劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その4 女と地蔵たち >

 

 

女が仕事から帰ってきた。

留守電解除。

 

母の声  「もしもし、お母さんですよ。元気ですか。

最近連絡がないので心配しています。

たまには電話ください。それから、今日はお見合いのことで連絡しました。

本郷の西でトマト農家をやってる高木さんのお話が来ています。

お母さんはいい話だと思いますので、そっちに行きますからよろしくね。

できれば、」

婆子の声  「ケメ子さーん。おなかすいたよー。すいたよー。」

母の声  「おばあちゃん!もう、ちょっと、そんなの食べちゃだめですよ。

おばあちゃん。ちょっと、きゃーーーーーーー…」

 

日本  ツー。田舎の母親からの留守電じゃった。

いつも、見合いの話を持ってくる母に、女はすまないと

思っていたそうじゃ。女にはいつか結婚したいと

思っている男がおったからじゃー。すると、電話がなったそうじゃ。

女  もしもし、あっ…私。

日本  彼からの電話じゃった。

「今夜泊まりにいってもいいかな」と彼は聞いたそうじゃ。

女  えっ…うん…必ず来るの?…ホント?…いいよ。…うん。うん。…もう、ばか。

日本  うんうんうんうん。そこで、女は早速準備を始めたそうじゃ。

 

女、布団と枕を二つ持ってくる。

パジャマ、下着を二人分持ってきて並べ、ティッシュを持ってくる。

なんとなく嬉しくて、パジャマを抱えてごろごろする。

 

すると、物をたたく音がする。

そして。

ピンポン

 

女  はーい。…早いなあ。

女刑事  どうもすいません、夜分遅くすいません。私、北方署の者なんですが。

女  刑事さんですか。

刑事  はい。これ手帳です。

女  はい、何でしょう。

刑事   現在、この付近を逃走している指名手配犯を捜しております。

女  はい。

刑事  戸締りにはしっかりと、不審な人物を見かけたら110番してください。

女  はい、わかりました。

刑事  では失礼します。他にも回りますんで。

女  はい、ご苦労さまです。

 

女と刑事が会話している間に、地蔵達が裏から部屋に入る。

 

地蔵1  あっ、布団だよ。

地蔵3  寝る時間だものねえ。

地蔵2  枕二つあるぞ。

地蔵3  あっ…ホントだ。

地蔵2  なあ。

地蔵1  …。

地蔵3  どうしたの。

地蔵1  …ちぇっ。

地蔵2  …お前まさか、ほれてたのか。

地蔵1  いやそんなバカな。だって、そんなことわかってたことじゃん。

地蔵2  じゃんって。

地蔵3  ひどい。

地蔵2  何。

地蔵3  私の立場はどうなるのよ。

地蔵2  おまえらそういう関係だったのか。

地蔵1  僕が慰めてあげるつもりだったのじゃん。

地蔵2  日本語変だぞ。

 

女、戻ってくる。

 

女  あっ。

地蔵達  あっ。

 

地蔵達、直立不動。

 

<次へ続く>

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