劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その2 傘 >

 

 

先ほどの男がしゃべる。

 

日本  むかーし。むかしのことじゃった。

あるところに、お地蔵さんが立っておった。

お地蔵さんというのは、石で彫った仏様のことで、

子供の授からない女たちのために作られたありがたい仏様じゃった。

いつも、生まれてくる赤ん坊たちのために、静かにほほえみながら、

何も言わずにたたずんでおった。

 

間。

 

日本  時々目を開けることもあった。

 

目を開ける。

 

日本  目を閉じることもあった。

 

目を閉じる。

 

日本  右手をあげることもあった。

地蔵達  おーい。(右手をあげる)

日本  左手もあげた。

地蔵達 おーい。

日本  そして、両足をあげることもあった。

 

地蔵達、日本昔話をばきばき殴る。

 

ふと我に返り「日本昔話のテーマ」を

ハミングしながら元の位置に戻る。

 

日本昔話、起き上がる。

 

日本  さて、今日は朝から雨じゃった。お地蔵さんは、かわいそうにさっきから

寒さに震えておった。

地蔵2  ていうかさ、ほら。

地蔵3  何。

地蔵2  まあ何、その地蔵か何かしらんけどさ。こういう仕事に

どういう意味があるかいっぺんみんなで話し合った方がいいんじゃない。

地蔵3  うーん。

地蔵2  さっきから雨に濡れて、みんな通り過ぎてくし、やっとってむなしくない。

この仕事。君どう思う。

地蔵1  そうですね。

地蔵2  ならなんでやってるの。

地蔵1  いや、その先輩に紹介してもらった仕事だから今さらしょうがないし。

地蔵2  だけど、やっぱ自分の意見というものを持たないかんのじゃない。

地蔵1  自分の意見。

地蔵3  そうよ。

地蔵2  君は。

地蔵3  私。

地蔵2  君。

地蔵3  一応、地蔵っていうのは仏様だから、今年の女子の求人の中では、

上の方だったし。

地蔵1  ふーん。

地蔵2  でも僕らの意見というものもやっぱ上の方にもってかないと、

みんなでいい仕事ができないんじゃないかな。

地蔵3  男の人はそれでもいいいけど、女は社会的にそういう態度が

許されないことが多いし。

地蔵2  だから、みんなで話し合おうって言ってるんじゃん。

地蔵3  あっそうか。

地蔵1  ていうか地蔵って仕事なのかな。

地蔵2  仕事じゃないとできないて。

地蔵3  ねえ、誰か来たよ。

女  ごめん、遅れちゃってー。

日本  そこへ、一人の女が走ってきた。女は傘を二つ持ち、レインコートを着ていた。

女はだれかとの待ち合わせに遅刻したようだった。待ち人はいない。

右をみてもいない。左を見てもいない。後ろを見てもお地蔵さんが

いるだけじゃった。

 

雨の音が高鳴る。

女は待っている。

 

地蔵1  誰待ってるんだろ。

地蔵2  そりゃ男だろ。

地蔵3  いつまで待つのかな。

日本  一時間たった。

地蔵達  おい。

日本  女は男と待ち合わせをしていた。しかし待ち合わせに男は来なかった。

男は仕事で忙しかったのだ。いつものことじゃった。

そして女は去ろうとした。

 

女は地蔵達に気付く。

 

女  あなた達、この雨の中大変だね。

 

傘とレインコートをそれぞれに与える。

 

地蔵1  えー。

地蔵2  おいおい。

地蔵3  ちょっと。

女  私は、濡れて帰るから。

地蔵達  おいおい。

 

女、去る。

 

 

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