女一人、勝手口から物音。
女 …誰。
女、勝手口をのぞきこむ。
女 今までどこ行ってたの。大変だったのよ。
日本 男がいつもどおり、ベランダからお勝手に忍び込んだそうじゃ。
女 今夜はどうするの。
日本 男はおなかがすいたのか、勝手に夜食を作り出したそうじゃ。
女 私作るよ。
日本 いいよ。自分で作るから。と男は言ったそうじゃ。
男は女の気持ちが、ちーともわかっていなかったそうじゃ。
女 今度は演劇部でどんなお芝居をやるの。
日本 男は言ったそうじゃ。日本昔話。
ほら、笠地蔵をパロディにしたものだよ。と。
女 どんな話なの。
日本 「現代の社会で、三人の地蔵が出てきてね、
女の人に恩返しをしようとするんだけど、
逆にすっごい迷惑をかけてしまうお話。」 と男は言ったそうじゃ。
女 へー、高校演劇にしては、面白そうじゃん。
日本 ありがとう。
女 部活部活もいいけどさ。…ちゃんとご飯食べてる。
日本 最近は外食が多いかな。と男は言ったそうじゃ。
女 ごはん作るよ、私。
日本 いいよ。ありがとう。
女 今日、映画見てきた。豪華客船が沈没する話。
日本 へー、面白かった?
女 うん、すっごい泣いた。
日本 やっぱ、そういうのって、男と女が恋に落ちて、
船が沈没して、男と女だけになって、男は死んじゃうんでしょ。
女 そうだよ。
日本 だよね。
女 でも泣いたの。
日本 どうして。
女 船沈んでね。二人は海に投げ出されちゃうの。
そしてね。約束するの。どんなことがあっても、
希望を忘れずに二人で生きていこうって。
だけどね。男は救命ボートが来る前に、
女の人の目の前で凍死しちゃうの。
女の人は一人で生きていく決心をして、救命ボートに助けを呼ぶの。
日本 そう。
女 私ならどうするかなって。
日本 どうするの。
女 一緒に死ぬと思う。
日本 俺は生きて欲しいな、君だけでも…。
女 でもさ。死ぬときくらい、一緒にいたい。
日本 …。
女 …私は一緒にいたいよ。
日本 …。
女 私、ご飯作るぞ。
日本 …うん。
女、立ち上がる。
日本 でも、できればさ。
女 うん。
日本 一緒に生きていたいね。
女 うん。どんなことがあっても。
女、勝手口に消える。
地蔵達が現れる。
全身包帯つぎはぎだらけ。
地蔵達が立っている。
地蔵たちの周りを長い時間が通り過ぎていく。
女が、赤ん坊を抱えて出てくる。
季節は春。
おしまい。
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