公演後のひまつぶし企画
<舞台こんな感じ その3>   2012.11.29

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女 「たけくらべ・・・。
   高校の古典の先生が、テストに出すから読めって言った。
   毎年、その先生は同じ課題を出す人で・・・私は、部の先輩から本を借りて、
   返そうとしたら、後輩にも回してあげたらって言われて・・・私は
   「テストがんばれ。優しい先輩より」って落書きして、回した。
   そうだ。その先輩があの人だ。
   私は、高校の時、あの人に出会ってた。」



女 「そうだ・・・あの人がいた。いてくれてたんだ。
   でも・・・でも、私は、あの人とはいられなくなった。
   大事な人だったけど、そばにいるのがお互いつらくなった。
   だって・・・お互いに忙しくなって・・・余裕がなくなって・・・それに・・・。

   私には、子供ができたから。
   育児と仕事でいっぱいいっぱいだったし・・・本が好きで仕事していたはずなのに、
   本を読んでる暇なんかなくなった。

   読む本って言ったら、中途半端に自己啓発の本やビジネスの本を、
   かいつまんで読むか、そうでなければ「家庭の医学」なんか読んだり・・・。」

女 「・・・それで・・・
   (銀河鉄道の夜)
   私は・・・旦那も、子供も、仕事もない所へ行きたかった。
   例え、その行き先が『石炭袋』だとしても・・・。
   例えそれが片道切符だとしても。」


館長 『物事は簡潔にシンプルに』

副館長  『まずは捨てることから』

女 「・・・。」

館長 「・・・だから・・・あなたに、任せたくなかったんです。」

副館長  「箱にしまって、奥にしまい込んだ方がいい記憶(もの)もあるでしょう?」
女 ・・・。

間。

司書 「まだです。」

女 「!」

司書 「まだですわ。まだ続きがあるはずです。」

女 「続き・・・?」




女 「それで・・・そうだ。大事な本があった・・・。
   仕事の、取材の関係で手に入れた本。
   でも、その本は私が昔持ってて、なくしてしまった本でもあった。
   色んな意味で大切な本。
   なのに、あの子は、その本に落書きをした。
   私は・・・それが、許せなくて・・・。
   
   ひどく叩いた。
   叩いてしまった・・・。
   あの子・・・まだ2才なのに・・・。
   それで・・・それで救急車が来て・・・。」

司書 「その、「大事な本」は・・・?」

女 「え?」

司書 「その本は?」

女 「その本は・・・。」


呆然としていた女 の目に、力が戻る。


女 「そうだ・・・。
   この図書館が、「私が持っていた、全ての本がある図書館」なら・・・きっとある!」

女 本棚を探す。

女 「こっちが新しい方で、こっちが古い方・・・ってことは・・・。」

女 ずっとずっと古い方へ古い方へ・・・。

女 「『ピーターラビット』・・・『ぐりとぐら』・・・
   ちがう・・・きっと、もっと前・・・。
   『はらぺこあおむし』・・・この辺り・・・」

探す、女 。

女 「・・・あった!」

女 、一冊手に取ると、大切そうに、胸に抱く。
黄色い表紙の、小さな絵本。
表紙には、直立する白いうさぎのシンプルな絵。

女 「これ・・・借ります。」

ごぉん。

暗転。




***

医者 「・・・ここは、中央病院の夜間救急病室です。あなたは、先ほど・・・
   かれこれ6時間ほど前、救急車で搬送されました。」

女 「・・・はぁ・・・。」

女 、ふと気がついて、服のにおいをかぐ。

医者 「・・・胃洗浄をしましたから。」

女 「・・・。」

男 「「用法、用量を守って、正しくお使い下さい。」・・・睡眠薬に限らず、基本ですよ、これ」

女 「・・・すいません。」


間。



***

女 「 あの子も、私と同じように、この本に違和感を感じたんです、きっと。
   そう思ったら、あの子のやりたいことが分かりました。

   これ、落書きじゃありません。
   あの子、うさこちゃんに女の子の水着を着せてあげたかったんです。」


所長 「?」

女 「(笑)ビキニなんですよ、これ。
   あの子、うさこちゃんにビキニを着せてあげたかったんです。
    だから、オレンジ色のクレヨンなんです。」

館長 「・・・。」

女 「あの子なりの、この本の愛し方だったんです、きっと。」

***

女 「それに・・・この本、返さなくちゃならないんです。」

先生  「どなたかの本なんですか?」

女 「いいえ。私のです。でも、図書館の本なんです。」

先生  「?」

女 「借りた本は、返さなきゃ。でしょう?」



司書 「ご利用、ありがとうございました。
    またのご来館、心よりお待ちしております。」


深々とお辞儀をする司書 。

暗転。

おしまい



                                        <スタッフ編 その1→>


 <←その2>

  

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