劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 4章 A.O. >

 

 

事務所。

 

ミサキ、机でノートパソコンに向かっている。

一通り打ち終わって、処理を待つ。

その間、無意識にジッポの蓋を開けたり閉めたりしている。

 

恵子、戻ってくる。

 

恵子  戻りましたぁ。

ミサキ  お帰り…?一人?

恵子  ええと、まぁ、何ていうか…。バーに入ってですね、で、尾行が

ばれまして、で、あ、そうだ、女の客が銃を持っていて…

ミサキ  何、喋ってんだか、さっぱりわかんないわ。

恵子  でしょうねえ、いや、私もよくわかんないんですけど、とにかく

協力してくれるらしいです。

ミサキ  …。

恵子  ええと、ですね…。

ミサキ  いいわ。本人に聞くから。

恵子  ああ、そうしてください。

ミサキ  小山田くんは?

恵子  尾けてます。一回連絡いれるって言ってましたけど…。

 

TEL

 

ミサキ  (とる)紅坂探偵事務所。

小山田  (携帯)ミサキさんですか?

ミサキ  彼を追ってるわけね。

小山田  ええ、バーを出て(名前を口にするのもいやになるリッターカー)

で移動中です。なんかノリノリですよ。曲がり角ごとに

バンパーぶつけてます。

ミサキ  ハリウッド以降、ハードボイルドってのはそういうもんなのよ。

小山田  まあ、おかげで、尾行は楽ですが。あ、止まった。

運ちゃん、止めて!

ミサキ  ちょっと待て、あんたタクシーで尾行してんじゃないでしょうね?

小山田  そうッスよ。いやぁ、一回やってみたかったんスよ。

「運転手、あの車を追ってくれ」なんてね。

ミサキ  不経済でしょ!

小山田  必要経費っス。

ミサキ  どこがよ…ったく、で?今、どこ?

小山田  貸オフィスによってます。ファックスかなんかだと思うんですけど。

…あ、もう出てきた。「つりはいらねえ」とか言って、

店員困らせてます。どうしましょう?つけますか?

連絡先確認した方がいいスか?

ミサキ  尾行は楽なんでしょ?だったら…。

 

ミサキ、パソコンの画面を見て、止まる。

 

ミサキ  …追って。

小山田  ?

ミサキ  追うの!…いいえ、先回りして。行き先は7番倉庫。

カメラあるわね?

小山田  ええ。

ミサキ  取引があるわ。写真に撮って。いい?彼が現場を

押さえる前から撮るのよ!

小山田 え?あの…。

ミサキ  言う通りにする!

 

ミサキ、受話器を置く。

 

恵子  どうしたんです?

ミサキ  メールで伝言してきたわ。彼からよ。(画面を見せる)

恵子  (読む)

 

ミサキ、出口へ向かう。

 

ミサキ  恵子ちゃんは、ここで待機。…そうね、マスコミには

匿名で情報流しておいて。警察はまだよ。

恵子  あの…どういうことです?

ミサキ  宣戦布告する気なのよ。「アンタッチャブルズ」が

そうしたようにね。

恵子  あ!

ミサキ  私も行くわ。あと、頼んだわよ。

恵子  え、行くわって…。

 

ミサキ、出て行く。

 

恵子  ミサキさん!…丸腰でどうする気よ。…もう、自分で言うほど、

冷静じゃないくせに…。

 

恵子、あわててパソコンに向かってキーを打ち込む。

恵子、机の上のジッポに、ふと目を止める。

 

恵子  …A・O?…アキラ オオガミ…?

 

恵子、ミサキの出ていった方を見る。

 

暗転。

 

 

<前章へ>                         <次章へ続く>

 

  


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991