劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その16 儚い夢 >

 

 

信楽  何事だ。

婆子1  12時の方向から、敵機三機接近中。

ニ宮  何。

婆子2  すごいスピードです。振り切れません。8秒後には女と遭遇します。

ニ宮  攻撃準備。ロックオン次第打ち落とせ。

婆子1  だめです。攻撃安全圏内をすでに突破しています。

婆子2  だめだ。衝突するぞ。

ニ宮  父上。やつら連邦軍の新型モビルスーツでは。

信楽  いや、違うな。

ニ宮  …えっ。

信楽  やつらの名は…地蔵だ。

ニ宮  スクリーン映し出せ。

 

地蔵達、あらわれる。

 

地蔵1  そうです。私たちがあの恩返しで有名な。

地蔵達  笠地蔵です。

女  助けて。誰か助けてー。

地蔵3  さあ、その手を離して、私たちにつかまるんだ。

女  だめ、手になじんで離れない。

地蔵1  目を開けて、僕たちをよく見るんだ。

地蔵2  君が今、手にしているものと、僕たちを比べてみろ。

地蔵3  差は歴然よ。

女  えっ。

地蔵2  俺たちの方が。

地蔵達  大きくて太いじゃないか。

女  えっ。

 

地蔵達、首をカクカク動かす。女もクビがカクカク動く。

 

女  こっちの方がいいー。

 

女、地蔵達にしがみつく。

 

信楽  残念です。

地蔵1  やあ、信楽の旦那、久しぶり。

地蔵3  あいかわらず、人の心のスキマにつけこんで、悪いことしてるね。

地蔵2  俺たち三人が来たからには、もう好き勝手にはさせないぜ。

女  えっ、いったいどういうこと。

地蔵3  まだわかんないの。

女  わかんない。

地蔵2  あんた化かされてたんだよ。

女  えっ。誰に。

地蔵1  狸に。

女  えー。

信楽  ばれてしまっては仕方がないのが残念です。はっはっはっ。

日本  女は狸に化かされていたことを、お地蔵さんたちに教えてもらったそうじゃ。

日本昔話で、狸や狐が人間を化かすのは当たり前のことじゃった。

知らなかった人はアンダーラインしなさい。

信楽  心があるから、息子の金次郎はしゃべり、私は後悔と反省を繰り返すのです。

そして、石をも動かす心の動きが地蔵にもあるのです。

そして心を喰らうことを生業とする者もいるというわけです。

女  ひどい、女の心をよくももてあそんだわね。

信楽  今さら泣いても、もう遅いのです。あなたのその優しい心の所有権を

私によこしなさい。

地蔵1  そんなに優しくないよ、この人。

信楽・女  えっ。

地蔵2  そうだよな。

地蔵3  結構わがままだし。

地蔵1  米俵もらってくれないし。

女  もらってあげるって言ったじゃない。

地蔵1  もらってあげるって何だよ。

地蔵3  何だよー。

地蔵2  やってられるかよー。

 

地蔵たちぶつかりあう。

 

婆子1  もっとこう腰を伸ばす。

婆子2  あー。

婆子1  伸ばす。

婆子2  うー。

女  えっ、おばあちゃん。

信楽 こやつらはまだ私の術中にあります。

婆子1  曲がりっぱなしですよ。

婆子2  老人の青春と腰は帰ってこないんですよ。

婆子1  その怒りをぶつけなさい。

女  おばあちゃん、やめてー。

 

地蔵たち、信楽に近づく。

肩をたたく。

 

地蔵2  あのさ。

信楽  あっ。

 

割れ物の音。

 

地蔵1  あんた石じゃなくて、割れ物じゃん。

信楽  じゃんって。

地蔵3  私たちとは堅さが違うんじゃない。

信楽  あっ。ひびです。

ニ宮  お父さんをいじめるな。

地蔵3  でも、あなたも石じゃない。

ニ宮  うん。

地蔵3  お父さんだけ、割れ物なの。

ニ宮  そうか。

地蔵3  仲間はずれにしなきゃダメでしょ。

地蔵1  最近学校でさ。

地蔵2  いじめが増加してるよね。

信楽  生まれてすいません。

 

地蔵達、信楽にぶつかるぶつかるぶつかる。

ひび割れの音。

 

日本  みんな、信楽の狸だけ、仲間はずれであることに気付いた。

信楽  生まれてすいません。生まれてすいません。生まれてすいません。

 

信楽、泣きながら去っていく。

 

婆子1  行ってしまったね。

婆子2  私たち、いったい何してたんだろうね。

婆子1  まるで、夢を見ていたようじゃ。

婆子2  若い頃に戻ったようじゃったのに。

地蔵3  おばあちゃん。夢だったんですよ。

婆子達  そうか。夢か。

 

爆笑。

 

ニ宮  それじゃあこれで。

地蔵2  もう行くのか。

ニ宮  帰って勉強しないと。

女  そうね。お父さんみたいな、人生の破産者にならないためにも。

ニ宮  うん、僕いっぱい勉強して、絶対大蔵官僚になるよ。

地蔵1  坊主、がんばれよ。

ニ宮  うん。ありがとう。

 

ニ宮、去る。みんな手を振っている。

 

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