居間を囲っていた壁を破って、岐阜市民たちがなだれこむ。
と、屋敷はこがねもち神社の境内にしつらえられた、
特設舞台であったことがわかる。
早くよい席を確保しようと駆け回る市民たち。
もうめちゃくちゃな大騒ぎ!
乳母 「てめえらっ!黙れって言ってるのが聞こえねえのかあっ!」
記者会見の準備が進められる。
奇夜比由烈徒一家とその関係者、音楽と共に記者会見の席につく。
神主
「ここにおられるみなさんがどんな思いで、
この瞬間を待っていたことか!
この町は、いまや悲劇の都です!」
にぎやかな囃子と共に、ところせましと盆踊り。
と、境内の一角から大きな声。
男 「出て来い!奇夜比由烈徒!どこに隠れた!」
ファンファーレと共に、バルコニーに姿を現したのは、
ハデな衣装をつけた、配達アルバイト。
市民たちは感極まってひれ伏しぬ。
男 「何だこの騒ぎは。まだ俺を笑いものにしようってのか?」
奇夜氏
「とうとう来てしまいました。来るところまで。
かまうことはない。やっちまえ!」
ゴング!
うなぎや 「どっちが勝つのかしら?」
神主 「もちろんきまっとる。台本通りじゃ。」
そこへ樹里絵津徒が駆け込む。
樹里絵津徒 「やめなよ!なにやってんのよ、この騒ぎ。」
乳母 「お嬢様、出番をお間違えです。まだ早うございますよ。」
樹里絵津徒
「岩田さん、悪いけど、あたしもう、
樹里絵津徒を続ける気なんかないの。」
奇夜氏
「私たちは助け合っているんだよ。
お互い協力して、人生を盛り上げようとしているんじゃないか。
君だって、私たちの仲間なんだよ。」
樹里絵津徒 「違う。あたしが待っていたのは…」
丁穂留徒 「そこをどくんだ。俺たちはどうしてもこいつをやらなきゃならないんだ。」
男 「俺もさ。だってどうせ、何もかもが芝居なんだろう。」
葉里巣 「今度は俺が相手だ」
葉里巣、男にとびかかるが、間に割って入った樹里絵津徒を刺してしまう。
奇夜夫人 「川瀬さん!」
…死にそうな朝、目が覚めると、
鏡の中に色とりどりの仮面が積み上げられていました。
あまり晴れやかな景色なので、
あたしが「うらやましいわ」と皮肉をいうと、
仮面たちは不思議そうな顔をして
「君はまだ気がつかないの?」と言うのです。…
男
「おい、どうしたんだ?これは芝居だろ?
冗談きついよ、寝たふりはよしてくれよ…」
「でも、もう駄目だよ。もうとまらない。
もうどうしたらいいのかわからない。」
「俺はただほんの少し遊びたかっただけなんだ。
逃げるんだ路美男!俺はお前をひきちぎる!」
男 「近寄るな!こっちにくるな!」
「殺せ!」
男 「近寄るなあっ!」
男 「こんなのってありか…こんなのって…」
アルバイト、死す。
一同、糸が切れた人形のように、くずれて動かない。
アルバイトをのぞいて、一同次々に起き上がる。
芽怒絵津徒
「あなた、いつまで寝てんのよ。もう終わったのよ。
これからが楽しいんじゃないの。」
アルバイトだけが、横たわる。
そして、カーテンコール。
アルバイトも列に加わる。
そして、最後の一礼を終えたとたん、役者たち、人形化する。
オープニングと同じように、仮面をつけた黒子、それらを運び出す。
ふたたびそこは静かで暗い広場。
何もない場所。
また来週!