安藤早太郎    あんどうはやたろう 新田革佐衛門   にったかくざえもん 浅野藤太郎    あさのとうたろう 奥田栄輔     おくだえいすけ 大石鍬次郎    おおいしくわじろう 越後三郎     えちごさぶろう 松本捨助     まつもとすてすけ 土方歳三     ひじかたとしぞう お竹       おたけ 梅丸       うめまる 序章 いびきが6つ。布団が6つ。 一人の男がむっくりと起きる。男は押入を開ける。女がいる。 男と女は足音を忍ばせて、出ていこうとする。 女が何か落とす。音がする。 いびきが止まる。2人も止まる。 間。 いびきが5つ。 2人は安堵の息を吐き、気を取り直して、手を取り合い。部屋を出ようとする。 祭囃子が遠くから聞こえてくる。今宵、祇園の宵山。 障子がむこうから開く。 血だらけの男が立っている。 2人、雄叫びをあげる。 2人 ○×△□わー!? 男は安藤早太郎、刀を抜く、二刀流。気合いを吐く。 血だらけの男は大石鍬次郎、刀を抜き、気合いを掛ける。 安藤 あ――――――。 大石 コノヤロー。 互いの第一撃。そして、暫劇。 女は、あわてて、布団に隠れて、部屋の隅で物体と化す。 当然、寝ていて足で踏まれる奴は、雄叫びをあげる。 阿鼻叫喚。 部屋で寝ている新撰組隊士達、奥沢栄助、新田革佐衛門、浅野藤太郎、越後三郎は目が覚める。 松本捨助は寝ている。 浅野 なんだくぅら! 新田 くせ者か。 奥沢 どひー。 越後 明かり、明かりをつけろ。 などと、大騒ぎ。浅野と新田は抜刀。 越後 斬るな。斬るな。相打ちになる。 浅野 あ――――――。 新田 あ――――――。 奥沢 ごめんなさーい。 暫劇。 越後 斬るなってんだろ、馬鹿野郎。 明かりが灯る。 血だらけの大石に全員驚く。 全員 どお――――――。 大石 新撰組、大石鍬次郎。死にてー奴はどいつだコノヤロー。 安藤 鍬次郎さん。 大石 新撰組。 浅野 なんだ。 大石 大石。 新田 鍬次郎? 大石 鍬次郎ー。 越後 鍬次郎だな。 全員、刀を納める。 新田 びっくりして損したぞ。 奥沢 ていうか、鍬次郎さん血だらけ。 越後 どうせケンカだろ。 大石 死にてー奴はどいつだコノヤロー。 越後・浅野 落ち着けよ。。 大石 やるか――――――。ちょわ――――――。ちょわ。ちょわ。 全員、抜刀。 大石 ………ちょわ。 大石、刀をしまう。 大石 すいません。 全員刀をしまう。 新田 わかればいいんだよ。大石君。 大石 おう。 新田 おう。じゃないでしょ。 大石 はい。 新田 そう。 大石 はい。 浅野 大石君は、斬り出したらとまんないから、メッタに刀抜いちゃダメって、土方副長に言われているだろ。 大石 はい。 新田 斬り出したら、5人は斬っちゃうでしょ。 大石 6人は斬ります。 浅野 6人か。 越後 一人足らないぞ。 大石 今寝ている、松本君も斬ります。 安藤 そっか。 浅野 へー。 大石 はい。 越後 松本君、寝てるな。 浅野 ああ。 新田 はい。この人誰。 大石 浅野君。 新田 この人。 大石 越後君。 新田 この人。 大石 奥沢君。 新田 この人。 大石 安藤君。 新田 僕は。 大石 新田君。 新田 そうだね。さあ、僕たちは何。 大石 新撰組です。 新田 新撰組の何。 大石 同士です。 新田 同士といえば、男同士、友達だね。 大石 友達。 安藤 友達だよ。 全員、口々に「友達」「友達だね」「男同士」と言い合う。 新田 君、友達なくすところだったね。 大石 はい。 新田 もう、二度としないね。 大石 はい。 新田 声が小さい。 大石 はい!僕が馬鹿でした。 全員、拍手。 越後 さあ、寝よ。 奥沢 寝ましょ。寝ましょ。 浅野 あんた大人だわ。 新田 いやいや。 大石 あのね。でもね。俺、先に斬られたんだよ。先に誰かさんに斬られたんだよ。先によ。だから、こー、かーっとさ。ねえ。おーい。 全員寝る。誰も相手にしない。       安藤は寝られない。女が隠れているから。 安藤 僕も、寝よかな。 大石 ……… 安藤は女が隠れている布団の上に寝そべる。 女 ちょっとー。 安藤と2人目が合う。間。 安藤 ちょっとー。 大石 なんだい。 安藤 いや。 大石 今、ちょっとーって。 安藤 何でもないです。 大石 今、ちょっと、といったじゃない。何か用。 安藤 えっ、ああ、それは、それは、ちょっと――――――いい気分。 大石 えっ。 安藤 かな。 大石 ………。 安藤 いい気分。あーちょっといい気分だー。 大石 僕もだよ。 安藤 えっ。 大石 僕もいい気分なの。 安藤 君もいい気分なの。 大石 うん。 安藤 そっか。 大石 今日は手柄をたてたよ。手柄。この血も手柄だよ。 安藤 手柄って何。 大石 四条小橋のそばの、桝屋って言う道具屋に沖田隊長と僕の2人で乗り込んだの。そこで、たくさん斬ったよ長州浪人を。 安藤 えっ。 大石 長・州・浪・人。 安藤 長州浪人!? 全員 何ー。 大石 なんかさあ、桝屋っていう道具屋が、普通じゃなくて、武器弾薬いっぱい隠し持っていたの。そんで、古高ていう店の主人を沖田さんと僕で、捕まえたのよ。そしたら、いつのまにか、長州浪人がずらーって。 新田 どうした。 大石 囲まれた。長州浪人って刀長いじゃない。囲まれるとどきどきね。 新田 なんで長州浪人がまだ京都にいるんだ。 奥沢 何人です。 大石 十五人。 浅野 で、どうなった。 大石 やっつけた。沖田隊長と2人で、隊長の三段づき初めて見た。びゅんびゅんびゅん。沖田隊長一人で十人。僕も久々に、六人斬った。 越後 十六人だ。 全員 おー。 浅野 さすが、大石君。お手柄だよ。 安藤 土方副長は。 大石 いなかったよ。 安藤 そう。 奥沢 土方副長は、忙しいでしょ。 新田 出張、出張。真っ昼間から、 浅野 女遊びさ! 全員 いいなー。 越後 一人多いぞ!大石。 全員 えっ。 越後 長州浪人十五っていったな。なんで合計十六になるんだ! 浅野 こまけー。 越後 あと一人、誰斬った! 大石 見物していた町の人。 越後 また斬ったのか! 大石 むかついたもん、人が一生懸命斬ってんのに、長州浪人応援してるんだもん。 浅野 つらいね。 奥沢 京の町の人って、応援してくれませんね。 安藤 僕たち、嫌われもんですから。 全員 ぐさー。 浅野 さらに、俺達平隊士は金がないから、女からも嫌われてるし。 全員 ぐさー。 新田 だから、がまんしなきゃ大石君、土方副長がいたら大目玉だよ。 全員 こら。 大石 てへ。 越後 馬鹿野郎。 大石 バカ。 越後 だから、新撰組は人殺し集団といわれるんだ。だから、町の人にも女にも嫌われるんだよ。われわれは、京都守護職、おそれ多くも、会津藩松平様の命をうける、正義の味方、新撰組だ。 大石 武士が町人斬って何が悪いんだよ。 越後 罪もない町人斬る貴様が武士か。馬鹿野郎。 大石 バカっていったな。 浅野 おーい。 大石、抜く。 越後 やるかー。 大石 やるぞー 新田 やめんか。 越後も抜刀。暫。 越後 貴様みたいな奴がいるから、町の人も女も新撰組を応援してくれんのだ。バカ。 大石 バカって言うな。 越後 貴様も、もと町人だろ、もっと町の人を大切にしろ。 大石 貴様だって、もと町人だろ。 越後 今は武士だ。 大石 俺だって、武士だ。 越後 うるさい、もと鍛冶屋。 大石 だまれ、もと傘屋。 越後 鍛冶屋ー。 大石 傘屋ー。 奥沢 どうしましょー。 新田 松本を起こせ。 奥沢 松本君。起きてよ。松本君。 新田 起きろ、松本。 越後 鍛冶屋ー。 大石 傘屋ー。 新田、松本の布団をはがす。松本起きる。松本の居合い一閃。 越後と大石の刀が落ちる。 越後・大石 あっ。 全員 でたー。松本君の居合い切り。 浅野 はえー。(刀回収) 奥沢 今、抜いたの見えました。 安藤 いやー、早すぎて刀の柄に触ったところしか見えませんでした。 松本 ねむーい。 新田 僕には見えた。 全員 えっ。 新田 みんなの目にも見えているはずだ。さあ、目を閉じてよく思い出すんだ。さあさあ。 全員目を閉じる。もう一度、越後と大石は刀を持つ。 越後 鍛冶屋ー。 大石 傘屋ー。 松本のスローモーション。 新田 居合い切りは、さやうちの勝負といって、いったん抜いてしまったら負けだ。だから松本君は、目にも止まらぬ早業で、刀を抜いている。 奥沢 ホントだ。 安藤 何て早業。 新田 しかも、目にも止まらぬ早業で、刀を納めているんだ。 浅野 はえー。 新田 しかも、今の場合、越後君と大石君の2人の刀を落とすために、なんと二回抜いていたんだ。 3人 まじー。 新田 さらに、抜いてる最中、彼が何事かつぶやいているのを僕は聞き逃さなかったよ。 奥沢 その言葉に速さの秘密が。 松本 蛙ぴょこぴょこみぴょこぴょこ合せてぴょこぴょこむぴょこぴょこ。 3人 なんだそりゃ。 浅野 沖田隊長より強くない。 新田 しかし、彼のこの居合い切りは、機嫌の悪い寝起きの時にしか、発生しない。しかも、彼はそれを覚えていないんだ。 3人 そっかー。 松本 ねむー。 全員目を開ける。松本は去る。 安藤 どこ行くの、松本君。 松本 はばかりです。 全員 いってらっしゃーい。 松本去る。 浅野 ………松本って、きれいだよな。 奥沢 はい、男にしておくのは、もったいないですね。 浅野 同じ部屋で寝てて、何もしないのももったいないよね。 新田 だめだよ。2人とも。 2人 てへ。 越後と大石はとっくみあいのケンカ。 越後 鍛冶屋ー。 大石 傘屋ー。 新田 いい加減にしろお前ら。ほら、2人を押さえろ。 奥沢は越後を、浅野は大石を羽交い締め。 新田 この勝負は俺が預かる。全員、道場に集合。 全員 おう。 新田 2人とも、竹刀試合で片を付けろ。いいか。 越後 鍛冶屋ー。 大石 傘屋ー。 新田 しっかり押さえていけよ。2人とも暴れるからな。 全員 おう。 全員、去る。安藤戻ってくる。布団をはがす。女、お竹がそこにいる。 安藤 お竹。 竹 しーん。 安藤 大丈夫か。 竹 あたしもう死んだもん。 安藤 ごめんね。悪かったよ。 竹 死んでからあやまってももう遅いもん。 安藤 ごめんって。 竹 今夜は誰も帰って来ないって言ったじゃない。うそつきでしょ。なんで私、素っ裸で、押入に閉じこめられるの。 安藤 よく着たね。押入の中で。 竹 着るわよ。偉い? 安藤 はい。お竹さんは偉いです。 竹 私死ぬほど恥ずかしかったよ。もし誰か押入開けたら、絶対叫んだと思う。 安藤 そっか。 竹 そっかじゃないだろ。 外で声。「鍛冶屋ー。傘屋ー」竹刀の音。「一本。越後君。」 「オー。」「二本目はじめ。」 安藤 ……… 竹 毎晩こんな大騒ぎなんだ。 安藤 みんな血の気が多いから。 竹 新撰組の人たちって、なんか、お侍の余裕ってないね。 安藤 貧乏だし。女いないから。 竹 さびしい。 安藤 だからみんな、人が死ぬのも、自分が死ぬのも、怖くないんだよ。 竹 早太郎さんも。 安藤 まあ。 竹 ………なんでやってんの新撰組。 安藤 そりゃ、武士になりたいから。 竹 でも給料安いじゃん。 安藤 かっこいいじゃん。 竹 かっこいいのに、女いないじゃん。 安藤 手柄たてれば、女囲える。給料も上がる。隊長になれる。 竹 でも、斬られたらおしまいでしょ。 安藤 斬られたらね。 竹 死んだらもう逢えないよ。 安藤 …死なないよ。 竹 …本当に? 安藤 だから死ぬ前に、逃げる奴も多いかな。 竹 そうだよね。 安藤 そういうこと。 祭囃子が聞こえてくる。 竹 祇園の宵山だね。 安藤 うん。 竹 遊んで来ようかな。 安藤 一人で。 竹 ………うん。 安藤 そう。 竹 じゃあがんばってね。私帰る。 安藤 ああ。 竹 うん。 安藤 あの。 竹 うん。 安藤 一緒に行く。 竹 送ってくれるの。 安藤 いや、一緒に行く。 竹 えっ。 安藤 一緒に行くんだ。 竹 ちょっと。 安藤 ちょっといい気分。 竹 あのさ。 安藤 一緒に、逃げる。 竹 武士になるんでしょ。 安藤 いつか死ぬだけだ。 竹 一緒に行ってくれるの。 安藤 さっきもそのつもりだった。 廊下を歩く音。 安藤 誰か来た。 竹 ええ。   安藤、竹を布団に隠す。安藤その中に首だけ出して、寝る。 松本が戻ってくる。 安藤 やあ。 松本 ねむー。 安藤 おやすみ。 松本 ちょっと長くなりましたね。 安藤 まあね。 松本 おやすみなさい。 松本寝る。2人飛び起きて、障子を開ける。 新田、浅野、奥沢が立っている。 間 いったん障子を閉める。 もう一度開ける。 違うポーズでそこにいる三人。 間 もう一度しめる。 障子の向こう側から明かり、シルエット。 新田 (くっくっくっ。桔梗屋、お主も悪よのう。) 浅野 (いえいえ、お代官様にはかないませぬ。) 奥沢 (ちょろちょろちょろちょろ。) 新田 (で、桔梗屋。例の娘のほうは、どうなっておるのじゃ。) 浅野 (はい、とうに準備は出来ております。) 奥沢 (かっこーん。) 浅野 (こちらにございます。) 奥沢 (かっこーん。) 障子が開く。3人がはいってくる。 竹 あーれー。 新田 よいではないか。よいではないか。 浅野 お代官様。帯です。帯。 新田 分かっておる。そーりゃ。 竹 あーれー。 全員 くるくるくるくるくる。 奥沢 かっこーん。 竹 あん。 全員 ばんざーい。ばんざーい。ばんざーい。 安藤 そのわけのわかんないノリ、やめてください。 新田 泣くなよ、安藤君。 安藤 泣いてませんよ。 新田 泣きたいのはこっちだ。 安藤 えっ。 浅野 道場に全員集合って行ったのに。来ないじゃないか。 新田 どうしたのかなーって思って、足音忍ばせて戻ってきたら、女とちちくりあってるじゃないか。 浅野 ちちくりあってるじゃないか。 新田 しかも、女と宵山祭りにしゃれこむところだったろ。我々が道場で汗を流しているときに。 浅野 女と2人で祭り見物。 安藤・竹 すいません。 奥沢 安藤さん。この人誰。 安藤 え。 奥沢 この女の人は誰ですか。 安藤 お竹さんです。 浅野 お竹。 新田 お竹。 奥沢 お竹さん。 竹 早太郎さんのいい人です。 新田 自分で言うのか。 竹 言います。 安藤 そっか。 新田 うれしいかこの野郎。 全員、蛸殴り。 竹 やめて下さい。やめて下さい。やめて下さい。 新田 やめよっか。 全員、やめる。 浅野 女にもてない、嫌われ者の僕たち新撰組も、女がやめろって言ったら、何でもやめてやるよ。なあ。 2人 おう。 竹 ありがとう、優しい人達。 新田 ほめられたな。 浅野 ああ、ほめられた。 奥沢 うれしいっす。 新田 そうだね。さあ安藤君、僕たちは何。(3人寝る) 安藤 あの、その、新撰組です。 新田 新撰組の何。 安藤 同士です。 新田 同士といえば 安藤 友達です。 浅野 友達だよ。 安藤 はあ。 3人、口々に「友達」「友達だね」と言い合う。 新田 友達のものは、皆、友達のものだね。 安藤 えっ。 竹 まじ。 3人、布団をあけて。 3人 まじ。 竹 どうすればいいの早太郎さん。 安藤 よくわかんない。 竹 しっかりして早太郎さん。 安藤 どうすればいいんだ。 竹 私、逃げる。 3人 無理だよー。 3人、ふとんをひろげて、モモンガのように立ちふさがる。 新田 われわれ新撰組平隊士は、給料も安く、寝泊まりはこの屯営と定められているのですよ。 浅野 しかも外で女を囲うことを許されているのは、隊長だけなんすよ。 奥沢 がまんできなくて、おかまに走る平隊士がいっぱいいるんすよ。 全員 君のことだ。 安藤 わけのわかんないノリやめろー。 浅野 うらやましいぞ、安藤早太郎。お前と俺のどこが違うんだ。 新田 女と宵山祭りか、うらやましいぞ。 奥沢 おなじ新撰組でしょ。 新田 なんで、嫌われ者の新撰組で、お前だけ女にもてるんだ。 安藤 もててるわけじゃないよ。 浅野 女がいるじゃないか。 安藤 これはたまたまだよ。たまたま、お茶屋で一緒になって、仲良くなっただけで、たまたま出会った仲なんだ。ねえ。 竹 たまたまなんだ。 安藤 いやその。 竹 たまたまなんだ。 安藤 違うよ。 竹 私は、たまたまなのね。 安藤 ちがうよ。 竹 しょせん、あなたも新撰組よ。 安藤 えっ。 竹 この人達と同じよ。知らない。(寝る) 安藤 ちがうよ。 新田 新撰組じゃん。 浅野 新撰組だよ。 奥沢 新撰組です。 安藤 ちくしょう、新撰組が何だー。 土方 新撰組は何だー。 全員 えっ。 新撰組副長、土方歳三、梅丸と共に現れる。 土方 新撰組はなんだ。いい質問です。 全員 でたー土方副長。 土方 そうです。私が京都市中で泣く子も黙る。土方歳三。32歳。 梅丸 きゃー、歳さんかっこいい。 土方 新撰組は何だ。いい質問です。君たちは、英気を養うべき、新撰組の布団の中で、新撰組とは何だについて、語り合っているんですね。立派ですね。非常に偉いですね。立派です。立派な武士です。どのくらい立派な武士かというと、このくらい。幕府はどうのとか、尊皇がどうのとか、夜な夜な酒かっくらってくだらない議論ぶっている、長州の不逞浪士どもよりも立派です。もう、どのくらい立派かというと、このくらい、立派です。 全員 ありがとうございます。 土方 だがしかーし。 全員 はい。 土方 私が逆に質問する。新撰組とは、新撰組とは、何だー。新田君。 新田 はい。 土方 んだー! 新田 ししししししししし。 土方 たわけー。(殴る)浅野君。 浅野 新撰組とは、 土方 とはー! 浅野 わ――――――。 土方 たわけ。(殴る)奥沢君。 奥沢 ごめんなさい。 土方 それが答えか! 奥沢 ごめんなさい。 土方 新撰組は、ごめんなさいか。奥沢君。 奥沢 ごめんなさーい。 梅丸 歳さん。飲み過ぎ。 土方 ごめんなさい。 土方、ぐにゃぐにゃと倒れる。 新田 梅丸様。 梅丸 なんでございます。 新田 副長は今日は、そなたの遊郭で今日も、ご出張であったか。 梅丸 はい。さようでございます。 浅野 副長はたくさん飲んだか。 梅丸 (指1本)。 奥沢 一升か。 梅丸 おちょこ一ぱい。 全員 よわー。 梅丸 今日はにおいだけにしなさいっていったのにもう、歳さんったら。 土方 新撰組はなんだ。 梅丸 もーさっきからこればっか、はい、おきなさいよ。御自分のお部屋に参りましょう。 土方 新撰組はなんだ。 松本、起きる。 松本 新撰組は武士です。 全員 えっ。 松本 新撰組は武士です。 土方 君誰。 松本 お初におめにかかります。武州多摩郡石田村、松本捨助と申します。 土方 新田君。 新田 副長がご出張中に、入隊したものです。 土方 おー、松本君、俺と同じ故郷ではないか。 松本 はい。 梅丸 わざわざ京都まで。 松本 はい、郷里の英雄、土方副長の御名声を聞き、土方副長に憧れてきました。 土方 ほー、俺にかー。 松本 はい。 土方 新撰組は武士と答える松本君、俺のことは、どのくらい好きだ。このくらいか。このくらいか。それともこのくらいか。 梅丸 よっぱらい。 松本 いえ、死ぬほど好きです。 土方 そうか、なら、…死ね! 全員 えっ。 土方、抜く。 梅丸 歳さん。 土方 か――――――。 梅丸とめる。土方、振り下ろす。寸止め。松本硬直。 土方 死ぬのなんて、このくらいなのだよ。新撰組の松本君。 松本 あばばばばは。 土方 さあみんなで、これを読みなさい。 梅丸、なにやら巻物を配る。 新田 土方副長、これは。 土方 読め。 安藤 局中法度書き。 土方 俺が徹夜してつくった。鉄の掟である。 安藤 鉄の掟。 浅野 全部副長が書いたのですか。 梅丸 私が。 全員 なんだー。 土方 読めよ。 全員 へっ。 土方 声出して全員で読めい! 全員 一つ、私の闘争を許さず。けんかしたら切腹しましょう。えっ。 土方 みんななかよくしよう。はい。 全員 一つ、勝手に金策すべからず。見付ったら切腹しましょう。えっ。 土方 お金は大切だ。次。 全員 士道に背くまじこと。背いたら、切腹しましょう。えっ。 土方 明るくさわやかな武士道をつらぬく。そして。 全員 局を脱すること許さず。逃げた奴は絶対、切腹しましょう。えっ。 土方 新撰組を死ぬまで続けましょう。いいですか。 全員 はあ。 土方 たるんでいるのだ。君たちのたるみぐあいは、もうこのぐらいだ。もう近藤局長も私の前で嫌味たらたらだ。これが新撰組か。新撰組がなんなのかよく考えるのだ。 全員 ……… 土方 今日を持って、この局中法度書きを遵守すること。よいか。 全員 はい。 土方 声が小さい。 全員 はい! 土方 やかましい! 全員 はい。 土方 以上。 全員 ありがとうございました。 土方、退出。全員きおつけ。梅丸も去る。 新田 安藤君。 安藤 はい。 新田 あんた切腹じゃん。 安藤 はい? 「切腹だよね。」「切腹です。」「切腹だ。」と言い合う。 安藤 うそー。 竹 (起きあがり)早太郎さん。 安藤 お竹。何とか言ってくれよ。 竹 ………あなたにあえてよかった。 安藤 なんだそりゃ。 浅野 心配するな。この女の面倒は我々が見る。なあ。 新田・奥沢 おう。 竹 やっぱりやめて。この人を助けて。 安藤 お前わかりにくいぞ。 新田 さあ、痛くしないから。そうだ。松本君に介錯を頼もう。 浅野 それは良い考えだね。 奥沢 松本君。一つ頼むよ。 松本 ……… 奥沢 松本君。 松本、布団をひっかぶる。 全員 おー。 新田 松本君もやる気だ。 安藤 寝ないで松本君。寝ちゃダメだ。 新田 松本君が寝付いたら始めよう。さあ忙しくなったぞ。 安藤思わず、竹の手を取り逃げようとする。浅野抜刀。 浅野 逃げたら切腹だろ。 安藤 どけ。 安藤の二刀抜刀。対峙。 新田 安藤君。正気。逃げられないよ。僕たちは3人。いくら君の二刀流でもふせげまい。 新田、奥沢抜刀。 安藤 逃げやしないさ。お竹を逃がすだけだ。 3人 何。 安藤 このお竹を逃がしてから、俺はここに戻る。 新田 ということは、 安藤 切腹でも何でもしてやる。お竹は俺が本気で惚れた女だ。なぶり物にされるくらいなら、俺は、切腹のほうがましだ。ただし。 新田 ただしなんだ。 安藤 この俺の邪魔をするなら。お前達をここで切り捨てるまで。 浅野 安藤! 新田 よくぞいった安藤君。ならば、新撰組同士として、我々も命を持ってお相手しよう。新撰組新田革佐衛門。 奥沢 おなじく、新撰組、奥沢栄助。 浅野 浅野藤太郎。 安藤 拙者、安藤早太郎 竹 早太郎さんが死んだら、お竹もここで自害します。 安藤 お竹! 新田 ということは、みんな死ぬんだな。 間 全員 みんなかっこいいー。 足音、竹潜る。梅丸戻ってくる。 梅丸 あの。あっ。 全員 あっ。 梅丸 ケンカしてる。 全員 あっ。 梅丸 ひとつ私の闘争を許さず。けんかしたら、みんな切腹しましょう。 新田 踊りの練習です。 みんな踊り出す。 梅丸 あの。みなさま。 全員 はい。 梅丸 踊りの練習もよろしゅうございますが、お布団がだいぶお乱れのようです。 全員 あっ。 梅丸 またあとで、私がお布団をひきなおしに参りますので、踊りの練習が終わりましたら呼んでください。 新田 すいません。 梅丸 ところで、越後様は踊って見えませんが。 新田 越後なら、風呂です。 梅丸 風呂。 浅野 鍬次郎と風呂にはいっとります。 梅丸 人斬り鍬次郎と。 奥沢 あれで以外と2人とも仲がいいんですよ。 風呂場から声。「おーい。鍬次郎、背中流してくれー」「うーす」 「おーい、鍬次郎、変なとこさわらないでくれ」「うーす」 梅丸 あら、仲のいいこと。 土方 (おーい。梅丸、はよ床を敷け。) 梅丸 はーい。では、みなさま。 梅丸は去る。 浅野 あとで、布団しいてくれって、呼びにいったところで。 奥沢 梅丸さん、副長の布団の中で、お仕事中ですもんね。 全員 いいなあ。 松本、がばっと起きる。 松本 ………。 全員 ………。 安藤 ところでさ。 新田 うん。 安藤 さっきの、冗談だった。 全員 うん。 安藤 でも、松本君は、本気だったらどうする。 新田 うーん。がんばれ二刀流。 安藤 勝てるわけないだろ。 松本 斬る! 全員 へっ。 安藤 やはり本気か。 松本 ………嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ……… 安藤 松本君。 松本 嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ、土方さんなんか大っ嫌いだー。 全員 おー。 目に見えぬ、衝撃波が部屋を襲う。 浅野 何事だ。 新田 松本君の居合いだ。目にも止らぬ早業が宙を舞ってる。近付くな。 安藤 松本君さっきのは冗談だ。 松本 土方さんの浮気者ー。 全員 えっ。 松本 私のこと好きって言ってくれたのにー。故郷の川辺で約束したのにー、私のこと忘れてるしーもー土方さん斬ってやるー。 松本、部屋をで、廊下を走っていく。竹顔を出す。 浅野 ………あいつさ、 奥沢 はい。 浅野 もしかして、ホントに女か。 新田 ああ。 竹 だから好きだってさっき言ったんだ。 全員 なるほど。 竹 ほっといていいの。 全員 あっ。 新田、浅野、奥沢は走って追いかける。 竹 いかなきゃ。 安藤 うーん。でも、松本君が走っていったの。逆なんだ。 竹 逆。 安藤 右に行けば、土方副長の部屋なんだけど、左は越後と大石がいる。 竹 えっ。 安藤 風呂場なんだよ。 「きゃー。」「うーす」 竹 新撰組って大変だね。 安藤 これからどうなるんだろ。 竹 これからどうなるじゃなくて、これからどうするでしょ早太郎さん。 安藤 でも、逃げたら切腹なんだよなー。 竹 武士ならしっかりしなさい。 安藤 やめてー。