劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 6章 彼方の女 >

 

 

明転。

 

恵子  だからって、持って来ちゃって、どうするんですか!

 

紅坂探偵事務所。

 

ミサキ  しょうがないでしょ。なりゆきでそうなっちゃったんだから。

小山田  だって、置いてくるのもなんだし…。

恵子  あんたか!

小山田  え?だって、もったいないじゃん。

恵子  あんた、ことの重大さ、わかってないでしょ!

小山田  何が。

恵子  …これ、麻薬なの。わかる?

小山田  うん。

恵子  これ、持ってると犯罪なの。

小山田  うん。でも外に持ち出しちゃえば、ヤバいもんでもないんでしょうが。

恵子  誰が、持ち出すの?

小山田  そらぁ、運び屋にでも頼んで…。

恵子  その運び屋の金も、盗んできちゃったわけでしょうが!

小山田  あ…。

恵子  どうすんのよ、警察も運び屋も敵にしちゃって…。

小山田  ええと、いや…。

恵子  ミサキさん、私、ヒマもらってもいいですか?

小山田  いっそ、これ持って、俺と逃げるっての、どう?「ボニー&クライド」みたいに。

恵子  他人事みたいに言うな!こうしている間にも…。

 

ドアが開く。

びっくりする、恵子、小山田。

入ってきたのは、大神。

 

恵子  …寿命縮むわ…。

大神  国道に検問が敷かれたらしい。どうする気だ。

ミサキ  私が聞きたいわ。

大神  そうのんびりしてる暇は無いと思うがな。

ミサキ  だから、いまどうすべきか考えてるの。黙っててくれる?

大神  …(肩をすくめて見せる)

 

間。

 

恵子  …とにかく下手に動けませんね。

ミサキ  それは、どうかしらね。

恵子  え?

ミサキ  …おかしくない?

恵子  何がです?

ミサキ  (大神に)警察は、今日の取引のことは、目をつむるつもりだったわよね。

大神  木場の話ではな。

ミサキ  それにしては、動きが早いと思わない?

恵子  !…警察にも影響力を持ってる…?

ミサキ  そう見た方が、無難でしょうね。

恵子  …。

 

間。

 

大神  運び屋に情報をリークするってのはどうだ。

一同  !

大神  どのみち、いつかはばれる。それなら、いっそのことばらしあった方が、

相手の動きを読みやすい。うまくいけば、足をひっぱりあってくれる。

ミサキ  …悪くないわね。

大神  …(小山田、恵子に)と、言うわけだ。

小山田  ?

大神  つての一つくらい、あるんだろ?

小山田  (ミサキを見る)

ミサキ  …行って。

 

二人、出て行く。

 

大神  …あんたは行かないのか?

ミサキ  そういうあんたは?

大神  …あんたが出たら、行くさ。

ミサキ  戸締り、したいんだけど?(事務所のキーを見せる)

大神  なら、俺がキーを預かろう。

ミサキ  …。

大神  なんだよ。

ミサキ  …別に、いいけどね。(渡す)

大神  何が。

ミサキ  トランクの中に(煙草が)いくつ入っているか、数えてあるからね。

大神  !

ミサキ  減ってたら、殺すわよ。

 

ミサキ、出て行こうとする。

 

大神  おい、待て。

ミサキ  ?

大神  銃は?

ミサキ  …何?

大神  銃!丸腰で行く気か?

ミサキ  そうだけど?

 

間。

 

大神  お前、まさか銃、持ってないのか?

ミサキ  当たり前でしょ。ここ日本よ。

大神  …ジーザス …。

 

大神、懐から、一丁だす。

 

大神  貸してやる。持っていけ。もと婦警なら撃ち方くらいわかるんだろ。

ミサキ  いらないわ。

大神  「使わないに越したことはないが、あって困るものでもないぜ。もらっときな」By…

ミサキ  …拳銃って、嫌いなのよ。

大神  …一応、心配してるつもりなんだがな。

ミサキ  ありがと。でも大きなお世話。

大神  おい。

ミサキ  キーは植木蜂の下にいれといて。

 

ミサキ、ドアを開ける。

ドアの外で、聞き耳立てている小山田と恵子。

 

ミサキ  …。

二人  …行ってきまーす。

ミサキ  …ったく、なにやってんだか…。

 

三人、去る。

 

大神  …やれやれ、だぜ。

 

一人残る、大神。

 

大神  #聞きわけのない、女の頬を…

大神、鼻歌で「カサブランカ・ダンディ」なんか歌いながら、

机の上の受話器をとって、ダイヤルする。

 

大神  一つ二つ、はりたおして…。

 

電話、待ち時間。

大神、無意識に、懐からライターと禁煙パイプの箱を出す。

 

大神  背中を向けて…

大神、禁煙パイプに火をつける(!)。

 

大神  煙草を、吸え…!(むせる)…。

 

ひとしきり、はげしくむせる大神。

 

大神  …だめだ、ボギー。あんたの時代はふた昔前だ…。

 

電話つながる。木場の店。

 

大神  (木場が出ると思っている)俺だ…。

アイコ  (うざったげに)…誰?

大神  …っと…すまん。大神だ。木場はいるか?

アイコ  それが、いないのよ。めったなことじゃ、店から出ない人なのに…。

大神  …そうか。

アイコ  なんか女が訪ねて来てさ。二人で出てっちゃって…。

大神  !…女?

アイコ  うん。

大神  …さっき、店で銃を撃った女か?

アイコ  ううん。それとは別。…(女の姿)…で、首から趣味の悪い

クロス(十字架)下げててさ…。

大神  !…一瀬…?

アイコ  知ってる人?

大神  あるいは、な。当たってみる。

アイコ  そう。じゃ、つかまったら「早く店に戻って」って言ってくれない?

大神  そうしよう。

アイコ  ありがと。

 

切れる。

大神、受話器を置く。

 

大神  …まさか、な…。

 

大神、出て行こうとする。

ドアの外にまだいる小山田。

 

大神  …。

小山田  …「およびでない?…」

大神  よせ。

小山田  「こらまた…」

大神  やめろ。

小山田  …By植木…

大神  やめろ!

小山田  …。

大神  そんなにヒマか?お前。

小山田  うるせぇな。大体なぁ…。

大神  何だよ…。

小山田   …。

大神  言えよ。

小山田  …あのさ。

大神  何。

小山田  …あんたさ。…ミサキさんと、どういう関係?

 

間。

 

小山田  「みっともねー奴」とか思ってんだろ!いいんだよ!

自分でもそう思ってんだよ!しょうがねぇんだよ!

大神  初対面だ。

小山田  嘘だね。

大神  少なくとも俺には覚えが無い。

小山田  信じねぇよ。

大神  なぜ。

小山田  …カンだっ!

大神  …いい答えだ。

 

間。

 

大神  一つクイズを出そうか。…おまえ「彼女」って漢字で書けるか?

小山田  あ?

大神  「彼女」。

小山田  …「彼の女」だろ。

大神  ちっちっち。

小山田  ?

大神  …「彼方の女」だ。

小山田  …。

大神  「大事な女はな。…そばに置くべきじゃない。」By…

大神、去る。暗転。

 

 

 

<前章へ>                         <次章へ続く>

 

  


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991