劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その7 彼女の事情 >

 

 

日本昔話出てくる。

 

日本  女は、思った。「いかれてるぞ、こいつら。やべーよ。こいつら。」

でも、ここで、彼らに自分の本心をぶつけるわけにはいかなかった。

地蔵1  ウノやろ。ウノやろ。

地蔵2  3人じゃきびしくない。

日本  「やばい、こいつらわけわかんない。」と女は思った。

もうすぐ、男が来る。今日は久しぶりに、男と、あん、一夜を過ごせるのに。

これはもう、すぐに帰ってもらうしかない、そう思ったそうじゃ。

でも、怒らせたら、もっと訳わかんない。また、念仏唱えたり、

すごい音を出されたら困る。

そこで、女は、明るく聞いてみたそうじゃ。

 

女  ねえ、あなたたち、いつ帰るの。

地蔵3  帰って欲しいの。

女 えっ。

地蔵1  大丈夫だよ。心配しなくても。

地蔵2  ああ。

女  何が?

地蔵1  僕たちは石だ。

地蔵3  石よね。

地蔵2  ああ。

地蔵1  しかも地蔵だ。

地蔵3  うん。

地蔵1  隣で君たちが何をやろうが、こうやって黙ってウノやってるだけだから。

地蔵3  心配しないで。

女  してないの。

地蔵1  でも、一応ね。

地蔵3  恩返ししないとね。

女  恩返し?

地蔵2  だって、この米俵いらないんだろ。

地蔵1  せっかく持ってきたのにね。

地蔵3  重かったもんね。

地蔵1  このままじゃ帰れないよな。

地蔵3  筋が通らないよね。

地蔵2  だから、君の役に立つことができるまで、僕たちはここでウノやってるんだ。

地蔵3  ふふ。

地蔵2  はは。

地蔵1  ほほ。

 

間。

 

女  だったら、帰ってよ。

地蔵達  えー。

地蔵1  何でー。

女  はっきりいって邪魔なのよ。

地蔵達  うそー。

地蔵2  どうしてー。

女  もうすぐ私の彼が来るの。あなた達がいると困るの。私に恩返ししたいなら、

帰ってちょうだい。それが一番の恩返しなの。

地蔵3  じゃあ何。この米俵また持って帰れっていうの。

地蔵1  重てーよ。

地蔵2  やってらんねーよ。

 

地蔵達、「やってらんねーよ」といいながら、ごろごろと転げ回る。

壁にぶつかったり、お互いぶつかったりしてガキンガキン。

 

女  やめてー、音ださないでー。わかった。わかったから。

地蔵2  何がわかったんだよ。

女  わかったわよ。

地蔵1  俺たちのハートがか。

女  米俵はおいていきなさいよ。それでいいじゃない。

地蔵3  それでいいの。

女  持って帰るの大変なんでしょ。なら置いてけばいいじゃない。

地蔵2  さっきいらないって言ったじゃない。

地蔵1  そう言ったじゃない。

地蔵3  どういうことよ。

女  だから、もらってあげるって言ってるのよ。

地蔵1  もらってあげるって何だよ。

地蔵3  何よ。

地蔵2  やってられるかよー。

 

地蔵達「やってらんねーよ」と言いながら、ごろごろと転げ回る。

壁にぶつかったり、お互いぶつかったりして、ガキンガキン。

 

女  やめてー。やめてー。お願いもーやめてー。

 

ピンポーン。

 

女  あっ、はい。

 

女、出て行く。

地蔵達、玄関の方をのぞきこむ。

 

女  …あっ、もー、うん。いいよ。あがって…もー遅かったじゃ…。

 

女、地蔵達と目が合う。

女、あわてて振り返り。

 

女  ああ、見ないで、じゃなくて、見て見て、じゃなくて、これ、地蔵なの。

うん。本物。そう。そうなの。私が運んだの。そう、一人で。

うん。もう重くて、肩脱臼しちゃったのよ。あっ、まだあがらないで。

部屋散らかってるし、あー、そうだ。ちょっと買ってきて欲しいものがあるの。

うん。えっ、だってー、今日久しぶりに泊まってくんでしょー。

ちゃんと準備してある?だからー、準備。そう、…うん。

…ごめん、下のコンビニで買ってきて。…うん。じゃあ、お布団しいて、

待ってるから。…。

 

バタン。

女、戻ってくる。

 

地蔵達  …。

 

女、頭を下げる。

 

女  お願い、帰ってください。

地蔵達  …。

女  私たち、今夜が久しぶりなんです。

地蔵達  …。

女  彼、高校の教師で、演劇部の顧問なんです。いつも忙しくて、

滅多に会ってくれなくて、今夜は本当に久々なんです。

彼と久しぶりに、一晩一緒にすごせるんです。

地蔵2  僕たちは邪魔なの。

女  いささか、邪魔です。

地蔵3  私たちは石よ。

女  でもなんかいやです。

地蔵1  僕たち地蔵だよ。安産の。

女  すこぶるいやです。

地蔵2  なんか手伝えることがあったら、手伝うよー。

地蔵達  よー。

女  帰ってー。

 

 

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