劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その14 信楽焼 >

 

 

信楽焼登場。

 

婆子・女  誰だ、お前は。

信楽  信楽焼の狸です。息子がたいそうお世話になっています。

日本  女と婆子達はそれはたいそうにおったまげたそうじゃ。

信楽  石の地蔵がニ宮金次郎を呼び、そして石の狸である私を呼びました。

なぜ石である我々が動けるのか、秘密のベールは

深く閉じられたままです。

 

日本  そこには、どぶろくをさげ、袋を風に揺らした巨大な狸がおった。

石の地蔵がニ宮金次郎を呼び、そして、信楽焼の狸を呼び、

今夜はなんでもありということになったそうじゃ。

ただ一つ、信楽焼は石じゃなくて、割れ物である、という間違いを

誰も指摘しないという優しさが皆の心にあった。

信楽  こんばんは。

婆子・女  こんばんは。

信楽  そしてすいません。

婆子・女  えっ。

信楽  私のように、酒におぼれ、女をもてあそび、気がつけば、

こんな腹とこんな袋になってしまったことをまず、

みなさんにお詫びします。そして。

ニ宮  お父さん。

信楽  ああ。

 

ニ宮、父に甘える。

 

信楽  この子が私の息子です。堕落した生活を送る私を

捨てた妻が残していった最後の宝、私の夢です。

許してやってください。

ニ宮  お父さーん。

信楽  息子よ。私の人生訓は、「生まれて、すいません」

ニ宮  えーん。

 

二人、泣く。婆子達も泣く。

 

女  あの。

信楽  はい。

女  何しに来たの。

信楽  石友達の地蔵君に呼ばれてきました。

女  地蔵達なら、下で粗大ゴミになってるわよ。

信楽  そうですか。

ニ宮  大変だね。

信楽  ああ。

女  …あのさ。

信楽  はい。

女  人んちで何勝手に泣いてんの。

信楽  あっ、すいません。

女  なんで、ニ宮金次郎と信楽の狸まで、私の家に来るの。

信楽・ニ宮  ごめんなさい。

女  わかった。話し合いましょ。なんで、地蔵が動くのか。

ニ宮金次郎がしゃべるのか。信楽の狸が自己嫌悪に陥るのか。

最初っから説明して。説明に時間かかってもいいから。

もういいから、私。もう、いいんだ。

男も家も失ったし、もう、いいんだ。もう。

婆子2  目が真っ赤だね。

婆子1  うさぎさんだね。

婆子2  やり投げな態度だね。

女  わかった。うん。座ろ。そこ座ってよ。うん。じっくり話聞くから。

信楽  袋が邪魔で座れません。

女  あのね。

信楽  歩くのも結構大変なんです。

女  だったら歩くな。信楽の狸が歩くな。

信楽  生まれてすいません。

女  はいはい。

信楽  あの。

女  何。

信楽  先ほどの、あなたの質問にお答えしたいのですが。

女  何の。

信楽  なぜ私たちが動けるのかについて。

女  説明してよ。

信楽  それは私たちにも心があるからです。

女  心。

信楽  心です。心があるから、息子の金次郎はしゃべり、

私は後悔と反省を繰り返すのです。

そして、石をも動かす心の動きが、地蔵にもあるのです。

女  石に心。

信楽  ありますとも。

ニ宮  ありますとも。

婆子1  ありますとも。

婆子2  ありますとも。

女  おばあちゃん関係ないよ。

婆子達  うー。

信楽  そして、石の心を動かすことを、あなたはしたのです。

女  私が地蔵達に傘をあげたこと。

信楽  そうです。

女  なんであなたは知ってるの。

信楽  私は、地蔵君たちから、あなたのことすべてを聞いています。

私は地蔵君たちに呼ばれてきたのです。

今日、ここで心の優しい素敵な女性に会えると。

女  そんな、私なんか…。

信楽  私も地蔵君の心の代わりになって、あなたに恩返しをしたい。

私の能力で。

女  あなたの能力って。

信楽  いずれわかります。

 

信楽、どぶろくを飲む。

 

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