劇団あとの祭り Vol.7

「BYPLAYERは死なない」

作/福冨英玄

<9 廃刊>

 

 

イデ  じゃあね。あきらめないで。またいいのが描けたら持ってきてよ。

 

イデ、肩をほぐしながら出てきて、手にしていたコーヒーを飲みだす。

 

アラシ  コラ、何さぼってんの。

 

むせるイデ。

 

イデ  アラシさん…勘弁してくださいよ。何で今日に限って、

こんなに持ち込み来てんです?

アラシ  別に私が呼んだわけじゃないわよ。

イデ  ちょっとは手伝ってくれてもいいんじゃありません?

アラシ  私は私で仕事があるの。

 

イデ、むくれて一人でコーヒーを飲む。

 

アラシ  で、どう?使えそうなのいた?

イデ  それが、全然。

アラシ  そう、こりゃいよいよ廃刊も近いかも知れないわね。

イデ  あの…実際そんなにやばいんですか?

アラシ  うん。…結構ね。

イデ  そうですか。

アラシ  山崎くんもかわいそうに…。

イデ  ええ…あいつ、行くとこ行くとこ、廃刊になってますもんね。

アラシ  …何でか知ってる?

イデ  理由があるんですか?

アラシ  うちの会社のね、経営陣が、大手出版社に対抗するために考えた、

苦肉の策なのよ。

イデ  ?

アラシ  廃刊が多いってことは、あらためて雑誌が出せるってことでしょ?

イデ  あ…つまり「創刊号」が増える…。

アラシ  そういうこと。その度にアンケートで人気のなかった作者はどんどん切って、

人気のある作家陣で固められるようにしようって考えなのよ。

だから…ある意味では最初っから廃刊にさせるつもりなのよね。

イデ  …そうだったんですか。

アラシ  でもね…現場レベルじゃヒンシュク買いまくりなのよね。

だって、ほら…状況が悪くなると、すぐ廃刊にしちゃうじゃない。

そうすると作者はその度にムリに最終回つけなきゃならなくなるのよ。

そうしないと単行本に掲載できなくなっちゃうから、印税はいらないでしょ?

そりゃ大御所の先生だって逃げるわよ。

イデ  なるほど。

アラシ  でね…編集長なんかはどっぷり会社の人でしょ?でも、そこんとこいくと

山崎くんは作者側の人だからね。廃刊にさせるつもりの雑誌を

させないように頑張っちゃう。

イデ  それで、編集長にニラまれてるんですね、あいつ。

アラシ  そういうことを大声で言うんじゃないの。

村松  何を大声で言うなって?

アラシ  !編集長

村松  なんだその反応は…俺には聞かせられないような話か?

アラシ・イデ  いいええ。

村松  ならいいが、いつまでもこんなところで油売っとらんで仕事しろよ。

イデ、さっきの持込、まだ用があるんだと。相手してこい。

イデ  はい。

 

去るイデ。

残る二人。

 

< 続く >

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