公演後のひまつぶし企画

<本番こんなカンジ>   2010.11.3

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神宮司  ・・・ここは何だ・・・いつから女学校になった・・・

我々は軍隊ではない・・・しかし、心はいつも

本物の軍人より軍人らしくあろうと誓ったのでは

無かったのか・・・ええ?どうなんだ!

北森  !・・・あの・・・お気に触ったのなら、ごめんなさい。

もし、ダメなら、今まで通り練習します。でも・・・でも、

できたら、それとは別に歌の練習もさせて

もらえませんか?

神宮司  何?

北森  上手くなっていくの、分かるんです。なんか、だんだん

上達して行っているなって、感じるんです。

なんか・・・ただ、走ったり、息止めたりしてるより、

やりがいがある感じがするんです。

神宮司  !

北森  ・・・もう少し、続けさせてもらえませんか?

ちゃんとやりますから。座学もがんばりますから・・・。

 


神宮司  貴様・・・自分が何をしたか、分かっているのか?

畑中  私は・・・私なりの考えで効果的な練習をしたつもりです。

神宮司  ・・・。

畑中  遊びにしか見えないのかも知れないですけど、

効果はあるんですよ、ちゃんと。全員がタイミングを

合わせるには、タイミングを合わせるための指針が

必要なんです。歌はその指針になるでしょう?

神宮司  分かった・・・もういい。

畑中  え、いいって。

神宮司  貴様に任せると言ったのは私だ。

責任は私にある。ただ・・・後悔するぞ。

畑中  効果的な練習をしたことを、ですか?

神宮司  違う。彼女らにやりがいをあたえたことを、だ。

畑中  ・・・?

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敷島  では、諸君!栄えあるこの新型機「轟天」の

運用マニュアルを、神宮司隊長より受け取り給え。

神宮司君前へ。

神宮司  は!

     

起立し、敷島の前へ出る。神宮司。

敷島  いかんねぇ、神宮司君。マニュアルを工房に忘れるとは。

君らしくないじゃないか。え?

神宮司  いえ、まず私自身が熟読してから、

隊員に渡そうと思いましたので。

敷島  そうかい、そりゃ悪かったねぇ。僕ぁてっきり、

「まだ隊員には渡したくなかった」のかと思ったよ。

神宮司  !

 

 

畑中  つまり・・・つまり、酸素魚雷を改良した回天が「人間魚雷」と

言われたように・・・「轟天」もまた、「人間魚雷」

すなわち・・・特攻兵器なんですね。

神宮司  ・・・。

畑中  ・・・「轟天」には脱出装置がない。震洋艇ですら、

乗組員が自力で脱出することを計算に入れて

いたのに。轟天は、乗ったが最後、死ぬか、

敵もろともに死ぬか、どちらかしかない

兵器なんだ・・・そうですね。

    

 間。

神宮司  ・・・その通りだ。

畑中  ・・・。

神宮司  少尉・・・よく調べた。だが、おそらく君は誤解している。

畑中  ・・・何を・・・ですか?

神宮司  そんなことは、君以外の全員が知っているのだ。

畑中  ・・・何ですって。

 

 

神宮司  この船は実質、「鉄の棺桶」だ。乗ったが最後「後」は

ない。だが、それは欠陥ではない。そのつもりで

作られた機械に、そのつもりの人員が乗り込むのだ。

畑中  うそだ!・・・そんな・・・まさか!

神宮司  少尉・・・ここはそういうところだ。

そして、私はウソは言わない。

畑中  ・・・。

神宮司  歌はもう忘れろ。

畑中  !

神宮司  ・・・我々にやりがいなど必要ない。喜びも、悲しみも・・・

我々には、一切の感情などなくていい。我々はみな、

海底軍艦「轟天」の部品に過ぎないのだから。

 

***

 

畑中  ・・・拝啓。鳴海ユキ子様。


    今日は、とても・・・とても残念なお知らせがあって、

筆をとりました。僕は・・・とんでもない勘違いをして

いたようです。僕は・・・僕は、一体どうしたら・・・。

ユキ子さん!

      

頭部管を握りしめる畑中。

ユキ子  だから、言ったのに。

       

畑中  ユキ子さん。

ユキ子  行かないでって・・・志願なんかしないでって。

あれほど頼んだのに・・・。

畑中  でも・・・でも、じゃあ、僕らはただ、守られていれば

良かったのですか?何の心配もなく、ただ安穏と、

暮らしていれば。

ユキ子  じゃあ・・・今、満足?

畑中  !

 

ユキ子  あなたを止めたかった・・・でも、あなたがあんまり

曇りのない目で私を見るから・・・

私は止められなかった。送り出すしか無かった。

あなたが手紙をくれる度に、うれしかった。

あなたが、まだ生きているって、分かったから。

生きていれば、きっといつか帰ってくるって

思えたから。

でも、手紙が届く度に恐くなった。

これが最後の手紙になるんじゃないかって・・・

いつか、手紙じゃなくて、あなたの形見が

届くんじゃないかって・・・。

志願するって決めた日の、あの曇りのない目のまま

むしろ誇らしげに、あなたが行ってしまうような

気がして・・・私にはそれが恐かった。

恐くて、恐くて・・・あんまり恐くて・・・

ある日、思いついてしまった。

「いっそあなたが、戦死してくれたら、楽なのに」

って・・・。

畑中   ・・・。

ユキ子  もう、無理・・・私は、あなたを待てない。


 

畑中  鳴海さん・・・。

鳴海  畑中。

畑中  ・・・ダメだ。

鳴海  ・・・電報が届いた。

畑中  ダメだ。それ以上は・・・。

鳴海  残念な知らせだ。

畑中  頼む、鳴海さん!

鳴海  ユキ子が、死んだ・・・。

 

 

鳴海  ユキ子はもう、戻らない。

畑中  ・・・。

鳴海  君には身寄りがいなかったはずだ。そして、ユキ子も

もういない・・・君なら、轟天に乗ってくれるな。

畑中  鳴海さん。

鳴海  ?

畑中  ・・・轟天に乗って・・・敵の空母を沈めたら、終われますか?

鳴海  ・・・。

畑中  いつ、終われますか?

どうなったら、終わりますか?

敵がいなくなったら終わりですか?

一兵残らず殲滅すれば勝ちですか?

それとも・・・それともいっそ我々が・・・。

鳴海  畑中!

畑中  !

鳴海  ・・・それは、我々の考えることではない。

畑中  では、誰が?

鳴海  畑中・・・もう、考えるな。

畑中  ・・・。

鳴海  考えても、つらくなるだけだ。お前も、そして、

周りの者も・・・。

 

畑中  今、理解しましたよ、神宮司隊長。この訓練の目的は、

肺活量向上なんかじゃない・・・タイミングを合わせる

ことでもない・・・向上なんかしなくてもいいんだ・・・

ただ、息を止めて、頭をくらくらさせて、「考えない

自分」を作る・・・それこそが、この訓練の

真の目的・・・。


       

畑中、西部の背中を踏んづける。
       

西部、頭が上げられない。もがく。



北  ・・・こんなの・・・こんなのだったら・・・副隊長が来る前の方が

良かった・・・。


畑中  !・・・貴様。

 

***

 

神宮司  ・・・今日は、歌わなかったのか・・・。

畑中  ・・・。

神宮司  ・・・北森を責めるな。責任は少尉、君と、そして

君に任せた私にある。

畑中  ・・・分かっています。


 

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