劇団あとの祭り 上演台本 仰げば尊し 作/福冨英玄 在校生送辞 ほのかな春の息吹につつまれ、桜芽吹くこの日。 めでたく卒業される三年生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。 みなさんは、神坂第二中学校を、巣立ちます いつしか月日は流れ、当たり前のように共に過ごしてきた皆さんと、ついにお別れする日がやってきました。振り返ると、皆さんの活躍された姿が次々に思い出されます。 力を出し切り、団結しあった体育祭。 先輩方は、私たちに、自分たちの貴重な練習時間を割いてまで、団体競技のこつや、応援の仕方を教えてくださいました。本番では、学年種目の30人31脚で、電光石火のスタートダッシュと、一糸乱れぬ走りをされました。その姿は、今も私たちの目に焼きついています。 声を重ね、気持ちを一つにした合唱コンクール。 県の音楽コンクールでは、それぞれのパートの核として、私たちをリードしてくださいました。今年は去年に比べて発表の時期が早く、夏休みから練習を始めましたね。私たちは音程に自信がなく、大きな声で歌うことがなかなかできませんでした。しかし、先輩方は、私たちに、分からないところはないか聞いてくださり、一人一人の不安をなくそうとアドバイスしてくださいました。練習ではいつも、先輩がたから先に歌おうとする気持ちが伝わってきました。これからは私たちが、先輩方から「伝統の合唱」を引き継ぎ、今まで以上によりよい合唱を目指して努力していきます。 最後に、私たちの合唱を披露したいと思います。曲は「トゥモロー」です。 この曲の歌詞に出てくるように、戸惑いや悲しみが、先輩方を覆うことがあっても、微力ながら私たちの想いが、先輩方の支えになるよう、願っています。 卒業生のみなさん。この学校での思い出を胸に。新しい世界へ、羽ばたいてください。みなさんの健闘と、輝く未来へ、祈りを込めて、私たちから、この歌を贈ります。 音楽。それは季節はずれにも、卒業式の曲。 その曲をバックに、女1 、本来は全校生徒で語られる「贈る言葉」を一人で読んでいる。 女1 ・・・・卒業生のみなさん。この学校での思い出を胸に。新しい世界へ、羽ばたいてください。みなさんの健闘と、輝く未来へ、祈りを込めて、私たちから、この歌を贈ります。 音楽、消える。 と、そこは、どこにでもある、ふつうの中学校の職員室。 時間は5時頃だろうか。生徒たちは部活を終え、着替えたり、コート整備をしたり、帰り支度をしたりしている。 女1 ・・・・で、合唱・・・・か。う〜ん、まいったなぁ。 と、奥(校長室)から、男が慌ただしくでてくる。 女1 武田先生。 男1 あ、斉藤先生。 女1 これ、このまえの3月の台本なんですけど、あんまり使えないんですよ。その前のとかって、ないです? 男1 (ほとんど聞いてない)さぁ、どうかな。 女1 がんばりますよ、わたし。きっと、いい卒業式にしましょうね。 男1 ああ、そうだね。あ、あの・・・。 女1 はい? 男1 で、その彼ら、来なかった? 女1 ガルベス君たちですか? 男1 ああ。 女1 え?部活じゃないんですか? 男1 いや、今日は用事があるって、帰ってるんだけど。 女1 さぁ、職員室には来てないですよ。 男1 そうか・・・。 女1 ・・・どうかしたんですか? 男1 いや・・・ちょっと気になることがあって・・・あの、もし来たら、そのまま待ってるように言ってくれる?で、ケイタイ、連絡して。 女1 ええ。 男1 、そのまま、職員室から慌ただしく出ていく。 入れ替わりに、女2 。 女2 廊下は走らない! 女1 しょうがないですよ。武田先生、お忙しいから。 女2 まぁね。ごくろうさんなことで。そこんとこ行くと、非常勤のあたしは、暇でござんすから、お先に失礼します。 女1 え、もうお帰りなんですか? 女2 だって、5時すぎてるでしょ? 帰りかける女2 。 女1 あ、伊東先生! 女2 何? 女1 さっき、ヒマっておっしゃいましたよね。 女2 ・・・何よ、それ・・・。 女1 ちょっと手伝ってもらえません? 女2 悪いけど、今度にして。忙しいのよ。 女1 ヒマって言ったじゃないですか! 女2 思い出したのよ。たった今。 女1 そんなこと言わないで下さいよ。 女2 何よ、しつこいわね・・・あ、分かった。例のあれでしょ?イタリア組の卒業式。 女1 そうなんですよ。 女2 やぁよ。あたし、そういうの苦手なんだから。 女1 そう言わないで。お願いしますよ。 女2 いいじゃない。ここは一つがんばっておけば。武田先生も誉めてくださるってもんでしょ。 女1 べ・・・別に武田先生のためにやってるんじゃありませんよ。 女2 何、言ってんの。この辺にハートマークいっぱい飛ばしてるくせに。今時、中学生でももうちょっと分かりにくいわよ。 女1 そんなことありません。 女2 ホント〜?・・・・じゃ分かった。一ついいこと教えてあげるわ。 女1 何です? 女2 今すぐ、校長室に行って、「ここは日本です。季節はずれの卒業式なんか、やめましょう」って行って来たら?それで万事解決。 女1 できませんよ、そんなこと! 女2 いいって、できるって。 女1 無理です。だって、もうやるって決まっちゃってるんですから。 女2 だって、賛成してんの、校長と武田先生だけじゃないの。後みんな反対だったのよ。 女1 私は反対してません。 女2 賛成もしなかったくせに。 女1 だって、難しいこと、分かんないんですもん。 女2 大体ね。校長も調子が良すぎるのよ。もともとは武田先生がさ、一人でがんばっててさ、「授業時間数確保のため、行いません」とかさ、「一部の生徒のためだけに、時間を使うことはできません」とか言ってたくせにさ。新聞社が来るって分かったら、ぱたっと寝返ってんだもんね。「一人一人を大切にする教育」とか「多様な国際性に対応」とか、適当なこと言っちゃってさ。何様だってのよ。 校長 なんか言ったかね。 校長先生、登場。 女2 いいええ。別に。 校長 そう? 女1 あれ、校長先生、出かけられるんですか? 校長 ああ、今日はもう、帰ります。妻がね。病気で寝こんでるもんで、私が夕食作らないとね。 女1 ご苦労様です。 校長 あ、伊東さん、ご存じかな。あの・・・国道沿いのマイストアに、ほら、何とか言う洋菓子店・・・。 女2 「すいーとハニー」でしょ? 校長 ああ、それそれ。 女1 行かれるんですか? 校長 ええ。行きますよ。柄じゃないのは分かってますがね。なんだか知らないけど、妻が「絶対買ってこい」って言うんでね。 女2 !・・・まてよ、今日ってひょっとして第二火曜日? 女1 ええ。 女2 うわ、しまった!100円均一の日じゃない! 校長 じゃ、お先に。 女2 あ、あたしも・・・。 女1 ちょ・・・ちょっと。 女2 あ、ごめん。あのね。急にその・・・そう、子供が熱出したもんで。 女1 何、言ってるんですか。 女2 え、だって・・・。 女1 分かりました!手伝って下さったら、今度私がケーキおごりますから! 女2 ・・・・・絶対? 女1 約束します。 女2 何ラウンド? 女1 何ラウンドって・・・・いいですよ。どれだけでも。食べ放題。 女2 よっしゃ、乗った。絶対だからね! 女1 はい! 女2 そうと決まれば、腰をすえて話そうじゃないの。お茶いれて。 女1 あ、はい。 たいていの職員室には、職務机のほかにテーブルがあり、そこでお茶を飲んだり、担任を持っていない先生が給食を食べたりします。 女2 で、どこまで決まってんの?決まったとこまで教えてよ。 女1 あの・・・それが、全然。 女2 全然って・・・何、一つも決まってないの? 女1 だって、難しいんですもの。 女2 あんたねぇ。もう2年目でしょ?覚えなさいよ。そう言うときは去年のを見て、参考にすればいいでしょ?あの辺の棚に、去年の資料があるじゃない。 女1 それはやったんですよ。でもこれ(冒頭のせりふ)・・・。 女2 じゃ、いいじゃない、これ改造すれば。 女1 だって、ほら・・・。 女2 ? 女1 たとえば、最初ですけど、「桜、芽吹く、この日」ってなってます。 女2 そんなのはなんでもいいじゃないの。 女1 だって、じゃあ「ひまわり芽吹くこの日」とか、「あさがお芽吹くこの日」だったら、ヘンじゃないですか。 女2 じゃ、花にこだわらなきゃいいでしょう。 女1 「アブラゼミの声、やかましい、この日」 女2 おい。 女1 「カの、うっとうしい、この日」 女2 こら。 女1 「カブトムシの・・・」 女2 生き物から離れなさい。 女1 え、だって、季節感のあるもので始めた方がいいじゃないですか。 女2 じゃあ、ふつうに天気とか気候のことでいいじゃない。 女1 「じわじわと、蒸し暑い、この日」・・・。 女2 こら! 女1 だって、体育館、暑いんだもの。 女2 確かに暑いけど。そんなら「夏の日差し、照りつける、この日」とかさ。 女1 ・・・おお・・・。 女2 おお、じゃない。 女1 伊東先生、すご〜い。 女2 すごくない。あんたがおかしいの。 女1 やっぱり、手伝ってもらって良かった。 女2 はい、次、次。てきぱきやる。 女1 えっとですね。「みなさんは、神坂第二中学校を、巣立ちます」。この辺はいいですよね。 女2 いい。次。 女1 「みなさんと、ともに歩んだこの年月・・・」 女2 その辺は、いいんでしょ?困ってるところを言いなさいよ。 女1 えっと、じゃあ、この辺。2段落に入ったところから。 女2 どれどれ・・・「力を出し切り、団結しあった体育祭。声を重ね、気持ちを一つにした合唱コンクール」・・・ああ、行事シリーズのところね。これが何? 女1 だって、ガルベス君達、やってないじゃないですか。体育祭も合唱コンクールも。 女2 そうだっけ? 女1 だって、転校してきたの、3学期になってからですもん。 女2 ああ、そうか。まぁ、そうよね。あのバタ臭い顔で応援したり、歌、歌ってたりしたら、覚えてないはずないわねぇ。 女1 どうしましょう。だって、この辺でみんなと過ごした思い出を、一つ一つ思い出していって、「ああ、あんなこともあったなぁ」「こんなこともあったなぁ」ってところから、だんだん気持ちが高まっていって、だんだんだんだん(泣)・・・。 女2 あんたが泣いてどうするの。 女1 だって・・・。 女2 だってじゃない。・・・まぁ、でも確かにそうね。この辺の行事ネタが使えないのは痛いわな。・・・ね、今年の1学期に、何か無かったっけ? 女1 いつもだったら、球技大会があるんですけど。 女2 今年はやってないの? 女1 なくなったんですよ。今年は特に、去年より6日も登校日が少ないから。「授業数確保のために割愛」って。 女2 校長が? 女1 ええ。 女2 あったま悪ぅ〜。そういうのやらしてやらないから、子供もストレスたまるっての、なんで分かんないかね。 女1 まぁ、とにかくそういうわけで、1学期は行事らしい行事、やってないんですよ。 女2 ふぅん・・・あれ、まてよ。ガルベスって、3年生でしょ? 女1 ええ。 女2 じゃあ、修学旅行は?行ったんでしょ? 女1 行きましたけど。 女2 じゃ、そのネタでいけるじゃない。 女1 いえ、でも・・・行くには行ったんですけど、ガルベス君、最初のサービスエリアで、間違って、別のバスに乗っちゃって。 女2 ・・・マジ? 女1 教頭先生と私で追いかけたんですけど、追いついたときにはもう昼過ぎで、民宿に直行。 女2 最悪。 女1 結局、日程の半分以上はバスの中だったんです。 女2 そうか・・・う〜ん。 女1 ね、どうにかなりません? 女2 こりゃ、きっついわね・・・。 と、そこへ入ってくる養護教諭(保健室の先生)の女性(女3)。一服いれに来たらしい。 女1 あ、山本先生。 女3 あら、伊東先生。行かなかったの?100均。 女2 ええ、まぁ、ちょっとね。 女3 なんだ。伊東先生なら、きっと私の分もキープしておいてくれると思ったのに。 女2 あ、じゃあ、先生も、これ、手伝いません? 女3 何、これ。 女2 イタリア組の、卒業式の台本。 女3 ああ、例のアレね。 女2 これね。手伝うと、もれなく「すいーとハニー」でケーキ食べ放題。 女1 ! 女3 あら、ホント? 女2 斉藤さんがおごってくれるだって。 女1 いえ、別に、そんな。 女2 何ラウンドでも、いいんだもんね。 女3 あらぁ、悪いわねぇ。 女1 ええっと・・・その・・・はぁ。 女3 しかし、あれよね。いくらヨーロッパじゃ7月卒業が当たり前だからって、それにあわせる必要もないのにねぇ。 女2 まったくですよね。 女3 郷に従えって言うじゃないねぇ。。 女2 まぁ、いいけど。早くいなくなってくれるなら、それはそれで。、あの子達が次の3月までいたところで、たいしたことは身につかないと思うし。 女1 そんなこと、ありませんよ。 女2 あるわよ。 女1 だって。 女2 あんた、授業で、教えてないから、そう思えるのよ。あたしなんか、楽譜は万国共通とかゆって、音楽いっしょにやらされてるけどさ。楽譜はいっしょでも、歌詞は日本語だっての。どうにもならないでしょう。 女1 それは・・・まぁ。 女3 それにねぇ・・・この前、ほら・・・あの、女の子。いっつも忘れるのよね・・・。 女1 アーシュラ。 女3 そう。あの子が真っ青な顔して、保健室来るのよ。何とかしてあげたいのは山々なんだけど、どこをどうして欲しいのか、分かんないのよ。あたしもいろいろ言葉はかけるんだけど、日本語どころか、あの子ら英語もあんまり伝わらないじゃない?ゼスチャーったって、そもそもうずくまっちゃってるから、見てくれないしさ。 女1 結局、何だったんです? 女3 生理痛。 女1 ・・・。 女3 なんかねぇ・・・後で聞いたら、日本に来てから、はじめて来たらしいよ。 女1 え・・・生理が? 女3 うん。 女1 半年もいて? 女2 環境の変化に、体がびっくりして、とまっちゃったんだろうね。 女3 特に、女子はあの子一人でしょ。ストレス溜まってるんじゃないの? 女1 でも・・・せっかく仲間になれたのに、いなくなっちゃうのは、寂しいですよ。いっしょにいたら、きっと何か・・・思い出は残りますよ。 女2 その思い出が無くて、困ってるんでしょうが。 女1 そうなんですけど・・・。 女3 困ってるの? 女2 ほら、卒業式で・・・。 女3 ああ、そうか。あれね。「贈る言葉」みたいにしたいんだけど、いっしょにやった行事がないって? 女1 ええ。 女3 そら、そうよねぇ。この前、転校してきたようなもんだからねぇ。 女1 なにか、いい言葉、浮かびません? 女3 う〜ん。そうねぇ。 女2 やっぱやめちゃったら? 女1 だから、そんなこと言わないで。 間。 女3 ああ、そうか。 女1 !何か、思いつきました? 女3 うん。ていうか、やめちゃえばいいのよ。 女1 もう、山本先生まで! 女3 そうじゃなくて。この前の卒業式の真似をすることを、やめちゃえばいいのよ。 女1 だって・・・他に思いつかないんですもの・・・。 女3 私ね。去年まで小学校だったのね。白久保小学校って知ってるかな。ちっちゃい学校でさ。1学年1クラスしかないのね。で、卒業生が、19人しかいないのよ。 女2 へぇ。 女3 でね。人数少ないから、卒業生の名前、一人一人呼んであげるわけよ。 女1 ? 女3 だから。たとえばね、ええっと・・・「阿部君子さん。運動会の選手リレーでは、アンカーだったね。5人も抜いて、かっこよかったです。」って、感じ。 女1 でも、それじゃ、結局は行事ネタじゃないですか。 女3 そう、これは行事とかね目立つタイプの子の場合ね。で、そうじゃない子とかも、いるじゃない。そういう場合は、例えば「小さい子の面倒をよく見ていて、優しいな、と思いました」とかさ。「本が大好きで、図書館でたくさん本を借りていましたね」とかさ。そういうのでもありなわけよ。 女2 はぁん。なるほどね。 女3 そりゃ、19人しかいないったって、いろんな子がいるからね。目立つ子は100人の中でも目立つし、目立たない子は5人の中でも目立たないからさ。一人一人に呼びかけてあげるためには、いろいろ引っ張ってくるわよ。 女2 いいんじゃない?いけそうじゃん。 女1 えっと、じゃあ・・・ガルベス君だったら? 女3 そうねぇ・・・。 間。 長い間。 女3 なんでもいいのよ。別にね。 女1 そうですよね。その子らしければ。 女2 じゃあ、顔が濃い。 女1 いや、それはちょっと。 女2 顔がクドい。 女1 そうじゃなくて。 女2 顔がバタ臭い。 女1 顔から離れてくださいよ。 女2 だって、一番あいつらしいと思わない? 女1 そうかも知れませんけど。卒業式で顔のこと言われたってしょうがないじゃないですか。 女2 じゃあ・・・。 女3 すね毛が濃い。 女2 え、そうなの? 女3 びっくりするわよ。頭、茶色いわりに、すね毛は濃くてさ。 女1 そうじゃなくて。 女3 胸毛も濃い。 女1 だから!体のことじゃなくて! 女3 ええっとねぇ・・・。 間。 長い間。 女3 ほかの子からにしない? 女2 そう、そう。 女1 じゃあ、アーシュラ。 女3 アーシュラね。あの、鼻ピアスの子ね。 女2 あれ、痛くないのかなぁ。 女3 大丈夫なんじゃない?鼻、高いから、鼻の穴も大きいし。 女2 知ってました?あいつ、タトゥも入れてるんですよ。 女3 え、ホント? 女2 二の腕の、この辺。チョウの形のやつ。 女3 へぇ。知らなかった。今度見せてもらお。 女1 あの・・・。 女3 !ああ、そうね。ええっと・・・卒業式に使えそうなこと・・・。 女2 色、白いよね。 女3 白いわよねぇ。メラニン無いのかしらね。 女2 あの子らでも、大人になったら美白とかするんですかね。 女3 さあ・・・でも、あれだけ薄いとさぁ、紫外線とか奥の方まできそうじゃない?それはそれでいろいろ害がありそうよね。 女1 あの・・・だから・・・。 女3 あ、そうだったわね・・・ええっと・・・。 間。 長い間。 女3 次にしましょう。次。 女2 「次、行ってみよう」みたいな、ね。 女3 後は? 女1 アンドレと、エドモンドと、グレゴリィと、ジョイス。 女3 ああ、あの子らね。あの、おんなじ顔してる・・・。 女1 いとこなんだそうですよ。 女2 ね、そんなにいたっけ? 女1 私も4人そろってるの、見たことないです。 女3 大抵1人か2人、休むか遅刻かしてるもんね。 女2 知らなかった。ずっと3つ子かなんかだと思ってた。 女3 ね、ここだけの話よ。 女2 何、何。 女3 実を言うと・・・私も見分けつかないのよ(笑)。4月の身体測定、ずれてるかも知れない(笑)。どうしよ〜(大笑)。 女2 (笑)。 女1 もう、いい加減にしてくださいよ! 女3 ごめん、ごめん。 女2 じゃあ、斉藤先生、なんか言ってよ。なんか無いの? 女1 私ですか? 女2 じゃあ・・・ガルベスは? 女1 ガルベス君は・・・やさしいです。 間。 女2 どんな風に。 女1 私が自転車でこけたら、起こしてくれました。 間。 女2 後は。 女1 後は・・・修学旅行で、バス間違えて、旅館に向かうとき、私、教頭先生の車の中で、爆睡してしまったんですけど、ずっと枕になってくれてました。 間。 女2 ・・・そうすると?・・・「ガルベス・レジエーロ君。斉藤先生が自転車でこけたときは、助けてくれましたね。修学旅行でバスを間違えたときも、ずっと枕になってくれましたね。あなたの優しさを、僕たちはずっと忘れません」。 女1 あはは、変ですね。 女2 あははじゃないわ! 女1 すいません。 女2 他に無いの? 女1 えっと・・・じゃあ・・・。 間。 長い間。 女2 ・・・ダメじゃん・・・。 女3 意外とさぁ・・・見てるようで見てないものねぇ・・・あんなに目立つのにねぇ。 女2 っていうか、外見で目立っちゃうから、それ以上、見てないのかも知れませんねぇ。 女1 ・・・。 間。 女2 あいつさぁ。イタリア人じゃない?だからさぁ、歌、うまいんじゃないかと思って、一人で歌わせたことあるのよ。 女1 イタリア人って、歌、上手いんですか? 女2 だって、なんか、ギターかなんか持って、窓辺で歌ってそうなイメージがあるじゃない。 女3 ああ、分かる。分かる。 女2 でしょ。だから、歌わしてみたわけよ。そしたらもう、上手いの上手くないのって。 女1 どっちなんですか? 女2 声はいいのよ、声は。よく響くしさ。声量もあるし。でも、音程に関してはもう、すごいのなんの。クラスのみんな、なんかそういう宗教の呪文かなんかかと思ってさ。 女3 ・・・ねぇ。 女2 はい? 女3 それ、いいんじゃないの? 女2 え? 女1 そうですよ。 女2 何が? 女3 ガルベスのネタに使えるじゃないよ。 女2 音痴だって?まさか。 女1 そうじゃなくて。上手か下手かはおいといて、「歌が好き」ってことにすれば。 女2 いやぁ、どうかな。好きかどうか、分かんないよ。 女1 でもでも、みんなの前で堂々歌えるなんて、すごいじゃないですか。なかなかできませんよ。 女2 まぁ、確かに。なかなかできんわなぁ。 女3 いいんじゃないの?「朗々とした歌声は、僕らの胸に今も響いています」とか何とか言ってさ。 女2 あの歌が、今も響いてたらやだなぁ。夜、眠れませんよ。 女3 やっぱ、伊東先生も、先生だねぇ。授業じゃ、良く見てるわ。 女2 やめてくださいよ。そういうの、この辺が痒くなるんですよ。 女1 伊東先生、かっこいい! 女2 やめてよ、ホント。 女3 いいじゃないの。 女2 ねぇ、じゃあさぁ。他の教科の先生にも聞いてみてよ。なんか私のネタだけ使われるのって、ちょっとカンベン。 女1 え〜。いいじゃないですか。 女2 やだ。恥ずかしい。 女1 そんなこと言わないで。 女2 やなのよ。なんかそういう歯が浮きそうな台詞。 女3 そうね。とりあえず、授業で絡んでる先生に、様子を聞いてみるってのはいいんじゃない?なんにせよ、ネタは多いにこしたことは無いんだし。で、さっきのネタが一番よければ採用するってことで。 女1 そうですね! 女2 え〜。 女1 すっご〜い。山本先生も伊東先生もすてき! 女2 やめなさいってのに。 女1 じゃあ、私、3年生に授業で入ってる先生、当たって見ます。 女1 、出て行きかける。 と、出口で男1 と会う。 女1 あ、武田先生。 男1 ああ。 女1 順調ですよぉ。もう、伊東先生、大活躍! 男1 あの、それより・・・ガルベス、来てない? 女1 ?ええ。 男1 (女3 に気づいて)あ、保健室には? 女3 来てないわよ。 男1 そうですか・・・。 男1 、ただならぬ慌てぶり。 女1 あの・・・ひょっとして、何かあったんですか? 男1 うん、まぁ・・・その・・・。 女3 何、なんかあったの? 男1 ・・・未確認情報なんで、内緒ですよ。 女2 何、何。 男1 ガルベスのところ、輸入雑貨店やってたじゃないですか。 女2 あ、そうなの? 女1 らしいですよ。 女3 イタリア組んとこは、みんなで共同経営みたい。ガルベスんとこが社長みたいよ。 男1 それがね・・・どうも、倒産したんじゃないかって。 女3 あら、早かったわね、もう? 女2 まぁ、このご時世じゃあねぇ。 女1 あの・・・ホントなんですか? 男1 分からない。ただ、さっきバスケ部がランニングから戻ったんだけど、店の前を通ったとき、シャッターが閉まったままになってて、その前で業員たちが話し合ってるのを見たらしい。 女3 ・・・ちょっと待って・・・それってつまり、ひょっとして、夜逃げってやつじゃないの? 男1 そうかも知れない。 女2 ちょっと、マジ? 男1 もし、そうだとしたら、あいつもう、学校に来ないかもしれない。 女1 そんな! 男1 本人に会って、その辺確かめたいんだけど・・・。 女1 じゃあ、卒業式は? 男1 今の段階ではなんとも言えない。それどころじゃないかも知れないし。 女1 ・・・。 男1 ただ・・・。 一同 ? 男1 分からないけど・・・きっと、学校には寄る思うんだ。最低あと一回は。 女2 どうして? 男1 ・・・理由は無い。ただのカンだ。 女2 おい。 男1 でも・・・奴は来る。俺は教師として、男として、奴を信じたい。 女1 武田先生・・・(二人だけの世界)。 女2 ・・・はいはい・・・。 女3 80年代前半の世界よねぇ・・・。 男1 奴の家まで行ってみる。 女1 あの・・・私たちは? 男1 そのまま準備を続けてほしい。ただ・・・。 女1 ? 男1 最悪・・・明日かあさってくらいに、式をすることになるかもしれない。 女2 !ちょっと、そんなの無理に決まってるでしょう? 男1 無理じゃない。やればできる! 女2 やればって・・・考えるのあたしらよ。 男1 だって、去年の台本があるでしょうが。 女2 それはもうやったの。そんな簡単なもんじゃないの。 男1 簡単じゃないのは分かるけど。 女2 分かってない。あんたが思うより簡単じゃないの。あんた斉藤先生に押し付けっぱなしだから、分かってないのよ。 女1 いえ、私は別に・・・。 女2 熱血教師もいいけど、一人でできることじゃないんだから。それとも何?、台本もあんたがやってくれるっての? 男1 ・・・いいですよ。他に協力してくれる人がいないなら、しかたない。自分でやるまでのことだ! 女1 あの・・・大丈夫です。私、手伝いますから。 男1 ありがとう。 女2 (女1 に)・・・あのねぇ(うんざり)。ってことはよ?今夜どころか、今すぐにでもできてなきゃならないくらいでしょう?3人で考えて、やっと入り口が見えたってくらいなのよ?間に合うわけ無いじゃないの。 男1 あいつらだって、かわいい生徒の一人だ。ここでなんとかしてやれなくて、何が教師だ! 女2 じゃあ、本人が来なかったら? 男1 それは・・・。 女2 「あと一回は来る」っていうのも、あんたのカンで、根拠は無いわけなんでしょう?本人抜きでやるの?卒業式を? 間。 男1 来る!俺が呼んでくる! 女2 保障は? 男1 無い! 女2 ・・・。 男1 頼む!この通り! 間。 女2 あんたさぁ。 男1 ? 女2 アーシュラのいいところ、何か一つでも言える? 男1 いいところ? 女2 卒業式のネタに使いたいんだけど、思いつかないのよ。 女1 伊東先生・・・。 女2 待った。あたしは別に協力するって言ってるんじゃない。ここで武田先生がスラっと言えないようなら、あたしは降りる。 男1 ・・・。 女2 あんたも担任なら、言えるわよねぇ。 男1 ・・・・。 女2 あんたさぁ・・・卒業式にこだわるのもいいけど、それって自己満足ってやつじゃないの?キンパチ先生ごっこがしたいんなら、あたしは協力しないわよ。 女1 武田先生は、そんな人じゃありません!生徒思いの、立派な先生です。 女2 じゃあ、言ってみなさいよ。生徒思いなら、生徒のいいところの一つや二つ、スラっと出てきて当然でしょう? 男1 アーシュラのいいところを言えばいいんだな。 女2 そう。 男1 アーシュラは・・・。 女2 アーシュラは? 間。 男1 アーシュラは・・・優しい。 女2 またそれかい・・・。 男1 アーシュラは、いつも給食のご飯を半分ほど残す。 女2 それが何。 男1 決まって、残すんだ。そして、それをティッシュでくるんで、ポケットにしまう。毎回だ。俺は、その分けを知りたくて、その後どうするのか、こっそり見ていたことがある。 女1 ・・・それで? 男1 アーシュラは、給食のあとの昼休み、何気ないふうを装って、裏の池に行った。そして・・・。 女1 そして? 男1 池の鯉に・・・ご飯をやっていた。 女2 ・3・・・はい? 男1 鯉は腹を空かしていた。なぜなら、今週の飼育当番の新田たちが、体育祭の実行委員を兼ねていて、昼休みに毎日集会があり、餌をやる暇がないからだ。あいつはそれを知っていた。だが、まだ日本語がうまくないあいつはのそのことを新田たちに伝えるすべが無い。だからあいつは、自分のご飯を減らして、池の鯉に分けてやっていたんだ。あいつは小さい生き物をいたわることのできる、優しい心の持ち主だ。 女2 ・3・・・。 男1 どうだ・・・足りなければ、まだ言えるぞ。 女2 ・・・いいでしょう、合格! 女1 伊東先生・・・。 女2 こっちはあたしらに任せて、あんたはとにかくガルベスを探しておいで。 男1 頼む! 男1 、駆け出していく。 女1 すごい!なんか、みんな、すごぉい!わたし、なんか、感動しちゃいました! 女2 はい、いいから、いいから、先、行くよ。 女3 照れちゃって。 女2 もう・・・はい、斉藤先生、今までの分、まとめて。 女1 はい。ええっと・・・「夏の日差し、照りつける、この日」からスタートして、ええっと・・・「ガルベス君。音楽の授業では、」・・・ええっと・・・。 女3 「一人でも、みんなの前で、堂々と歌っていましたね。」とか、そんなカンジ? 女1 あ、そか・・・「一人でも、みんなの前で、堂々と歌っていましたね。」 「あなたの、朗々とした歌声は、今も僕たちの胸に響いています。」 女3 そうそう。 女1 「アーシュラさん。」ええっと・・・。 女2 「池の鯉にエサをあげるあなたの姿を、今も覚えています」くらいかな。 女1 「池の鯉に、エサをあげるあなたの姿を、今も覚えています」ええと・・・「小さな生き物にも向けられた、あなたの優しさを」・・・う〜ん・・・「忘れられません」っていうのも、なんか簡単なカンジですよね・・・ええっと・・・。 女3 そうね・・・「小さな生き物に向けられた、あなたの優しさから、僕たちは、助け合うということを学びました」とかさ。 女1 バッチリ! 女2 ま、そんなとこでしょ。 女3 うん。なかなかいいんじゃないの?・・・と、すると、あとは、そっくり4人組ね。 女2 あの子らねぇ。 女1 あの・・・私、今、気付いたんですけど・・・。 女2 何? 女1 あの子たちって、選択の授業ってどうしてるんですか? 女3 ああ、そういうのもあったわね。 女2 選択Bは、音楽に来てるわよ。来ない日の方が多いけど。 女1 じゃあ、Aは? 女2 さぁ・・・。 女3 あ、まてよ・・・・確かねぇ・・・。 女1 ・2? 女3 うん、そうだ、思い出した。島崎先生だ。 女1 ・2? 女3 えっとね。たしか、最初は松本先生の英語を選択してたんだけど、なんとも授業になりようがないってことになって、で、島崎先生が日本語の基礎をやることになったって。「時間数が増えた」ってぶつぶつ言ってたもの。 女1 じゃあ、私、探してきます! 女2 え、でも、島崎先生、今日、出張じゃない?教務主任会で。 女3 あ、でも今日は早いって言ってたわよ。多分、もう戻って、陸上の方、見てるんじゃない? 女1 行ってみます! 女2 じゃあ、今までのところ、メモっておくわ。 女1 お願いします! 女1 、出ていく。 入れ違いに入ってくるスーツ姿の男2 。 男2 どうしたの、(女1 )慌てて。 女2 (書きながら)いろいろあってね。 男2 ふぅん。 女3 お帰りなさい、原田先生。 男2 あ、どうも。 女3 どうしたの、疲れた顔して。何、研究部会でなんかあったの? 男2 どうもこうもないですよ。結局、また僕が授業公開することになっちゃって。 女3 え、また? 男2 みんな、なんだかんだ言い訳して、逃げちゃうんですよね。 女3 とか何とか言って。ホントは結構やりたいんでしょう。 男2 そりゃまぁ・・・嫌いじゃないですけど。ただねぇ。 女3 どうかしたの? 男2 ほら、今の2年生って、去年も授業当たったでしょ。 女3 ああ、そうねぇ。 男2 「みんな先に帰れるのに、どうして僕らだけ」って、さんざん言ってましたからね。で、今回もでしょ?ちょっとねぇ・・・。 女3 ああ、そういうの、あるねぇ。 男2 どうしようかなぁ・・・学期末に、何かレクでも入れて、ご機嫌とるかなぁ。 女3 担任は大変ねぇ。 男2 まぁしょうがないですけどね。教師として力つけていくには、授業公開して、指導受けていくしか、手がないですから。 女2 ご苦労様なことで。 男2 ま、誰かさんが、そのへんから徹底して逃げちゃうんでなければ、もうちょっと楽になるんですけど。 女2 ・・・何、それ。 男2 何か? 女2 嫌味で言ってるの? 男2 やだな。そんなつもりなんかありませんよ。 女2 どうせ、あたしは授業公開なんかしたことありませんよ。なにしろ「講師」で、「教師」じゃございませんから。 男2 いや・・・。 女2 ケンカ売るなら、買っちゃうよ。 男2 カンベンしてくださいよ。 女3 違うわよ、伊東先生。ほら・・・武田先生のこと。あの人、そういうの好きじゃないから 女2 ・・・はぁん。 男2 この前のだって、そうでしょう?何が卒業式ですか。そりゃ、生徒は喜びますよ。授業やってるより楽しいでしょうし。でも、いい加減、生徒の眼を行事から離して、勉強のほうに向けさせないと。夏は差がつく時期ですから。 女2 まぁ、ねぇ。 男2 先見てやってかないと。入試の時期になってばたばたしても手遅れですからね。それでなくても今年はとくに授業日数が少ないんですから。 女2 ・・・。 男2 今度の職員会で、絶対反対しましょうね。やっぱ、学校は授業で勝負しなきゃウソですよ。 女3 それがさぁ、原田先生。 男2 何か? 女3 、書きかけの原稿を渡す。 男2 何ですか、これ。 女3 ほら・・・原田先生、この前の職員会のときも、出張でいなかったでしょう?あの間に決まっちゃったのよ。やるって方向で。 男2 ・・・ウソ。 女3 いや、ホント、ホント。 男2 え、だって・・・。 女3 まぁ、あたしらも別に賛成したわけじゃないんだけど。 女2 新聞社も来るって分かったら、校長先生がやる気出しちゃったの。 男2 誰か、止めなかったんですか。 女3 いや・・・そりゃ反対意見もあったんだけどさ・・・なんとなく、ほら・・・ねぇ。 男2 そんな・・・。 女3 まぁ、でもいいんじゃないの?見送られる子達だって、最後の思い出くらい欲しいでしょうに。 男2 だからって、人がいない間に決めちゃうなんて・・・それは無いでしょう? 女3 しょうがないでしょ。ウチの学校、職員だけで40人以上いるんだから、誰かは抜けるわよ。 男2 でも・・・。 女2 もう、いいじゃないの。やるって決まったんだから、みんなでやるの!男のクセにグダグダ言わない。 男2 あ、それジェンダー的にマズい発言ですよ。 女2 うるさいわね! 男2 でもですね・・・。 女2 何よ。まだ、なんかあるの? 男2 これ、いつやるんですか? 女2 ・・・なんで? 男2 だって・・・やるからには、行事として時間をとるわけでしょう? 女2 ・・・まあねぇ。・・・そうなるのかなぁ。 男2 何かの授業を削るわけですよね。 女2 そりゃあねぇ。 男2 だって・・・僕、3年生で授業やるんですよ。時数が狂っちゃうじゃないですか。 女2 狂うったって、たかだか1・2時間でしょう?そのくらいなんとかなるわよ。 男2 なりませんよ。 女2 そこを何とかしなさいよ。 男2 なりません! 女2 あのねぇ!生徒はみんな、ただでさえ、行事削減で潤いのない生活送ってるんだから。1時間や2時間くらいは都合つけて、何とかしてやるのが教師ってもんなんじゃないの?そりゃ授業は大切ですよ?勉強はしなくちゃならないよ?でもねぇ、1分1秒すら無駄にできないほど、かつかつに追い詰めなくてもいいでしょう。「ゆとり」だなんだっていうんなら、こういうところにこそ、ゆとりを持つべきなんじゃないの? 男2 ・・・。 女2 そりゃあさ、研究授業を控えてる人は大変だと思うけどさ。ちょこっとだけ譲ってあげようよ。なんなら、音楽の時間あげるからさ。 男2 何、言ってるんですか。 女2 え? 男2 何、武田先生みたいなこと言ってるんですか。なんとかなるわけ無いでしょう。だって・・・曲がりなりにも、卒業式にするんでしょう? 女2 そうよ。 男2 毎年、卒業式の式練習に、一体何時間かけてると思ってるんですか。 間。 女2 ・・・あ・・・。 男2 呼びかけの台本ができれば、卒業式になるわけじゃないでしょ?送り出される方は、お客さんで済むかもしれないけど、送り出すのも生徒なんですから。それなりに指導しなきゃ。それは一体、いつ、何の時間を使ってやるんですか? 女2 それは・・・。 男2 新聞社も来るって言ってましたよね。 女3 ええ、まぁ。 男2 じゃあ、それなりに、形にしないとならないわけでしょう? 女3 そうねぇ。そりゃあねぇ・・・。 男2 合唱だって、やるんですよね。何を歌わせるんですか?練習する暇はあるんですか? 女2 ・・・。 間。 男2 ・・・別に、僕だって、むやみやたらと反対するわけじゃないですけど。生徒のためだって言うんなら、一部の特殊な子のために、走り回らなきゃならない、普通の日本の生徒のことも考えてやらなきゃ。それ考えたら、そうお気楽に、夏の卒業式なんて言ってられないはずでしょう。それが言いたいんですよ、僕は。 間。 女3 ・・・どうする?伊東先生・・・。 女2 どうするって・・・? 女3 ・・・やめちゃう? 女2 それは・・・。 男2 え?まだやるつもりなんですか? 女2 いや、なんていうか・・・。 男2 だって、伊東先生、もともと反対派だったじゃないですか。 女3 あ、最近鞍替えしたのよ。ケーキで釣られて。 男2 そうなんですか? 女2 違・・・そうじゃないけど、でも・・・その・・・なんて言うか・・・ほら、新聞社。新聞社はどうするの。もう呼んじゃってるんだしさ。いまさら「実はやりません」なんてことになったら、それはそれでねぇ。ほら・・・信用っていうの?マズいんじゃないかなぁ・・・とか。 男2 !・・・そうか、その問題があったか・・・。 女2 間(あいだ)を取るってできないもんかなぁ。 女3 どういうこと? 女2 だから、時間や労力をかけずに、かつ卒業式をやる方法。 女3 しかも、季節外れで、おまけに今すぐ思いつかなきゃならないっていうね。 女2 なんか、すごい絶望的なカンジ・・・。 間。 女2 やっぱね、こういうときは一つずつ具体的に考えていくべきよね。 男2 と言うと? 女2 今何が問題になってるかっていうと・・・。 女3 時間のことよね。 男2 それも、式自体の時間と、それに関わる練習時間のことと。 女2 つまり、授業に支障がないようにしたい、ってことでしょ。 男2 別に、僕は、生徒のためを思ってですね。 女2 まぁ、いいからいいから・・・ってことはよ。つまり、まずはそのへんから考えていくべきよね。 女3 そのへんからって言われてもねぇ。 女2 授業をつぶさずに、卒業式をやれる時間帯。どこか作れませんかね。 女3 まあ・・・しいて言うなら、帰りの会かなぁ。 女2 ? 女3 ほら。大事なお知らせとかあると、帰りの会を短めに切り上げたりするでしょ?ほら、この前、不審者が出たときもそうやって連絡して、早めに帰したじゃない。 女2 多分、私、いなかったと思う。 男2 ありましたね。そういうの 女2 それって、何分くらい作れるの? 男2 帰りの会の時間が15分。でも、明日の連絡だけは必要だろうから・・・10分ってとこですね。 女2 10分かぁ・・・10分じゃなぁ・・・。 女3 え、もう少し作れるわよ。だって、その後、部活でしょう?時間もらったっていいわよ。 男2 そうか・・・あ、でも今、陸上記録会の大会前ですよ。島崎先生も、出張先から帰って指導してるんでしょ? 女3 あ、そうか。そうねぇ。まるっともらっちゃうわけにはいかないか・・・。 女2 10分くらいなら、いいです? 女3 そうね。そのくらいなら、問題ないんじゃないの? 女2 合計20分。20分か・・・。 男2 まぁ、でもそんなに練習しないでやろうと思ったら、せいぜいそのくらいじゃないですか? 女2 ってことは、そのくらいなら、やってもいいと思ってる? 男2 え・・・まぁ、そうですね。 女2 じゃ、20分で何とかしましょう。 女3 何とかって、ねぇ。 女2 ここまで来たんですから、何とかしましょうよ。 女3 まぁ、ねぇ。 男2 でも、合唱もやるんでしょ?20分全部は使えませんよ。 女2 知ってるわよ、そのくらい。 男2 歌はどうするんです? 女2 そうね・・・まぁ、こうなったらしょうがない。校歌でやっつけましょう。校歌なら練習時間のことも問題ないし。 女3 ああ、そうね。あの子らを送るには、卒業式ソングより、かえってそのほうがいいかも知れないわね。 男2 校歌って、何分くらいあるんですか? 女2 うちの学校のは長いのよね。3番まで流して、3分ちょっとってとこかな。まぁ、指揮者が前に立つ間とか、もろもろひっくるめて、4分見ておけば大丈夫でしょう。 男2 差し引き、16分ですね。 女3 ちょっと待って、もう少し減らさなきゃ。だって、体育館でやるんでしょ?教室の生徒が体育館まで移動する時間を見ておかないと。 男2 じゃあ、5分見たとして、11分ですね。 女2 11分・・・これを縮めて、11分にせよという・・・。 男2 あっさり、やめたほうがいいんじゃないですか? 女3 まぁ、そういわないで。 男2 だって、考えるだけ無駄でしょう。 女2 今さら引けないわ。いいじゃないの。11分の台本にして見せるわよ。 女3 でもねぇ。そうは言うけどさ、伊東先生。そうすると、今まで考えたこと、ずいぶん変えなきゃならないんじゃない? 女2 やり直しますよ。 女3 やり直すのはいいけど・・・。だって、斉藤さん、このままいくつもりで、4人組のネタ、探しに行っちゃったよ。 女2 しょうがないでしょう。式自体が取りやめになっちゃったら、意味がないんだから。納得してもらいますよ。 女3 まぁ、そうねぇ。 女2 あんたも、手伝いなさいよ。 男2 どうして、僕が! 女2 あんたが余計なこと言わなきゃうまく行ってたんだもの。当然でしょ? 男2 いや、それは・・・えぇ?なんか変でしょ、それ。 女2 いいから、やる!はい、鉛筆もって。 3人、もとの台本を囲んで。 女2 いい。11分ってことはよ。仮にイタリア組6人に割り振ったとして、一人に2分かけられないってことよ。 女3 つまり、一人1分でおさめるってこと? 女2 あるいは、いっそ、一人一人にせりふを言うのをあきらめるか・・・。 男2 一人一人にって・・・何の話です? 女3 だから・・・原田先生、もと小学校だったから、知ってるでしょ?ほら、よくやるじゃない・・・。 男2 え、小学校のパターンでやるんですか? 女3 さっきはそういう話をしてたのよ。 男2 無理ですよ、そんなの。余計に時間がかかるじゃないですか。 女2 だから、そうじゃない方法を考えてるんでしょうが。 男2 そんなの、今までのパターンを切り詰めればいいじゃないですか。 男2 、机の上の、去年の台本を探し出して・・・。 男2 ・・・まてよ・・・。 女2 何よ。 男2 ダメだ。縮めるどころの話じゃない。 女2 何がよ。 男2 だって、卒業式なんでしょう?肝心なことやらなきゃ。 女2 だから、何よ肝心なことって。 女3 ・・・分かった。卒業証書だ・・・。 女2 ! 男2 証書の授与をやる時間を入れたら、せりふどころじゃないですよ。 女3 ちょっと待って・・・その話をしたらよ。校長先生の話がないってのもまずいんじゃないの?だって、新聞社が来るから、校長先生も乗ってきたわけでさ。そりゃ一言くらいは言いたいでしょう。 女2 待って、待って・・・つまりどういうこと? 男2 そうですね。まぁ、演台の前でこうやって(右手・左手・礼・・・やってやつ)礼をしたりするのは、割愛したとしても、名前を呼ばれて前にたつくらいはやるとして、30秒ってとこですか?で、卒業証書を一人分は読んで1分。残りは「以下同文」ですますとして、一人20秒くらいと見て、トータルで3分ってことですかね。 女3 校長先生にお話を頼むとして、そうね・・・やっぱり2分くらいはいるんじゃないの? 女2 ってことは?残り・・・6分? 男2 でも、一応、式としての形式をとるなら、司会者を立てないわけにはいかないでしょう。 女3 そうね。一応式としてはね。「ただいまより、平成○年度、卒業式を始めます。一同 ・・・起立。一同 ・・・礼。一、二、三(礼のタイミングね)」とかってやったほうがしまるわよね。 女2 それ、どのくらい? 女3 それぞれの間にちょっとずつ入ってくるからねぇ・・・2分くらいはいるんじゃない? 男2 でも、そこまで言ったら、「卒業生入場」で体育館に入ってきて、拍手で迎えるくらいは、やったほうがいいんじゃないですか? 女2 それは何分よ。 男2 2分ってとこかなぁ?あ、でも体育館、結構広いですからね。きちんと直角に歩いてきて、席に着くまでのことを考えると、3分見ておいたほうがいいかもしれませんね。 女3 何分残った? 女2 い・・・1分・・・。 間。 女3 ・・・ダメじゃん。 女2 1分で、どうしろと言う・・・。 男2 あの・・・。 女2 ? 男2 もう、卒業式であること自体をあきらめるべきじゃないですか? 女2 まだ言ってるの、あんたは? 男2 いや、だから・・・生徒朝会みたいにすれば、できなくはないでしょう? 女2 ? 男2 だから・・・読書感想文とかで、賞をとると、生徒町会で名前呼んで発表したりするじゃないですか。あのパターンに、校歌斉唱をつけるだけなら、やってやれないことはないでしょう。 女2 そういうもんなの? 女3 伊東先生、9時出勤だもんね。でも、いいんじゃない?時間的にはなんとか収まりそうじゃないの。 女2 え、どんなカンジになるわけ? 男2 、女3 .実演を交えて説明し始める。 女3 だから、まず、みんな体育館に集まるでしょ?で、生徒会長が、「これから生徒・・・」なんだろ。何会? 男2 まぁ、「臨時生徒会」とかで・・・。 女3 「・・・臨時生徒会を始めます。今日の目当ては・・・」とかって言うじゃない?で・・・。 男2 まぁ、そう指導もしていられないだろうから、早々に島崎先生に渡すしかないですね。 女3 じゃあ、「島崎先生、お願いします」とかっていって、司会にわたる。 男2 で、「これから、平成○年度、卒業式を始めます。一同 、礼」っていう。で・・・なんだろう、とりあえず、座るかなぁ。 女3 で、名前を呼ばれた生徒は前に来てください。とかって言って、イタリア組が前に並ぶ。あ、前って言っても、ステージの上じゃなくて、ステージの前ね。 男2 で、校長先生が前に立って、卒業証書を読む。以下同文で、残りの5人にもわたす。 女3 で、校長先生から一言がある。で・・・何よ。 男2 「最後に心を込めて、全員で校歌を歌いましょう。・・・」 女3 ああ、そうかそうか。 男2 「校歌斉唱。一同 起立。」・・・で、全員で歌って、退場。 女3 退場はどうするの? 男2 まぁ、退場の曲くらいは、かけてやりましょうよ。で、拍手で送り出せばいいでしょう。 女3 そうね。(女2 に)だいたいこんなカンジだと思うんだけど、どう? 女2 ・・・なんか・・・味気ない気はするけど? 女3 まぁ、ねぇ。 男2 時間内に収めるには、しょうがないじゃないですか。 女3 まぁ、そうね。この際だし、やれないよりは、ずいぶんましだと思うことにしない? 女2 まぁねぇ。私はいいよ。いいんだけど・・・なんか、さっきから、後頭部に突き刺さるような視線を感じるのよ。 と、背後から、女1 登場。(ドアを開けると、怖い顔で立ってるとかやりたいとこですが、ドアなんかないわなぁ・・・) 女1 ・・・・(無言のプレッシャー)・・・・。 女3 あの・・・あのね・・・その・・・なんて言えばいいかなぁ。 女2 とりあえず、あんた、なんかしゃべりなさい。怖いから。 女1 ・・・だって・・・。 女2 え? 女1 だって、ひどいじゃないですか。他人がいないうちに・・・。 女3 やぁね。別に、斉藤先生のこと無視したわけじゃないのよ。 女2 そうそう。 女3 これには、深いわけがあって・・・あれ?そもそも、なんでこういう話になったんだっけ? 女2 こいつがいちゃもん、つけたから。 男2 え? 女2 だって、そうでしょうが。あんたが、「こんなこと、やってられるか」って言い始めたんでしょう。 男2 言ってない、言ってない。 女2 言ったよ。 男2 僕は、ただ、他にもっと大切にすべきことがあるってことが言いたかっただけで・・・。 女2 言ってるじゃない。 男2 言って・・・あ、言ってるか? 女1 ・・・つまり、それほど大切じゃないと思ってるんですね。 男2 いや・・・つまりだね、斉藤先生。現実的な話をするとだね・・・。 女1 いいです・・・聞いてましたから、だいたい分かります。 男2 そう。 女1 でも・・・。 一同 !(ギク・・・) 女1 でも・・・あの言い方はないでしょう、原田先生。 男2 え、また僕? 女1 そう思いませんか? 男2 そう言われても・・・。 女1 なんて言われたか、覚えてます? 男2 すいません・・・覚えてません・・・なんで謝ってるんだろう、俺? 女1 「退場曲くらいはかけてやりましょうよ」。 男2 え? 女1 「退場曲くらいは」って何ですか、「くらいは」って。 男2 いや・・・それは別に・・・ほら、せっかく皆さんが考えてくれた台本を割愛するわけだから、曲くらいはかけてもいいだろうと思って・・・。 女1 ほら。 男2 え、何? 女1 ほら、やっぱり!そういう考え方なんだ。 男2 え、何が? 女1 伊東先生もそうなんですか? 女2 え?ごめん、何? 女1 !(女3 を、にらむ) 女3 ?(私?)・・・(分かんない、分かんない) 女1 信じられない・・・さっきはそんなじゃなかったじゃないですか! 女2 ごめん、悪いけど、何、言ってるのか分かんない。 女1 だって、だってみんな、さっさとやっつけることしか考えてないじゃないですか! 一同 ! 女1 ガルベス君たちの存在って、その程度ですか?彼らが学校からいなくなっちゃうのって、「退場曲くらいはかけてやってもいい」って、そんな程度のものですか?あの子達がいなくなっちゃうことを、惜しむ気持ちって、無いんですか? 男2 そうは言うけどね、斉藤先生。現実に、時間が無いんだよ。それは分かってよ。 女1 そんなこと分かってます! 男2 だったら、一部の生徒のためじゃなくて、多くの普通の生徒のことを考えるべきだと、思いませんか。 女1 「多くの」「普通の」って言いますけど・・・じゃあ、ガルベス君たちがいなくなって、「多くの」「普通の」生徒は悲しくないんですか?寂しくないんですか? 男2 それこそ、人それぞれでしょう。何しろ半年しかいなかったんだから。あんまりなじみのない生徒だって、大勢いるし。台本作るのだって、共通の思い出が無くて、なかなか作れなかったくらいなんでしょう?別れを惜しむもなにも・・・ねぇ。 女1 だから!・・・あんまり悲しがったり、寂しがったりする生徒がいないかもしれないから!・・・だから、その分、私たち教師が、あの子たちとの別れを、精一杯惜しんであげるべきなんじゃないんですか? 男2 ! 女1 ある日、ふっとやってきて。言葉もうまく通じなくて。クラスでも存在感の無いままで・・・。 女2 いや、存在感はあったと思う。 女3 (よしなさいって) 女1 で・・・誰からも惜しまれずに、学校を去っていくんですか?そんなの・・・だって、そんなの・・・あんまりじゃないですか・・・。 一同 、間。 女3 どうする? 男2 どうするって言われても・・・。 女3 やるの?やらないの? 男2 じゃあ、そういう山本先生はどう思ってるんですか? 女3 私? 一同 注目。 女3 正〜〜〜直な話をするとね。私、どっちでもいいと思ってるのよ。 女1 山本先生・・・。 女3 う〜ん、何て言うかな・・・養護教諭ってさ、やっぱり担任とか教科担当とかと比べると、その・・・最前線じゃないのね。だから、一歩引いていられるのよ。だから、寂しいときも歩けど、でも、だから見えてくることもあるのね。そういう立場で見るとね、斉藤さんの言うことも、原田先生の言うことも、私には分かるのよ。 女1 ・・・。 女3 (女1 に)だからね。「どうでもいい」とは思ってないよ、でも、「どっちでもいい」と思ってるの。どっちに決まっても、私は協力できると思うのよ。 女1 ・・・。 女3 どうしようね。どうするべきだと思う? 女2 もう、こういう時のための管理職だろうに。職員室にだれもいないって言うのは、どういうこと? と、そこへ・・・。 女4 あの・・・すみません。 女3 はい? 入ってきたのは、着物(?)の女性。 手には風呂敷包みを持っている。 女4 職員室はこちらでよろしかったでしょうか? 女3 はいそうですが。 女4 あの・・・一応、これ(ネームプレート)をつけてきたんですけれども・・・。 首からは、ネームプレートが山ほどついている。 大阪の池田小学校の事件があって以来、外来者が校舎内に入る場合にはネームプレートをつけてもらう学校が増えています。もちろん普通はひとつでいいんですけど。 男2 全部つけてきたんですか? 女4 はぁ、何度も呼び鈴を押したんですが、どなたも出てみえなかっもので。 女3 あら、ごめんなさい。ちょっと立て込んでたものですから、気づきませんで。 女4 そうだったんですか?わたくし、ひょっとして、このネームプレートに何か関係があるのではないかと思って・・・。 女2 ないない。 女3 あの、失礼ですけど・・・? 女4 あ、申し遅れました。私、ガルベス=レジエーロの母でございます。 ちょっとした間。 一同 ええ?! 女2 あの・・・あれ?ガルベス君って、ハーフでしたっけ? 女4 いえ。 女2 え、でも・・。 女4 アリサ=レジエーロと申します。(深々とおじぎ) 女2 あ、はぁ・・・。 女1 日本語、お上手なんですね。 女4 勉強しましたから。 女1 すご〜い。 女4 あ、これ(風呂敷包み)、いつもお世話になっておりますので。 女3 あ、どうも。 女4 山吹色の菓子でございます 男2 それは違うなぁ。ちょっと違うなぁ。 女3 (女1 に)お茶、お出しして、お茶。 女1 はい。 女4 あ、どうぞ、お構いなく。すぐおいとまさせていただきますので。 女2 今日は、どういったご用件で。 女4 あの・・・なんと申しましょうか・・・一口には言いにくいのですけれど・・・。 女2 はぁ・・・。 女4 一身上の都合がございまして。まことに勝手ではありますが、息子ガルベスは、今日を限りに、転校させていただきたく思うのです。 女2 今日を限りにって・・・。 女1 あの・・・それって、明日はもう来ないって言うことですか? 女4 ええ。 女1 全然? 女4 ええ。 女1 まったく? 女4 はい。すっぱりと。 女1 これっぽっちも? 女3 まぁ、ちょっと、落ち着いて。 女1 でも・・・。 男2 あのぉ・・・差支えが無い範囲でいいので、事情をお話いただけませんか? 女4 はぁ・・・ただ・・・。 男2 ただ? 女4 あまり詳しく話したくないもので・・・。 男2 お察しします。 女4 いえ、そうではなくて・・・。あまり詳しく話しますと、そちらさまにもご迷惑がかかるのでは、と・・・。 男2 と言いますと? 女4 おそらく、私どもの行方を捜すかたがたがみえるでしょうから。 男2 はぁ。 女4 あの方たちも、他の日本人同様、大変仕事熱心で。ただ、少々言葉遣いが、なんと申しましょうか・・・。 男2 あ、いいです。だいたい分かりましたから。 女4 2、3日もすれば、多分静かになると思いますので。 男2 はぁ。 女4 すみません。本当は息子とも共々、きちんとご挨拶させていただくのが筋なのでしょうけれど。このような形になってしまいまして・・・。 男2 いえ、お気になさらず・・・。 女1 (怖い顔)。 男2 いや、でも、ちょっとは、気にしてもらったほうがいいかもしれない。うん。 女4 それでは、ご無礼させていただきます。 女1 あの・・・。 女4 はい? 女1 あの・・・ホントに、もう学校に来ないんですか? 女4 はい。本当に、金輪際、まったく、これっぽっちも、来ません。 女1 あの、でも、まだガルベス君の荷物とか、いろいろ残ってるんですけど。 女4 今、会社の者が着ておりまして、とりあえず一通りのものは運び出させました。他にもございましょうが、ご面倒ですけど、処分していただけると助かります。 女1 あの、でもですね・・・。 女4 すみません。こちらから押しかけておいてなんなんですが、フライトまでそう時間が無いのです。 女1 フライトって・・・え、イタリアに帰っちゃうんですか? 女4 ええ。今夜のうちには、日本を発つ予定です。 女1 そんな、急に・・・。 女4 実を申しますと、レジエーロ家以外は、中国の方を経由するので、もう出国して、日本にはおりません。私どもだけ少し時間に余裕があったものですから、挨拶にあがりました。ガルベス以外の子についても、それぞれの両親からよろしく伝えてほしいと言付かっております。 女1 ・・・。 女4 すみません。会社の都合上、どうしてものっぴきならない事情になってしまったものですから・・・。 女1 あの、連絡先とか、教えていただけませんか? 女4 いえ、どうぞお構いなく。 女3 あのですね。 女4 はい? 女3 お構いなくって、言いたいのは山々なんですけど・・・ちょっとそういうわけにはいかないんですよ。 女4 ? 女1 ・・・。 女3 義務教育って分かります?日本人が教育を受けるってのは、法律で決まってるんですよ。卒業や転校をするには、住民票の移動や、それに基づく転出証明などの法的な手続きが必要です。 女1 ! 女4 はぁ・・・。 女3 書類をお渡しすることはできますけど、最終的には校長先生の印鑑が必要ですから、最低でもあと一回は学校に足を運んでいただくことになるんですよ。 女4 あの・・・それ、今いただくわけには行きませんか? 女3 残念ながら・・・校長はただいま外出しておりまして、今すぐというわけには・・・。 女1 がんばれ、山本先生! 女3 申し訳ありませんが、一日伸ばしていただくわけには行きませんか? 女4 ・・・。 女3 実を言うとですね。ガルベス君たちの卒業式を計画しているところなんですよ。書類を受け取りに来たついでに、ちょっと顔出してもらうわけには行きませんか? 女4 ・・・。 女1 あの、10分だけでいいんです。そちらの都合のいい時間でいいんで、ちょっとだけ。ちょっとだけ時間をもらえませんか?お願いします。 頭を下げる、女1 。 間。 女4 先生・・・どうぞ、お顔を上げになってください。頭を下げるのは、私どもの方です。 女1 ・・・じゃあ。 女4 ・・・ごめんなさい。本当に、本当に申し訳ないのですが、どうしても、今夜発たなくてはならないんです。 女3 でも、手続きのほうはどうされます? 女4 あ、その辺は本国に帰りさえすれば、何とかなりますので。 女3 いや、それはちょっと・・・なにしろ法律ですから。 女4 ええ。ですから、家族の協力があれば、その辺は何とか。 女3 いうや、家族の協力もいいですけど、そういう問題じゃなくてですね。 女4 あ、家族と申しましても、血のつながりだけじゃなくて・・・この場合は、ファミリーって言ったほうがいいのかしら・・・。 女3 ? 男2 あの・・・確かイタリアの方でしたよね。 女4 ええ。 男2 ひょっとすると、実家は南のほう? 女4 ええ。 男2 半島の先っぽだったりとか・・・。 女4 ええ。シチリア島ですけど、ご存知かしら。 男2 ・・・マフィアだよ・・・ゴッドファーザーだよ・・・。 女2 マジ?だって、輸入会社なんでしょ? 男2 輸入ったって、いろいろあるでしょう。 女2 ・・・マジ? 女4 あの・・・もう、おいとまさせていただいても、よろしゅうございましょうか? 女1 以外どうぞ!! 女4 失礼いたします。 女4 、去りかける。 女4 あの・・・。 女1 はい? 女4 私から言うのもなんですが・・・息子は転校には反対しておりました。 女1 ・・・。 女4 これまでは、親の言うことに、一言も反抗したことは無かったのですけれど。 男2 そら、そうだろなぁ。 女4 不思議に思っていたんですが・・・今の先生方の姿を見ておりまして、少し分かった気がします。 本国では、どうしても、いろいろとうわさが付きまといまして。・・・あの子も言葉では不自由な思いをしたようですけれど、先生方や、日本の友達とすごした時間が、あの子にとって今までで唯一、学園生活と呼べる時間だったのかもしれません。 女1 ・・・。 女4 息子を可愛がっていただいて、本当にありがとうございました。手紙も電話も、そちらのご迷惑になると思いますので、差し上げることはいたしかねますけど・・・ご恩は一生忘れません。 女4 、土下座して御礼をする。ただし、机の上で。 女4 失礼いたします。 去る、女4 . と、男1 、そーっと入ってくる。 女2 あ、武田先生! 男1 しっ! 間。 車が職員室の前を通り過ぎる。 男1 行ったか・・・(やれやれ) 女2 ちょっと、どういうことよ!あんた、「俺が呼んでくる」って言ったじゃない! 男1 今、余計なことを言うんじゃなかったと、海よりも深く思っているところだ。 女3 何かあったの? 男1 ガルベスの家のそばで、いろいろ聞き込みをしていたら、黒ずくめの男たちに拉致されそうになった。 女3 ・・・。 男1 イタリア語だったんで、意味はよく分からなかったけど・・・なんか、いろいろ話し合ってるんだよ。しかも、手に注射器とか持って・・・。 男2 うわぁ・・・。 男1 挙句の果てには、コンクリ練り始めるて・・・。 女3 よく助かったわね。 男1 ガルベスが来て、止めてくれた。 男2 もうちょっと遅かったら、魚のえさですね。 男1 頼む。詳しく思い出させないでくれ。思い出すごとに寿命が縮んでいく気がする。 男2 まぁまぁ。忘れましょうよ。 男1 原田先生。 男2 狂犬にでもかまれたと思って、忘れたほうがいいですよ。 男1 原田先生〜〜〜〜 女2 最悪・・・。 女3 まぁ、でも不可抗力じゃないの?いっくらなんでも、ここまでの事情は誰にも想定できないでしょう。 女2 まぁ、ねぇ。 間。 女2 しょうがない、ま、すっぱりあきらめて、帰りますか。 女3 そうね。100円均一にもまだ間に合うかもしれないし。 女2 いやあ、それは無理でしょう。だって、この時間ですよ。もう、閉店ですって。 女3 あら、ホント。結構時間使ったわねぇ。 女1 え、ちょっと待ってください・・・。 「?」ってなカンジで、止まる一同 。 女1 みなさん・・・もう、あきらめちゃうんですか? 女2 もうって、あんた・・・さすがにもう、いいでしょう? 女1 だって・・・。 女2 あんた、この武田先生の様子見て、まだ何かやる気? 女1 ・・・。 女3 お母さんがさぁ。ガルベス君が残念がって発って言ってたじゃない。 女1 ・・・。 女3 ガルベス君。いい思い出になったって。わたしらが思ってる以上に、きっとたくさんの思い出を作ったんだよ。ね。式をしないと、なんとなく収まりが悪いってのも分かるけど・・・もう、いいんじゃないの? 女1 でも・・・でも・・・・。 女2 あのね、斉藤先生。 女1 ? 女2 はっきり言うけど・・・卒業式をやることに賛成している人は、あなた以外、もう誰もいないよ。 女1 ! 女2 まぁ、正確には、校長先生がいるかもしれないけど・・・私も、山本先生も、原田先生もそれに、武田先生だってそうでしょ? 男1 え? 女2 卒業式、やる? 男1 卒業式? 女2 ガルベス君の。 男1 !(・・・ぷるぷるぷるぷる・・・・)。 女2 ね。 女1 ・・・。 女2 それにね・・・当のガルベス君の家族が、もうお互いに連絡を取り合わないほうがいいって言ってるんだよ。 女1 ・・・。 女2 せっかくがんばってもらって悪いけど。私も、ふに落ちないとこもあるんだけど・・・まぁ、でも、事情が事情なんだからさ。 女1 でも・・・でも、私は・・・。 男2 あのさ、斉藤先生。 女1 ? 男2 もうそろそろ気づこうよ。 女1 何を、ですか? 男2 それは「生徒思い」なんじゃない・・・ただの自己満足だよ。 女1 ! 間。 女1 私・・・私は・・・・。 長く、気まずい間。 男2 さて、僕は帰ります。帰って、授業発表に向けての指導計画、練らないと。 女3 私も帰るわ。家で子供が待ってるし。 女2 ほら、武田先生も帰って、一杯やったら? 帰りかける一同 。 女1 待ってください! 一同 、止まる。 女1 あの・・・私、考えたんですけど・・・。 一同 ? 女1 今から・・・今からやりましょう。卒業式。 一同 はぁ? 女1 ガルベス君のお父さんのケイタイ番号、分かりますよね。 一同 ・・・。 女1 武田先生、どこかに書いてますよね。 男1 あ、ああ、そりゃあ・・・家庭環境調査票に書いてはあるけど・・・。 女1 お母さんが、さっきまでここに見えたんですから、まだ日本にはいるはずですよね。だったら、今からやりましょう。 男1 え、ってことはケイタイで? 女1 はい。 男1 台本は? 女1 ガルベス君のところはできてるじゃないですか。 男1 誰が読むの? 女1 私たちで。 男1 ・・・生徒じゃなくて? 女1 ええ。 男1 それはダメだよ。 女1 どうしてですか? 男1 だって、生徒同士がやるところに意味があるんだから。 女1 でも、先生がやったって、いいじゃないですか。 男1 それは違う。 女1 ・・・。 男1 教師はあくまで脇役だ。主役は生徒なんだよ。そりゃ、時には強引なことをして、生徒の意に沿わないことをすることもあるけど。でも、あくまで生徒主体でなきゃ意味がない。 女1 ・・・。 男1 手助けはするよ。はっきり言って、先生抜きじゃ、生徒だけじゃなんにも進んでいかないよ。でも、それでもなお、やるのは生徒なんだよ。我々は出すぎちゃいけないんだ。 女1 ・・・でも・・・でも・・・。 女2 あのさぁ・・・言っちゃなんだけど・・・ちょっとしつこいよ、斉藤先生。 女1 ! 女2 このへんにしといたら?これ以上続けるのは、いくらなんでも、わがままだよ。 間。 女1 いけませんか? 女2 ? 女1 いけませんか?わがままじゃ。 女2 いけませんかって、あんた・・・。 女1 そうですよ。わがままですよ。贈る言葉なんて、だれも聞きたくないのかもしれません。ガルベス君ですらありがた迷惑なのかもしれません。でも、私が言いたいんです。私は伝えたいんです。「先生が」じゃなくて、「教師が」じゃなくて、「私が」伝えたいんです。それじゃダメなんですか? 男2 だから、さっきから言ってるじゃない、それは自己満足だって・・・。 女1 いいです、もう。 女1 、武田先生の机(?)から家庭環境調査票を引っ張り出す。 *「家庭環境調査票」っていうのは、家庭訪問のときに使ったりするもので、普通はA4縦型のコクヨファイルに閉じてあります。担任が持ってることもありますが、早退させるときの連絡先なんかも書いてあって、担任以外が必要になることもあるので、すぐ取れるところにあることが多いです。電話の近くに全校分まとめておいてあることもあります。 止めるまもなく、自分のケイタイからダイヤルする女1  女1 あ、もしもし?私、神坂第二中学校の斉藤と申します・・・いえ、担任ではないんですけど・・・お父さんですか?・・・会社の方?・・・・すいません。どうしても伝えたいことがあるので、ガルベス君に代わっていただけませんか?いえ、用事ではないんですけど、でも・・・・。 女3 ねぇ、斉藤さん・・・それはちょっと無理よ。だって、事情が事情なんだしさ。「担任じゃないけど、中学校の先生です」って言ったって、怪しまれるだけだって。 女1 (無視)・・・お願いします。・・・あの・・・じゃあ、分かりました。ガルベス君に代わらなくていいんで、電話を、ガルベス君のほうに向けてくれませんか? 女2 ちょっと・・・。 女1 (でっかい声で)ガルベス君!聞こえる?聞こえるよね! 女2 こらこら・・・。 女1 今から、ガルベス君の、卒業式をします! 女1 、テーブルの上の台本を掴み取る。 女1 ただ今より、平成○年度、ガルベス=レジエーロ君の卒業式を始めます。一同 、礼。 男1 誰だ、「一同 」って・・・。 女1 続きまして、「贈る言葉」! 男2 早! 女1 ほのかな!春の息吹につつまれ! 女3 いや、夏だし。 女1 桜芽吹くこの日! 女2 だから、そこは直したところじゃない。 女1 めでたく・・・めで・・・めで・・・。 女1 、涙で声にならない。 と、 女2 めでたく卒業されるガルベス=レジエーロ君!ご卒業おめでとうございます! 男2 ちょっと・・・。 女2 ご卒業、おめでとうございます! 男2 伊東先生? 女2 ご卒業!おめでとう!ございます! 女3 おめでとうございます! 女1 先生・・・。 女2 ほら、受話器、こっちに向けて!それじゃ、聞こえないでしょ! 女1 え、あ、はい! 女2 次! 男1 え・・・。 女2 ちゃっちゃと読む! 男1 あ・・・みなさんは・・・じゃなかった・・・神坂第二中学校を、巣立ちます 女2 ほら、次、あんた(女1 )! 女1 ・・・。 女2 早く! 女1 ・・・ガルベス=レジエーロ君・・・音楽の授業では、みんなの前で、堂々と歌っていましたね。あなたの、朗々とした歌声は、今も僕たちの・・・今も私の胸に響いています。 女2 ほら。 男2 え? 女2 読む! 男2 (いやそう)。 女2 (蹴り) 男2 痛・・・「卒業生のみなさん。・・・」 女2 (蹴り) 男2 痛いな。読んでるじゃないですか。 女2 皆さんはないでしょ? 男2 もう・・・「ガルベス君。この学校での思い出を胸に。新しい世界へ、羽ばたいてください。」 女1 、受話器を持ちつつ、男2 に感謝の礼。 と・・・。 男2 「ガルベス君の健闘と、輝く未来へ、祈りを込めて、私たちから、この歌を贈ります。」 間。 女2 ばかぁ!どこまで読むのよ! 男2 え、いや、だって・・・。 女3 歌!なんか無いの? 女1 ええっと・・・。 男1 いや、別に歌わなくても・・・。 女2 だって、今、こいつが歌うって言っちゃったじゃない。 男2 僕のせいですか? 女2 いいから、とりあえずラジカセ用意しなさいよ。ほら、早く! 女1 伊東先生、何か無いんですか?CDとか・・・。 女2 音楽室ならいっぱいあるけど・・・。 女1 早くしないと、電話切られちゃいますよ。 女2 なんか、そこらにテープとか無いの?なんかそれっぽきょくなら、なんでもいいから! 男1 それっぽいったって、「卒業式っぽい曲」なんか、そこらにほいほい無いだろ、普通? 女3 待って! 一同 、止まる。 女3 何とかなるかもしれない。 女1 ホントですか? 女3 分からないけど・・・。 女3 、ケイタイを出して・・・。 女3 あ、校長先生ですか?どうも、山本です。すいません、校長先生、ちょっと電話を上に持ち上げてもらえませんか?いや、もっと・・・ずっと、5分くらい・・・。 一同 ? 女3 、ケイタイのボリュームを最大に上げる。 女3 聞こえる? 一同 ? ケイタイ『・・・本日は。マイストアをご利用いただき、まことにありがとうございました。本日の営業終了時刻まで、残りわずかとなりました。清算がお済でない商品をお持ちのお客様は、レジまでお持ちいただくようお願いします・・・ありがとうございました。』 女1 これ・・・「蛍の光」! 女2 はい、並んで、並んで・・・(途中から歌い始める)・・・ ♪いつしか年も、すぎの戸を 明けてぞけさは別れ行く。 やがて、全員の声が重なる。 一同 とまるも行くも限りとて かたみに思うちよろずの 心のはしを一言に さきくとばかり歌(うと)うなり 間奏。 曲にあわせてスイングする一同 。 ケイタイ『・・・本日は、ご来店いただき、まことにありがとうございました。ただいまを持ちまして・・・』 あわてて切る、女3  女2 、女1 のケイタイを取って。 女2 ガルベス君?聞こえた? 女3 ・・・どう? 女2 ・・・切れてる。 女1 、ケイタイを返してもらって・・・。 女1 ・・・・・。 間。 女2 ま、大丈夫だって。気持ちは伝わったよ、きっと。 女1 (うなずく。何度もうなずく) 女2 ・・・あんた・・・ひょっとして・・・。 女1 ・・・。 女2 、女1 の頭を優しくたたいてやる。 女1 (顔を上げる) 女2 (無言で笑いかける) ほんのわずかな、でも暖かい間。 女2 さて、帰ろうか。 女3 そうね。 女2 あ、たまには女同士で一杯っての、どうです? 女3 そうねぇ・・・でも、子供が待ってるから。 女2 あ、そっか。 女3 まって、でも一回家に連絡してみるから。 女2 斉藤さんは?行くでしょ? 女1 え? 女2 来なって。こういうときは、みんなで飲むもんよ。 女1 あ・・・はい。 女2 男連中はどうするの? 男2 やめときます。指導計画練らないと。 女2 あんたは? 男1 僕もパス。とにかく卒業したんなら、事務処理がいろいろあるし。 女2 明日やればいいでしょ? 男1 今日やれることは、明日に回さない主義なんだ。 女2 はいはい・・・山本先生、どうでした? 音楽。 あっという間に、いつもの様子を取り戻す職員室。 結局はそれすらもが「日常」になるのだから・・・。  本作品を上演する場合は、劇団あとの祭りまでご連絡ください。