劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その23 恩返し >

 

女、拳銃を握る。

 

女  …。

強盗  あとで、もっといいものぶちこんでやるぜ。

女  …。

強盗  な、なんだ。

 

女、拳銃に手を触れ、自分から引き金を引こうとする。

 

強盗  何だ。何するんだ。やめろ。弾がでちまうよ。弾が、やめろ。わー。

 

強盗、拳銃を落とす。

「バン」

 

強盗  はあ…はあ…はあ…

女  あんたの拳銃は最低よ。私が、ぶちこわしてやる。

強盗  ちくしょー。

 

大家が拳銃を拾う。

 

大家  この部屋から出て行くのは、どうやらあなたのようね。

強盗  何。

地蔵1  やるう。

大家  その布団から降りなさい。

 

強盗、布団に乗っている。

 

強盗  何だと。

大家  その布団はこの女性のものです。汚い足をどけなさい。

彼が来るのを待つための大切なものです。

そして、私のアパートから出て行きなさい。

このアパートは私と、そこに住む人たちみんなの大切なものです。

女  大家さん。

地蔵1  大家さん。

地蔵3  大家さん。

地蔵2  くそばばあ。

 

大家、地蔵2へ発砲。

 

地蔵2  カン。

大家  逃げ道はないわよ。おとなしく観念しなさい。

強盗  くそ。

 

ミサイル着弾音。連続的に…。

 

大家  何。何なの。

強盗  やばい。

地蔵1  何が。

強盗  総攻撃が始まった。

全員  えっ。

 

ミサイル着弾。全員吹っ飛ぶ。

 

地蔵2  女、怒らすと、怖いね。

地蔵1  あんたのせいだよ。

強盗  はい。

女  とにかく、早くあなた自首しなさいよ。

強盗  多分、全員殺されます。

全員  えっ。

強盗  あいつ怒らすと手がつけられないんです。だから僕、別れたんです。

女  そんな。

 

ヒュルヒュルヒュルヒュル…

大家  私のアパート壊すつもり、いい加減にしなさい。とっちめてやる。

女  大家さん。

 

大家、玄関から出て行く。

 

大家  ちょっとどういうつもりよー 私のアパートよー

強盗  ムダです。あいつ怒ったら、もう誰にも止められない。

 

ミサイル着弾。

 

日本  夜空を駆け巡るミサイルが女刑事の怒りを乗せて、

一発また一発とアパートを襲ったそうじゃ。

何でもありの今宵一夜は、全員全滅という形で

終わろうとしていたそうじゃ。

 

女  これで…終りなんだ。

地蔵1  あの。

女  何。

地蔵1  僕ら、ちょっと行って、話つけてきます。

 

地蔵1、勝手口からベランダへ。

 

地蔵1の声  あのーーーー。地蔵ですけど、話し合いたいんですけどーーー

 

攻撃。

全員伏せる。

 

地蔵1、左手がない。

 

地蔵1  やっぱ、俺たちじゃ無理だわ。

地蔵3  そうね。

女  きゃー、あなた、腕。

地蔵1  ああ、ちょっと壊れちゃった。

女  壊れちゃったって、痛くないの。

地蔵1  俺たち、石だから。

女  石って。

地蔵2  一緒に行こう。

強盗  えっ、僕。

地蔵3  男として、最後まで責任取りなさい。

強盗  どういうこと。

地蔵3  あなたが、あの女刑事と話をつけてちょうだい。

強盗  無理だよ。女のところにたどりつく前に、ミサイル攻撃だよ。

地蔵1  大丈夫だよ。

地蔵2  俺たちが盾になってやるよ。

強盗  えっ。

地蔵1  俺たち三人が、弾幕の盾になってやる。

あんたを無事、女刑事の元まで連れて行ってやる。

女  ちょっと、そんなことうまくいくわけないじゃない。

地蔵3  大丈夫よ。ねえ。

地蔵1  ああ。

女  違うのよ。あなた達、いくら石だからって、そんな、死んじゃうじゃない。

地蔵1  石は死なないんだ。

地蔵2  石は傷つかない。

地蔵3  石は泣かないんだ。

地蔵1  ただ、壊れるだけ。

地蔵2  壊れて石になって、川を下って、海に出る。

地蔵3  それだけなの。

地蔵1  それだけの僕たちに、あなたは傘をくれた。

地蔵2  あんたはいい人だ。

地蔵1  だから恩を返すのが。

地蔵3  私たちの筋なの。

恩  …そんな恩、いらない。

地蔵達  さよなら。

強盗  ちょっと止めてよ。

 

地蔵達、強盗と一緒にベランダから飛び降りる。

攻撃。

 

そして、静寂。

 

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