ミサキ  聞いてない。

大神  俺の側にいちゃアブ無いんだよ。知っているか?「彼女」って言う字はだな…。

ミサキ  …「聞いてない」って言ってるの。You see?

大神  …I see。

 

ミサキ、仕事を続ける。

 

大神  …だけどな…。

ミサキ  …。

大神   なんていうか。…なんかあってもいいだろ?

 

ミサキ、手をとめる。

しばらく考える。

 

ミサキ  「夕ご飯までには帰ってくるのよ、ぼうや」

 

大神むっとする。

 

大神  「Long good by」 Byレイモンド・チャンドラー。

 

間。

二人、どちらともなく、ほほえむ。

 

大神  じゃあな。

ミサキ  …ええ。

 

大神、去ろうとする。

ミサキ、まだ笑っている。というか、こらえている。

 

大神  ?

 

ドアが開く。恵子、小山田らが駆け込んでくる。

 

恵子  大変ですよ、ミサキさん!禁煙法が廃止になっちゃいました!

 

状況を理解する間。

 

大神  何い!

恵子  やばいですよ。下手するとギャラでませんよ、これ!請求書作って、

早く送信しないと。

小山田  いや、でもさ…。

恵子  うるさいわね!手伝ってよ!ただ働きでいいの?

小山田  だって、もうニュースになってんだよ。今さら…。

 

ミサキ、こらえきれなくなって、笑う。

びっくりする恵子、小山田。

 

大神  …お前、知ってたな。

 

思いっきり笑う、ミサキ。

 

恵子  …あの、ミサキさん。

小山田  いや笑い事じゃなくて、ですね…。

 

ミサキ、ひとしきり笑うと、大神に聞く。

 

ミサキ  …だってさ。どうするの。

 

苦虫をまとめて噛み砕く大神。

 

大神  …一服するさ。

 

 

暗転。

 

 

<ハァドボイルドの犬達 終>

 

 

<前章へ>                                      

 

  


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991