劇団あとの祭り 上演台本 The END(エンドマーク)が降って来る 作/福冨英玄 piece 1 明転するとそこはとあるマンションの一室。 漫画家、野村ハルコの住居兼仕事場である。 ハルコ登場ずいぶん酔っている様子。 遅れて担当の山崎氏登場 ハルコ たらーいまーっと。なんら?ずいぶん暗いろ? 山崎 電気、電気…と。ああハルコさん、そっち壁 ハルコ、壁に頭突きを入れて、こける ハルコ やーい、こけてやんのー、ザマーミロー 山崎 (起こしながら)もう、だからそんなに飲むなって言ったのに…。 ハルコ なんらと、あらひが酔ってるってか? 山崎 十分酔ってるでしょうが。 ハルコ へっへっへっ 黙ってたけろなー、実はあらひは全然酔ってないのらー。 ハルコ、そのまま床に寝転ぶ。 山崎 ちょっと、ハルコさん、そんなとこで寝ると風邪ひきますよ。 ハルコ あれー、やまらきさんが二人もいるー。 山崎 …ま、とにかく明日また来ますから、ちゃんと着替えてベッドで寝てくださいよ。あ、それと…必要ないかもしれないけど、最終話のビデオ、一応置いておきますから。 ハルコ やーまーらーきさん、一緒に寝よっかー 山崎 な…何を言い出すんですか。 ハルコ どもってやんのー。やまらきさんのすけべー 山崎 …とにかく、今夜はもう飲まないこと。それから僕が出てったら、ちゃんとカギかけて寝ること、いいですね。 山崎、部屋を出る。 ハルコ起き上がると、冷蔵庫から缶ビールを取ってくる。 ハルコ 人間ってのはねー、やるなって言われるとやりたくなるんだなーこれが。 ハルコ、ビールを空け、一口飲んでから山崎が置いていったテープを手に取る。 ハルコ あははー、廃刊打ち切りだって、笑っちゃうよねー。信じられる?私ってば失業ぶっこいちゃったのよね。 再び、寝転ぶ。 ハルコ あーあ、最終回描きたかったな。あと一回で最終回だったのになー。そしたらさ、そしたら私、あんたたちのこと好きになれたかもしれないのになー。 テープをほうり出す。 ハルコ 最終回はねー、私のオリジナルなんだぞー。山崎さんが好きに描いていいって言ったもんね。私の最終回はねー…私の最終回は…。 眠りに落ちるハルコ。 以降ハルコの空想もしくは夢。 レッド・ブルー・シルバー悲鳴とともに飛び込んでくる。 注 強烈なダメージを受けると変身が解けるのは戦隊もののお約束。 ブルー ダメだ、地球衝突までもう時間がねえ。どうするレッド。 声 どうにもならん。 悪の帝王、カイザーデウス登場 デウス 地球は砕け散るのだ。この私の引き裂かれたプライドと共に消滅するのだ。 レッド 何を! デウス 立て!プラズマン。立ってこの私と戦え!もはや何も欲しくない。この瞬間が全てだ。 ゆっくりと立ち上がるレッド。 レッド  ブルー…シルバーを…いや、霖をつれて逃げろ。 見ればシルバーは入ってきて以来ピクリともしない。 シルバーを抱き起こすブルー レッド  デウス!おまえの挑戦、この俺が受けて立つ! ブルー レッド? レッド 心配するな。方法はある。 向かい合うレッドとデウス。 ブルー …レッド、死ぬなよ。 レッド  …約束する。 ブルー、シルバーを連れて去る。 残される二人。 デウス  勝てると思っているのか? レッド  無理だろうな。 デウス  ならばなぜ一人残った。仲間を逃がしても地球が消滅してしまえば同じことだ。 レッド  デウス…俺は勝てないかもしれない。そして俺は死ぬかもしれない。だがこれだけはいえる。この地球は俺が守ってみせる。たとえこの命に代えても。 レッド、変身ブレスを引きちぎる。 デウス !貴様!残りのエネルギーを! レッド  いくぞデウス。これが俺の最後の力だ! ハルコ うるさーーーーーい! レッド・デウス  え? ハルコ、いつの間にか起きている。 目が合う三人。 この瞬間、現実と空想が間抜けに交差する。 ハルコ 静かにしなさい。 再び寝るハルコ。 Piece 2 部屋の掃除にいそしむブルー、シルバー。 シルバー 終わったよ。 ブルー こっちも大体片付いた。 シルバー もう、ロクな漫画描いてないクセに、部屋の散らかりようだけは一人前なんだから。 ブルー でもさぁ…本当に作者か? シルバー じゃないの?表札に野村ハルコって書いてあったし…どうかしたの? ブルー いや…だからさ… ないしょ話。 レッド出てくる。 ブルー レッドに言うなよ。 レッド 誰に言うなって? ブルー わぁ…いや…なんでもない。たいしたことじゃないんだ。 シルバー そうそう。気にしないで。 レッド ブルー。 ブルー はい。 レッド 俺たちは何だ? ブルー …は? レッド シルバー…俺たちは何だ? シルバー …なんだって言われても。 レッド 仲間だろ?共に地球の運命をかけて戦ったかけがえのない仲間だろ?何があってもお互いを信じるって、あの日あの燃える夕日に誓ったじゃないか? ブルー そうだっけ? シルバー 1話のラストシーンでね…。 ブルー あぁ、あれか。 ブルー・シルバー クサいシーンだった…。 レッド お前らなぁ! ブルー ま、ま、…覚えてる…たんと覚えてるから…で? レッド …ブルー…シルバー…せめて俺たちの間で隠し事はよそうじゃないか! シルバー …ねえ…レッド…そうやっていちいち暑苦しいしゃべり方するの、もうやめない? レッド 暑苦しいとは何だ。こういうのは「燃える」って言うんだ。立派なヒーローになるには不可欠なんだぞ。 ブルー …なぁレッド…そのことなんだけど…。 レッド わかっているブルー、この世界は俺たちのいた漫画の中の世界とは違うって言いたいんだろ?実はな、正直言って、俺はあの世界からでてこれてよかったと思ってるんだ。 ブルー レッド? シルバー …本気で言ってるの? レッド あぁ。 ブルー …よかった!いやな、実は俺もそう思ってたんだ! シルバー 私も! レッド お前たちもか? シルバー よかった…レッドは漫画の中の方がいいっていうと思ってたのよね。 レッド こっちに来てから気がついたんだ。あれがどれだけ子供だましな世界だったかってことに。 ブルー そうだよなぁ… レッド だから決めたんだ。俺はこの世界で本物のヒーローを目指そうと思う! 間。 ブルー・シルバー え? レッド いやぁ、お前たちにどうやって言い出そうか困ってたんだ。そうか…やっぱり俺たちって燃える友情でつながっていたんだなあ。 ブルー ちょ…ちょっと待てレッド… シルバー 私が言いたいのはそういうことじゃなくてね… レッド 現実はそう甘くないって言うんだろ?確かにこっちの世界では俺たちは限りなく無力だ。でもなみんな、そんなことでくじけちゃいけない!力が正義じゃない、正義が力なんだ。 ブルー …ダメだ、もう止めようがない。 レッド 心配するな。方法はある。彼女に頼むんだ。みんなはまだ知らないと思うけど、実は彼女は俺たちの作者なんだ。だから彼女に頼んで俺たちをもっとリアルなヒーローに…。 ハルコを起こしに行こうとするレッド。 ふせぐ二人。でも行こうとするレッド。 ふせぐ二人。 だんだんエスカレートする。 ブルー まぁ待てレッド。話せばわかる。 シルバー  ねぇ…。 レッド え? シルバーの指を追うと、ハルコいつの間にか起きている。 レッド やぁ、俺はプラズマレッド火群亮だ! ブルー お前はテレビマガジンのソノシートか! レッド すまん、ついクセで…。 ハルコ はく… レッド は? ハルコ 吐く… 間。 ハルコ う… レッド わぁぁ、ちょっと待てぇ! ハルコを連れてくレッド。 やがて二人戻ってくる。 ハルコ、部屋を見回す。 ハルコ  私ん家でしょ? レッド ? ハルコ 昨日の記憶はほとんどないけど私ん家よね。 うなずく三人。 ハルコ 一階上でも、一階下でもとなりの部屋でもない私ん家よね。酔った勢いで他人様の部屋に勝手に上がりこんでるんじゃないよね? うなずく三人。 ハルコ  …誰? 三人を見回す。 ハルコ  プラズマン? ブルー  なんという飲み込みのよさ。 シルバー さすがは作者ね。 ハルコ  …あぁ…オタクなんだ。 三人 違う! ハルコ  何が違うのよ。他人の部屋に勝手に上がりこむ常識のなさといい、部屋の中に土足で入る無神経さといい、おまけにコスプレまでしちゃって。 レッド 普段着なんだよ! ハルコ 普段からコスプレしてるの? レッド 違う! シルバー レッド最低。 ブルー 人間のクズだな。 ハルコ  どーせ、アップ用の変身ブレスをよこせとか、シルバーのコスチュームの臭いをかがせろとか言うんでしょ。 レッド 言うか!お前らも否定しろよ! ハルコ とにかく出てって!私オタクって大っ嫌いなんだから!ここにいたって何も出ないわよ! レッド だからオタクじゃないんだってば。 ハルコ カルト? レッド そういう問題じゃなくて。 ハルコ じゃ、何なのよ。 レッド  本物なんだ。 ハルコ え? レッド 本物なんだ。 シルバー 不本意だけど。 Piece 2-2 ヤマザキ登場。タイムカードを押したりしている。 通りかかる局員女。 女 あら、今帰還? ヤマザキ あ?あぁ。 女 大変だったみたいね。 ヤマザキ 大変も何も…現地民が一匹歪曲空間にけつまずいただけさ。あおり食って二、三人いなくなってたってだけ。そのくらい現地で処理しろっての。何も中央が出張ることないんだよ。 女 ご苦労さま。 ヤマザキ 全く・・・でさ…ご苦労ついでに、今夜どう? 女 そうね…私はいいけど。 ヤマザキ マジ? 女 あなたはマズいんじゃないの? ヤマザキ …なんで? 女 次の仕事、もう来てるわよ。 ヤマザキ …マジ? 女 帰還報告はもう出したんでしょ。そろそろ…。 と電話の呼び出し音。 女 …というわけだから。おあいにく。 ヤマザキ あ、ちょっと…。 女、去る。 ヤマザキ、しかたなく電話を取る。 ヤマザキ もしもし! 電話の相手は課長だったり。 課長  おはようヤマザキ君。報告書は届いたよ。いつもながら見事な手際だね。さて、今回の指令だが… ヤマザキ ちょっと、課長…何スパイものやってんですか? 課長 最近凝ってるんだ。ヒーローものの原点だぞ。…さて今回の指令だが…。 ヤマザキ お言葉ですけどね。俺たった今戻ってきたところで、まだ装備も解いてないんですけど? 課長 …今回の指令だが。 ヤマザキ ちょっと!…音楽ストップ!…冗談じゃないですよ。もう仕事ってことはないでしょ?今帰ってきたばっかりだってのに! 課長 話は最後まで聞け。指令というのは他でもない。三次元空間に昨夜から次元断層が生じている。断層源はどうも現地人らしいんだが、これがなかなか侮れない大きさでね。現実界にも具体的影響が出ているかもしれない。現地の局員が対応にあたっているのだが、どうも手際が悪くてな。そこで…。 ヤマザキ 俺に手伝えっていうんですか? 課長 いや…これを渡して欲しい。 課長、フロッピーを出す。 ヤマザキ それは? 課長 この事件に関するデータファイルだ。中央のシステムで調べた情報が自動的に送られるようになっている。これを届けて欲しい。あとは現地がなんとかするだろう。 ヤマザキ 届けるだけでいいんですか? 課長 うん。 ヤマザキ 他のヤツに頼んでくださいよ1 課長 だってお前が一番運び屋って感じがするから…ってのは冗談だ。まさかとは思うが、もし現地で何かあったときには君の手を借りたいのでね。ま、一応、派遣員ということで一つ…。 ヤマザキ …何もないときは何もしなくていいんですね? 課長 もちろん。 ヤマザキ …わかりましたよ。やりますよ。そのかわり、ちゃんとノルマの内に入れてくださいよ。 課長  いいだろう。ではファイルを転送する。 課長、ファイルをヤマザキに投げる。 ヤマザキ 便利な世の中になったなあ。 課長 お約束だよ、君。あ、ファイルは現地で見てくれたまえ。 ヤマザキ …まさか、このテープは自動的に消滅するっていうんじゃないでしょうね。 間。 ヤマザキ 黙るなよ! 課長 健闘を祈るよ、ヤマザキ君。 ヤマザキ あの、ちょっと…もしもーし…。 電話切れる。 ヤマザキ (フロッピーを見ながら)…まったく…あれで八次元神霊だって言うんだからなぁ…。 ヤマザキ、携帯電話をかけなおす。 ヤマザキ  もしもし経理?ヤマザキです。ただいまより三次元に行きますんで…いや…そんなこと言ったって…私だって行きたくて行くんじゃないんですから…はい…はい…そんじゃ出張手当は長期で頼みますよ。 切る。 Piece 2-3 再びハルコの部屋。 レッド だから…えーと、なんて説明すればいいのかな…。 ハルコ いいわよ。わかったわよ。まぁこの際だから百歩譲って、あんたたちがオタクじゃないとしてもよ…。 レッド だから、違うってのに。 ハルコ …んじゃ、千歩譲って、酔った勢いで私が誘った即席のお友達だったとして…。 レッド だからぁ… ブルー ムキになるなよレッド。みっともないぜ。 レッド お前らなぁ。 ハルコ あーもうわかったわよ。そんじゃ、百万歩譲りに譲って、一応仮に、あんたたちが架空の世界から出てきちゃった本物のプラズマンだったとして…なんで他人ちに勝手に上がりこんでんのよ。そんな権利ないでしょ。 シルバー あ、それに関しては反論するわよ。 ハルコ  何よ。 シルバー だって、自分が私たちの作者だって認めるんでしょ? ハルコ …ま、一応、仮にってことでね。 シルバー だったら、私たちとあんたは作者と作品の関係になるんだもの。作者と作品と言えば親と子も同然じゃない。 ブルー うまい!三段論法! シルバー 扶養の義務くらい負うべきよねー。 ハルコ どういうこと? シルバー だから、衣食住の面倒くらい見てよー。 ハルコ  なんでよ。それを言うなら、監督か演出か脚本のとこにでも行きなさいよ。何で私に言うのよ。 シルバー …どういうこと? ブルー さあ? ハルコ どういうことって…知らないの? レッド 何が? ハルコ 閃光戦隊プラズマンは、テレビ番組なのよ。 三人 え? ハルコ もう放送終わっちゃって、今は次のやってるけどね。私が描いてるのはコミカライズ。 ブルー なに?それ。 ハルコ コミカライズのこと?漫画版って意味よ。仮面ライダーとかゴレンジャーもあったでしょ? ブルー 知らねーよ、そんなこと言われても。 シルバー 何よ、自分の方がオタクじゃない。 ハルコ 参考文献よ!やりたくてやってんじゃないの!仕事なの! シルバー 頼むとこ間違えたかな? ブルー でも放送終わっちゃったんだぜ。ハルコ以外に誰に頼むんだよ。 ハルコ  何よ、頼みって? レッド 実は…君を作者と見込んで頼みがあるんだ。 ハルコ  扶養の義務の話ならお断りよ。 レッド いや、実は最終回なんだけど…。 ハルコ 最終回? レッド 展開変えないか? ハルコ え? シルバー あれはないよねー。 ブルー 都合よすぎるんだよなー。大体おいしいとこみんなレッドが持ってっちまうんだぜ。 シルバー ブルーはまだいいわよ。私なんかクライマックスんとこ気絶してんだからね。 ブルー デウスなんか、それまで声とか手しか出てなかったくせに、いっきなり出てくるんだもんなー。 レッド というわけでどうだろう。ここは一つ、最終回は先送りにして、新展開にしないか?もっとリアルな展開にしてさ、こう…。 ハルコ  …ちょっと待ちなさいよ。 レッド え? ハルコ 黙って聞いてりゃ、ずいぶん好き勝手なこと言ってくれるじゃない。私が描いた最終回がそんなに気に入らないわけ。 レッド あの…。 ハルコ 言っときますけどね。今後の展開なんてないからね。 シルバー どうして? ハルコ 廃刊よ。不景気で出版社が経営不振になっちゃったのよ。あんたたちの載ってるマイナー誌なんか真っ先につぶれたわよ。 間。 シルバー うそー! ブルー 何だよそれ。何とかなんないのかよ。作者だろ? ハルコ 何とかして欲しいのはこっちの方よ!おかげでせっかく描いた最終回まで出せなくなっちゃったんじゃないの。どーしてくれるのよ。 ブルー どうって…。 ハルコ 元はといえばあんたたちのせいよ。あんたたちにもっと人気があれば、廃刊になんかならなかったのに。 シルバー それって責任転嫁。 ブルー 俺たちのせいにするなよ。 ハルコ したくもなるわよ! 間。 ハルコ、ポーチを取ってくる。 レッド あの…。 ハルコ もういいわよ。あんたたちが出て行かないってんならね、私の方が出てってやるわよ。 レッド そんな。 ハルコ 一応言っとくけど、ここの家賃だって、あんたたちの原稿代から出てたんだからね。 ブルー どーしろってんだよ。 ハルコ 好きにすれば!? ハルコ、出て行く。 レッド、追おうとする。 シルバー こういう場合、どうなるんだろうね。 ブルー うーん…ま、でも一応、予定の半分はクリアしたよな。 レッド 何やってんだよ。追うぞ。 二人、動かない。 ブルー いやな、実はお前、さっき自分の世界に行っちゃってたから言えなかったんだけどな…。 シルバー 私たち、もうやめようと思うの。 レッド やめるって…まさか? ブルー うん、もうヒーローやるのよそうと思って。 レッド 何で? ブルー だって疲れるじゃん、必要以上に。 シルバー 何で他人のために命はらなきゃいけないわけ?それでなくたって生キズの絶えない毎日なんだから。 レッド だからってやめて他に何するつもりだよ。 ブルー さあ…もうちょっと疲れないところで、サザエさん系ほのぼのホームドラマでも、と思ってハルコに頼もうと思ったけど…。 シルバー 何もしなくて済むなら、それはそれよね。 ブルー だよな。 レッド だからってこのままハルコをほっといていいってことはないだろ? シルバー 子供じゃないんだし、行くとこくらいあるわよきっと。 ブルー しっかりサイフは持ってったみたいだし。 シルバー 戦闘怪人がうろついてるわけじゃないんでしょ?漫画じゃないんだから…あ! ブルー 何だよ。 シルバー …まさかと思うけど。出てきたりしてないよね。 ブルー 出てくるって誰…あ! レッド そうか…ヤツもいたな。 三人 大帝カイザーデウス。 Piece 3 デウス 愚かなる地球人どもに告ぐ!貴様らが地上を支配する権利は今をもって停止する。なぜならば、今この瞬間より地上はこの私が支配するからだ!愚かなる地球人どもよ、我に従え!我が帝国に忠誠を誓え!その者に限り生き残ることを許す。はむかう者は死をもってその無謀さを知るだろう!わが名は古代アトランシュ帝国大帝カイザーデウス! ふと気づくと遠巻きにデウスを見ている人、人、人 デウス 何だ貴様ら…なんだその幻の珍獣でも見るような目は?えぇい、見世物ではないわ、散れ散れ!…全くこれから地上の支配者になる者に対して何という無礼な…この星は無礼者しかおらんのか。 ヤマザキ あーあ、なんだよこりゃ。進化のバランス崩れまくりじゃねーか。物質文化ばっかのさばらせやがって。誰かとめるやついなかったのかよ、ほんとに。 デウス おい、貴様。 ヤマザキ え…私? デウス うまく化けたつもりだろうが、そうはいかん。貴様、人間ではないな? ヤマザキ ドキ…いやーおみそれしました。まさか一目で見破られるとは思いませんでしたわー。あ、はじめまして。あっちの管理局のヤマザキといいます。こっちの管理局の人でしょ?いやー、お互い大変ですなあ。 デウス ヤマザキ。 ヤマザキ は? デウス ドローメがどうなったか知らんか?予定では今度地球とぶつかるはずなのだが…。 ヤマザキ 何、そのドローメって。 デウス 私の戦艦だ。全長86000mの超ド級戦艦だ。本当に知らんのか?まいったな、あれがないと私は力が使えんし、戦闘怪人も呼べんのだ。 ヤマザキ お困りのようですね。 デウス うむ、困っている。 ヤマザキ その割にはえらそうだなあんた。ま、よくわかんないけど、そのなんとかってのがないと、仕事ができないわけ? デウス 仕事…まあ、そんなようなもんだ。 ヤマザキ そりゃ困るなあ。おれ仕事しにきたんじゃないんだから。…しょうがないな、ほら。 デウス 何だこれは。 ヤマザキ 探知機。知らないの?こっちじゃ装備に入ってないのかな。ま、とにかくここをこうして、あとはそれの指す方向にあるはずだから。 デウス 本当か?助かる。 ヤマザキ なるべく強くイメージするようにね。でないと見失うから。なんだか知らないけど見つけたら早く仕事にかかってよ。 デウス去る。 ヤマザキ しまった、渡して帰っちまえばよかった…。 ヤマザキ、興味をそそられてディスクを端末に入れる。 同じ音楽。課長登場。 課長  あらかじめ言っておくが、これはデータファイルだ。作為的な間があったとしても気にしないように。さて、おはよう諸君。早速だが、このテープは自動的に消滅する。3!2!1! うろたえるヤマザキ 課長  …というのは冗談だ。調子はどうかね、ヤマザキ君。 ヤマザキ え? 課長 君のことだ。どうせ一人でこっそり見ているんだろう。いいんだよ、そのつもりで渡したんだから。 ヤマザキ どういう意味です? 課長 実は…ってきみねえ、これはデータファイルだって言ったろ?電話じゃないんだから、話しかけてどうすんの。 ヤマザキ だって… 課長 まぁいい。さて、お約束の二者選択だ。ささやかながらいい話と圧倒的に悪い話、どっちがいい? ヤマザキ 悪い方。 課長 …後悔しないね。 ヤマザキ キライなおかずは先に食う主義。 課長 よかろう。今回君に与えた指令、覚えているかね? ヤマザキ ファイルを渡せば終わり。 課長  その前だ。 ヤマザキ えぇと…現地の局員が能無しなんで、たかが次元断層をふさぐのに中央が… 課長 それだ。 ヤマザキ え? 課長  その次元断層だがな。 ヤマザキ はぁ。 課長 中央のシステムで測定したんだが、断層発生による次元震の震度は瞬間8以上ということがわかった。 ヤマザキ …8以上? 課長  史上最大だ。現地の局員とは連絡がとれん。まぁ十中八九全滅だろうな。 ヤマザキ そんな。 課長 三次元に介入できる局員の中では、君が一番クラスが高い。悪いが…。 ヤマザキ 謀りましたね。 課長  そういうな。他に手がなかったんだ。 ヤマザキ …それで終わりですか。 課長 残念だがまだだ。 ヤマザキ まだあるんですか? 課長 断層の収縮率がマイナスになっている。自然収縮力が働いていない。 ヤマザキ というと? 課長 考えられる可能性は二つだ。 ヤマザキ 断層源にいた現地人がひっかかった? 課長 そう。それも史上最大の断層だからな。インナースペースがとんでもない勢いで流出している。このままいくと…。 ヤマザキ どうなるんです? 課長 …前例がないからわからん。だが、わからんだけに、何が起きても不思議はない。 ヤマザキ 下手すれば高次元にも影響が? 課長 少なからずな。 ヤマザキ …それが本音か。 課長 こうしている間にも断層はどんどん広がっている。あまり時間はないぞ。流出したインナースペースをすみやかに回収し、断層をふさいでくれたまえ。 ヤマザキ …ここまでですか? 課長  そうだ。 ヤマザキ じゃ、いい方を。 課長 特例だ。全装備の使用制限を一時停止する。どんな手を使ってもかまわん。最悪イレーサーの使用も許可する。それと中央のシステムはそっちと直結させておく。データは最優先でそちらに送ろう。まもなくターゲットが特定できるはずだ。他に質問は? ヤマザキ そのターゲットについてなんですが…あれ? さっきこのファイルはただのデータファイルだって言って… 課長 このテープは自動的に消滅する。3!2!1! ヤマザキ わああ!! 課長 どかーん! うろたえるヤマザキ。 もちろんなにごとも起こらない。 ため息をつきつつヤマザキ、キーを叩く。 ヤマザキ …野村ハルコ…こいつか。それと…なんだこのプラズマンってのは…それと…あれ?…あ!…こいつさっきの!…くそ!ちょっと、さっきの人! ヤマザキ、去る。 Piece 4 ハルコ、電話ボックスに入る。どこかの公園。 ハルコ  …もしもし?私。寝てた?ゴメンね、起こして。でも間に合ったでしょ締め切り。そりゃそうよ。なんたって私が手伝ってあげたんだからさ。感謝しなさいよ。…うん・・・実はさ、ちょっとワケありで家に帰りたくないのよ。2、3日、ううん今夜だけでもいいから泊めてくれないかな。…そういわずにさ…なんならまた手伝うから。それとも今忙しいとか?なんなら私雇わない?夕御飯だけて手を打つからさ…え…そう…そうなの…あ?いいよ別に…うん…うん…気にしないで…うん…じゃ。 切る。 ハルコ …まいったなーここもだめか。他に頼めそうなところないしな。…そうだ!山崎さん!山崎さんに頼んで、仮眠室貸してもらおう! 再び電話をかける。 ハルコ  もしもし!あの私野村…いえ……なんでもありません…番号間違えちゃって…はは…すいません。 切る。 ハルコ …そっか…私はもう漫画家じゃないんだっけ…。 デウス、探知機を持って登場。うろうろしている。どうも探知機がハルコを示しているらしい。 デウス おかしいな…ええい…これでは私が変質者のようではないか! ハルコ、ボックスを出る。 ハルコ デウス! デウス え? ハルコ カイザーデウスじゃない。…そっか、あんたも出てきたんだ。 デウス 何?私を知っているのか?地球人にしては上出来だ。よし、お前は殺さずにおいてやる。一生私の奴隷として…。 ばしっ! デウス 痛いではないか。無礼者。 ハルコ どっちが無礼よ。 デウス 私はカイザーだそ。 ハルコ それがどうしたってのよ。 デウス だから…私は地球の支配者なのだ。 ハルコ 私はあんたの世界の支配者よ。 デウス 何? ハルコ あんたの地位も、あんたの帝国も、あんたの力も、あんたの戦艦も、みーんな私が作ってあげたの。だって…。 デウス まさか、私のいた世界はお前の作った物語の中にあるから…とかいうんじゃないだろうな? ハルコ あら…えらく察しがいいじゃない。 デウス、ショックを受けた様子。 ハルコ どうしたの。 デウス そうじゃないかとは思っていたが、まさか本当だったとは…。 ハルコ じゃ、昔から気づいてたの? デウス 当たり前だ!普通は気づくぞ!おかしいと思ったんだ。何で地球侵略をもくろむ者が日本しか狙ってはいかんのだ?アメリカなりヨーロッパなり狙えばいいものを、何が悲しくてこんな島国狙わにゃならん!おまけに一斉攻撃すりゃいいものを一度に一体しか怪人を送れんし、「お、今回はいい線いったぞ」っていう怪人が出てきても、二度と同じ怪人を作れんし、極めつけがあれだ。 デウス、プラズマンの変身ポーズと名乗りをやる。 デウス 何でこの間に攻撃してはいかんのだ?あんな目立つ位置にでてきているのに!不条理だ。まったくもって不条理極まる。 ハルコ あははははっははははは! デウス 笑うな! ハルコ ごめんごめん。 デウス …まったく、お前が女でなければぶち殺してやるところだ。 ハルコ 結構フェミニストだったのね。 デウス …カイザーだからな。 間。 ハルコ ごめんね。 デウス ん? ハルコ 不条理なことさせちゃってさ。最終回も書いてあげられなかったし。 デウス ん?いや…まあ…。 間。 ハルコ あのさ。 デウス ? ハルコ 今、ヒマ? デウス 全然ヒマじゃない。 ハルコ  まあそう言わずに。 ハルコ、デウスを無理やり引っ張っていく。 Piece 5 ハルコの家。 ブルーとシルバーはゲームなどしている。 レッド一人掃除。 シルバー そんなに気を使わなくてもいいのに。 レッド お前らのためにやってるんじゃない。 シルバー 何か言った? 間。 レッド あのさ…。 ブルー、シルバーの歓声。 ブルー …あ、何? レッド …いや。 呼び鈴。 シルバー お客さんだよ。 レッド …一応リーダーだぞ俺は…。 ドアを開ける。 外にいたのは山崎。 山崎  ハルコさ…あ、どうも…ハルコさんいます? レッド あなたは? 山崎 ハルコさんの担当の山崎といいます。お友達で?… レッド ええ…まあ。 山崎 ハルコさん、いませんか? レッド いや、ちょっと外出してて。 山崎 そうですか。大至急連絡とりたいんですよ。どこいったか知りません? レッド さぁ、ちょっと。 山崎 いつごろ帰るか言ってませんでした? レッド さぁ…どうかしたんですか? 山崎 それが来月号が出せそうなんですよ。他の先生方からも、いくらなんでも急すぎる、。せめて納得のいく形で終わらせて欲しいって声が出ましてね。経営側も来月号だけならってことで折れそうなんですよ。 レッド 本当ですか? 山崎 ハルコさん、最終回の原稿、もう描けてるって言ってたのに、それが出せなくなってひどく落ち込んでたから、ヤケでも起こして原稿捨てたりしないうちにと思って…。…あの、ハルコさん帰ってきたらこのこと伝えてもらえませんか?僕はハルコさんのよく行く所まわってみますから。 山崎、退場。 レッド  ブルー、シルバー、ハルコを… ブルー 探しにいこうってんじゃないだろうな。 シルバー そんなことしても無駄だって。 レッド 俺はさっきからずっと考えてたんだ。ハルコを探して、それで見つけられたとして、俺に一体何が言ってやれるんだろう。何を言ってやればいいんだろうって。でも今なら何か言えるような気がする。 ブルー 言ってどうする?ハルコが最終回を描いたからって、俺たちがもとの世界に帰れるって保証はないんだぜ。 レッド ブルー…これはそういう問題じゃないんだ。 ブルー、シルバー、顔を見合わせて立ち上がる。 シルバー 貸しだからね。 レッド 借りておく。ブルー、シルバー、行くぜ!プラズマン出動!ブルーはマッハスピーダーを使え。俺はハルコの車で行く。シルバーは残ってここから探してくれ! ブルー・シルバー 了解! 駆け出す三人。 ブルー、マッハスピーダーを呼ぶ。 ブルー  マッハスピーダーーーーーッ! レッド マッハスピーダーは超高速バイクだ。最高速度マッハ1.加速ブースターを使えば瞬間マッハ2.5をたたき出す。プラズマンの秘密兵器だ! ブルー、バイクにまたがり発進。 レッド が! ブルー、急ブレーキ。 レッド 信号の多い街中ではあまり意味がないのは言うまでもない。 ブルー、いらいらと信号待ち。 遠くからサイレンの音。 お巡り  そこの改造バイク止まりなさい1 ブルー え?俺? お巡り  何を考えとんのかね君は?スピード違反、ノーヘル。…なんだ、ナンバーもつけてないじゃないか…免許! ブルー は? お巡り  免許!! ブルー  いや…持ってないんスけど…。 お巡り  …ちょっと来なさい。 ブルー  え?ちょっと…、待って、俺のマッハスピーダー! 退場。 代わってシルバーが出る。 レッド プラズマシルバー・吹雪リンは、地球人と超感覚を持つ異星人とのハーフだ。その五感は普通の人間をはるかに凌駕する。得に感覚は、100メートル先の針の落ちる音を聞き分けられるほどするどい。 シルバー ハルコはスニーカーを履いて出たはずよね。その足音を探せば…。 耳をすますシルバー。 レッド が!よく聞こえる分、近所で道路工事なんかをしていると大変なことになる。 削岩機の音。 シルバー、耳を押さえつつ去る。 レッド そして俺はハルコの車、スバルREXで出た! レッド、エンジンをかける。 レッド  すばるREX発進! 車を出す。 レッド スバルREXは国産小型自動車だ。別に「発進!」とか言わなくても十分走るが、言ったほうが気分が出る。 と、どこからか女性の悲鳴。 レッド、車を止めて降りる。 女、駆けてくる。 レッド どうかしましたか? 女 怪物が…怪物が…。 レッド 怪物? 出てきたのは、戦闘怪人イカ男。 レッド お前はデウスの戦闘怪人イカ男! イカ男 そういうお前はプラズマレッド! レッド お前も出てきたのか…。 イカ男 ここで会ったが百年目!第三話で貴様にやられた恨み、いまこそはらしてやる! イカ男VSレッド イカ男、圧倒的に弱い。 イカ男 うーむ、手ごわいヤツ。 レッド お前が弱いんだろうが! イカ男 しかたがない。助けを呼ぼう。おーい、イカ女! イカ女登場。 レッド あ、イケイケ女だ。 イカ女 違う!イカ女だ。ちなみにフルネームはモンゴウイカ女だ。ほーら、ドレープがステキでしょ。ほれほれ。 イカ男 ちなみに俺はフルネーム、ホタルイカ男だ。ほーら電飾が楽しいだろう。ほれほれ。 イカ女 ほれほれ。 イカ男 ほれほれ。 レッド よせ!頭がヘンになる。 イカ女 そういう作戦だ! イカ男 そうだったのか…。 レッド ちょっと待て。大体二対一ってのは卑怯なんじゃないのか? イカ男 なにをゆーとる。 イカ女 あんたらいっつも三対一のくせに。 レッド しまったぁ。 レッド、頭を抱える。 イカ達 今だ! レッドVS怪人 それでも普通に戦えば、レッドの方が強い。 レッド 調子に乗るなよ!行くぜ!レッド・プラズマテクター・クロス・アップ! 変身ポーズを切るレッド。 しかし何も起きない。 レッド しまった、最終回でブレスをちぎったままだ! レッド、絶対絶命のピンチ。 と、そでからホイッスル。 ヤマザキ、レッドカードを持って登場。 ヤマザキ  退場! イカ達、退場。 ヤマザキ …まずいな。もう流出が始まってんのか…。 レッド ありがとう。誰だか知らないけど助かっ…あれ?山崎さん? ヤマザキ ドキ!なんで俺の名を…あー。お前はプラズマンとか言うやつ! レッド え?いやその…。 ヤマザキ 動くな! ヤマザキ、銃を出す。 レッド  ちょっと。山崎さん…。 ヤマザキ …他の4人はどうした。 レッド え? ヤマザキ 他のヤツだよ!ブルーってのとシルバーってのとあと二人。 レッド …あんた一体…。 ヤマザキ どうしたって聞いてるんだ。 レッド シルバーはハルコのマンションだ。でもそれ以外は…。 ヤマザキ 案内してもらおうか。 退場。 Piece 6 ハルコとデウス、出てくる。 ハルコ、スーパーの袋を持っている。 デウス ここか? ハルコ そうよ。 デウス ビルの屋上ではないか。 ハルコ そうよ。 デウス …何か楽しいのか? ハルコ 夕日が見えるのよ。あと街の明かりもね。 デウス それだけか。 ハルコ そうよ。 デウス 帰る。 ハルコ なんてね、中学生じゃあるまいし、そんなもんで気晴らしになんかなりますかって。 ハルコ、袋からビールを出してデウスに放る。 ハルコ 飲も。 デウス 何だこれは。 ハルコ ビールよ。お酒。 デウス 酒か? ハルコ 好き? デウス …まあな。 ハルコ あ、そっか…あたしが趣味であんたの左手にグラス描いたんだっけ。 デウス 何かというと握りつぶす。 ハルコ かっこいいでしょ。 デウス 言っておくが、あれはすごく痛い。 ハルコ まあまあ。 ハルコ、デウスの缶のふたをあけてやる。 ハルコ はい、乾杯。 デウス うむ。 飲む。 ハルコ おいしい? デウス まずい。 ハルコ でしょうね。 デウス 知ってて飲ませたのか。 ハルコ いいじゃない、私が買ってきたんだから。いらないんならいいわよ。私飲むから。 ハルコ、缶を取り上げる。 デウス あ、ちょっと待…。 ハルコ そんなにカッコつけなくてもいいのに。 デウス …カイザーだからな。 ハルコ …やっぱりね。 デウス ん? ハルコ どっちかっていうと憎めないのよね、あんたって。 デウス、知らんぷり。 ハルコ 嫌いだったのよ、 デウス 何が。 ハルコ ヒーローもの。…嫌いっていうのも違うかな。描きたくなかったんだ。ヒーローものなんて。 デウス …。 ハルコ プラズマンの連中がうちにいてさ。最終回を描き直せっていうのよ。思わずカッとなって飛び出してきちゃったけどさ。 デウス …。 ハルコ 知ってた?プラズマンってもともとはテレビ番組だったのよ。 デウス そうなのか? ハルコ そうなのよ。だからさ…私、そのテレビにあわせて漫画描かなきゃならなかったの。それが嫌でね。私だったらこんな展開にしないとか、私だったらこんなセリフ言わせないとか思っても、それを言わずに我慢しちゃうのって結構つらいよ。私にだって、プライドくらいあるんだからさ。 デウス よくわからんが…それなら描くのをやめればいいではないか?何も無理して描くことはないだろう。 ハルコ うん、まあそうなんだけどね…でもさ、これも漫画家の仕事じゃない。そう思ったらやめられなくなっちゃってさ…それにね、本編も終わっちゃったことだし、最終回は好きに描いていいって言われたの。だからさ、今までの展開からすると、かなり無理して描いてやったの。だいたいあんたなんか原作では、妖怪じみたオッサンだったんだからね。 デウス そうなのか? ハルコ そうよ。しかも自らを改造して戦闘怪人になるの。何男だと思う? デウス …サメ男。 ハルコ ぶー。 デウス …しゃち男。 ハルコ ぶー。 デウス …まさか。 ハルコ 大王イカ男。 デウス、大ショック。 ハルコ 知らなかったでしょ。 デウス 知らなかった。 ハルコ 感謝しなさいよ。 間。 デウス …どうやって終わるつもりだったんだ? ハルコ 何が? デウス 最終回だ。戦艦ドローメは結局落ちるのか? ハルコ うん。でもレッドの捨て身の攻撃で、戦艦は地球衝突寸前で爆発しちゃうけどね。 デウス 爆発って…爆発するのか? ハルコ うん。 デウス 86000メートルだぞ。 ハルコ うん。 デウス 無理があるんじゃないのか? ハルコ 私もそう思う。でもね、最終回のコマはすごいわよ。戦艦の破片が流星みたいに見えてさ。それが戦艦が大きいから、もう夜空を埋めるほどでさ。で、その中をレッドが帰ってくるの。ボロボロになりながらもね。 デウス ちょっと待て。さっき捨て身の攻撃って言わなかったか? ハルコ いいじゃない。カッコいいんだから。 デウス …そうか。 ハルコ でもねえ…どうせなら、地球が消滅して終わればよかったかなあ…。 デウス 消滅…するのか? ハルコ うん。 デウス 悪が勝って終わるのか? ハルコ 斬新でしょ? デウス …そうか。 間。 ハルコ 人間ってさ。滅びるべきかもしれないね。 デウス ! ハルコ びっくりした?私ってさ、時々意味もなく死にたくなるのよ。 デウス そんなものか? ハルコ そんなものよ。ならない? デウス 絶対ならない。 ハルコ 私はなるけどな。土曜日の昼下がりに雨が降ると間違いなく死にたくなる。逆に、とってもいい天気でもやっぱり死にたくなるし、こんなふうに静かな夜も時々はね。 デウス …そんなものか? ハルコ そんなものよ。 デウス そうか。 間。 デウス、突然立ち上がる。 ハルコ どうかした? デウス しっ! デウス、耳を澄ます。 デウス …やっぱり、この音はドローメの降下する音だ。おーい私はここだ!早く回収せんか! ハルコ 無理だと思うよ。 デウス 何? ハルコ 無理だと思う。 デウス 何が? ハルコ あのドローメはね、最終回で地球と衝突させるために、あんたが落っことしたヤツだから、あんたが叫んだくらいじゃ反応してくれないと思うよ。 デウス …ちょっと待て、じゃあれは今、落っこちている途中なのか? ハルコ そうだよ…と思う。 デウス どこに。 ハルコ そうね…ここかな。 デウス 馬鹿な!…あれは物語の中の話だ。あんなものが落ちてきたらいくら私でも止めようがないぞ。 ハルコ 全長86000メートルだからね。今更逃げてもどこまで行けるか… デウス …お前か? ハルコ ん? デウス お前がやっているんだな。 ハルコ だったらどうする? デウス すぐ止めろ、でないと本当に地球が消滅する…!まさか…お前、それを望んで… 戦艦の降下する音 piece 7 ハルコの家。 シルバーが一人、頭にアイスノンをあててうなっている。 そこへブルーが息せき切って帰ってくる。 シルバー あれ?どうしたの?早いじゃない。 ブルー そっちこそどうしたんだよ。 シルバー まあ…ちょっと色々あってね。そっちは? ブルー …まぁ、いろいろとな。 ため息。 シルバー 私たちってさ、作者の作意に守られてたんだね…私、痛感しちゃった。 ブルー まったくだ。 レッド帰ってくる。 シルバー あら、レッドも早いのね。 ブルー 何かあったのか? レッド まあ、いろいろとな。 ヤマザキ、レッドに銃を突きつけて登場。 ヤマザキ そのいろいろが俺ってワケだ。悪いけど手段を選んでる暇がない。 ブルー なんだと?コノヤロ。 レッド よせ、ブルー。 ヤマザキ そう、よした方がいい。一応言っておくと、この銃はあんたらみたいな架空体を消却できるイレーサーだ。当たればケガだけじゃすまない。 ブルー 当たればの話だろ? レッド よせ!あんたもそれ引っ込めてくれないか?俺たちを消すのが目的なら、とっくにやってるはずだ!それをやらないってことは何か別の目的があるんだろ? ヤマザキ さすがはってとこだな。察しがいい。 銃をしまう。 レッド なめるなよ。キャラクターってのは作者の都合で、賢くもバカにもなる。 ヤマザキ その作者はどこだ?野村ハルコとかいう…。 シルバー 私たちも探してるとこ。ここにはいないわ。 ヤマザキ もう一人は? ブルー デウスのことか?さぁ…。 ヤマザキ …まずいな。早いとこなんとかしないと…。 レッド なぁ、あんた。よかったら事情を説明してくれないか?事と次第によっては力になってもいい。 ヤマザキ …いいだろう。でも時間がない。お前らもハルコってのを探してるんだったな?だったら探しながら話をしよう。 レッド OK!ブルー、シルバー! 出て行こうとする3人。 ヤマザキ ただし、別行動は取るな。 シルバー 何でよ。 ヤマザキ ワケはあとだ。 ブルー レッド。 レッド …ハルコの車で行こう。 4人、車へ。 シルバー 探すったってどこを探すの?時間あんまりないんでしょ? ヤマザキ この辺を流してくれればいい。次元のひずみの具合からいって、このあたりにいるはずだ。 発進。 ブルー で? ヤマザキ あらかじめ言っておくが、詳しいことは知らない。俺は下っ端だからな。…事の起こりは昨日の晩だ。あんたらの生みの親である野村ハルコってのが次元の歪みを作った。 レッド ハルコはエスパーだったのか? ヤマザキ 次元なんて結構簡単に歪むんだよ。三次元人は時に精神的に不安定だからな。ちょっとした二律背反であっさりイッてしまう。ただ昨日はたまたまおおきな歪みが近所にあってな、ハルコの歪みとあわせて次元断層になってしまった。 シルバー ちょっと待ってよ。あんたなんでそんなこと知ってるの? ヤマザキ 俺は次元管理局のものなんだよ。つまりそういう事件を低次元人に知られないように処理してるんだ。でも次元干渉のルールでな、三次元以上離れた次元には手が出せないことになってる。ちなみに俺は5次元精霊のヤマザキってもんだ。 シルバー まずい、話がえすえふしてきた。 ブルー 何かまずいのか? シルバー 自分の設定の甘さが身に痛い。 3人、痛がる。 ヤマザキ 他人の話、聞く気あるのか? レッド すまん、それで。 ヤマザキ 運の悪いことに、野村ハルコは自分が作った次元断層に巻き込まれた。まぁここまではいい。過去にも何度かあった。あんたらの世界でいうナゾの失踪か、心霊現象でカタがついたろう。ところが、ここからは運がいいのか悪いのか、あんたらの作者はその断層にひっかかっちまった。 レッド というと? ヤマザキ 落ちるには落ちたが、どっかで引っかかって止まっちまったんだ。その結果、本来なら勝手にふさがるはずの断層が開きっぱなしになった。しかも、ふさがるところが広がりつつある。早くふさがないと…。 レッド どうなる? ヤマザキ …前例がないからわからん。ま、とにかくひどいことになる。多分。 シルバー 何よそれ。 ヤマザキ そんなこといわれたって前例のないことはわからねーよ。でもこれだけは言えるぞ。あんたらの作者の野村ハルコな。はっきりいってヤバいぞ。ひっかかってるのがそもそも奇跡的だから、いつ向こう側に落ちても不思議はない。 レッド 助ける方法は? ヤマザキ 向こう側に落ちたハルコの半身…つまりお前らを本体に戻すしかない。 間。 ブルー じゃ、何か?俺たちってのは…。 ヤマザキ ハルコが産んだというより…ハルコ自身の一部だ。ま、イカ男なんてのもいたが、あんなのは誤差みたいなもんだからな…ちょっと待て…歪みが弱くなった…こっちじゃない、引き返してくれ。 車、回す。 シルバー そっか…ハルコの一部か…ア、でもさ、あの原稿はどうなるのよ。 ヤマザキ 自己暗示だ。そうじゃないと思えばそうじゃなくなる。 シルバー そんな安直な。 ヤマザキ 甘く見るなよ。いまやこのあたりは野村ハルコの精神世界と直結しているんだからな。「そうだ」と思えばホントにそうなるんだよ。 ブルー ありありだな。 ヤマザキ ハルコにとってリアリティの及ぶ範囲内でっていう条件はあるがな…で、ちょっと聞くが、デウスってのはどんなヤツだ? ブルー さぁ…直接会ったことはほとんどないからなぁ…どうかしたのか? ヤマザキ さっきも言ったけどな、お前らは野村ハルコの精神の一部なんだよ。そのお前たちが本体とは別に存在してるってことは、本体のほうにはお前たちの分の精神が空席になってるんだ。どうやらあんたらは正義の味方らしいからな。下手すると今のハルコは、とんでもなく凶悪な存在になっているかもしれん。しかもその人間はこのあたりをその考え一つで自由にできるんだからな。 シルバー じゃ何?たとえばハルコが「みんな嫌いだ。地球なんて壊れてしまえ」とか考えると…。 ヤマザキ その考えにハルコ自身がリアリティを感じれば、地球は消滅する。 ブルー キチガイに刃物だな、全く。 と、戦艦の降下する音。 レッド なんだ? シルバー 見て! レッド あれは…デウスの侵略戦艦!? ヤマザキ なんてこった! 降下音。 Piece 8 イカ女、イカ男を引っ張ってくる。 イカ女 こっちこっち…ほら、あそこ。 イカ男 あのマンションか? イカ女 そう。 イカ男 うそつけ、あんなものがプラズマンの秘密基地なわけないだろうが。 イカ女 だってあそこから出てくるの見たもん。それにね、あのヘンな黒ずくめのヤツも出てきた。 イカ男 何?あいつもか? イカ女 あやしいでしょ。 イカ男 あやしいな。 イカ女 行ってみよか。 イカ男 よっしゃ。 と、ハルコとデウスの笑い声。 イカ男 …この声は。 イカ女 屋上。 二人屋上へ イカ男・イカ女 やっぱり。 ハルコとデウス、もはや宴会状態。 デウス お、お前たち、いいところに来たな。 イカ女 どうしたんです、デウス様。 デウス いいからこっちに来い。この辺か?ハルコ。 ハルコ へ?あ、そうそうそんでね。あんた(イカ男)この辺に転がって。 イカ男 俺? ハルコ そう、早く! イカ男、寝そべる。 イカ女 (デウスに)何やってるんです? デウス ん?最終回の再現だ。 イカ女 は? ハルコ そんでねそんでね、あんた(イカ女)こう言うの「立て!プラズマン!」 イカ女 立て!プラズマン。 ハルコ 「もはや何も欲しくない。この瞬間が全てだ!」 イカ女 もはや何も欲しくない。この瞬間が全てだ! ハルコ かっこいいでしょ、かっこいいでしょ。 デウス かっこいい。 イカ女、なんとなくうれしい。イカ男、なんか悔しい。 ハルコ だって、落っこちてくるドローメの中でこう言っちゃうんだよ。プラズマンに勝っても自分も死んじゃうんだよ。それでもあんな事言っちゃうんだよ。かっこいいでしょー。 イカ女 デウス様ラッキー。 デウス ま、カイザーだからな。 ハルコ そんでね、そうするとレッドが立ち上がってね。ブルーとシルバーを逃がすの。そんでね「デウス、お前の挑戦、この俺が受けて立つ!」 イカ男 デウス、お前の挑戦、この俺が受けて立つ! ハルコ かっこいいでしょ イカ男 かっこいい! イカ男、してやったり イカ女悔しい ハルコ そうするとね、レッドがこう言うの。 デウス・ハルコ 俺は負けるかもしれない。そして俺は死ぬかもしれない。だがこれだけは言える。この地球は、この俺が守ってみせる。たとえこの命に代えても! 位置代わる。 デウス・ハルコ ムッ、貴様、残りのエネルギーを! 位置戻る。 デウス・ハルコ 行くぞデウス!これが俺の最後の力だー! 二人、大爆笑。 イカ男・イカ女、今ひとつついていけない。 イカ男 (デウスに)なんでセリフ知ってるんです? デウス さっきから30回くらい聞いたからな。 イカ男 はあ…。 ハルコ、袋をあさる。 ハルコ あ、もうビールがないぞ。 デウス 何、それはいかん。 ハルコ、サイフから万札を出す。 ハルコ (イカ男に)買ってきて。 イカ男 何で俺が。 デウス 買って来い。 イカ男 はい。 イカたち、不満ながらも行く。 ハルコ エビスねー。バドワイザーなんか買ってくんじゃないわよー。 ハルコとデウスははしゃぎすぎて一服。 デウス、残った一本を紙コップに注ごうとする。 ハルコ、そのビールを取ってついでやる。 ハルコ おいしい? デウス うまい。 ハルコ でしょ。 ハルコ、自分は缶から飲む。 間。 そろそろ夜の気配。 街の音と戦艦の効果音がかすかに聞こえる。 シュールな日常感。 ハルコ いい夜だね。 デウス うむ。 間。 ハルコ 知らなかったな。 デウス 何が。 ハルコ 地球ってこんなに簡単に滅びるんだね。 デウス …私は苦労したぞ。 ハルコ 三つのお願いってあるじゃない。あれさ、よく冗談で、私の願いを永遠に叶えなさいって言うでしょ。でも、もし永遠に願いを叶えられたとしたらさ、いつか言っちゃうよね。 デウス 世界なんて滅びてしまえ…か。 ハルコ うん。 デウス …つまり、それだけ最終回が描きたかったということか? ハルコ …そうね、そうかもしれない…でもさ。 デウス でも? ハルコ 今は何もかもが面倒くさいの…絶望ってこういうことかもしれない。 デウス 他人ごとのような言い方だな。 ハルコ そうかな。 デウス 話し相手が私でなければ怒るぞ。たかが小娘のきまぐれに巻き込まれて、地球と心中しなくてはならんと知ったらな。 ハルコ …みんな怒ってるかな。 デウス 多分な。 ハルコ あんたも、怒ってる? デウス いや…漫画の中とはいえ、同じことをしたのは私だからな。…それで私を話し相手にしたんだな。 ハルコ うん。 デウス そうか 間。 ハルコ (くしゃみ)…夕涼みにはまだ早かったかな…。 デウス、マントをハルコの頭からかぶせる。 ハルコ わ…ちょっと何すんのよ。 デウス 預かれ。汚すなよ。(去りかける) ハルコ どこ行くの? デウス ……花つみだ。 デウス去る。 ハルコ 貸してくれるんなら素直に言えばいいのに。…あれ?でも花つみって…あの人、トイレの場所知ってんのかな…。 ハルコも退場。 Piece 9 ヤマザキ …とにかく緊急事態なんですよ!…惑星霊の誰かに手すきはいないんですか?…いやそりゃわかってますよ。下手に介入すればどうなるかってことくらい。でも、このままほっといたら、取り返しがつきませんよ!いいんですか?そうなっても…何とかなるなら何とかしてますって!何ともならないからSOS出してるんです!…そんな悠長なこと言ってる暇ないんですってば…ちょっと… 電話切れる。 シルバー どうだった? ヤマザキ ダメだ、相手にしてもらえない。 ブルー なんとかならないのかよ。 ヤマザキ なるならやってる! レッド 他に方法はないのか? ヤマザキ …残り二人の居場所がわからんことには… と、そこへ通りかかるイカたち。 イカ男 …まったく、こんなカッコで酒屋などいけるか…あ!お前ら! レッド イカ男、デウスの居場所をしらないか? イカ男 ふん、貴様らが出てきたマンションの屋上だと誰が教える! レッド 俺たちがでてきたマンションの屋上らしい。 ブルー …ってことは、ハルコん家の屋上か? シルバー 灯台下暗しってヤツね。 イカ男 しまったぁ… イカ女 何やってんのよ! レッド ハルコも一緒にいるのか? イカ男 う…バカめ。同じ手にひっかかるか! レッド バカはお前だ。それじゃ一緒にいると言っているようなものだろうが。 イカ男 どうしてわかった? レッド やっぱり一緒にいるらしい。 ブルー なるほど。 シルバー 誘導尋問ってヤツね。 イカ男 しまったぁ…。 レッド ヤマザキさん、これなら。 ヤマザキ ああ、まだ間に合うかもしれん。 レッド ようし、行くぜ!みんな! イカ男 行かせるか!こうなりゃ力づくだ。 三人 望むところよ! プラズマンのハイキックから始まる戦闘シーン。 もちろんイカたちが負ける。 レッドたち駆け去る。 このあたりのシーンをデウス屋上から見ている。 イカたち起き上がる。 イカ男 くそ、このままですませてたまるか!追うぞ、イカ女! イカ女 おう! と、デウスなにやら念を送る。 イカたち、棒立ちになる。 デウス …もういい…お前たちの役目は終わりだ…失せろ。 失せるイカたち。 と、そのシーンを見ていたハルコが出てくる。 ハルコ どういうこと? デウス 何のことだ? ハルコ とぼけないでしょ。今の私に不可能はないんだから。…何でプラズマンを助けるの? デウス 助けたのではない。…利用するのだ。 ハルコ え? デウス お前は、私というキャラクターを取り違えている。…地球を支配するのはこの私だ。お前がやっているのは、私がやるべきことだ。その役をお前にくれてやるわけにはいかん。 ハルコ …本気で言ってるの? デウス 無論。 ハルコ あたしに逆らうの? デウス たとえ神に逆らってもだ! レッドたち、マンション1階に着く。 ブルー、エレベーターのボタンを押すが… ブルー あれっ(ボタンを何度も押す) レッド どうした? ブルー 動かない。…故障してやがる。 レッド 階段だ! ハルコ ムダよ。そんなことしたって、どうにもならないわ。地球は消滅するのよ。 デウス 「この私の引き裂かれたプライドと共に」か? ハルコ ! デウス 私のセリフだ。お前には不似合いだ。 ハルコ … デウス …もうすぐやつらが来る。 ハルコ 来ないわよ。 デウス 来る! ハルコ 来ない!私が来ないって言ったら絶対に来ない! 階段を上る4人だが… シルバー どうなってんの?もうかなり登ったのに…。 ブルー 何で屋上に着かないんだよ。 ヤマザキ 無限回廊か…やられたな。空間を閉じやがった。 シルバー どういうこと? ヤマザキ この階段に終わりはない。行けども行けども階段があるだけだ。 ブルー じゃ、別の階段で…。 ヤマザキ 無駄だ。多分下りもきりがないはずだ。 レッド 待てよ…こんなことができるのは…。 ヤマザキ ハルコだろうな。 シルバー じゃ何?ハルコが私たちのジャマしてるっていうの?…冗談じゃないわよ。作者敵に回したら、私たちに勝ち目ないじゃない。 ハルコ 来られるわけないのよ。私に不可能はないんだから。 デウス 奴等は不可能を可能にしてきた。 ハルコ 私が可能にしてあげたのよ。 デウス そのお前が生んだやつらだろう。不可能だとなぜ言える。 ハルコ これは物語じゃないのよ。 デウス どうしても無理だというのか。 ハルコ そうよ。 デウス ならば、こうしたらどうする? デウス、ハルコののどを右手一本でしめる。 ハルコ 何を…。 デウス …死ね! レッド あきらめるな、みんな!まだ方法はある。 ブルー レッド。 レッド 中がダメなら外からだ。窓から外に出て、壁をよじ登る。…狭い階段だからハルコはこんな無限回廊を想像できるんだ。でも外に出れば…。 ブルー なるほど。 ヤマザキ ちょっと待て。このマンションを登る気か? レッド そのつもりだ。 ヤマザキ バカ言うな、7、8階はあるぞ! レッド それがどうした。 ヤマザキ 落ちたら死ぬんだぞ。 レッド 高い所には慣れてる。 ヤマザキ これは物語じゃない! レッド 同じことだ。 ヤマザキ 何が! レッド 俺たちがヒーローであることに変わりはない。 ヤマザキ …お前。 シルバー ま、そういうことよね。 ブルー 心配するなよ。ご都合主義はいつものことだ。 行こうとする三人。 ヤマザキ 待てよ。 止まる三人。 ヤマザキ なんでそんなに頑張れるんだよ…自分のことでもないのに…。 レッド ヤマザキさん…。 ヤマザキ レッド…お前ならもう気づいてるんだろ?…ハルコを助けるってことは…次元断層を閉じるってことは、お前たちがこの世から消滅することを意味するんだぞ!それでも行くのか!? レッド …そういう役だからな。 間。 レッド 行くぜぇ、みんな! ブルー・シルバー おう! 三人去る。 遅れてヤマザキ去る。 ハルコ 何のつもり? デウス お前を殺す…いや、殺そうとする。お前がピンチになれば、奴らは必ず現れる。あいつらはそういうヤツだ。 ハルコ 私が助けを請わなかったら? デウス 請わずにいられるのか? ハルコ あんたに私は殺せないわ…あんたそういう人じゃないもの。 デウス なめるな!私はカイザーデウスだ! 両手で絞めにかかる。 ハルコ、抵抗しない。 ハルコ 私がもしホントに死んだら、戦艦は止まらないのよ。それでもやるの? デウス そんな脅しが通用するか。 ハルコ 脅しだと思うの? デウス …面白い…脅しかどうか試してくれるわ! デウス、両手に力を込める。 Piece 10 銃声! デウスの腕がはじかれる。 デウス会心の笑み。 デウス いいタイミングだ…一応聞いてやろう…誰だ! レッド 閃光戦隊! 三人 プラズマン! レッド デウス!そこを動くな! デウス、三人の前に立ちふさがる。 それはハルコをかばっているようにも見える。 デウスVSプラズマン しかしデウスは本気で戦っていないので押さえこまれる。 レッド 大丈夫か、ハルコ? ハルコ …。 レッド ハルコ! ブルー どうした? レッド ハルコの様子がおかしい。デウス!貴様ハルコに何をした! デウス バカモノ!そんなことにかまっている場合か! レッド え? デウス 戦艦が先だろうが!早くなんとかしろ! レッド …ヤマザキさん。 ヤマザキ やってる。(アタッシェケースを開け、何やらやっている) デウス (自分を押さえているブルー・シルバーに)おい、いい加減に離さんか。 ブルー・シルバー、離す。 レッド デウス…どうして…。 デウス ま、「お前を倒すのはこの私だ」ってとこだな。 レッド 黄金パターンだな。 デウス 悪くない。だがなレッド、本当の敵は向こうかもしれんぞ。 ハルコ、呆然と立っている。 レッド ヤマザキさん。 ヤマザキ (一生懸命) ハルコ …無駄よ…何をやっても…必死にあがいたって…惨めになるだけ…。 ヤマザキ、ケースを乱暴に閉じる。 ヤマザキ …遅かった…。 レッド ヤマザキさん? ヤマザキ …遅すぎた…ハルコは次元の向こう側へ足をつっこみすぎた…もう俺一人の力じゃ引っ張り上げられない…ゲームセットだ。 シルバー …そんな…。 間。 レッド うそだ…ヤマザキさん。あんたうそをついている。 ヤマザキ …嫌味なほどに察しがいいな、お前は…だがなレッド、今回ばっかしは命取りかもしれんぞ。 レッド どういうことだ? ヤマザキ 方法はある。限りなく不可能に近いが、なくはない。聞きたいか? レッド もちろんだ。 ヤマザキ …聞けばあとには引けんぞ。 レッド 後悔はしないさ。 ヤマザキ なら聞かせてやる。…方法そのものは簡単だ…ハルコが次元の向こうへ落っこちすぎた。俺の力では引っ張り上げられない。引っ張りあげられないなら、その部分は切り捨てればいい。つまり…。 ヤマザキ、銃を出す。 ヤマザキ 一人だ…お前ら架空体のうち、誰か一人を消去すればいい。それで片がつく。 レッド …わかった。…俺がやろう。 ヤマザキ 違う。決めるのはお前じゃない。マスターであるハルコだ。 ハルコ …誰でもいいの? ヤマザキ 選べるんならな…。この銃はただの銃じゃない。弾丸はあんたの殺意だ。 ハルコ、薄笑いをうかべる。 ハルコ いいじゃない…どうせこの世界にいたってすることないんだし、それなら一人の命で世界が助かるんだもの。安いものよねえ、レッド。 ハルコ、ゆっくりと銃口を向ける。 ハルコ さよなら…何にもなかったけど、それでも楽しかった。 レッド え? ハルコ、銃口を自分のこめかみに当てる。 デウス・レッド ダメだ! 引き金をひくハルコ。 銃鉄が落ちる。 何も起きない。 レッド だめだよハルコ…そんなのは俺たちが認めない。 ハルコ 何でよ…何でよ、あんたたちキャラクターでしょ?少しは私の言うこと聞きなさいよ。 デウス それはこっちのセリフだ! ハルコ え? デウス 少しはわれらの声を聞け。昨日失くしたお前自身の声だ。 ハルコ …。 間。 レッド デウス…。 デウス 世の中には三種類の生物しかいない。加害者と被害者と救済者だ。お前は被害者のつもりかもしれんが、それは妄想だ。お前は被害者の皮をかぶった加害者だ。 ハルコ …。 ヤマザキ …で?その加害者によって害をうける何もしらないかわいそうな全地球の三次元人は、誰が救ってくれるんだ? 一同…。 ヤマザキ だから不可能だって言ったんだ。誰か一人をいけにえにすることなんか、お前らにできるわけがない。表現は違っていても、お前らは同一人物だからな。結局、野村ハルコはお人よしなんだよ。どうしようもないほどにな。 戦艦の降下音。もうずいぶん大きい。 ヤマザキ …まあ…なんていうか…気に病むことはない。多分…誰もがそうだから…気休めだけどな…。 レッド 俺はあきらめない…たとえそれが無駄なあがきだとしても、あがけばあがくだけ惨めになったとしても、俺は絶対にあきらめない。そして…俺があきらめない限り、野村ハルコはあきらめない…絶対にだ。 デウス その言葉に偽りはないな。 レッド 同じ自分だろう?信じろよ。 デウス いいだろう。ならばレッド、私を撃て。 一同 ! デウス クライマックスには申し分ないシチュエーションだ。 レッド デウス…。 デウス …そういう役だ。 レッド つらい役だな。 デウス お互いな。 ブルー レッド…。 シルバー レッド…。 レッド、うなずく。 三人ゆっくりとハルコによると、レッド、ハルコの右手を取る。 レッド 引き金は君が…。 ヤマザキ お、おい…。 レッド ヤマザキさん…俺たちに、「野村ハルコに不可能はない」んだよ。 オープニングの立ち位置につく。 デウス 勝てると思っているのか。 レッド 無理だろうな。 デウス ならばなぜ一人残った。仲間を逃しても、地球が消滅してしまえば同じことだ。 レッド デウス…俺は勝てないかもしれない。そして俺は死ぬかもしれない。だがこれだけは言える。この地球は俺が守ってみせる。たとえこの命に代えても。 レッド、変身ブレスをひきちぎる。 デウス !貴様、残りのエネルギーを! レッド いくぞデウス! 4人、ハルコを見る。 ハルコ、前を向けない。 デウス ハルコ!世界を呪いたくなるほど描きたかった最終回だろう!目をそらすな!お前が幕をひくんだ! ハルコ デウス…。 デウス 私は死ぬかもしれん。だがこれだけは言える。「野村ハルコ」は私が守って見せる。たとえこの命に代えても! ハルコ …いくよ、デウス。 デウス これが俺の最後の力だ! ひときわ高い銃声。 デウス、倒れる。 三人、ハルコのそばをゆっくり離れる。レッド、デウスを抱え起こす。 ヤマザキ …これでよかったのか? レッド 後悔はしない。 ヤマザキ そうか…。 ヤマザキ、ハルコに話そうとする。レッド、止める。 ヤマザキ、合図を送る。 4人とヤマザキ、やわらかな光に包まれる。 ハルコ さよなら。 レッド 違うよ。ただいまだ。 5人消える。 ハルコ、自分の左肩を右手で抱き寄せる。 暗転。 Piece 11 ハルコの家。 ハルコ、最初のシーン同様、寝ている。 起きる。 時計を見る。明け方。 ハルコ ちょっとぉ…いくらなんでも夢オチってのはないんじゃないの? 山崎 え?何か言いました? ハルコ !…山崎さん、何で家にいるの? 山崎 心配になって戻ってきてみたんですよ。そしたら案の定、鍵は開けっ放しで…で、知っちゃった以上ほって帰るわけにもいかないから、寝ずの番ですよ。 ハルコ 面目ない…。 山崎 おまけにこんなとこで寝ちゃって、春先ったってまだ寒いんですから。漫画家は体力勝負だって言ってるでしょ。風邪でもひいたらどうするんです。 ハルコ 私は漫画家じゃないんだよ。 山崎 あ…すいません、いや、決してそういう意味では…。 うろたえる山崎   山崎 だからですね、その…とにかく、すいませんでした。 ハルコ ? 山崎 最終回、描けなくなっちゃって。 ハルコ …気にしないで。何てのかな…まだうまく言えないけど…それはそれでけじめっていうか…そんな風に思えるの。 山崎 はぁ。 ハルコ 山崎さんはどうするの? 山崎 僕?いや、僕は…雑誌がなくなったって、出版社がつぶれたわけじゃないですから…。 ハルコ あ、そっか。 山崎 また、ポルノ小説の挿絵かな。ハルコさんは? ハルコ そうね…とりあえずバイト探さなきゃならないし…それに。 山崎 それに? ハルコ 原稿描かなきゃ。持込み用のヤツ。 山崎 …そうですよね! ハルコ でも…何にしても、とりあえずもう少し寝る。 山崎 じゃ、僕も帰りますから。 ハルコ うん。 山崎 今度こそ、かぎかけて、着替えてベッドで寝てくださいよ。 ハルコ 体力勝負だもんね。 山崎 そういうこと。 出ていこうとする山崎。 山崎 ねえハルコさん…次はラブコメ描きませんか? ハルコ そうね。そうしようかな。いい者も悪い者もでてこないし。 山崎 戦艦が落ちてくることもないし。 ハルコ そうそう。 間。 ハルコ え? そして再び始まる日常。 負けるな!ぼくらの…。 おしまい   本作品を上演する場合は、劇団あとの祭りまでご連絡ください。 11