劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その10 婆、合掌 >

 

 

女、部屋に戻ってくる。

地蔵達は、直立不動。

 

婆子  …。

地蔵達  …。

女  おばあちゃん。

婆子1  孫ですよ。

婆子2  孫だね。

女  おばあちゃん。…地蔵…最悪。

 

日本  女には双子のおばあちゃんがいた。

一人を金婆ちゃん。金歯がよく似合った。

一人は銀婆ちゃん。銀歯がよく似合った。

二人は双子だけど全然似てなかったそうじゃ。

二人の婆さん達は、それはたいそうにボケとったそうじゃ。

 

女  おばあちゃんたち、こんなところで何やってるの。

日本  女はいきなり、強気にでた。今度の敵は強いのじゃ。一気に勝負にでた。

婆子2  だってさ。

婆子1  だってさ。

女  何よ。

婆子2  おなかすいたんだよ。

婆子1  ケメ子さんがさあ、ご飯作ってくれないのさ。

婆子2  だから、ケメ子さん探して。

婆子1  ケメ子さんおっかけてきたんだよ。

婆子達  ケメ子さーん。

母の声  はーい。

 

婆いこうとする。

 

女  待ちなさい。ご飯なら家で食べればいいでしょ。

婆子1  ついでに孫の顔見に来たんだよ。

婆子達  まごー。

女  ここにいるでしょ。

婆子1  最近、目が悪なったよねー。

婆子2  耳もね。

日本   あと、5分でこいつらを片付けなければならないと思うと、

女はとほーにくれとったそうじゃー。

女  だいたいから今何時だと思ってんの。

婆子1  おやじーじゃよ。

婆子2  (地蔵に)ケメ子さん、ごはん作っておくれ。

女  それは地蔵よ。

婆子1  えっ。

女  それは地蔵。

婆子達  いただきます。

女  それはごちそう。

婆子1  よしよし、おこづかいをあげよーね。

女  それは小僧。

婆子2  ぱおーん。

女  それも小象。

婆子1  胸を大きく広げて横ふり。

女  それはラジオ体操。全然違うんだ!

婆子2  耳悪いんだ!

女  わざとでしょ。わざとわかんないふりしてるんでしょ。

婆子1  わかんないんだよー。

婆子2  ホントなんだよ。

婆子1  信じてくれよー。

婆子2  私ら家で居場所ないんだー。

婆子1  誰も私たちの言うこと信じてくれないんだー。

婆子2  ケメ子さんご飯作ってくれないし。

婆子1  ぼけても誰もつっこんでくれないし。

婆子2  つっこんでくれて嬉しかったよー。

婆子1  会いに来てよかったよー。

婆子達  まごー。

女   あはあはあはあはあはあはあは…。

日本  女はとうとう壊れたそうじゃ。

 

女、壊れる。

 

婆子1  おもしろいね。

婆子2  そうだね。

 

婆子達、笑いながら、女を布団に寝かせる。

 

日本  こうして、おばあちゃんと女は、それはそれはたいそう楽しそうに笑い、

女の大切な一夜はふけていったそうな。

三人のやさしい笠地蔵たちは、女の成仏を祈り、

いつまでもいつまでも念仏を唱えたそうじゃ。

 

婆子達も念仏。

 

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