劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

<18 正義の味方>

 

 

間。

 

山崎  …本気で言ってんのか?

ヤマザキ  ああ。

山崎  あんた正義の味方なんだろ?

ヤマザキ  だからどうした?

山崎  どうしたじゃないだろ?みんなを巻き添えにしてでも

あいつをやっつけるなんて、そんなやり方あるかよ!

ヤマザキ  誰がみんなって言った。

山崎  お前がさっき言ったじゃないか!次元そのものを吹っ飛ばすとかなんとか…。

ヤマザキ  勘違いするなよ。

山崎  何が。

ヤマザキ  地球人イコールみんなじゃない。

山崎  え?

ヤマザキ  …俺はもっと大きなもののために働いてる。

…被害が地球人だけで済むなら、その損害は微々たるものだ。

山崎  …そんなんじゃないだろ?

ヤマザキ  ?

山崎  正義の味方ってそういうものじゃないだろ!

ヤマザキ  そりゃ物語の中での話だろ?これは物語じゃない。現実の正義は甘くない。

山崎  そんなこと…。

ヤマザキ  …昔、人がまだ文字を持ってなかったころ、

最も知的な遊びは、名前をつけることだった。

一つのものを「1」と呼び、赤という色を「赤」と名づけた。

…正義ってのはそういうものだ。愛もそう、平和もそう。

…俺やお前ごときが軽々しく口にしていい単語じゃない。

山崎  …その正義を名乗ってるのがあんただろ?

ヤマザキ  正義ってのは、それを信じる人の数だけあるんだ。

山崎  そんなの正義じゃない!正義ってのはもっと絶対のものだ!

ヤマザキ  だったらお前は、お前の信じる正義をやればいい。

山崎  え?

ヤマザキ  …奴を倒せよ。そうすれば手荒なマネはしなくてすむ。

山崎  おどしか?

ヤマザキ  そうだよ。

山崎  正義の味方なんだろ?

ヤマザキ  あいにくと味方してるだけで、そのものじゃないんだ。

 

間。

 

ヤマザキ  もう少し付き合ってもらうぞ。

山崎  ことわる!

ヤマザキ  何?

山崎  よくよく考えたら話が変だ。宿主は俺だぞ。

店子のお前におどしをかけられる立場じゃない。

ヤマザキ  この次元がどうなってもいいって言うのか?

山崎  俺はどうせ、12時に死ぬんだ。他の奴がどうなろうと知ったこっちゃない。

ヤマザキ  だがお前はもう知ってしまった。地球のピンチを救えるのは

お前しかいないんだぞ。

山崎  そういうことはハヤタ隊員にでも頼めよ。俺は一般人だ。

ヤマザキ  …。

山崎  俺の人生最期の時間なんだ。これ以上つきあっていられるか!

 

去りかける山崎。

 

山崎  …時間?

ヤマザキ  えっ?

山崎  待てよ!

 

がばっと時計を見る山崎。

 

山崎  しまった…原稿取りにいくの、すっかり忘れてた。

 

去る山崎。

 

ヤマザキ  おい!…ったく…世界と仕事とどっちが大事なんだよ…。

 

 

< 続く >

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