母登場。
母 今きたばっかりなのに帰れとは何ですか。
女 母さん!
母 もう、遅くなっちゃったわ。上がるわよ。
女 母さん、なんで。
日本 そこへ現れたのが、女の母親じゃった。時はもうすでに十一時を
とうに過ぎておった。こんな時間になんじゃろーと、女は思った。
女 何しに来たの、こんな時間に。
母 お見合い写真持ってきたの。
女 お見合い写真。
母 今日行くって言ったじゃない。留守電に入れておいたのよ。聞いてないの。
女 そんな、聞いてないよ。
母親、留守電をスイッチオン。
母の声 「もしもし、お母さんですよ。元気ですか。最近連絡がないので心配しています。
たまには電話ください。それから、今日はお見合いのことで連絡しました。
本郷の西でトマト農家をやってる高木さんのお話が来ています。
お母さんはいい話だと思いますので、そっちに行きますからよろしくね。
できれば、」
婆子の声 「ケメ子さーん。おなかすいたよー。すいたよー。」
母の声 「おばあちゃん!もう、ちょっと、そんなの食べちゃだめですよ。おばあちゃん。
ちょっと、きゃーーーーーーー…」
母 ほらほら、最後の方で言ってるわ。
女 何これ、何言ってるか聞こえないじゃない。
母 もお、おばあちゃんたちが、手におえないくらいぼけちゃったんだよ。
人が電話してる横で大騒ぎしてたんだから。
女 もー。
母 おばあちゃんには気をつけなさいよ。
地蔵たち、その時の格好で静止。地蔵たちの念話(ささやき)
地蔵2 誰だよ。
地蔵1 母親だろ。この女の。
地蔵3 何でこんな時間に。
地蔵1 さあ。
母 とにかくお見合いの話なのよ。もーあなたいつも断っちゃうじゃない。
今回ね、向こうが乗り気なのよ。あんたもいつまでも一人暮らしって
わけには行かないでしょ。ほら、これが写真。
女 帰ってよ。
母 なんで、親子じゃない。あっそうだ。お茶ちょうだい。電車で3時間乗ったら
のど渇いちゃって。母さん自動販売機嫌いだし。
女 結婚しようがしまいが、私の勝手でしょ。
母 だから、お茶。
女 お茶飲んだら帰って…
女、お勝手に行く。
母 どうなの都会の生活は。だいぶ慣れたの?
女の声 いつも同じこと聞かないでよ。
母 いい人でもいるの。
女の声 私の勝手でしょ。
母、地蔵たちに気付く。
母 あんた、都会でどういう生活してるの。
女の声 普通の生活。
母 ふつうなの。
女の声 ふつうよ。
母 悩んでるんじゃないの。
女の声 悩んでないよ。
地蔵達にさわってみる。
母 …。
地蔵達 …。
母 …ねえ。
女、戻ってくる。
女 あっ、それ、地蔵。
母 なんで。
女 何が。
母 なんで地蔵があるのよ。
女 私の勝手でしょ。
母 勝手って何よ、勝手って。だいたいから、誰のおなかから生まれてきたと
思ってるの。この私のおなかよ、おなか。人が5時間もかけて
田舎から出てきたってのに、帰れっていったり、私の勝手だっていったり、
地蔵っていったり、なんて親不孝なの。
女 ごめんなさい、わかったから、だから、私今から出かけるの。
母 こんな時間から、どこへ行くのよ。
女 私の勝手でしょ。とにかく出かけるから。
母 なんで、枕二つあるのよ。
女 …。
母 この部屋入ったときから、母さん気付いてたのよ。人が8時間もかけて
田舎から出てきたってのに。帰れっていったり、私の勝手だっていったり、
地蔵っていったり、枕二つあったり、今から出かけるって言ったり、
母さん今日、何しに来たのよ。お見合い写真持ってきたのよ。
なんて親不孝なのー。
女 今日は勘弁してよー。
母、女に詰め寄る。
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