今回も、無事終えることができました
ありがとうございまーす
というわけで、舞台写真のご紹介
今回の台本の一部とともにどうぞ
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しばらくして、静かになる図書館。
照明も落ち、非常口を示す光だけで、ぼんやりと明るい。
そこへ、司書が古風なランタンを持って登場。
周囲を見渡すと、指を鳴らす。
先ほどまでの、いかにも図書館といった感じの白い光ではなく、
ろうそくのような暖かい光が満ちる。
去る直前、一冊の本に目を向け、そっと手に取る。
「何、やってんのよ・・・。
あんた・・・それ、大事な本なのよ!
どうするのよ!」
怒気を含んだ女の声。
ガラスが割れる音。
救急車のサイレン音
***
明るくなると、冒頭の「本棚のある部屋」
状況がつかめていない。
キョロキョロしている。
近くにあった本を手に取ろうとする。
『繰り返されるのは幻影』
びっくりして、手を引っ込める。
司書 「ようこそ。『真夜中の図書館』へ。」
女 「図書館」?
司書 「はい。」
女 「・・・あの・・・ごめんなさい。真面目に聞いて欲しいんだけど。」
司書 「はい。」
女 「あなた・・・私が、どうして図書館にいるんだと思う?」
司書,表情を変えることなく、超然と聞いている。
女 「信じてもらえないかも知れないけど、これでも、ふざけて言ってるんじゃないのよ。
ここ、どこ?今日は、何月何日?・・・私、誰?レベル7じゃないけど・・・
これって、記憶喪失ってやつ?」
司書 「・・・。」
女 「やっぱり、私、もうちょっとパニくるべき?」
司書 「大丈夫です。落ち着いて下さい。存じておりますから。」
女 「『存じて』って・・・どういう意味?あなた、私のこと知ってるの?」
館長 「・・・『ジョバンニは、すっかりあわててしまって、もしか上着のポケットにでも、
入っていたかと思いながら、手を入れてみましたら、
何か大きな畳んだ紙切れにあたりました。・・・』」
女、ポケットを探ると、ホントに紙が出てくる。
女 「!」
館長 、呆然としている女から、その紙を取る。
副館長 「・・・『これは三次空間の方からお持ちになったのですか?』
『こいつはたいしたもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえいける切符だ。
こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、
どこまででも行けるはずでさあ。』」
女 「・・・『銀河鉄道の夜』だ。」
司書 「ええ。宮沢賢治の代表作の1つ。未定稿な上に、筆者の造語も多く、様々な解釈、
推論がなされていますが・・・。」
副館長 「いいのよ、ごたくはどうだって。青くて透明で静謐(せいひつ)できれいだから、
宮沢賢治はそれだけでアリなのよ。」
女 「そうよね、私もそう思う・・・。」
副館長 「でしょ?」
女 「でも・・・確かこの話、カンパネルラは死んじゃうのよね。っていうか、
もう死んじゃってて、銀河鉄道はそういう人を、
「石炭袋」につれていく機関車なわけでしょ?」
司書 「そういう解釈もあっていいと思いますわ。」
女 「・・・ってことは・・・私も・・・私たちも、死んじゃってるってこと?」
館長 に手渡した紙を、強引に取り戻す。
女 「・・・白紙じゃない。」
館長 「そうですね。」
女 「・・・どういうこと?」
館長 「それは、それでいいのです。白紙であることを確認することに意味があったのですから。」
女 「・・・。」
司書 「当館では、自由に本を閲覧することができます。
どの本でもご自由に、好きなだけお読み下さい。
また、一冊だけ本を借りることができます。
というか、・・・借りていただく必要があります。」
副館長 「あ〜ら、そんなことないわ。別に借りなくてもいいはずよ。」
司書 「え、でもそれじゃ、帰れないじゃないですか。」
副館長 「だから、本人がそうしたいっていうんなら、それもアリでしょ?」
司書 「それはそうですけど・・・。」
司書 「・・・。貸出期限は、設定されていません。いつまで借りていただいても結構です。」
女 「・・・ずっと借りていてもいいってこと?」
司書 「はい。」
女 「それって、「借りる」っていうより、「もらう」って言わない?あるいは「盗む」とか。」
司書 「ん〜・・・お気持ちは分からなくもないんですけど、でも、一応「借りる」です。
図書館ですから。はい。」
女 「で?」
司書 「え〜っと・・・以上です。」
女 「・・・ふぅん。で、何?私は本を借りればいいの?」
司書 「ええ、そうなんですけど・・・。」
館長 「その通りです。それ以上でも以下でもありません。」
女 「借りたら、帰ってもいい?」
館長 「どうぞ。それに、おそらくは、ここから出れば、あなたの記憶も戻るでしょう。いずれは。」
副館長 「 !お姉様!」
***
司書 「司馬遼太郎作「燃えよ剣」。新撰組副長、土方歳三の生涯を描いた時代小説です。
1962年から64年にかけて週刊文春で連載。倒幕側のヒーロー坂本龍馬を描いた
「龍馬がゆく」と、ほぼ同時期に発表されました。」
司書 「でも、それは避けた方が・・・。」
女 「どうして?久しぶりに読もうかと思ったのに。」
司書 「それ、上下巻ですよ。貸し出しは1冊に限られていますから。」
女 「え、ダメなの?」
司書 「すみません。規則でそうなってますので。」
女 「ん〜・・・だめだ。「燃えよ剣」を「上下巻、片方だけ読む」なんてこと、できないわ。」
司書 「・・・ですよね。」
女 「だめなのよ。私、一巻から順に読まないと気が済まないのよ。」
司書 「分かります。っていうか、当然です。作者に対して失礼です。」
女 「やっぱ、そうよね。・・・ってことは、
基本、1冊だけで完結している本を選ぶべきなのかなぁ・・・。」
再び、探す。
女 「・・・「1冊だけ」選ぶって・・・意外と難しいわね。」