劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その3 始まり >

 

 

地蔵達  あー。

 

日本  女は行ってしまった。「私は濡れて帰るから」今日はそういうおセンチな

気分じゃったのだ。

 

地蔵3  どーするのよ、これ。

地蔵1  どーするったって。

地蔵2  俺はおりるぜ。

地蔵3  え。

地蔵2  こんなものもらったって、俺たちは地蔵なんだ。

 

ガキ。

 

日本  地蔵が地蔵を殴った。すごい音がした。石同士だから。

地蔵2  何しやがる。

 

ガキ。

 

日本  地蔵も地蔵を殴った。すごい音がした。石同士だから。

地蔵1  こういう場合、俺たちは地蔵としての筋があるんじゃないか。

地蔵2  筋!

地蔵1  俺は見た。あの人が泣いていたのを。これが俺の意見だ。

地蔵2  何をするって言うんだ。

地蔵3  笠地蔵よ。

地蔵1  何。

地蔵2  まさか。

地蔵3  笠地蔵の恩返しよ。

 

地蔵たちは袖から米俵をかついできて、歩き回る。

 

日本  こうして、地蔵達は女の家に向かったのじゃったが、

地蔵達は女の居場所がわからなかった。

道行く人々に尋ねてはびっくりされ、気絶され、ニュースで放送され、

一週間が過ぎた。何度もくじけそうになった地蔵達はお互い

励ましあって頑張った。

そして、ある夜、とうとう女の住むアパートを見つけた。

時間は午後10時を回っていた。

 

地蔵たちは下袖の前に立つ。

 

地蔵3  とうとうついたね。

地蔵1  そうだね。

地蔵3  何階だっけ。

地蔵1  さあ。

地蔵3  まだ怒ってんの。

地蔵2  …ふん。

地蔵3  そんな顔で行ったら、恩返しにならないでしょ。

地蔵2  なぜ恩返しをしなきゃいけないんだ。みんなでもう一度話し合った方が

いいんじゃないか。

地蔵1  誰か来た。

 

地蔵達、直立不動。

仕事帰りの女が、地蔵達の前を遠ざかり、エレベーターに乗る。

ピンポン

地蔵達、あわてて、エレベーターの前に。

 

地蔵1  8階だよ。

地蔵2  とうとう見つけたー。

地蔵3  あっエレベーター来た。

 

地蔵たちは下袖に消える。

ブー。重量オーバー。

 

地蔵たち騒ぐ。

そして、じゃんけんの声。

 

ブーブーブー。

地蔵1が降りてくる。がっかりしている。

 

女刑事がやってくる。無線を使っている。

地蔵1は直立不動。

 

女刑事  もしもし、はい、捜査一課の酒向です。はい、今から探索を始めます。

不審な人物は現在見当たりません。

 

地蔵と目が合う。

 

女刑事  はい…はい…はいはいはいはい…わかりました。

 

刑事、地蔵に顔を近づけるが、…去る。

 

ピンポン。

地蔵1はいそいそとエレベーターに乗る。

 

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