<今回のお話>
黄昏時の公園で謎の死を遂げた、
時計ブランドデザイナーの男がつけていた日記から、始まる…
浩江:
私が見つけたときの先生…
なんだかすごく落ち着いた顔してらしたんです。
なんかとっても安らげるものを見つけたか、
ずっと心残りだったことがなくなったかして、
今とっても安らかな気持ちでいるから、
きっとそこから抜け出して、
現実の世界に戻ってくることはないんだろうなあって…
志村刑事:
お宅の社長さん、先生。間違っても殺人じゃない。
そういう無理やりな感じが全然しない。
なんていうか…ヘンですよ。
自然すぎる。
妹尾:
彼女の思い出を語るには、
私が4歳の頃に遡らなければならない。
夕暮れ時だった。私は行きなれた公園のベンチに
一人ぼっちで座っていた。
一緒に遊んだ友達と、別れた後だったのかもしれないし、
あるいは涙ぐんでいたのかもしれない。
そこへ、初秋の夕日が落とす長い影が、
私の顔を覆ったことを覚えている。
白いパラソル越しの薄い影と、夕日を背負って、
美しく描かれた彼女の輪郭…
時渦:
…シンジくん?…シンジくんね。そうでしょう?
時渦、自分の腕時計をはずすと、差し出す。
時渦:
この腕時計、なくさないで、大切に持っていて欲しいの。
これはね、シンジくんと、私をつなぐ、大切な絆になるから…
難しかったかな。
じゃあねえ…お守り。
これは、シンジくんと、それから…これからシンジくんが出会う誰かが
幸せでいられますようにtっていうお守りなの。
…もらってくれる?
真二: 「誰かって誰?」
時渦: 私。あなたは、私とまた会うことになるわ。
私はもう、あなたとは会えないけど…
*******
時渦:ねえ、シンジくん…一分だけ、一回だけでいいから、
おばさん、シンジくんのこと、抱っこしていい?
真二: 「おばさん。泣いてるの?」
時渦: そうね。
真二: 「大人でも泣くの?」
時渦: そうね。大人でも、とても悲しいときには、泣くわね。
真二: 「何がそんなに悲しいの?」
彼女は答えなかった。ただ黙って、ゆっくりとその腕の中から私を解放し
そのときにはもう微笑みを浮かべていた。
そして、そのままきびすを返すと、
夕日の沈む方へ去っていった…
それは夢のような時間。
ただ、手元に残った金色の腕時計だけが、
それが現実のことであったと告げていた…
浩江: そうだ思い出した。時計…無いんです。
ずいぶん古いものです。金色で。
私が気づく範囲では、毎日つけてらしたと思います。
てっきり、奥さんから送られたんだと思ってましたけど、
違ったんだ…
志村: 奥さん?独身だったんじゃ…
浩江: あの…別れた奥さん。
時渦: 時計…持ってる?
真二: これ、返すんですか?
時渦: それは、あなたが持っていてくれていいの。
私には自分のがあるから。
この二つはね…ペアなの。
だから、引き寄せあうのよ。お互いにね。
真二: あの…名前、まだ聞いてない。
時渦: そう、「まだ」なの…。
「しを」。「時」の「渦」って書くのよ。
…例えば、秋の風が枯葉をまいてくるくる回るように。
あなたの前をくるくるとまわるだけの、
ただの物理現象…
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