公演後のひまつぶし企画

<本番こんなカンジ>   2010.11.4

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冒頭の轟天シミュレーターを準備する三人。

 

畑中  了解。電動縦舵機、固定解除。電装系異常ないか。

北森  異常ありません。

畑中  了解。艦長、発進準備完了しました。

神宮司  ・・・よし。一端ここまで。博士。

敷島  いやいや、立派なモンだねぇ。特に、畑中君。

畑中  はい。

敷島  君、いいねぇ。神宮司君もなかなかのもんだったが、

君はさらに上を行くねぇ。鳴海君の推挙は伊達じゃないねぇ。え?


鳴海  ・・・轟天の方はどうですか?

敷島  ほぼ完成しているよ。

 

 

***

 

畑中  隊長・・・もし、隊長が、一人で行かれようとしているのなら・・・

そうすることで、あの3人を生かそうとしているのなら、

私も協力させてもらえませんか?

神宮司  ・・・。

畑中  あの3人には、生き甲斐があります。

神宮司  ・・・歌のことか?

畑中  それもあります。でも、それだけじゃなくて、「力を合わせて、

目標に向かって取り組む」ことに喜びを感じる感性を持っています。

彼女らは、生きる価値があります。それに・・・隊長も。

神宮司  私?

畑中  隊長も、・・・厳しい訓練を課す一方で、あの3人を守るために、

たった一人で轟天に乗るつもりだったのでしょう?隊長には、

誰かのために生きようとする心をお持ちです。

神宮司  ・・・。

畑中  隊長・・・隊長は生きるべきです。

 

 

神宮司  ・・・私には夫がいた。

畑中  ・・・。

神宮司  ・・・夫は「一式」の・・・回天の搭乗員だった。

畑中  !・・・何ですって?

神宮司  ある日、私のもとに、夫から手紙が届いた・・・

夫は私に伝えた・・・国のために行く。自分の死を悲しまないで

欲しい。そして、私の幸せを祈る言葉で締められていた。

だが・・・だが、夫のいないこの国で、私はどう幸せに生きたらいい?

夫に守られて、私だけが幸せに生きられると思うか?

いろんな疑問が湧いてきた。考えて・・・悩んで、悩んで・・・。

そんなとき・・・敷島博士からこの小隊への誘いを受けた。

そうして集められたのが、君以外の4人だ。

畑中  ・・・では、あの3人も皆?

神宮司  そうだ。だから、我々の小隊は女性ばかりなのだ・・・君を除いてな。

畑中  ・・・。

神宮司  そして、私はこの小隊の隊長になった・・・考え、悩んだ末に、

私は考えることをやめた。答えのでない疑問にとらわれるより・・・

私は夫と同じ立場に立ってみることにした。

 

       間。

 

神宮司  少尉・・・私はもう、二度と見送る側には立たない・・・

そうなったらもう・・・おそらくは耐えられない・・・。

畑中  ・・・。

神宮司  少尉・・・頼む。そっとしておいてくれないか。

私には・・・もう「轟天」しか無いんだ。

 

***

 

畑中  ・・・隊長。

神宮司  ・・・。

畑中  私は、この部隊でただ一人、志願してここに来たわけじゃありません。

でも、私も轟天に乗ります。・・・ですが・・・私は、轟天の「部品」には

なりません。最後の最後まで、「人」として轟天に乗ります。喜びも、

悲しみも・・・恐れも、誇りも、悼みも・・・全て抱えて、抱えたままで、

轟天に乗るつもりです。

神宮司  ・・・。

 

畑中   拝啓、鳴海ユキ子様。

私は・・・私は、宣戦布告をします。

私は、私から「考えること」を奪おうとする全てに対して、

最後の最後まで戦いぬいて見せます。

ユキ子さん・・・私は、あなたを守れなかったのかも知れない。

だけど・・・私の「戦い」を、どうか見守っていて下さい。

ユキ子さん・・・私は・・・私は負けませんよ。

 

 

 

鳴海  諸君に通達がある。心して聞くように。

4人  (敬礼)

鳴海  出撃の予定が決まった。

4人  !

 

 

畑中  ・・・。

神宮司  少尉は下戸か?

畑中  いえ、むしろ好きな方ですが・・・。

神宮司  では飲め。

畑中  はぁ・・・いただきます。

 

 

神宮司  実はな、少尉。

畑中  はい。

神宮司  少尉に、言われた言葉が・・・痛くてな。

畑中  え・・・何、言いましたっけ?

神宮司  「私は、轟天の部品にはならない。全てを抱えて乗ります」

畑中  ああ・・・言いましたね、そんなこと。

神宮司  ・・・なんだが、自分が支えにしてきたものを、大声で否定されたような

気がして・・・。

畑中  ・・・。

神宮司  それで・・・ちょっと逃げてきた(笑)。

 

 

神宮司  ・・・夫の部屋に、行ってきたんだ。

畑中  ・・・。

神宮司  ・・・実に、半日たっぷり夫の部屋にいた。

おかげでたくさん会話ができた。

畑中  ・・・「会話」、ですか。

神宮司  ああ。「会話」だ。

畑中  ・・・。

神宮司  考えてみると、夫を亡くしてから、私のイメージの中の夫は、

背中を向けていたような気がする・・・私は、遠くに行こうとする夫の

後ろを追いかけていたのかも知れない。

畑中  ・・・。

神宮司  だがな・・・夫の部屋にいて、私は久方ぶりに、夫と向き合えたような

気がするんだ。

畑中  ・・・。

神宮司  私は・・・やっぱり、轟天に乗ろうと思う。

畑中  ・・・。

 

 

神宮司  少尉・・・まだ、私を隊長と認めてくれるか?

畑中  もちろんです。

神宮司  ・・・ありがとう。では、隊長として、一つだけ命令する。

畑中  はい。

神宮司  ・・・けして・・・一人で行こうとしないでくれ。

畑中  ・・・誓って。

 

 

神宮司  では・・・(手を差し出す)

畑中  ?

神宮司  楽譜をくれ。私も歌うのだろう? 

畑中  ああ・・・はい。

北森  あの、私のでよろしければ・・・。

西部  こら!

東野  黙ってろ、今いいとこなのに!

 

***

  

畑中、去る。

神宮司  みんな。

3人  ?

神宮司  頼みがある。

     

円陣を組んで、内緒話。

神宮司  ・・・どうだろう。

東野   賛成です。

西部   私も。

北森   私も。

神宮司  そうか・・・ありがとう。

***

 

畑中  拝啓、鳴海ユキ子様。

かくて、我々は残された最後の日々を、歌に没頭して過ごすことに

しました。

時々、ふと気がゆるむと、無性に叫びだしたくなったりすることも

あります。でも、私たちは、精一杯の声で、歓びの歌を歌いました。

そして・・・出撃を明日に控えたその年、8月15日・・・。


遠く聞こえる、「玉音放送」。


畑中  (放送を聞きながら)・・・え・・・負けた?・・・日本が降伏したのか?

間。 



畑中   え・・・じゃあ・・・じゃあ、もう出撃しなくていいってことか・・・!

・・・隊長・・・隊長!

 

 

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