劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その8 母、参上 >

 

 

母登場。

 

母  今きたばっかりなのに帰れとは何ですか。

女  母さん!

母  もう、遅くなっちゃったわ。上がるわよ。

女  母さん、なんで。

日本  そこへ現れたのが、女の母親じゃった。時はもうすでに十一時を

とうに過ぎておった。こんな時間になんじゃろーと、女は思った。

女  何しに来たの、こんな時間に。

母  お見合い写真持ってきたの。

女  お見合い写真。

母  今日行くって言ったじゃない。留守電に入れておいたのよ。聞いてないの。

女  そんな、聞いてないよ。

 

母親、留守電をスイッチオン。

 

母の声  「もしもし、お母さんですよ。元気ですか。最近連絡がないので心配しています。

たまには電話ください。それから、今日はお見合いのことで連絡しました。

本郷の西でトマト農家をやってる高木さんのお話が来ています。

お母さんはいい話だと思いますので、そっちに行きますからよろしくね。

できれば、」

婆子の声  「ケメ子さーん。おなかすいたよー。すいたよー。」

母の声  「おばあちゃん!もう、ちょっと、そんなの食べちゃだめですよ。おばあちゃん。

ちょっと、きゃーーーーーーー…」

母  ほらほら、最後の方で言ってるわ。

女  何これ、何言ってるか聞こえないじゃない。

母  もお、おばあちゃんたちが、手におえないくらいぼけちゃったんだよ。

人が電話してる横で大騒ぎしてたんだから。

女  もー。

母  おばあちゃんには気をつけなさいよ。

 

地蔵たち、その時の格好で静止。地蔵たちの念話(ささやき)

 

地蔵2  誰だよ。

地蔵1  母親だろ。この女の。

地蔵3  何でこんな時間に。

地蔵1  さあ。

母  とにかくお見合いの話なのよ。もーあなたいつも断っちゃうじゃない。

今回ね、向こうが乗り気なのよ。あんたもいつまでも一人暮らしって

わけには行かないでしょ。ほら、これが写真。

女  帰ってよ。

母  なんで、親子じゃない。あっそうだ。お茶ちょうだい。電車で3時間乗ったら

のど渇いちゃって。母さん自動販売機嫌いだし。

女  結婚しようがしまいが、私の勝手でしょ。

母  だから、お茶。

女  お茶飲んだら帰って…

 

女、お勝手に行く。

 

母  どうなの都会の生活は。だいぶ慣れたの?

女の声  いつも同じこと聞かないでよ。

母  いい人でもいるの。

女の声  私の勝手でしょ。

 

母、地蔵たちに気付く。

 

母  あんた、都会でどういう生活してるの。

女の声  普通の生活。

母  ふつうなの。

女の声  ふつうよ。

母  悩んでるんじゃないの。

女の声  悩んでないよ。

 

地蔵達にさわってみる。

 

母  …。

地蔵達  …。

母  …ねえ。

 

女、戻ってくる。

 

女  あっ、それ、地蔵。

母  なんで。

女  何が。

母  なんで地蔵があるのよ。

女  私の勝手でしょ。

母  勝手って何よ、勝手って。だいたいから、誰のおなかから生まれてきたと

思ってるの。この私のおなかよ、おなか。人が5時間もかけて

田舎から出てきたってのに、帰れっていったり、私の勝手だっていったり、

地蔵っていったり、なんて親不孝なの。

女  ごめんなさい、わかったから、だから、私今から出かけるの。

母  こんな時間から、どこへ行くのよ。

女  私の勝手でしょ。とにかく出かけるから。

母  なんで、枕二つあるのよ。

女  …。

母  この部屋入ったときから、母さん気付いてたのよ。人が8時間もかけて

田舎から出てきたってのに。帰れっていったり、私の勝手だっていったり、

地蔵っていったり、枕二つあったり、今から出かけるって言ったり、

母さん今日、何しに来たのよ。お見合い写真持ってきたのよ。

なんて親不孝なのー。

女  今日は勘弁してよー。

 

母、女に詰め寄る。

 

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