劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 9章 デジャ・ヴ >

 

 

事務所。

 

ドアが開く。ミサキ入ってくる。

ミサキ、机の上を探す。

ライターを見つける。

 

奥から、大神が出てくる。頭にはアイスノンなんかのせ、

裸足になっているが、それでもコートは着ている。

 

大神  あっつー。やっぱ日本じゃだめだよな。湿気が多くて。

 

目が合う二人。

同時に、アイスノンとライターを後ろ手に隠す。

 

ミサキ  …いたの?

大神  そっちこそ。

ミサキ  何か用?

大神  …別に。そっちは?

ミサキ  私は…ここの所長だから、管理責任ってものがあるでしょうが。

大神  ああ、そう。

ミサキ  そっちは、何の用よ。

大神  なにって…ハァドボイルドな探偵ってのは、事務所に寝泊りするもんだろうが。

ミサキ  ふぅん。

 

間。気まずい間。

 

ミサキ  あ…。

大神  ?

ミサキ  なんか、音がしたわ。

大神  何が。

ミサキ  あっちで、何か音がしたわ。見てきて。

大神  あ?何言ってんだ、お前…。

ミサキ  いいから、行く!

 

大神、去る。

ミサキ、ライターをポケットにしまう。

 

ミサキ  …(やれやれ)

 

ミサキ、振り向く。

ふと見ると、金と煙草の入ったトランクが、ほっぽり出してある。

 

ミサキ  …ったく。やばいものだって、自覚しなさいよね。

 

ミサキ、一応目立たないように片付ける。

音をたてず、ドアが開く。

ミサキ、振り向く。

ドアのところに、立っている一瀬。手には銃。

 

ミサキ  !

一瀬  喋らないで。妙な真似すると撃つわよ。

ミサキ  どちら様?

一瀬  バイヤー。

ミサキ  …どうしてほしいの?

一瀬  話が早くて助かるわ。…港で拾ったものがあるわよね。

ミサキ  …。

一瀬  返して。

ミサキ  さあ…なんのことかしら。

一瀬  いい年して、とぼける気?

ミサキ  年は関係ないでしょ!

一瀬  煙草と金の入ったトランクがあるはずだわ!どこ!

ミサキ  …知らないわ。勝手に探したら?

一瀬  …立場がわかってないようね。(撃鉄をあげる)

ミサキ  …あなたこそ、立場がわかってないようね。私を殺して困るのは

あなたじゃないの?

一瀬  別に。幸いにも狭い事務所だもの。家捜ししたって、たががしれてるわ。

ミサキ  悪かったわね狭くて…。

一瀬  茶番につきあってるヒマはないわ!出すの?出さないの?

ミサキ  仮に、私が持っていたとして…。

一瀬  いまさらとぼけたって、遅いわ。

ミサキ  …持っていたとして、この狭い事務所にいつまでも置いておくと思う?

一瀬  持ち出してるヒマがあったとは、思えないわね。

ミサキ  そう?

一瀬  ?

ミサキ  …大体、まだトランクにはいってると思うわけ?あんなかさばるものに、

いつまでもいれて置くと思う?

一瀬  くだらないブラフだわ。そんなもので私がびびると思うの?

ミサキ  思うわね。その証拠にあなた、この事務所に、私一人しかいないと思ってる。

一瀬  ! …それもブラフだわ。仮にもう一人いたとしても、あなたが人質で

あることにかわりはない。

ミサキ  まぁ、そうね。でも電話くらいできるわよ。

一瀬  どこに?警察呼ばれて困るのは、お互い様じゃないの?

ミサキ  失礼ね。仲間くらいいるわよ。

一瀬  …。

ミサキ  どうするの?

一瀬  どうもしないわ。おとなしく出せばよし…。

ミサキ  …「さもなくば」って?そういってただですんだ悪役って多分いないわよ。

一瀬  撃たないと思ったら、大間違いよ!

ミサキ  だったら撃てば?

一瀬  !

ミサキ  …撃てば?でも、もう夜中だしね。銃声なんか、さぞ響くでしょうね。

一瀬  あなたドラマのみすぎだわ。銃声なんてそんなに大きいものじゃないのよ。

ミサキ  私、もと婦警よ。銃声の大きさくらいわかるわ。

一瀬  …(ひるむ)。

ミサキ  …つまったわね。私の勝ち。

一瀬  …何を…。

ミサキ  いいのよ、もう。長いおしゃべりに付き合ってくれて、助かったわ。

おかげで仲間が配置につけた。あなたの負けよ。

一瀬  …。

ミサキ  欲しいの?そのトランク。

一瀬  …。

ミサキ  欲しいんでしょ?

一瀬  …だったら?

ミサキ  「お願い」してみたら?私の気がかわるかもよ?

一瀬  お願い?

ミサキ  …大事にはしたくないんでしょ?だから一人で来た。違う?

一瀬  …「プリーズ」とでも言えって言うの?

ミサキ  だから、試しに言ってみたら?

一瀬  …Please…。

ミサキ  …Kiss my ass (くそくらえ)。

 

ミサキ、中指を立ててみせる。

一瀬、切れる。

銃を構える一瀬。

 

銃声!

 

一瀬、銃を落とす。

大神、出てくる。

 

一瀬  …。

大神  「俺は、女は撃たない。特に火曜日はな」Byジョン・ウェイン。…行け。

一瀬  …後悔するわよ。

大神  占いは、いいことしか聞かない主義でね。

 

一瀬、去る。

二人、残る。

 

二人、目があう。

同時に。

 

ミサキ  遅いじゃない!その場の思いつきで、カマかけつづけるのが

どれだけ大変かわかってんの?だいたいあんたが、トランク出しっぱなしに

したのが悪いのよ!

大神  わざわざ挑発するな!死にたいのか!大体、銃にだけ当てるのが

どれだけ難しいか、知らないだろ、お前!

 

間。

 

大神  …なぜ挑発する?

ミサキ  なりゆきよ。口から出任せでしゃべってたら、たまたまそうなっただけ。

…そっちこそ何やってたのよ。遅かったじゃないのよ。

大神  野暮用だ。

ミサキ  …あんたね。

大神  なんだ。

ミサキ  「靴下、履いてた」って言ったら、怒るわよ。

大神  …………………。

ミサキ  …あんた、最悪。

 

間。

 

大神  なあ。

ミサキ  ?

大神  …いや、なんでもない。

ミサキ  …何よ。言いなさいよ。

大神  いや、デジャブか?このシチュエーション、どこかで…。

ミサキ  !

 

幾度かの銃声!

 

大神  !

ミサキ  外だわ!大通りの方!

 

二人、駆け出す。

 

暗転。

 

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