劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その18 母帰る >

 

 

間。

女、男の元にいったん戻る。

 

女  ごめん、ちょっと外で待ってて。

 

女、戻ってくる。

 

母  …私のこと、忘れてたでしょ。

女  ごめん。忘れてた。

母  隣の部屋で全部聞いてました。あなた変わったお友達がいっぱいいるのね。

お母さんびっくりしたわ。

女  私もびっくりしたよ。

母  外にいる彼ともいい仲なのね。

女  いい仲っていうか。

母  いいじゃない。あがってもらえば。母さんも会いたいわ。あんたのいい人に。

女  いや、今日はちょっと。

母  どうして。

女  だって、なんか恥ずかしいし。

母  なんで恥ずかしいの。

女  だって。

母  だって。

女  枕二つあるし。

母  あるわね。

女  ティッシュまであるし。

母  そうね。

女  うん。

母  それ何。

女  えっ。

母  それ。

女  うん。

母  あれなの。

女  えっ?…あっ、うん。

母  …そう。

女  そう、そうなの。うん。

 

女、彼が買ってきたものを片付ける。

 

母  何で片付けるの。どうせすぐ使うなら置いときなさいよ。

女  だから、恥ずかしいって言ってるでしょ。

母  いつ結婚するの。

女  えっ。

母  結婚。

女  わかんないよ。

母  なんで。あなたたち、そういう話、しないの。

女  そういう話しないもん。

母  でも、そういう関係なんでしょ。あなたたち。

女  まだそういう雰囲気じゃないもん。

母  そういう雰囲気だから、枕が二つになったんでしょ。

女  そういうことと結婚は関係ないでしょ。

母  ないわけないわよ。

女  ほっといてよ。

母  ほっとけないわよ。今はね、いいのよ。

好きだ腫れた言ってるうちはいいのよ。

でもそのうちにね。傷つくのはあなたよ。

捨てられたらどーすんのよ。

女  捨てられるわけないでしょ。

母  なんでそんなことわかるのよ。

女  わかるわよ。

母  捨てるか捨てられないか何でわかるの。

彼の心のことがなんでわかるのよ。

彼の心はあなたの心じゃないでしょ。

女  何言ってるのよ。

母  結婚の約束をしなさい。彼の心を確かめなさい。

女  そんなことに何の意味があんのよ!

母  …心配して言ってるの。

女  …帰ってよ。

母  …帰るわ。おばあちゃん、ちょっと来てください。

婆子達  はいはいはいはいはいはい。

 

母、布団巻きのまま、帰ろうとする。婆子達がやってくる。

 

婆子1  ケメ子さん。

婆子2  ご飯作ってくれよ。

母  はいはい。作りますよ。さっ。帰りましょう。

婆子達  はーい。

 

婆子達、母を担ぐ。

 

母  あっ、また電話するから。

女  …。

母  …風邪、ひかないでね。

女  …。

母  バイバイ。

 

女、手を振る。

 

日本  こうして、母と子は別れたそうじゃ。次第に遠ざかる母と婆子達に、

女はいつまでもいつまでも手をふっていたそうじゃ。

そして、ふと女は玄関の外で男が待っていることに気付いたそうじゃ。

女   あっ、やっべー。彼と母さん、鉢合わせじゃん。

母の声  あらあなた。

女  ちょっとまっ…

母の声  こんばんは。…いつも娘がお世話になってます。

女  えっ。

母の声  あとはよろしくね。

女  …。

日本  こうして、母と婆たちは、さわやかな雰囲気を残して去っていった。

女  今のが母さん。私の。

日本  ふと気付けば、二人はやっと二人っきりになったそうじゃ。

女  あがってよ。今日はいろいろなことがあったの。最初っから説明してあげるから。

さっ、あがって…。

日本  こうして、二人は誰にも邪魔されることなく、すてきな一夜を過ごしたそうじゃ。

地蔵達  めでたし。めでたし。

 

地蔵達が勝手口から出てくる。

 

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