劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その15 突入 >

 

 

ニ宮  おばあちゃん。

婆子1  なんだい。

ニ宮  これ、おばあちゃんたちの枕。

婆子2  違うよ。これは、男と女の枕なんだよ。

ニ宮  男と女の枕って、何。

婆子1  男と女で枕を並べて夜を過ごすのさ。

ニ宮  それって、普通に寝るのと、何が違うの。

婆子達  違うも違わないも。

婆子2  いいかい。これ、膨らましてごらん。

 

婆子1は細長い風船を膨らませ始める。

 

婆子2  これが男さ。

全員  おー。

婆子2  男は女のそばにいると、だんだん大きくなってしまうんだよ。

ニ宮  こんなに大きく。

婆子2  この大きさを持つ者は勇者と呼ばれるよ。

女  呼ばない。

信楽  私はこのくらいです。

全員  おー。

ニ宮  そんでどうなるの。教えて教えて。

婆子2  うんうん。

女  子供が聞くな。

婆子2  いいじゃないか。

婆子1  保健体育。

信楽  子供の情操教育。

ニ宮  知りたい知りたい。

婆子2  男は長旅を終えた宇宙船みたいなものさ。

そして、宇宙船は母なる地球、女の滑走路をめざしてテイクオン。

ニ宮  宇宙船?地球?滑走路?すごーい。

婆子1  船長、ただいまより、女の滑走路に突入します。ご指示を。

ニ宮  えっ。

婆子1  さあ、今から君が、宇宙船「大根」の船長だ。

ニ宮  えっ、僕が。

婆子達  船長―――。

婆子1  あんたが持ってあげなさい。

女  えー。

 

婆子1から、風船をもらう女。

 

ニ宮  よーし、宇宙船「大根」、女の滑走路に向け、突入を開始する。

婆子達  ラジャ。

信楽  わが息子よ。大きく成長しておくれ。わしより大きくなってくれ。

一皮も二皮もむけた男になっておくれ。父より。

婆子1  ただいまより突入開始。動力全開。

婆子2  オーケー。膨張率80パーセント。

婆子1  機関部オールグリーン。異常無し。

婆子2  レーダーに敵影なし。視界良好。

婆子1  突入開始。突入開始。

婆子2  まず、どんな角度で、大気圏に突入するのかが問題さ。

この角度は浅すぎても深すぎても駄目だ。

角度が浅いと壁に跳ね返される。また角度が深すぎると

ブラックホールに吸い込まれちまう。

ニ宮  突入。

全員  突入。

婆子1  突入成功しました。

 

衝撃音。

 

全員  ぐわっ。

婆子1  さて、ここからが問題なんだ。

大気圏に突入した宇宙船「大根」は空気の摩擦にあい、

抵抗にあい、女の滑走路目指して、複雑な動きをすることになる。

まず前後運動。そして、上下運動。たまにゆっくり左右運動。

前後。上下。左右。前後。上下。左右。前後。上下。左右。

ときには回転する大根もいるのだ。

 

回転。

 

全員  わー。

婆子1  だめだ。このままではエンジンが爆発しそうだ。

婆子2  もうだめ。引き返しましょう。

全員  船長、引き返しましょう。

ニ宮  駄目だ。

全員  えっ。

ニ宮  このまま突入を続行する。

全員  そんな。

ニ宮  諸君、私によい案がある。

全員  えっ。

ニ宮  逆噴射だ。

全員  逆噴射。

婆子1  まだ早すぎる。

信楽  息子よ。早すぎるのは女に嫌われるのだ。

ニ宮  みんなの命には換えられない。

信楽  でも早い。

婆子2  でも、逆噴射するにもエネルギーが足りません。

ニ宮  あの女の心を利用するのだ。

全員  えっ。

 

女は、先ほどから一人で、前後運動、上下運動、回転運動を続けている。

 

女  きゃーーーー。わーーー。にゃーーー。

ニ宮  彼女は久しく、彼と一夜を過ごしていない。その心のストレスを爆発させれば。

信楽  女の心は思うがままだ。

ニ宮  うん。

信楽  よくできた息子よ。

女  きゃーーーー。わーーーー。にゃーーーー。

信楽  女なんて。

信楽・ニ宮  ちょろい。ちょろい。

 

警報音。

 

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