劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その5 女vs地蔵 >

 

女  …。

地蔵達  …。

女  誰、こんなの持ってきたの。ちょっと出てきなさいよ。隠れてるんでしょ。

久しぶりに会うからって、冗談きついんじゃないの。

 

女、奥に消える。

地蔵たち、ちょっと動く。

女、すぐに戻ってくる。

 

女  …。

地蔵達  …。

女  もー、どこにいるのよ。こないだ1時間も雨の中待ったのよ。

ロンリーだったんだから…その時地蔵にさあ、傘を…。

 

とかいいながら、奥に消える。

 

女  地蔵?

 

女、顔を出す。

地蔵、あわてて動くが、それから直立不動したってもう遅い。

女、地蔵2に近づく。

 

女  …。

 

女、地蔵をつつく。

 

地蔵2  やってられるカー。

 

といって、米俵を女に投げつける。

地響きとともに、米俵を抱え、ぶっ倒れる女。

 

地蔵1  何をするんだ。

 

米俵を投げつける。

 

地蔵2  痛。

地蔵3  そうよ。ひどいじゃない。

 

米俵を投げつける。

 

地蔵2  んだとおー。

 

とかいって、お互いに米俵をぶつけ合い、どつきあう。

そのたびに、地響きがこだまする。

 

女  今、何時だと思ってんのよ。ここアパートなの。大きな音だしたら

大家さんに怒られるでしょ。

 

ピタ

 

女  何よ。これは。

地蔵1  …恩返し。

女  何の。

地蔵3  傘の。

女  …。

地蔵2  筋なんだよ。

女  …筋。

地蔵達  そう。

女  何の。

地蔵達  地蔵の。

女  あー、あーあーあー、…笠地蔵。

地蔵達  そうそうそう。

 

和やかな雰囲気。

笑いがこぼれる。

 

女  これ何。

地蔵達  米俵。

 

全員爆笑。

 

女  いらない。

 

全員爆笑。

途中で「やってられるかよ」「やってられるかよ」と

地蔵1と地蔵2は体をぶつけ合う。

ガキンガキンと音がする。

女と地蔵3は止めに入る。

 

女  いったー、手、はさんだ。

 

女、手をさする。へたりこむ。

地蔵達、取り囲む。

念仏を唱える。

女、逃げる。

 

女  やめてよー。なんで、ちょっとすごい痛い。何これ。米俵。ちょっとー。

あんた達、いったい何なのよ。

地蔵2  おい、自己紹介しろよ。

地蔵1  地蔵です。

地蔵3  地蔵です。

地蔵達  僕たち地蔵です。

女  見りゃわかるのよ。何しに来たのよ。

地蔵1  恩返しに来たんですよ。

地蔵2  笠をくれたお礼に。

地蔵3  米俵をかついで。

地蔵達  僕たち律儀な地蔵です。

女  米なんかいらないわよ。

地蔵1  米食べないの。

地蔵3  米を食べないと。

地蔵2  罰が当たるぜ。

 

地蔵、念仏を唱える。

 

女  何念じてるのよ。

地蔵2・3  罰が当たらないように。

地蔵1  罰が当たるように。

女  えっ。

地蔵2  そりゃまずいだろ。

地蔵3  何しにきたのよ。

地蔵1  けっ…。

女  だいたい、どうやって入ってきたのよ。この部屋に。私、刑事さんと

玄関でお話していたのよ。

地蔵達  …。

女  非常階段からベランダに入ってきたの?それ知ってるのは彼だけよ。

地蔵2  彼って…。

女  私の彼よ。今夜来るの。今すぐ…。

地蔵1  こーんーやー。今、何時だーーーーー。

 

女、とび蹴り。地響き。

 

女  文句あるカー。

地蔵1  けったよ。今けったよ。

地蔵3  私も見たわ。

地蔵2  これが、この女の正体だ。夢なんか忘れちまえ。

地蔵1  わかった!

 

大家がいつのまにかいる。

 

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