劇団あとの祭り 上演台本 ヒトリノ夜 作/大原朋子 1. 岡田の場合。 岡田、薄暗い部屋のすみっこに座っている。 ひとりで携帯にメールを打ち込んでいる。 岡田 機能8・スカイメール・1・アドレスセンタク・1・フリーメッセージ・カナ。「キョウ・ボクハ・ギュウニュウトウバン・デ・ビン・ガ・オモカッタ」どうして小さいヤとかツって、変換が面倒くさいんだろう。もう少し簡単にでないもんかな。「キュウショク・ハ・ボクノ・ダイキライナ・チーズ・ガ・デマシタ」給食ネタなんて、読んでる方はつまんないよね。メールで送ることじゃないや。ぼくも黙って打てばいいのに、なんでしゃべってるんだろう。へんなの!「サカモトクン・ガ・ギュウニュウ・ヲ・ハナカラ・フキダシマシタ」あっはっはっは!…僕的にはおかしかったんだけどな!こんなの送ったって、つまんない人ねって嫌われるだけだ。やあめた! 2. 学校。 その薄暗い部屋は学校だった。 サカモトクンが登校。 うろたえる岡田。 サカモトクン  「ハ・カ・セ。何を持ってるのかなあ?」 岡田  またまずいのに見つかっちゃったよ サカモトクン  「いけませんねえ。学校に勉強に関係あるもの以外のものを持ってきてはいけませんって、先生がいつも言ってますねえ、ハカセ」 岡田 マンガでよくあるハカセというあだな。実際に呼ばれてるやつは見たことないけど、それがぼくについているという現実。 サカモトクン 「いーってやろいってやろ、先生にいってやろ!」 岡田  なにもそんなレトロなはやしたてをしなくても オオシタサン 「あー!サカモトがまた岡田いじめしてまーす!」 サカモトクン 「いじめじゃねーよ!わりーもんはわりーって言ってやってんだよ」 ヤマシタクン 「サカモトクンも大人気ないなあ。岡田くんちの事情だってあるだろう」 岡田  ぼくのうちは、お父さんがインドネシア出張で、お母さんが看護婦で、おじいさんが芝刈りで、おばあさんが川で洗濯してるから、携帯がないといざというとき困るんだな。 サカモトクン 「おれんちだって共働きだぞ」 オオシタサン 「サカモトんちは自営だろ」 ナカザワサン 「オオシタサン、男子を呼び捨てにるすのはどうかと思うけど」 オオシタサン 「そんなの今関係ねーじゃん!だったら、男子も女子を呼び捨てすんな!」 ナカザワサン 「マー、下品だわ。ねー、ヤマシタクン」 岡田 そうよねえ。 オオシタサン 「あんたどっちの味方なんだよ!」 サカモトクン 「今からそんなだと、嫁の貰い手がないわよ、オオシタサン」 ヤマシタクン 「いまのサカモトクンの発言は男尊女卑じゃないかな」 オオシタサン 「ぽー」 岡田 あれ? サカモトクン 「うるせえ、ちょーっと学級委員だからっていばるな」 ヤマシタサン 「いばっているわけじゃなくて、正しいことは正しいと言っているだけのことで」 ナカザワサン 「そうよー」 サカモトクン 「あー!ヤマシタとナカザワはあやしーぞー!」 岡田 5年くらい早いぞ! ヤマシタクン 「そういうことを言われると困るなあ」 ナカザワサン 「困るわ、ねえ、ヤマシタクン」 オオシタサン 「なんだとー!」 岡田 なんでオオシタサンが怒るんだ? サカモトクン 「あれえ?モテモテ男は困るねえ!」 オオシタサン 「サカモトうるせえぞ!」 サカモトクン 「うるせえのはおまえだ!このおとこおんな!」 オオシタサン 「なんだとー!」 ナカザワサン 「野蛮なひとたちね。ヤマシタクンいきましょ」 オオシタサン 「なんだとー!」 ヤマシタクン 「まあまあ二人とも…」 岡田、その場を去ろうとする。 サカモトクン 「どこへ行くのかなあ。ハカセ?」 岡田 ちょっとそこまで サカモトクン 「このまま逃げられると思ったら大間違い!ものども!やっておしまい!」 岡田 やっぱりいじめじゃないか〜。 ものどもがでてきて岡田を取り囲む。 岡田 ピンチ、ピンチ、岡田少年、絶対絶命のピーンチ! ヤマシタクン 「あいやしばらく!」 サカモトクン 「誰だ!」 ヤマシタクン 「あるときはそろばん八段、あるときは学級委員、はたしてその実態は…!閃光戦隊プラズマン!」 サカモトクン 「えーいこしゃくな!ものども出会え出会え!」 ヤマシタクン 「ひるむな!正義は必ず勝つ!オーロラプラズマテクター、クロス、オン!」 オオシタサン・ナカザワサン  「ピンクは私だー!」 あっちもこっちもオオゲンカ始まる。 岡田のことはそっちのけ。 岡田はちょっと離れたところから見ている。 岡田 あっちもこっちもオオゲンカ…なのかなあ? ぼくが原因だったはずなのになあ。 どうしてこうなるんだろう。 岡田、メールを打ち込み始める。 岡田 「キョウ・サカモトクント・ヤマシタクント・オオシタサント・ナカザワサンガ・ケンカヲシマシタ。ゲンインハ・ボクダッタ?」 くっだらないメール。ばっかみたい! いつのまにか、おおさわぎの人たちが移動してしまっていた。 帰ったのか、別の場所に移動しただけなのか? とりあえず岡田、ひとりで下校。 3. 下校途中 岡田の学校帰り。 当然、道草をがんがん食っている。がんがん。 そこにオオシタサン、通りかかる。 オオシタサンは買い物帰りの途中。 メモを見つつ、買い忘れがないか確認しているらしい。 オオシタサン 「卵、牛乳、バニラエッセンス、薄力粉、無塩バター、グラニュー糖…」 岡田 なにやってんの? オオシタサン 「げっ、なんでハカセがこんなところに」 岡田 ここはぼくの通学路だからだ。何買ったの。 オオシタサン 「近寄るな!うわさにでもなったら、もう町歩けない」 岡田 実に小学生らしい感性だね。でも中学生にもなったら、お互い男女を意識するようになるのさ。それが思春期ってもんさ。嗚呼、青春の日々。ひょっとしてお菓子作るの? オオシタサン 「…誰にも言うなよ」 岡田 大丈夫。あのオオシタサンがお菓子作るなんていっても、だれも信じないよ。 オオシタサン 「私、ケーキ屋さんになるのが夢なんだー」 岡田 小学生女子の9割が将来なりたい夢の一つにあげ、実際になるのは1%もいないという、あのケーキ屋か。ひょっとして、二番目は花屋になりたいと思ってる? オオシタサン 「同列一番だよ」 岡田 王道だ…まあ、がんばって。 そこへナカザワサンが、すごい大荷物を持って通りかかる。 ナカザワサン 「あらあ。オオシタサンに岡田くん。仲いいのねえ。うふふ」 オオシタサン 「げ、ナカザワ!よりによって一番見られたくない奴に…」 ナカザワサン 「いいのよー。そんな照れなくても。仲良きことは美しきかな。」 オオシタサン 「今たまたま会っただけだよー。」 ナカザワサン 「たまたま!にしてはお話がずいぶんはずんでたように、お見受けしましたけど?」 オオシタサン 「んー、なんていうの?社交辞令?みたいな。一応、私たちもオトナだし。」ナカザワサン 「ご謙遜なさらなくても。ここは一つ若いもの同士。つもるお話もあることでしょうから、年寄りは席をはずさせていただきますわ。」 オオシタサン 「ナカザワサン、妬かなくてもこんなんでよければ差し上げるわよ。」 ナカザワサン 「あらあ遠慮しときますわ。まさにミレニアムナイスカップル。われなべにとじぶたですわ。」 オオシタサン 「意味わかって使ってんのかしら?」 ナカザワサン 「オオシタサンこそ、いつまでも仲良くね!」 オオシタサン・ナカザワサン 「うふふふふ」 岡田 そこまでいう。 ナカザワサン 「あら?お買い物?今日はなんになさるのかしら?」 オオシタサン 「うちは今日はフランス料理ですわ。うちのマミーの得意料理ですの。お宅は?」 ナカザワサン 「うちは、シェフにまかせてあるから、わかりませんのよ。」 岡田 シェフかよ。 ナカザワサン 「でもきっと新鮮な魚介類のポワレですわ。今日久しぶりに父がドイツから帰ってまいりますの。父の大好物ですのよ。」 岡田、いつのまにかランドセルから赤旗、白旗を取り出している。 赤旗を揚げながら。 岡田 ナカザワサン、1本。 オオシタサン 「じゃあ、その荷物はなんなんだよ。」 ナカザワサン 「これは、私の趣味のお菓子作りセットですわ。」 オオシタサン 「卵、グラニュー糖、牛乳、バニラビーンズ…まさか」 ナカザワサン 「シュークリームですわ!卵はビタミンEたっぷりのヨード卵光。牛乳は山梨高原の朝しぼりたて。グラニュー糖は沖縄産地直送のさとうきびからとったミネラルたっぷりの自然栽培。バニラビーンズはマダガスカル産の天然ものですわ。今、届いたって知らせが入りましたので、取りにいったところですのよ。」 岡田 届けてもらうとかすればいいのに。 ナカザワサン 「私のシュークリームは父が大好物ですの。きっと喜びますわ。今日のパーティーのメインでもありますのよ。」 岡田、赤揚げて。 岡田 パーティー!すげーなー。 ナカザワサン 「そうそう、ヤマシタクンも来るの。」 オオシタサン 「ヤマシタクンも?」 ナカザワサン 「そうよ。ドイツ大使館に紹介するの。彼、ジャガイモが大好きなんですって。」 岡田、赤下げないで。 岡田 ヤマシタクンも、うかつなこと言えないね。 ナカザワサン 「あらもうこんな時間。じゃ、オオシタサン、岡田くん、ごきげんよう。」 ナカザワサン、去る。 岡田、白あげる。 岡田 …完敗だねえ。 オオシタサン 「…金よりうでで勝負だ!」 岡田 でもお菓子って、材料で8割は決まるっていうからねえ。 オオシタサン 「いいの。私、中学生になったら、ヒルトンで修行する約束つけてあるんだ!」 岡田 ホテルが中学生は雇わないんじゃない? オオシタサン 「大丈夫だよー。化粧すれば高校生には見えるって。」 岡田 オオシタサンっていうところに問題が…。 オオシタサン 「コネクションはばっちりだから。パパの同級生のいとこのお嫁さんのコネ。あそこのシェフ、フランスの三ツ星レストランで15年修行したんだって。ほんとにおいしいんだから。」 岡田 そりゃ着実だなあ。ま、頑張って。 オオシタサン 「ありがとう!そのうちパリに支店をだすから、そのときは寄ってよ。サービスするから。」 岡田 フランス語勉強しとくよ。 オオシタサン 「アデュー!」 オオシタサン、去る。 岡田 結構着実な生活設計たててるんだねえ。 メールを打ち込む。 岡田 「オオシタサン・ハ・ケーキヤ・ニ・ナルソウデス。ボクハ・ナニニ・ナルンダ?」 あっ、もうこんな時間!やばい!塾行かないと送れちゃう! 岡田、いそいで去る。 4. オオシタサンの場合。 オオシタサン登場。 さっき買った材料でお菓子を作っているらしい。 オオシタサン 牛乳500mlの中に、グラニュー糖100gいれて、レンジで5分チンします。はいチンしました。途中、2、3回、取り出してかきまぜます。えー、もうチンしちゃったよー。もっと早く言ってくれないと困るなあ。まあいいや。いまかき混ぜとけば大丈夫だろ。うーん、なんだかしゃびしゃびだな。このあと、バター10gとバニラエッセンス少々、卵黄2個をいれかき混ぜ、固くなってきたら火にかけます。固まらない。あ、薄力粉いれなきゃだめなのかー。それも最初だよ。いいや、今いれちゃえ。薄力粉、薄力粉。…ない。片栗粉いれちゃえー。お、固まってきたぞ。よしよし。こんなもんかなー。味見味見。…まずー。やっぱ片栗粉じゃだめかあ。職人の道はきびしーなあ。 うちの電話が鳴る。 オオシタサン もしもし。うん、私。今日?しょーがないなあ。じゃあ米かしとくよ。3合でいい?え?明日の弁当分あわせて4号?ちょっと多くない?やっぱごはんは炊きたてのほうがおいしいよー。わかった。はーい。 電話切る。 同時にピンポーン。 オオシタサン はーい! オオシタサン、去る。 5.ナカザワサンの場合。 ナカザワサン登場。 さっき買った材料でお菓子を作っているらしい。 ナカザワサン 牛乳50リットルの中に、グラニュー糖10キロと薄力粉1Kgを入れて、なべでかきまぜながら温めます。このとき、バニラビーンズ120本も入れて、香りをつけます。このバニラビーンズはあと2回くらいは使えるので、アルミホイルにつつんで冷蔵庫にしまっておきましょう。このあと、バター1Kgと卵黄220個をいれ、かき混ぜたら火にかけます。よしよし、固まってきた。あんまり練りすぎるとこしがですぎて、おいしくありません。んー、いい感じ!おいしい!主役はいただき! 携帯電話が鳴る。 ナカザワサン はい!え?今日じゃなくなったの?急な仕事?あ、そうなの…。そんな、お仕事なら仕方ないですわ。またお会いできる時を楽しみにしてます。…。 作ったお菓子の山を見て。 ナカザワサン ヤマシタクンに全部あげようっと! うれしそうに包装しだす。 ピンポーン ナカザワサン はーい! もちろんモニターでチェックしてから、外へ。 6. サカモトクンの場合。 サカモトクン、ビールのケースを持って登場。 うちの手伝いの配達をしているらしい。重そう。 チャイムを鳴らしてしばし待つ。 サカモトクン ちーす!毎度サカモト酒店です!はい、お待ちのスーパードライ10ケース!毎度お買い上げいただいてありがとうございます。 いやあ、おくさんいつも美しくって!うちの父ちゃんが、自分で行きたいってだだこねんのを、母ちゃんがおれに行けって言うんですよ! え?もう5ケース追加!毎度! 笑顔で戸を閉めたあと。 サカモトクン あー、重てえ。みんな夏だからってジュース飲みすぎだよ。最近ペットの500mlがでてから、1ケースが重いんだよなあ。あーあ。そんなにがぶがぶ飲むから、糖尿病になったり太ったりするんだよ。もっと考えて飲めよー。 …大体、小学生にこんな重労働させるか普通。いやいや、これもプレステ2を買うためだ。でも1缶2円はきついよなー。40000円だから、20000缶ってことは、1ケース24本入りで…何ケースだ?ま、いいや! 去る。 7. 課外授業? 自販機でジュースを買おうとする岡田。 迷っている。 その間に他の人が先に買う。 暑い中、走ってきた人が間違ってHOTを押してみたり。 岡田、コーヒーとオレンジジュースに悩んで両方押してみたり。 コーヒーが出てきた。 岡田 オレンジジュースのほうがよかったんだけどな。 サカモトクン登場。 自販機への補充も彼の仕事らしい。 サカモトクン 「ハカセじゃねーか」 岡田 げ! サカモトクン 「コーヒーなんか飲むのか?小学生が飲むと馬鹿になるぞって親に言われなかったか?」 岡田 うちじゃ毎朝だよ。 サカモトクン 「おめーんちすげーなー。おれんちなんか、毎朝ごはんと味噌汁だぞ。」 岡田 それはそれで贅沢だと思うよ。 サカモトクン 「まったく大人ってのは、おれたちを都合のいいように扱いたがる。電車に乗るときは子供。銭湯に行くときは大人。」 岡田 しょーがないんじゃない。 サカモトクン 「…1本どうだ。」 岡田 ぼくタバコは…。 サカモトクン 「なっちゃんだよ。」 岡田 なんだ。ありがとう。 サカモトクン 「…飲んだな。」 岡田 …? サカモトクン 「おまえ、おれと一緒組まないか?」 岡田 え? サカモトクン 「有名になるチャンスだ。」 岡田 ぼくは普通に生きていければいいので、別に有名になって「岡田、深夜松島菜々子と熱愛!」反町くんに悪いしなあ。でもあみちゃんだったらいいかなー。迷うなあ。 サカモトクン 「いやなら今すぐなっちゃん返せ。」 岡田 むちゃだよー。なんで? サカモトクン 「優勝するんだよ。」 岡田 まさか…。 8. 天才クイズ タカマツシゲオ 「はい、かぶりましょう!」 男子 「イエス!」 女子 「ノー!」 場所は天才クイズの会場。 サカモトクンはすでに、自分の場所についている。 岡田、うろたえる。 サカモトクン 「ハカセ!なにやってんだ、こっちだ!」 岡田 えーーー? わかるみなさん、ご一緒に。 ♪天才クイズだ どんとこい 帽子の下から 友達見たら ぼくだけ白い帽子かぶってた どっきんどっきん どっちかな タカマツシゲオ 「みなさんこんにちは。天才クイズの時間です。今日は、桜台小学校のお友達においでいただきました。」 サカモトクン 「ピース」 岡田 ちょっとはずかしいよそれは。 オオシタサン 「おかあさーん、見てる?」 岡田 あれ?ケーキ屋の修行は? オオシタサン 「なにガキみたいなこと言ってんだよ」 岡田 こうして小学生がなりた職業No.1はくずれていくんだな。 タカマツシゲオ 「ではハカセ、問題をどうぞ!」 ハカセ 「春まっさかり。たんぼはれんげそうがいっぱいで、まるでれんげのじゅうたんみたいだね。では第1問!春、たんぼにれんげそうを植えるのは、肥料にするためであ・る。」 サカモトクン 「ハカセ、どっちだ!」 岡田 イエス!れんげそうの根には根粒菌がついてて、空中の窒素を固定し、イネの穂の成長に役立てるのだ!これはほんとです。 ナカザワサン 「ジェイムズ!どっち?」 ナカザワサンはイヤホンで無線連絡をしているらしい。 オオシタサン 「どっち?イエス?ノー?イエスね!」 オオシタサンは客席の親にきいているらしい。 タカマツシゲオ 「無線で聞いたり、客席に聞いてはいけませんよー。」 サカモトクン 「女子はほんときたねーよなあ」 岡田 人のこと言えないと思う。 タカマツシゲオ 「はい、かぶりましょう!」 岡田 イエス! タカマツシゲオ 「ボーイズチームは全員イエスの帽子、ガールズチームは分かれました!ハカセ、お答えは?」 ハカセ 「答えは。…イエス!」 サカモトクン 「やったー!女子ざまーみろ!」 オオシタサン 「やったあ!第1問クリア!」 ナカザワサン 「よくやったわジェイムズ」 タカマツシゲオ 「ハカセ、問題をどうぞ」 ハカセ 「ストレスがたまると、たまには酒が飲みたくなるね。でも二日酔いはつらい!そこで第2問。二日酔いの気持ち悪さの主成分は」 サカモトクン 「アセトアルデヒド!」 岡田 しーっ! ハカセ 「ですが。その分子式はCH3CHOであ・る」 サカモトクン 「小学生に出す問題かよ」 岡田 …ノー…かなあ…。 サカモトクン 「ほんとかなあ」 岡田 こんなのわかんないよー。 タカマツシゲオ 「おおっと、早くもケンカ別れか!なくも笑うも青春だぞ!」 サカモトクン 「今はハカセを信じよう」 岡田 サカモトクン…。 サカモトクン 「間違ってたら…だからな。」 岡田 そんなあー。イエス!かなあ、ノーかなあ。 オオシタサン 「もー、どっちよー!」 ナカザワサン 「ジェイムズ!」 タカマツシゲオ 「無線はだめですよー」 岡田 イエスかなあ。ノーかなあ。イエス、ノー。イエス。ノー… タカマツシゲオ 「はい、かぶりましょう!」 岡田 ノー! サカモトクンはイエスをかぶっている。 岡田 サカモトクン、イエスじゃん!うらぎりものー! さて結果は? 9.ヤマシタクンの場合。 うちでねころがってテレビを見ている。 ヤマシタクン あーあ。アセトアルデヒドはアセトだからCH3でいいんだよ。出たかったなー。つまんね。変えようっと。 あー、腹いて。おいしいんだけどさ、限界ってもんがあるよなあ。でも残せない気の弱いぼく。ため息。 うちの人がちゃんとやってるか確認のよび声 ヤマシタクン え?はーい。やってるよー。 ねがいましてーは5億6903万9584円なーり、4億8920万3948円なーり、3億8749万5038円なーり、2億1928万3746円では。はい!10兆2384億7538万3749円でーす!答え…10兆2384億7538万3749円。ピンポーン大正解!これで今度の暗算9段は楽勝だな。 あ、中田だ!がんばれー!パスだパス!シュート!ハットトリックだあ!いいなあ、中田いいなあ1かあちゃん今日、イタリア料理にしようよ!うちもさあ、やっぱり洋食文化を取り入れてさ。あ、ドリブルドリブル、中田ドリブル!…10兆2384億7538万3749円でーす。…中田、いいよなあ…。 10.授業中 学校。生徒は岡田とヤマシタクンの二人だけ。 岡田、ヤマシタクン、いねむりしている。 先生 「岡田!いねむりしてるんじゃない!」 岡田 すみません。昨日2時まで勉強してて…。 先生 「うそをつくなら、もっとわからないものにしなさい。」 岡田 そりゃそうだ。 先生 「ほら、ヤマシタも寝てるんじゃないぞ!」 ヤマシタクン 「すみません、昨日2時まで勉強してて…。」 先生 「そういう油断が、ライバルと差をつけられるんだぞ。」 ヤマシタクン 「ごめんなさい。」 文句いいたげな岡田。 先生 「昨日、何時間勉強したかな?」 ヤマシタクン 「えーっと、学校から帰って4時からで、夕飯の6時から7時までと、風呂に入ってた9時から10時はやってなくて、2時に寝たから、えっと、…8時間です…。」 岡田 すげー。 先生 「アサクラサンは、3時まで勉強してたそうだぞ。」 岡田 昼寝してるんじゃない。 先生 「先生が普段なんていってるかな。」 ヤマシタクン 「一日10時間以上勉強しなさい。」 岡田 できるわけないって。 先生 「どうしてやらなかった。」 ヤマシタクン 「つい夕飯と風呂でのんびりしちゃって、その」 先生 「受かりたいんだろ。」 ヤマシタクン 「…。」 岡田 一応。 先生 「受かればなんでもできるぞ。キャンパスライフを堪能したいだろう。」 岡田 堪能しすぎて8年くらいいたらどうしよう。 先生 「女の子もたくさんいる。自由も意のまま。アルバイトして、好きな生活ができるぞ。」 岡田 そのままなしくずす人もいるんだよね。 先生 「きみのためだよ。」 岡田 はーい。ぼくのためでーす。 岡田、ふと周りを見渡し。 岡田 先生。二人でも授業はあるんですか。 先生 「やりますよー。」 岡田 なんで学級閉鎖にしないんですか? 先生 「授業に一人でも出席している限り、授業はやる。それは私のポリシーです。」 ヤマシタクン 「サカモトクンとか、みんなどうしたんですか。」 先生 「インフルエンザです。」 岡田 ほんとかなあ。 先生 「岡田は、あと37人、一人一人の欠席理由を全て聞きたいかな?」 岡田 ぼくも気をつけます。 板書 私の好きなもの 先生 「今日はこのテーマで作文を書いてもらう」 岡田 えー!それってやっぱり先生がさぼりたいだけなんじゃないの? 先生 「静かに。静かにしないと、テストにする。」 岡田 職権乱用だと思います。 先生 「今日中に先生まで提出すること。でははじめ。」 岡田 急に言われても書けないよねえ。 先生 「岡田くんは、テストが好きみたいだねえ。」 岡田 いっぱい書くことがあって困るなあ。 岡田 マクドナルドの照り焼きバーガー。ケンタッキーの和風チキンカツサンド。ローソンのからあげクンレギュラー。ココ壱の納豆カレー。 先生 箇条書きにすればいいってもんじゃないから、そこんとこ注意するように。 岡田、全部消す。 ヤマシタクン 「黄色いピーマン。ゆでたねぎ。牛乳いちご。ハーゲンダッツのクッキークリーム。駅前のマクドナルド。ライターの火。」 ヤマシタクン、どんどんのってくる。 ヤマシタクン 「紫色のアンサンブル。10年ぶりの同窓会。エンジンをかけた直後の排気ガスのにおい。勉強しなければならないときに限ってやりたくなる部屋の片付け。雨の日の道路のにおい。2週間ぶりにかかってきた携帯電話。好きだった人の・…。」 岡田 ぼくのとおんなじじゃん? ヤマシタクン 「…全然違う。」 チャイム。 岡田 こういうときの時間はたつのが早いなあ。 先生 「かけた人は前に提出。かけなかった人は明日までの宿題。」 岡田 えー。もう、宿題にすればいいってもんじゃないや! かりかりかりかりかりかり… カリカリカリカリカリカリ… 岡田、原稿用紙を丸めてはなげ、丸めてはなげ。 鉛筆、消しゴムもけずってはなげ、けずってはなげ。 はなげもなげ。まつげもなげ。 部屋の中がごみだらけ! 小人がたくさん出てくる。 部屋の片付けを始める。 いっしょに片付け始める岡田。 すっきり! 岡田 宿題が終わらないのに、片付けなんてしてる場合じゃないって! 宿題にとりかかる。はかどるはずもなく。 いねむり。 11.キャンパスライフ。その1 目覚ましが鳴る。がとめて再度眠る岡田。 何度でも鳴る目覚まし時計。 岡田 えーい、うるさいなあ…。もう、今何時だろう。あー!もうこんな時間!なんで起こしてくれないんだよー。なーんてね、こんなことで怒るほど、ぼくは子供じゃないよ。 うん、仕方ない仕方ない。起きなかったぼくが悪いんだからね。大人だな。うん、大人だな…。 「キョウ・ボクハ・ネボウ・シマシタ。マダ・ネムイ」 なんで、起こしてくれないんだろうな…。誰もいない…。 地下鉄の中。岡田いねむり。 オオシタサンが乗ってくる。大学生。 ちょっと大人になったみたい。 オオシタサン 「あれ?岡田くんじゃない、久しぶりー」 岡田 こないだ会ったばっかりじゃなかったっけ? オオシタサン 「やだー、中学のとき以来じゃない。相変わらずねえ。」 岡田 そうかな。ぼくはずいぶん変わったと思ってるんだけど。 オオシタサン 「いつまでも小学生みたいね!かわいくてうらやましいわあ」 岡田 …オオシタサンこそ、なーんか変わったよね。 オオシタサン 「わかるー?南青山の超有名なサロンへ行ってカットしてもらってるのー。それもあの、松島菜々子を担当してる人で、予約3ヶ月待ちなのー。その間の髪型のキープが大変なんだから。」 岡田 のびるの早そうだもんね。 オオシタサン 「メイクもね、ポイントメイクリムーバーはランコム、クレンジングはアルビオン、ローションがマックスファクターで乳液がクリスチャンディオール、メイク下地がニナリッチで、パウダーはシャネル、チークはジバンシイで、ファンデーションが資生堂。これ全部ベースメイクだけだから、これにアイ、リップ、ネイル。ホワイトニングを付け加えたらあと10分はいけるかな。」 岡田 ぼく次の駅で降りるよ。 オオシタサン 「おかげで毎月の出費がかさんで大変なんだよね。」 岡田 そんだけ使えばねえ。 オオシタサン 「早く永久就職したーい。」 岡田 今からそんなこと言っててどうすんの。だいたい今なにやってんの? オオシタサン 「あたしはー、ケイオウにいってんのー。ほら、嵐の櫻井くんといっしょ、みたいなー。」 岡田 ぼくは二宮くんのほうが好きだなあ。なんていうかあの田舎くささ加減がなんとも彼の微妙な雰囲気を伝えてると思うんだよね。…ケイオウ!?」 岡田の話の途中、オオシタサンの携帯電話が鳴る。 オオシタサン 「もしもしー。えー?うーん、全然ひまー。もー超退屈してたとこ。え?ほんとー。前から2両目?すぐいくー。じゃあね!」 オオシタサン、去る。 岡田 …ケイオウかあ。なんていうか雰囲気がやっぱり違うよねえ。きっとああいうところは食堂とかもケイオウしてるんだろーなー。オオシタサンもああなっちゃうんだなあ。年月ってすごいよねえ。 「オオシタサン・ハ・ケイオウ・デ、ボクハ・マア・ソレナリニ…」 それなりに、なんだ? 12.キャンパスライフ。 その2 サカモトクン登場。 なんか、おとなっぽくなってる。ちょっとかっこいい感じ? サカモトクン 「あれ、ハカセじゃん。久しぶりだなあ」 岡田 今日は久しぶりな人が多いなあ。 サカモトクン 「いやーあのときは楽しかったよー。ほら天才クイズ。」 岡田 ぼくはあんまり思い出したくないけどね。 サカモトクン 「おかげで秀才賞でさ、天体望遠鏡もらったんだよなー。」 岡田 ぼく、シキシマの食パン一斤だった。 サカモトクン 「ヤマシタにみせびらかしたのなんのって。」 岡田 夏の台所に置いといたら、二日でかびたよ。 サカモトクン 「あれも、ほら、青春の1ページっていうの?またでたいよねえ。」 岡田 全然。 サカモトクン 「オオシタサンとか元気かなあ。」 岡田 元気だったよ。 サカモトクン 「なんでハカセしってんの?あ、ひょっとしてそういう関係なの?」 岡田 ぼくにだって選ぶ権利はあるよ。 サカモトクン 「いやあ、そっか。こりゃわがクラスから、初の夫婦誕生かあ。みんなにいっといてやるよ」 岡田 違うよー。 岡田の携帯電話が鳴る。 岡田 こんなときに誰だ。もしもし? オオシタサン 「あ・た・し」 オオシタサン登場。 オオシタサン 「今日、一緒にごはん食べようっていったじゃない。」 岡田 …そんな約束したかなあ。 オオシタサン 「もう!新しくできたマリンタワーの30階のスカイラウンジで、10000円のコースごちそうしてくれるって話だったじゃない」 岡田 絶対してないと思う。 オオシタサン 「…サカモトクン?うわー久しぶり!なんかすごくかっこよくなったねー。」 サカモトクン 「オオシタサン?なんか変わったよね」 オオシタサン 「あたしはなんにも変わってないよー。でもそっか、中学生のとき以来だもんね」 サカモトクン 「全然変わらない人もいるのにね」 岡田 ぼくのことかよ。 サカモトクン 「じゃましちゃなんだな。じゃあな。」 サカモトクン、素敵に去る。 つい見送ってしまう岡田とオオシタサン。 岡田 あのサカモトクンがねえ。 オオシタサン 「妬いてんの?かわいい!」 岡田 ♪ワインも飲み放題でいいよ! オオシタサンの携帯が鳴る。 オオシタサン 「あ、もしもしー。あたしー。うん。んー、全然ひま。すぐいくー。ごめーん、用事ができちゃった。じゃあね」 岡田 誰なんだよいったい! オオシタサン、去る。 岡田、電話する。 岡田 もしもし!ぼく。今日あわない? んー、別に用があるってわけじゃないけどー。なんとなく顔がみたくなって。 うひゃあ、恥ずかしい! え?あ、そーなの。いいっていいって。ぜーんぜん気にしてないよ! んー、しょうがないよ。お互い忙しいし。 ていうかー、ほら、もう3ヶ月くらい会ってないでしょ? もうそろそろ会いたいかなー、なんて1ううん、いいのいいの。気にしないで! 電話切る。 岡田 気にして。 また電話をかける。 岡田 え?現在使われておりません? 新しいのに変えたんだー。最近は機種変早いからなあ。 …ぼくに連絡くれるの忘れるなんて、よっぽど忙しいんだね。たいへんだね。 …。 電話が入る。 岡田 もしもし?あ、ひさしぶり!ううん、全然気にしてないよ! 来週2次会?ふーん、誰の? え?君の!?あの!ちょっと!相手だれよ? …サカモトクン?     …おめでとう… 二次会会場。 オオシタサンとサカモトクンの。 盛り上がってる真っ最中。 オオシタサン 「来てくれたの!」 岡田 呼んだくせに。 司会 「これはこれは!花嫁のもとカレがかけつけてくれました!」 岡田 わざわざ言わなくても。 サカモトクン 「いやあ、こういうことになっちまって。わりーなあ。」 岡田 ほんとに悪いと思ってるのかなあ。 司会 「ここでみなさんに発表があります!実は、新婦は…一人の体じゃありません!」 オオシタサン 「そうなんですう。」 サカモトクン 「えー。まあ、その、なんだ。そういうことだ。」 岡田 お手軽だね。 司会 「予定日は?」 オオシタサン 「今度の10月なんです」 岡田 …ぼくまだいたじゃん。 司会 「男の子と女の子、どっちがいいですか?」 サカモトクン 「ぼくは男がいいなあ」 オオシタサン 「健康だったらどっちでもいいわあ」 岡田 定番だね。 司会 「ちなみに何人のご予定?」 サカモトクン 「サッカーチームをつくって紅白対決が夢なんです」 司会 「11人の紅白対決で22人!これはしっかりかせがないと!」 岡田 また大きくでたね。 オオシタサン 「貧乏でも、愛があればって、二人で話したんです。」 司会 「はいはい、ごちそうさまです。じゃあ恒例の、はい」 全員キスコール 岡田  ぼくはなんなんだ。 司会 「ではここで新郎からみなさんへ一言。」 サカモトクン 「みんなが気軽に遊びに来てくれるような家庭を作ります!」 オオシタサン 「岡田くんも遊びに来てね!」 岡田 …ぼくが生きてたらね。 13.いろいろな場合。 岡田 ま、あんな女につかまらなくてよかったよ実際。いくらなんでも22人はないよね。 …サッカー対決。 ゼッケン42番、出席番号も42番の岡田選手に今、パスが渡りました。 岡田選手、身長193cmの大男たち相手に、華麗なドリブルでくぐりぬけてゆきます。 ドリブルドリブルドリブル。 岡田選手、今だ!シュ--------------------------------------ト! ゴ------------------------------------------------------------ル! アナウンサー、新聞記者に囲まれる岡田。フラッシュの嵐。 会場は岡田コールが沸き起こる。 アナ  「岡田選手、決まりましたあ!今期初のハットトリックです!! ではヒーローインタビューです。今のお気持ちを一言。」 岡田  なんていうか…。 アナ  「岡田選手、感激で言葉が出ません。ではここで、負傷しながらも見事に味方のゴールを守り抜いたキーパー、ヤマシタ選手にインタビューしてみましょう。今の気持ちを一言。」 そこには今にも倒れそうなヤマシタクン ヤマシタクン 「やったよ!父ちゃんはやったよ!苦節23年。思えば長い道のりだった。Jリーグでボールを蹴ると決めてから、安定した生活も給料も捨て、アルバイトで身をたてながらの、練習練習、また練習。おまえたち、よくついてきてくれた…。」 ナカザワサン 「あなたあっての私たちなのよ!」 子供たち 「とうちゃん!」 ヤマシタクン 「雨の日も、雪の日も、台風の日も、おまえはおれの後姿をそっと見ていてくれた。俺は気づいていたんだぞ。」 ナカザワサン 「何度も職務質問された甲斐があったわ。」 ヤマシタクン 「お前がいてくれてこそだ」 ナカザワサン 「いいえ、あなたの一途な心が、今日の日を迎えたのよ。」 ヤマシタクン 「♪芸のためなら、女房も泣かす」 ナカザワサン 「♪それがどうした文句があるか」 ヤマシタクン 「本当に、世話になった…がく。」 ナカザワサン 「あなたあ!」 子供たち 「とうちゃん!」 ヤマシタクン、倒れる。担架で運ばれる。 アナ 「美しい、なんて美しい夫婦愛なんでしょう!今、日本中は涙の列島と化し、水不足も解消しそうな勢いです。そして、その本人、ヤマシタ選手は今、担架で静かに運ばれようとしています。このゲームの真の主役は彼、ヤマシタ選手にあったといっても過言ではないでしょう。ヤマシタ選手、本当にお疲れ様、そして、ありがとう!」 ヤマシタクン 「やったよ!父ちゃんはやったよ…がく」 ナカザワサン 「あなたあ!」 子供たち 「父ちゃん!」 ヤマシタコールが会場中に沸き起こる。 岡田 ぼくはなんなんだ。 岡田 「シュート・シタノハ・ボク。ゴール・シタノハ・ボク。シュ-------------ト!」 傍線とびっくりマークは表示がめんどくさいや。 思ったら即文字になるといいのになー。 それはそれでタイヘンかあ。 あ、そっか!キーボードつければいいんだ! でもなー、プレステ2欲しいしなあ。2つはちょっと言えないなあ。 …「こないだプレステ買ったばっかりでしょ!」また言われるよな。 それとこれとは違うってなんでわかんないかな。 いっぺんやってみればプレステ2欲しいっていってんのわかると思うんだけどなー。 えーい、ダンスダンスレボリューション始め! 岡田 難しいなあ! いつのまにやら「DDRがすごくうまい人」が一緒に踊っている。かなりうまい。 女の子たちも一緒に踊りだす。 が、どんどん脱落、「DDRがすごくうまい人」はヒーローのように踊り続ける。 岡田、手も足もでない。 マラカス、ギター、ドラムスでも対抗してみるけど、話にならない。 岡田 つ、ついていけない…。もうだめ。 ふらふらと冷蔵庫のほうへ。びんの牛乳を取り出す。 片手を腰にあて、顔は右斜め45度にかたむける往年のポーズ。 岡田 うまい! 14. おとなのあそび 居酒屋。 サカモトクン登場。 ちょっとおやじくさい サカモトクン 「おやじ、生中」 岡田 あれ? サカモトクン 「あれハカセ、牛乳?なにしょぼいもん飲んでんの」 岡田 ぼく飲めないから。 サカモトクン 「そうそう、買っちゃったよ、プレステ2」 岡田 きみはどうしてそうぼくの欲しいものを簡単に手にいれちゃうわけ? サカモトクン 「おまえだって、買えばいいじゃんか」 岡田 ぼくのどこにそんなお金があるの。 サカモトクン 「今度のボーナスで買ったら?おまえんとこ景気いいんだろ?」 岡田 え?…まあ、景気は…いいのかなあ…。 サカモトクン 「いいんだろうよ、おまえ残業ばっかしてるじゃん」 岡田 でも毎日12時まではねえ。ちょっと体もたないよー実際。 サカモトクン 「でも残業つくんだろー。うらやましいよ。おれんとこなんか、今、全然つかねーぜ。全部サービス。やってらんねーよ。」 岡田 でも週休2日でお盆休み10日もあったじゃない。ぼく週一でお盆休みないよ。どっちがいいかなんてわかんないって。 サカモトクン 「でも家で大きな顔できるだろ?おれなんかプレステ2を買うのにどれだけ肩身の狭い思いをしたか。」 岡田 4万はキツいよね。 サカモトクン 「タバコやめーの、昼も弁当持ちーので節約の毎日よ。」 岡田 みんな苦労してんだ。 サカモトクン 「おまえがほんと、うらやましいよ。」 岡田 となりの芝生は青いんだって。ね。 サカモトクン 「えーい、ちきしょう!おやじ、もういっぱい!」 岡田 サカモトクン、飲みすぎだよー。もう、仕方ないなー。おやじ勘定。は?6000円?ぼったくりじゃん!席料?そんなえらそーなとこかよー。サカモトクン、お金は?え?持ってないの?もう信じられない!プレステ2欲しいのにー!!おやじ、もう一杯! 岡田、やけ牛乳。 先生登場 先生 「サカモトクンじゃないか」 岡田 先生!これはごぶさたしてます。ほんとに久しぶりな人が多いなあ。 先生 「きみ…も元気そうだなあ。」 岡田 まあ一応。先生も全然変わってませんねえ。 先生 「はっはっは。まあ、年だからな。きみは今なにやってるんだ?」 岡田 まあ一応会社員を…。 先生 「きみのことだから、さぞりっぱな会社にいってるんだね。」 岡田 いやー、名前も聞いたことないと思いますよー。 先生 「きみはあの桜台中学において、過去ない優秀な生徒だったからなあ。」 岡田 そうでしたっけねえ。 先生 「きみが難関の桜林高校に入ったときは、私も担任として鼻が高かったよ。」 岡田 高い金払って優秀な家庭教師をつけていただけのことです。 先生 「ぼくはね、今でも自慢してるんだ。ぼくの受け持った生徒が桜林高校を卒業したんだぞってね。そしてまた、ケイオウに行った生徒もいるんだぞって。」 岡田 はあ…。 先生 「サカモトも全然変わらないなあ。酔いつぶれるなんて、ははは、大人になったもんだ。」 岡田 ぼくは困ってるんですけどね。サカモトクン、起きてよ。先生だよ。 サカモトクン 「ハカセ、もう一軒だ!」 岡田 なに言ってんの。 先生 「そうだ、ハカセだハカセ…岡田だ。思い出した」 岡田 そんなもんだよね。 先生 「岡田。今は関係ないぞ。過去を誇りにもちなさい!」 岡田 …そりゃないんじゃない? サカモトクン 「ハカセ、つげ!」 岡田 サカモトクン、やめときなよ。 先生 「はっはっは、いいじゃないか。たまにははめをはずさないと。さ、サカモト、のめのめ」 岡田 もー、面倒みるのはぼくなのにー! 先生 「あれ?岡田のコップが空っぽだ。」 岡田 ぼくは飲めませんから。 サカモトクン 「たまにはつきあえよ。先生も見えるんだぞ。」 岡田 だってー。 サカモトクン・先生 「かんぱーい!」 岡田 …かんぱーい。げー。 岡田、ふらふら。 15. 光陰矢のごとし ちーん!なんまんだぶなんまんだぶ。 岡田の葬儀。遺影はにっこり笑った岡田じーさんの笑顔。 進行係 「本日はお忙しい中のご来場、まことにお世話様でございます。故人もさぞ、よろこんでいるものと…うっ。では、親族…コチラの方から御順にどうぞ、話しかけてあげてください。」 サカモトじーさんとナカザワばーさん、線香をあげる。 オオシタばーさんはひとりで線香をあげる。 進行係 「ではここで、弔電を読ませていただきます。ヤマシタサマ『本日はご愁傷様でございました。やすらかにお眠りください。』」 進行係は次々と弔電を読み上げる。 サカモトクン 「ここで会うとは思わなかったよ。」 オオシタサン 「何年ぶりになりますかねー」 ナカザワサン 「そうねえ…。」 オオシタサン 「あんたに聞いてないのよ」 サカモトクン 「おいおい、故人の前だぞ」 オオシタサン 「いい気なもんよねえ、自分はさっさと再婚しちゃってさ」 サカモトクン 「もう40年も前の話じゃないか」 オオシタサン 「あたしにとっちゃ、昨日のこととかわんないわよ」 ナカザワサン 「そういう未練がましいところが、サカモトクンをしばったのよ」 オオシタサン 「なんですってー!?」 サカモトクン 「まあまあ…。」 進行係 「ではこれで、本日の葬儀を締めくくらせていただきます。どうぞ、お時間のあるかたは、奥の部屋の方へお進みください。故人をしのんでやってください。」 ナカザワサン 「しのんでやってって、料理でもでるのかしら」 サカモトクン 「おまえこんなときに」 オオシタサン 「おまえですって?きー!!」 ナカザワサン 「いちいちうるさいわねえ」 サカモトクン 「…。しかし、りっぱな葬儀だよなあ」 ナカザワサン 「1000万かかってるらしいわよ」 オオシタサン 「1000万!」 ナカザワサン 「岡田くん、老後のためにって、4000万貯めたらしいのよ」 サカモトクン 「60歳から1年120万として約40年計算か。よく貯めたなー」 ナカザワサン 「株と内職だって」 オオシタサン 「ああ、やりそうな感じ」 ナカザワサン 「それ使い切らないうちに、みたいよ。で、親族の方が全部使い切っちゃおうっていうふうにしたみたい。」 サカモトクン 「もったいねえー」 オオシタサン 「金なんて、あっちには持っていけないのにねえ」 ナカザワサン 「せめて結婚して、子供でもいればよかったのにねえ」 オオシタサン 「結婚、子供…殺してやるー!」 ナカザワサン 「あなたあ」 サカモトクン 「まあまあ…。」 進行係 「ささ、奥のほうへ、みなさんお待ちですから」 岡田、むっくり起き上がって 岡田 ぼくはなんなんだ。 16. そして岡田の場合。 岡田のうちの台所。 電気もつけずにふらふらしている岡田。 岡田 なんだかおなかすいた。 なんかないかなー。れ・い・ぞ・う・こ。 もー。明太子と野沢菜かあ。これでお茶漬けもいいけどー。 でも、成長期としては、ちょっと物足りないかなあ。やっぱ身長187cmは欲しいし。 でもでも、チーズは嫌いだし。 でもでもでも、インスタントラーメンだと、食品添加物が怖いし。 もー、にんじんとたまねぎとじゃがいもとコンソメの素があれば、ポトフくらいつくっちゃうのに、気が利かないんだよね。 しょーがない。「あ、あれたべよ」でいーや! あれたべよをレンジにセット。できあがるのをしばし待つ。 岡田 チン! あつあつあつ。 いっただっきまーす! 電話が入る。 スクリーンに映画のような字幕が映る。 岡田 なんだろ。はいはい。 字幕 (留守番?) 岡田 してるしてる。ばっちりだよ。 字幕 (ケンカ?) 岡田 そうなんだよ。サカモトクンとかヤマシタクンとかさ。最初は確かにぼくが原因だったのに、結局ぼく関係なし。ばかみたいだよ、ほんと。ま、なんていうの。彼らはまだ子供なんだよ。 字幕 (あなたも。) 岡田 ぼくはあんなにガキじゃないよ。将来のことも考え始めてるし。 字幕 (あなたは?) 岡田 ぼく?うーん、オオシタサンみたいにね、ケーキ屋もいいかなって思う。でも、自分で食べるわけにいかないし、そんな甘いもんじゃないよね。だからやっぱ堅実な公務員かな。でもさ、人ってさ、かわるもんだよ。あのオオシタサンが。 字幕 (ケイオウ?) 岡田 そうそう。だってなんか雰囲気が違うもん。東京の人ってカンジ。 字幕 (女の子。) 岡田 そんなもんなのかなあ。じゃあぼくも、身長187cmになれると思う? 字幕 (レトルト?) 岡田 よくわかるなあ。 字幕 (間食!) 岡田 だってー、おなかすいてもたないよー。 字幕 (給食?) 岡田 だってさ、今日は、ぼくの嫌いなチーズ入りシチューだったんだもん。なんでシチューの中にチーズなんかいれるかなあ。そーいえばね、サカモトクンが鼻から牛乳を噴き出したんだよ。笑えるよねえ!あれ?おかしくない?やっぱり? 字幕 (チーズ!) 岡田 かわりにほうれんそう食べてるから大丈夫だよー。ポパイ・ザ・セーラーマーン。古すぎ。 字幕 (アフリカ。) 岡田 大人はすぐそういう。ぼくなんかいいほうだよ。隣のナカザワサンなんて、トマトがいやで学校帰っちゃったんだよー。その隣のイチイサンなんて、ピーマンがいやで、給食の時間中、ずっと屋上で叫んでたんだよー。「給食にピーマンを出すなー!」未成年の主張でV6まで来てたんだから。全国ネットで叫んじゃうくらいなんだから、よっぽど嫌いなんだよ。ぼくはピーマン好きだよ!あの苦さが大人って感じだよね。ピーマンの肉詰めなんて、野菜も肉もとれて、栄養バランスばっちりだよ。ちゃんとわかってるって、ぼくは。え、冷蔵庫にあるの?うーん、見なかったなー。レンジであっためて食べればいいの?うん、わかったー。 レンジであたためる。 皿を目の前に。 岡田 …肉だけのほうがもっとおいしいって。 ひとりで食べる。 メールが入る。 字幕 (宿題?) 岡田 もー、電話でまとめていってよ。今日は先生が急用でお休みしたのでありませーん。先生きっと芝居してんだよ。ぼく知ってるんだ。だから、ゲームしてよっと。 字幕 (一日1時間。) 岡田 よくわかるなあ。ゲームを目の前に、1時間なんかでがまんできるほど、理性は強くないでーす。 字幕 (1時間!) 岡田 なんでわかるんだよ。もう!ぼくの将来の夢は一日中ゲームをすることです! 岡田 プレステ2欲しいなあ。4万円かあ。 こないだプレステかってもらったばっかりだもんなー。 こんな早く2が出るなんて詐欺だよなあ。 まったく「買って」って言うほうの身にもなってよね。 ねらいは次の誕生日か。…。 ♪も0、いーくつねーたーらー、誕生日 誕生日にはプレステ2買ってもらって、DDR一日中して遊びましょー はーやーくーこいこい、誕生日♪ …待てないー! 「タンジョウビ・ニ・プレステ2・ガ・ホシイ」 …どうしようかなー…えーい送信! ピンポーン 岡田 はーい!…宅急便だ。印鑑は引き出しの中と。ごくろーさま! …また通販か。自分たちのはがんがん買うのにさ、ぼくのはちーっとも買ってくれないんだよねえ。自分でかせぐって強いよなあ。あーあ。 …今度は何買ったのかなあ。…子供には見せられないものだったりして!…見ちゃえー! 包みをあける。 と出てくる出てくる通販グッズ。 岡田 (高い枝きりバサミに対して)うち庭ないじゃん! (エキスパンダー)ひ、開かない…。 (布団乾燥機)夏使うと暑いんだよね! とにかく通販でしか買えないような、あやしげなものばっかり。 すると、あちこちから、サカモトクン、オオシタサン、ナカザワサン、ヤマシタクン そのほか今まで出てきた人たちが、自分たちの通販グッズを持って出てくる。 サカモトクン (ぶらさがり健康機) 懸垂100回! 岡田 (布団圧縮袋) 客なんてこねーじゃん! ナカザワサン (やせる薬) 10キロやせてやるう! 岡田 (あやしげなビデオ)あとで見よう。 オオシタサン (しわとり) ころころころ…。 岡田 (何でも切れる包丁)料理してからにしてよ。 ヤマシタクン (進研ゼミ) 東大一直線! 岡田 (胸を大きく見せる下着) この見栄はり! 際限なくでてくる。延々と。 サカモトクンたちは、順不同で大人だったり子供だったりしている。 岡田は出てくる人々に気づいていない。 まだ通販グッズを出し続けている。 すると岡田、通販グッズの中から、岡田あての包みを見つける。 岡田 …ぼくあてだ! ほかの人々も各自、自分宛の包みを持っている。 岡田、胸ときめかせてリボンをほどくと、中身は新しい携帯電話。 やれやれといった気分でそれを眺める岡田。 サカモトクンたちも、自分の包みを開き、悲喜こもごも。 すると携帯電話屋がでてきて、岡田の古い携帯と、新しい携帯をつなぎ、 メモリーを移し変える。古い携帯は持っていく。 岡田、気を取り直し、新しい携帯電話で、電話をかける。 岡田 もしもし?ぼく。え?わかるの?ちゃんと番号控えてあるんだ!うん、そうなの!うん、わかった! 岡田、携帯電話を切る。と光りはじめる電話。着信の合図。 サカモトクンたちから次々に電話やメールが入る。 岡田の受け答えは、楽しそうだったり怒ってたりいろいろ。 彼らたち同士でも、電話やメールのやりとりをしている。 彼らの受け答えは、楽しそうだったり怒ってたりいろいろ。 話は途切れることなく 電話たちはパレードのように光をはなって…。 おしまい  本作品を上演する場合は、劇団あとの祭りまでご連絡ください。