劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その24 一緒 >

 

女一人、勝手口から物音。

 

女  …誰。

 

女、勝手口をのぞきこむ。

 

女  今までどこ行ってたの。大変だったのよ。

日本  男がいつもどおり、ベランダからお勝手に忍び込んだそうじゃ。

女  今夜はどうするの。

日本  男はおなかがすいたのか、勝手に夜食を作り出したそうじゃ。

女  私作るよ。

日本  いいよ。自分で作るから。と男は言ったそうじゃ。

男は女の気持ちが、ちーともわかっていなかったそうじゃ。

女  今度は演劇部でどんなお芝居をやるの。

日本  男は言ったそうじゃ。日本昔話。

ほら、笠地蔵をパロディにしたものだよ。と。

女  どんな話なの。

日本  「現代の社会で、三人の地蔵が出てきてね、

女の人に恩返しをしようとするんだけど、

逆にすっごい迷惑をかけてしまうお話。」 と男は言ったそうじゃ。

女  へー、高校演劇にしては、面白そうじゃん。

日本  ありがとう。

女  部活部活もいいけどさ。…ちゃんとご飯食べてる。

日本  最近は外食が多いかな。と男は言ったそうじゃ。

女  ごはん作るよ、私。

日本  いいよ。ありがとう。

女  今日、映画見てきた。豪華客船が沈没する話。

日本  へー、面白かった?

女  うん、すっごい泣いた。

日本  やっぱ、そういうのって、男と女が恋に落ちて、

船が沈没して、男と女だけになって、男は死んじゃうんでしょ。

女  そうだよ。

日本  だよね。

女  でも泣いたの。

日本  どうして。

女  船沈んでね。二人は海に投げ出されちゃうの。

そしてね。約束するの。どんなことがあっても、

希望を忘れずに二人で生きていこうって。

だけどね。男は救命ボートが来る前に、

女の人の目の前で凍死しちゃうの。

女の人は一人で生きていく決心をして、救命ボートに助けを呼ぶの。

日本  そう。

女  私ならどうするかなって。

日本  どうするの。

女  一緒に死ぬと思う。

日本  俺は生きて欲しいな、君だけでも…。

女  でもさ。死ぬときくらい、一緒にいたい。

日本  …。

女  …私は一緒にいたいよ。

日本  …。

女  私、ご飯作るぞ。

日本  …うん。

 

女、立ち上がる。

 

日本  でも、できればさ。

女  うん。

日本  一緒に生きていたいね。

女  うん。どんなことがあっても。

 

女、勝手口に消える。

 

地蔵達が現れる。

全身包帯つぎはぎだらけ。

 

地蔵達が立っている。

地蔵たちの周りを長い時間が通り過ぎていく。

 

女が、赤ん坊を抱えて出てくる。

季節は春。

 

おしまい。

 

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