劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 5章 チーム >

 

冒頭の港。

明かり一つ無い中に、人の雰囲気。

 

女  遅かったわね。

男  すまんな…金は?

女  ここよ。…ブツは?

男  ここだ。

女  本物でしょうね。

男  間違いねぇ。混じりっけなしの純国産だ。

女  結構。

男  そっちこそ、金はあるんだろうな。安くないんだぜ。

女  あるわ。キャッシュで10。

男  いいだろう。じゃあ、合図でこっちへ滑らしな。

大神  よし、そこまでだ。そいつはこっちへもらおうか。

男  何!

女  つけられたわね!

男  いや、そんなはずは…。

大神  ホールド・アップだ。妙な真似すると、それ以上、歳食わないぜ!

 

と、灯台の明かりが回ってくる。明転。

明るくなった舞台に立っている、主婦風の女と、

店のエプロンをつけ、米袋を背負った、米屋のオヤジ。

 

一同  …。

大神  (米袋をみる)…まじりっけなしの…。

男  (うなずく)純国産。

大神  まぎらわしいまね、するな!

 

乱射する大神。

逃げる二人。

 

と、袖の方でも銃声。

 

大神  向こうか!

 

大神、去る。

 

*** そのちょっと前 ***

 

薄暗い中、会話する二人。

一人は男。一人は女。

二人ともトランクを持っている。

 

女  遅かったわね。

男  すまんな…金は?

女  ここよ。…物は?

男  ここだ。本物だろうな。

 

女、トランクをあけると、札がぎっしり入っている。

 

女  そちらは?

 

男、トランクを開けると、煙草がぎっしり。

 

女  いいでしょう。じゃあ合図で…。

 

と、袖から声。

 

大神  まぎらわしいまね、するな!

 

銃声!

 

女 …つけられたようね…。

男  いや…違う、俺じゃない…。

女  (銃口を向ける)

 

男、逃げ出す。

女、男が置いていったトランクを拾う。

 

女  …木場か…あの男…。

 

女、戻って、自分のトランク(金)を拾おうとする。

と、そのトランクを手にしている、小山田。

 

女  …。

小山田  …あ、ども。

女  (無造作に撃つ)

小山田  (トランクに当たる)わ、ちょっとタンマ…。

 

逃げる、小山田。

追う女。

 

*** で、時間はつながる ***

 

袖から逃げてくる小山田。

女、その足元に、一発撃つ。

 

止まる、小山田。

 

小山田  いや、あのですね。ちょっと魔が差したっていうか、出来心っていうか…。

女  「全ては御心の赴くまま、神は与えたもう、奪いたもう…」

小山田  あ、俺、宗派、違うから…。

 

女、トランクを撃つ。

小山田、トランクを落とす。

 

銃口を向ける女。

小山田、両手を上げる。

 

大神  (袖から)「いい腕だ…だが、その程度じゃ、世界で2番目だな」

 

大神、銃を手に登場。

 

小山田  「怪傑ズバット」!

大神  「エースのジョー」だ!日活アクションくらい観とけ!

 

女、逃げる。

大神、足元を撃つ。

一瞬、振り向く女。

 

大神  お前…一瀬…。

 

女、逃げる。

 

大神  待て!

 

追って去る、大神。

 

入れ替わりに入ってくる、ミサキ。

 

ミサキ  小山田くん。

小山田  あ、ミサキさん。

 

ミサキ、足元を見ると、金と煙草の2つのトランク。

しかし、辺りに人影は無い。

 

ミサキ  なに?どうなってんの?

小山田  あのですね。ここで、取引があって…。

ミサキ  そんなこと、わかってるの。はでに押さえて名をあげなきゃ

意味がないでしょ。バイヤーは?

小山田  いや、それが…。

 

大神、戻ってくる。

 

大神  ちぃ。逃がしたか…。

ミサキ  …(ため息)。

大神  …(ミサキに気付く)…早かったな。

ミサキ  おかげさまで。お待たせしたわね。

大神  なぁに。こっちも今来たとこだ。

ミサキ  で。

大神  逃がした。

ミサキ  えらく、あっさり言ってくれるわね。

大神  収穫はあった。足取りは追える。

ミサキ  どうだか。

 

大神、ムっとする。

と、サイレン音。

 

小山田  警察?

ミサキ  ああ、恵子ちゃんに呼んでもらったのよ。「現場を押さえたところを

おっとり刀で駆けつけるこっぱ役人」のつもりだったけど…。

大神  …俺のせいか?

ミサキ  別に。

小山田  俺じゃないですよ。

大神  お前だ!

ミサキ  !…ちょっと待ってよ…この構図ってマズくない?

二人  ?

ミサキ  ここに、金と煙草があるのよ。…どうみても、あたしらがバイヤー…。

 

大きくなる、サイレン音。

 

大神  どうするんだ?

ミサキ  どうって…?

小山田  逃げましょう!これ持って!

ミサキ   なんで!

小山田  だって、このままじゃ、犯人扱いですよ?

ミサキ  だからって…。

小山田  とにかく逃げるんです!大丈夫です、俺、逃げ足なら自信ありますし。

ミサキ  …ジーザス。

大神  …とんだ、アンタッチャブルだな…。

 

間。

 

ミサキ・大神  …ヘイ。いるんだぜ、こういうやつ。

 

<前章へ>                         <次章へ続く>

 

  


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991