みそじまでのひまつぶし企画
2007.8.28

本番こうでした

7.白馬の王子様

 

母はお茶を入れている。母は湯飲みをのぞきこみ、

またきゅうすにお湯を戻して入れなおす。これを繰り返している。

 

母  こんなことでくじけちゃだめなの。30すぎて独身だっていいじゃない。

お母さんは許しますよ。世間は許さないかもしれないけど。…。

…とにかくいい男をちゃんとつかまえて、後悔しない結婚生活

築き上げることよ。

妹  どうお母さんうまくいきそう

母  やっぱりほうじ茶じゃだめかな

妹  いきなり緑茶なんか入れたらお姉ちゃんあやしむでしょ

母  そうね。鈴子ほうじ茶好きだし。

妹  自然な演出が大切だからね。

父   ほら鈴子、これをごらん。

母   お父さんそれ。

父   お得意様の部長さんのご長男だ。32歳。なかなかいい男だろ。

今会社で課長補佐をやっている。

母   まあほんと。いい話だわ。

川島  あの、すいません。

母   はい。

川島  そのお見合いの話、ちょっと急じゃないですか。

妹   お姉ちゃんの面倒はもう誰もみてくれない。こんないいお姉ちゃんなのに

誰も相手にしてくれないんです。

川島  だれもってことはないですよ。

父   じゃあ君が面倒みてくれるのかね。

川島  …(照れる)

父   君、まさか。

 

父  鈴子、白馬にのった王子様がおいでになったよ。

母  ちょっと太めだけど真面目そうな人じゃない。

妹  ぜいたく言っとったらいかん。

鈴子  私…恋愛結婚がいい。

川島  鈴子さん。

鈴子  ごめんなさい。私、今更後にはひけないんです。

 

8.花火

 

花火師1  一年かけて仕込んだ花火作りはさあ。割薬作りからはじまって、

星掛けして、玉張 りしてさあ、冬でも大汗かいてみんなして

苦労して作るんだよ。どれも爆薬だからさあ、命がけでつくるんだ。

そんな玉が晴れの本番の日にこの筒に落ちる。筒の中には、

火の代わりに、真っ赤に焼けた焼き金が入ってるから、

10分の1秒後に は轟音をあげて、空に舞い上がっていく。

空中のどこで破裂するかは、導火線の長 さできまるんだけど、

運が悪いと、筒の出口ですぐ破裂する。あたいたちは命がけだよ。


鈴子   はい。


花火1   一番きれいなのは、ほんの一瞬なんだ。今夜だけだ。

今夜のために一年かけて命 をかける。それが花火なんだ。


花火2   きれいなのは一瞬みたいな。


花火1   だから、あたしは花火作りに命掛けてんだよお。


花火2   女の一生みたいな。


花火1   あの夜もあたしはもえていたんだよお。


花火2   だけど不発みたいな。


花火1   綺麗なところ一瞬なんだ。それが、女の人生ってもんさあ。


鈴子   それが、女の人生。じゃあ、私の人生は・・・・・・はは。きれいね。花火・・・

 

 

9.花火大会

 

荒木   いやあ。間に合ってよかった。みんなかえってたらど うしようって思ったぜ。


智華   荒木さん。ひさしぶり〜。(コップを渡す)

田村   よく場所がわかったなあ。

荒木   おれがさあ。スタンドに久しぶりによってみるとさあ、誰もいないんだよ。

そしたらさ あ、今、ここで花見してますから、来てくださいってさあ。

張り紙あるじゃない。 だから、来てやったんだぜ。

三ツ葉   誰ー。そんなことすんの。

鈴子   はい。

三ツ葉   こまるなー。荒木に教えちゃー。

鈴子   みんないるのに、荒木さんだけなんか、その、あれかなって。

荒木   このスタンドで、一番心がきれいなのは、鈴ちゃんだぜ。

鈴子   いえ、そんな。
  

荒木   嫁にもらうならこういうタイプだぜ。

 

間。ドンドンドン。パラバラバラ。

 

智華   なんだと。おれと野球拳で勝負できないっていうのか。

全員   えっ。

川島   野球拳?。

智華   あついぞー。脱げ脱げ!。

全員   ・・・・・・

智華  はい。じゃあ、みなさんに聞きます。私と野球拳で勝負する人〜。

全員   えっ。

 

智華は、堤防の後ろに走っていく。

 

智華   (顔を出し)私と野球拳で勝負する人、負けたら脱ぎま〜す。

全員   えっ。

智華   誰だ。私と勝負するのは〜。

三ツ葉  この勝負、買ったあ。(ダッシュ!)

荒木   ばかやろう。(ダッシュ!)

川島   何考えてんです(ダッシュ!)

 

藤巻と鈴子と田村。

 

田村 やれやれ、みんな若いなあ。あっ、ちょっと僕、みんなを注意してくるから。

 

田村、堤防向こう側へ行く。藤巻と鈴子の2人きりになる。

 

藤巻 ・・・・・・

鈴子 ・・・・・・

田村 (声)やあきゅう〜す〜るなら〜。こういう具合にしやしゃんせ〜。

 

全員の唱和。

 

全員   アウト、セーフ。よよいのよい!

智華   あーん。まけちゃったあ〜

男ども   いええええい。

田村   (声)やあきゅう〜す〜るなら〜。こういう具合にしやしゃんせ〜。

 

全員やいのやいの。藤巻、鈴子に話かける瞬間、花火があがる。

 

藤巻   ・・・・・・僕、つまみ買ってきます。

鈴子   ・・・・・・。 

 

父   ・・・・・・鈴子はいないね。

母   いませんね。

父   きっとほかでやってんだよ。きっと、いこう。

母   お父さん、あの子が、あの川島って男を振ってまで好きになった「藤巻」って

どんな男なんでしょうねえ。

父  それを見届けるために、私たちはここまできたんじゃないか。

母   あたしたち、親ばかですね。

父   親ばかだ。

母   いいんですかね。このままで。

父   なにがだい。

母   明日の8月29日で、鈴子、30歳ですね。

父   そうだよ。

母   間に合いませんね。もう。

父   ・・・・・・

母   あの子、このままずっと家にいるんですかね。

父   いるんだろうね。

母   毎年、ここで、一人で花火みてるんですかね。

父   一人じゃないさあ。

母   えっ。

父   うちら三人さ。

母   親ばかですね。

 

 

藤巻   ちょっと言い過ぎだったんだよね僕が。さっきそのことを鈴子ちゃんに

謝りたいな って、思ったんだけど、どうも言い出せなくて。

智華   藤巻さん、あまり気にしなくていいんじゃないですか。

藤巻   そういうわけにはいかないよ。

智華   でも、鈴子さんかわいそうですね。

藤巻   かわいそう?。

智華   なんか。かわいそうじゃないですか。30にもなってあんなふうだと。

藤巻   かわいそうって言っちゃいけないんじゃないかな。

智華   なんで、だってさあ。

藤巻   だれだって、いつかは、年を取るよ。

智華   ふーん。誰にでも優しいんだ。藤巻さん。

藤巻   そういう問題じゃないよ。

 

田村   君は、首だ。

智華   ・・・・・・

田村   別に、僕は鵜飼いキャンペーンが成功しなくてもいいんだ。

みんなで一生懸命働け る現場、それが僕の誇りなんだ。

智華   わたしなんか、悪いコトしました。

田村   すまないけど、今日限りでやめてくれ。

川島   支店長、いくらなんでも急じゃないですか。だって・・・・・・

智華   ちーす。

 

間   藤巻、来る。

 

藤巻   智香ちゃん。

智華   さよなら。

 

智華去る。藤巻、追おうとする。

 

田村   いくな、藤巻。

藤巻   ・・・・・・

 

爆音。タンクローリーの動き出す音。

 

藤巻   おい、ちょっとだめだよ。おい。

 

藤巻、走る。

 

川島   支店長。タンクローリーが。

田村   何。

 

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