
女 「ねぇ。でも、なんで、「秘密の部屋」はここにあるのに、「賢者の石」はあっちにあるわけよ。
まとめておいたら?」
司書 「えっと・・・わけあって、このように並べてあるんです。」
女 「ふぅん。・・・続きある?」
司書 「続き?というと「アズカバンの囚人」ですか?」
女 「だっけ?忘れちゃった。いや、「今まで読んだ本の続き」なら、1冊だけでもいいかなって」。
司書、ちょっと探すと・・・。
司書 「はい。こちらでよろしいですか?」
女 「!・・・さすがに「司書 」ね。こんなにばらばらな本棚からでも探せるんだ。
それとも、何か特別な分類がしてあるの?」
司書 「ええ、まぁ・・・。」
***
女 「これ…私の、だ。」
司書 「…。」
女 「これ、私の、よね。だって、線が引いてあるもの。ほら、ここ。それに…。
やっぱそうだ。ほら、ここに書き込みがある。これ、私の字だ。」
館長 「…。」
女 「なんで…どうして、私の本が、図書館にあるの?」
司書 「その本だけですか?」
女、改めて本棚を見渡す。
副館長 「「レベル7」、「銀河鉄道の夜」、「もしドラ」、「燃えよ剣」、
「ハリーポッターシリーズ」は3巻までで、 予約しなかった4巻からはなく、
ベルばらは途中まで…。」
女 「…もしかして…。」
館長 「もうお分かりでしょう?」
女 「ここにある本…私、全部読んだことがある。
…っていうか、私が読んだことがある本しかない!」

***
司書 「・・・一冊です。」
女 「?」
司書 「あなたに借りられたがっている本が、この中に一冊あるのです。」
女 「私に?」
司書 「その一冊を見つけてあげて欲しいのです」。
女 「「あげて欲しい」って・・・「本のために」ってこと?」
司書 「(首を振って否定)…これは、きっと覚えておいて下さい。いいですか?」
女 「(勢いに押されて)…はい。」
司書 「あなたは、…」
女 「…。」
司書 「…あなたが読んだ本でできている。」
女 「…は?」
司書 「あなた」という人格は、あなたがこれまでに出会い、
読んできた数多の本によって形作られているのです。
女 「・・・。」
司書 「今の、この散らかっている本棚は、あなたの記憶が混乱している様子を表しています。
これは、けして歓迎すべき事態ではありません。
私も、この本達が、本棚に整頓されることを望みます。
でも、本棚が散らかっている今だからこそ、忘れている本のことを思い出すチャンスでもあるのです。」
司書 、真面目な顔で、女 にうったえる。
司書 「見つけてあげて下さい。本棚を整頓しきってしまう前に。
あなたにとって大切な、ただ一冊の本を。」
女 「一冊・・・。」
女、散らかった本を前に途方に暮れる。
女を見つめる、強い司書 の視線。
女 「・・・分かったわよ・・・見つければいいんでしょ?」
司書 「・・・(無言で笑顔)」

女 「何で・・・同じタイトルの本ですら、分けておく必要があるんだろう。」
司書 「・・・。」
女 「赤毛のアン・・・読んだ気はする。絵本と、青い鳥文庫と、文庫版・・・。」
司書 「・・・。」
女 「読んだ順・・・?」
司書 「!」
女 「そうか・・・分かった。読んだ順だ。
絵本と、青い鳥文庫と、文庫版。こっちに行くほど小さい子向けで、こっちに行くほど大人向け。
このへん・・・この頃、私、コバルト文庫にはまってたんだ。だから固めておいてあるんだ。
でも、ハリーポッターみたいに新刊が出るのを待って買った本は、どうしても間があくのよ。
だから少し離れておいてある。そうでしょう。」

司書 「本って・・・何だと思います?」
女 「何って・・・本は本でしょ。活字や絵が描いてあって・・・こう、ストーリーが分かるものよ。」
司書 「では、本は記憶媒体でしょうか。」
女 「・・・どういうこと?」
司書 「数多の作者が考えたストーリーを伝達する手段が「本」・・・
同じ活字や絵が載っていれば、同じ本とみなすことができるのなら、
本の形には意味がありませんね。」
女 「・・・。」
司書 「どうして、同じ「赤毛のアン」を何冊も持っているのでしょう?
文庫版と新書版では、別のストーリーなのでしょうか?
いいえ。モンゴメリの原作自体が違うわけではないはずです。
では、なぜ、あなたは同じストーリーの本を、何冊も持つ必要があったのでしょう?」
女 「・・・なくしたから?」
司書 「・・・先ほど、「ガラスの仮面」の話をされましたよね」
女 「・・・。」
司書 「実は、ここにもあります。文庫版で。
あなたは、すでに持っているのに、わざわざお金を払って買い直しているのです。」
女 「それは・・・何ていうか、コレクションってほどじゃないけど、装丁がちがうし・・・それに・・・。」
司書 「それに?」
女 「・・・人に・・・貸したくなった・・・。」
司書 「・・・。」
女 「そうだ・・・私、本を人に貸したり、誰かから借りたりするの、好きだった。」
司書 「誰に?」
女 「誰に」?
司書 「ね・・・「本」は・・・「ストーリー」でしょうか?」
長い間。
女 「・・・この本・・・赤毛のアン(文庫版)は・・・。 そうだ。ミュージカルを見た・・・。
それで、原作を読み返したくなって、買った。
私、この本、前はあんまり面白いと思えなかった。アンはがさつで、
うっとうしい子だとしか思えなかった。だって・・・そうだ・・・だって、
前は・・・そう、前の時は、読書感想文を書くために、あわてて読んでたから。
でも、こっちは違う。読みたくなって、劇場からの帰り道に、三洋堂で買った本。
だって・・・だって、結婚してから初めて見に行ったミュージカルだったから。」
司書 「・・・。」
女 「違う。「本」は「ストーリー」じゃない。本は「本そのもの」に意味がある。」
司書 「!(笑顔)」

<←その1>