劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その12 婆達の青春 >

 

 

婆子達、布団に集まる。

 

婆子1  この布団だね。

婆子2  この布団だね。

婆子達  うんうんうん。想像しようね。

婆子1  この布団で、孫が。

婆子2  この布団で、孫が。

婆子1  あーなって、こーなって。

婆子2  こーなって、あーなって。

婆子1  これもして、あれもして。

婆子2  あんなこと、こんなこと。

婆子1  上になって。

婆子2  下になって。

婆子1  立って。

婆子2  しゃがんで。

婆子1  サービスして。

婆子2  サービスし返して。

婆子1  そのうちレシーブ。

婆子2  トス。

婆子1  アタック。

婆子2  ブロック。

婆子達  おー。

婆子2  彼はバットを大きく振るね。

婆子1  女は打球に喰らいつくね。

婆子2  そのうち一塁を女は回るね。

婆子1  男は二塁も回るかもね。

婆子2  二人で三塁をつっきって。

婆子1  たたたたたたたたたたたたたたたた。

婆子2  セーフセーフセーフ。

 

歓声。校歌が聞こえてくる。

 

婆子1  …いい試合だったね。

婆子2  若いっていいね。

婆子1  私たちももう一度やり直したいね。

婆子2  もう一度、やり直せるならね。

婆子1  無理だよ。

婆子2  無理だね。

大家の声  何度言ったらわかっていただけるんです。

女の声  すいません。

大家の声  あら、ドア。

女の声  あって、ドア倒れてますから、足元気をつけて。

大家の声  ドア、私のドア。

 

大家と女が現れる。

 

大家  ドアが、ドアが。

婆子1  壊れましたー。

婆子2  破けましたー。

大家  何これ。

女  おばあちゃんです。

大家  …。

女  すいません、本当にすいません。

大家  なんでドアが…。

女  いろいろ事情がありまして。弁償しますから。

大家  あのー、ボーリングの音しましたけど。ボーリングしました?

女  してません。

婆子1  ゴロンゴロンゴロン。

婆子2  パッカーン。

大家・女  …。

大家  はははは。

女  はははは。

大家  あっ、それから、最近、勝手に粗大ゴミ、下にパーって出す非常識な人が

増えてますね。

女  はは、そうですね。

大家  いやー、まさかね。

女  何か。

大家  びっくりしました私。

女  はあ。

大家  まさか、お宅もその一人とは思いませんでしたわ。

女  えっ、私そんなことしません。

大家  だって、下に粗大ゴミが出してあったんですけど。あれ、お宅のでしょ。

女  そんな私、粗大ゴミなんか出してません。私がそんなマナーのない

人間に見えるんですか。ひどい侮辱じゃないですか。

大きな音を出したのは謝ります。もうしません。でも、それに

かこつけて、ゴミまで私のせいにするなんて、ひどい、ひどすぎます。

婆子1  ガーター。

婆子2  ガーター。

大家  …だって、あの地蔵、おたくのでしょ。

女  へ。

婆子達  ゴロンゴロンゴロン。

大家  下のゴミ捨てに転がってましたわよ。

女  あ。

婆子達  ぱっかーん。

大家  お部屋のインテリアとかいってた地蔵が下に落ちてましたわよ。

女  …地蔵達、下まで階段転がっていったんだ。

婆子達  ストライーク。

婆子1  やったね。ぱし。

婆子2  やったね。ぱし。

 

女、とび蹴り。

 

女  何が「ぱし」じゃ。

婆子1  蹴ったよ、今蹴ったよ。

婆子2  これが、孫の本当の姿だよー。

婆子達  まごー。

女  出てって。今すぐこの部屋から出てって。

婆子達  えーん。

大家  おたくもでてって。

婆子達・女  えっ。

大家  だってそうじゃない。騒音は出すでしょ。ゴミの決まりは守らない。

おまけにドアも壊れたし。こんなとこ住めないし。

男の人が泊まりに来たってドアないし。枕二つあっても、ね。

困るのあなたよね。それとも何、ドア開けっ放しでもやっちゃうの。

いいわね、若いって。だから出てって。お願い。じゃ、明日ね。

女 ちょっと。

大家  明日よ、いいわね。

 

大家  出て行く。

 

婆子達  えーん。

女  そんな。…私、何にも悪いことしてないのに…。みんな邪魔して、もう、いや。

婆子達  ねー、おなかすいたよー。

女  うるさい。

 

女はふてくされ、布団虫になる。

婆子たちも布団虫になり、女を慰める。

 

日本  女はそれはそれはつらい気持ちだったそうじゃ。

5分たったら戻ってくるはずの彼氏はいつの間にか

どこかへ行ってしまい、住むところを失い、老人問題まで抱えてしもうた。

女に残されたのは、地蔵達が運んできた米俵だけだったそうじゃ。

 

<次へ>

<前へ>

 


GEKIDAN ATONOMATSURI SINCE 1991