公演後のひまつぶし企画

<本番こんなカンジ>   2010.11.3

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Freude, schöner Götterfunken,

Tochter aus Elysium,

Wir betreten feuertrunken, Himmlische, dein Heiligtum!

 

歓喜よ、美しき神々の煌めきよ、

エリジウム(楽土)から来た娘よ、

我等は炎のような情熱に酔って 

天空の彼方、貴方の聖地に踏み入る!




 「歓喜の歌」 

詩:フリードリヒ・フォン・シラー 
曲 ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーベン

(訳 
岩田 倫和 より抜粋

 


 

某月 某所

     

男が一人、机に向かって手紙を書いている。


畑中   拝啓 鳴海ユキ子様

今日は、お知らせがあって筆をとりました!

私、畑中ススムは、本日、ついに予科練習生から、

本勤務となりました。

いよいよ、「夢の艦隊勤務」です。

これでやっと、守られる立場から、守る側になることができたこと、

誇らしく思います。それに・・・それに何より、海に出られます。

信じられますか?

海軍なのに、ここの訓練所には近所に海がないのですよ?

でも、そんな訓練所でも、今日でおさらばかと思うと、

なにやらさみしくもあります。

・・・こんな事を書いても、あなたは、きっと喜びはしないでしょうね。

畑中、懐中から金属筒を取り出し、じっと見る。

        フルートの頭部管。

 

鳴海  入るぞ。



       あわてて起立し、敬礼する畑中。



鳴海  (机の上を見て)・・・手紙か。

畑中  あ・・・はぁ。

鳴海  ・・・ユキ子にか?

畑中  あの・・・はぁ、一応・・・。

鳴海  ・・・そうか。だが・・・。

畑中  あ、いいんです。あの・・・自己満足ですから。はい。

書ければ満足なんです。だからその・・・ご安心下さい、っていうか、

お気になさらず・・・。


鳴海  ・・・。

鳴海  お前が出向する所は、「敷島兵器開発研究所」という。

厳密に言えば海軍の所属機関ではない。

畑中  ・・・え?

海  そこで何が行われているかは知らん。ただ、これだけは言える。

・・・おそらく・・・外部との連絡は遮断されることとなるだろう。

畑中  ! 

鳴海  なにしろ、噂だけはいろいろとあるからな。

曰く、「人体実験が行われている」とか、

「帰ってきた者はいない」とか・・・。

畑中  !

鳴海  冗談だ(笑)

畑中  ・・・なんだ。はは・・・。

鳴海  安心しろ。搭乗任務があることは確実だ。「夢の艦隊勤務」だ。

畑中  はい。ありがとうございます。やっと甲板に立つことができて、光栄です。

鳴海  いや、甲板は・・・。

畑中  ?

鳴海  なんでもない。まぁ、・・・手紙、書き上げておいたほうがいいぞ。

後悔の無いように、な。

畑中  は・・・。

 

***

 

舞台が明るくなると、舞台中央に女がいすに座っている。


周囲を囲んでいるのは、なにやらライトやレバー、ダイヤルなどが

ずらりと並ぶベニヤ板。

粗末な作りではあるが、「操縦シミュレーター」である。



敷島  バラストタンクのリパージは、爆裂ボルトを使っているが、

機構上どうしても誤差は生じる。振動によるぶれも当然ある。

よって・・・一人では無理だ。そうだな、天野君。

天野  おっしゃるとおりです、博士。

敷島  『今日のシミュレーションで目標点に誤差1m以内で

寄せることができなければ、操縦席のレイアウトは任せる』

・・・そう言ったのは、君だな、ん?

神宮司  ・・・。

敷島  よって、試作実験機○六―弐式(まるろく、にしき)は

艦長、航海長、機関長、爆撃長の4人連座式を採用する!

神宮司  聞いていません。

敷島  僕は、君の意見を聞かなければならないのかなぁ?そういう立場かなぁ?

神宮司  ・・・いえ・・・失礼しました。

敷島  安心しろ。耳の良い奴をちゃんと見繕っておいた。後顧の憂いもない男だ

神宮司  男?

敷島  そうだよ?何か問題でも?

神宮司  ・・・別に。

 


 所変わって、「敷島兵器開発研究所」。
       

海の見える丘に立つ、粗末な建物である。

       

畑中  ・・・ここかな・・・ここだよな・・・すみません。

・・・どなたかいらっしゃいますか?

       

突然鳴り響く、進軍ラッパを連想させる勇ましい音楽。

      

バタバタと走り回る女達=東野、西部、北森。
       

机と水の入った洗面器の準備をする。

       

畑中  あの・・・あの、こちら、「敷島兵器開発研究所」で

よろしいんでしょうかね・・・・・・あの、聞いてます?

       

もちろん、聞いていない。

 

畑中 拝啓 鳴海ユキ子様。
    

とても残念なことになりました。
    

規則ですので、詳しくは書けませんが・・・ここは地獄です。

いや、訓練の厳しさなら、予科練の方が厳しかったと思います。

そう言う意味じゃなくて・・・そうだ。

ここは「掃きだめ」です。この方がしっくりきます。

    

私の周りには、とても・・・とても軍人とは思えない人たち

ばかりです。いや、みんないたってまじめな人たちで、

やる気はきっと十分なんでしょうけど・・・その・・・何というか、

ずれているというか、何というか・・・。

 


神宮司  我々は極秘任務の最中である。外部との接触は「一切」許されない。

このことに例外はない。

畑中  ・・・。

神宮司  逆らえば国家機密漏洩による利敵行為と見なし、即刻銃殺である。

畑中  !銃殺って・・・。

神宮司  私が撃つ。今、決めた。

畑中  そんな・・・軍だって軍法会議ってもんがあるんですよ?

ましてや、あなたたちは軍人じゃないんでしょ?それを・・・。

神宮司  その通り。我々は軍人ではない。残念ながら、な。

だが・・・我々の直属の上司は敷島もと技術中将閣下である。

畑中  !

神宮司  ・・・「そのくらい」はどうにでもなる。

畑中  ・・・冗談でしょ?

神宮司  少尉、覚えておくと良い。ここはそう言うところだ。

そして・・・私は冗談は言わない。

畑中  ・・・。


       神宮司を先頭に去る、女性陣4人。
       

一人、ぽつんと残る畑中。

畑中  ユキ子さん・・・前言撤回させて下さい。


・・・やっぱ「地獄」の方がしっくりくるかも知れない・・・

 

 

 

 

 

 

鳴海  (鼻で笑う)・・・海軍軍令部、鳴海 雅彦大佐である。

諸君らの上司となる可能性がある。覚えておけ。

神宮司  上司?しかし・・・。

敷島  まぁ、話は後にしてだねぇ、諸君。せっかくメンツがそろったのだ。

そろそろ本日のメインイベントといこうじゃないか。

え?天野君、準備をしてくれ給え。

天野  了解しました、博士!

      


     ガツン、ガツンと、天野がサーチライトのスイッチが一つ一つ入れると、

さほど広くない工房に、マシンが浮かび上がる。
      

それを見る敷島、鳴海、神宮司。

敷島  どうかね。

神宮司  ・・・・。

敷島  と言っても、素人の君には分からんだろうね。

これが五人連座式を採用した「○六―弐式潜水艇」だ。

全長25.7メートル。750馬力。理

論上の航続距離は十七万八千メートル・・・

実に「一式」の3倍だよ、3倍。赤く塗って角でもつけるかね?

神宮司  もう、完成なんですか?

敷島  装甲を取り付けて、浸水検査をすれば、ね。あと1ヶ月と言ったところか。

神宮司  もう、そんなところまで・・・。

 

 

 

鳴海  正直言って、我々は諸君の戦果にはさほど期待していない。

百に1つ、万に1つも戦果があれば十分である。

くれぐれも足を引っ張らぬように。

神宮司  !

敷島  言うねぇ、鳴海君。

鳴海  私の意見ではありません。軍令部の意見です。

敷島  何を言うかね。頼みの綱の連合艦隊も壊滅、

硫黄島も墜ちて、ジリ貧だろが。陸軍じゃ、「ひめゆり部隊」とか

ぬかして、女学生までかり出す準備してるクセに。

鳴海  !・・・何・・・。

敷島  ぶっちゃけ、猫の手も借りたいのは、海軍さんも同じだろ?ん?

鳴海  なぜ、それを!

敷島  言ったろう?僕ぁね。天才なんだよ?

鳴海  ・・・。

敷島  大体ねぇ・・・せっぱ詰まりでもしなきゃあ、こんな兵器作るわけ

ないじゃないか。作らせる奴も作らせる奴なら、乗る奴も乗る奴だ。

ま、それもこれも、作れちゃう奴がいるからなんだけどねぇ。

偉い奴もいたもんだねぇ。わはははは。

 

 

敷島  なぁに。隊員諸君は君の指示に従って、32種類のハンドルや弁を

開閉するだけのことだ。5人で分担する君らの負担は随分

軽減されている。むしろ・・・やっとやることができて、

うれしいのではないかね?

神宮司  ・・・。

敷島  ただ・・・通信索敵長である、副艦長だけは、

そうはいかんと思うのだが・・・?

鳴海  大丈夫です。畑中は一通り仕込まれているはずです。

敷島  それはまた、随分と優秀な人材だねぇ。

鳴海  ・・・。

敷島  ・・・いいのかね、本当に乗せても?

鳴海  ・・・。

敷島  それとも・・・むしろ、「乗せたい」のかね?ん?

鳴海  !

敷島  僕ぁ、何でも知ってるんだよ、君ぃ。


***

 

敷島  いよいよ、隊員諸君に新兵器の概要を説明せねばならんねぇ。

そこで、型式番号「○六―弐式」なんてのじゃなくて、

そろそろちゃんとした名前をつけてやろじゃないか。

神宮司  ・・・。

敷島  何か、希望でも?

神宮司  いえ、特に。私自身は、「○六」でもかまいません。

敷島  まぁ、そう言うなよ、君ぃ。実はもう考えてあるんだからさぁ。

神宮司  そうなんですか?

敷島  海軍さんには申し訳ないけどね、勝手にやらせてもらうよ・・・

・・・その名も「轟天(ごうてん)」。

一式の魂を引き継ぐ、一撃必殺の新兵器、海底軍艦「轟天」号だ!


 

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<←暑い暑い夏>


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