劇団あとの祭り Vol.13

「ハァドボイルドの犬達」

作/福冨英玄

< 14章 犬達 >

 

 

互いに、天に向けて発砲する二人。

弾丸は街灯を撃ち抜き、あたりは闇に覆われる。

 

交錯する二人の足音、足音。

 

発砲する大神。

発砲する木場。

 

その瞬間、照り返しで男達の顔が照らし出される。

 

大神  3年のブランクは大きいか?当たらないぜ!(発砲!)

木場  お互い様だ!当ててから言え!(発砲!)

 

走る二人。

 

大神  相変わらず、変な構えで撃ってるんだろう!(発砲!)

木場  お前こそ!相変わらず当たりもしない大砲、使ってるんだろうが!(発砲!)

 

発砲しながら、走る二人。

遠からず息が切れる。

 

木場  大神ィ!(発砲!)

大神  何だ!(弾切れ)

木場   どうでもいいが、暑いな!(切れる)

大神  だからどうした! (あわてて弾を込める)

木場  コートを脱いだらどうだ!(込める)

大神  断る! (込める)

木場  なぜ!  (発砲!)

大神  なぜと聞くなら、お前が脱げ!(発砲!)

木場  断る! (発砲!)

大神  お前、ホントは脱ぎたいんだろう!(発砲!)

木場  そういうお前はどうなんだ!(発砲!)

大神  まねするんじゃねえ!(発砲!)

木場  そっくり返すぜ!(発砲!)

 

あらぬ方向から、銃声!銃声!

伏せる二人。

 

ミサキ、両手に銃をかまえ、出てくる。

 

ミサキ  何、低レベルな喧嘩してるのよ! (大神に発砲!)

大神  何しに来た!口を挟むな!(いいながら木場に発砲!)

ミサキ  バカバカしすぎて見てられないのよ!(木場に!)

大神  男の戦いに、女が出るな!(木場に!)

ミサキ  子供の喧嘩に大人がでたのよ!(大神に!)

大神  なお悪い! (木場に!)

ミサキ  怪我する前によすのね坊や!(木場に!)

木場  うっとうしい!痴話ゲンカならよそでやれ!(大神に!)

大神・ミサキ  そんなんじゃない!(二人して木場に!)

 

ミサキ  大体、なんで撃ち合わなきゃならないわけ?

大神  男の戦いだ!女にわかるはずもない!

ミサキ  詭弁だわ!

木場  巻き込まんとしてるんだ!わかってやったらどうだ!

大神  作るな!

ミサキ  そういうの、偽善っていうのよ!

木場  それでも善だ!悪よりはいい!

ミサキ  屁理屈こねないで!

大神  屁理屈だって理屈のうちだ!

ミサキ  それを屁理屈だって言ってるの!

大神・木場  お前、ちょっと黙ってろ!!(ミサキに向かって連射!!)

 

ミサキ、引っ込む。

 

ざまぁみろ、と言った感じの二人。

ふと気付くと、無防備。

 

二人、思い出したように、銃を向ける。

引き金をひく!…弾切れ。

 

二人、あわてて隠れると、弾を込める。

弾を込めながら、笑いがこみ上げてくる。

 

しょせんは意地のはりあい。

まったくもってバカらしい。

 

大神  木場!

木場  何だ!

大神  まだやるか!

木場  いや!

大神  だな!

木場  でも。けりはつけたい!

大神  同感だ!

木場  あと一発だけってのはどうだ!

大神  いいだろう!

 

二人、込めた弾を抜き、一発だけにする。

二人、銃を握りなおし、必勝の位置へと静かに移動する。

 

闇と静寂の港。

ときおりめぐり来る、灯台のあかり。

 

長い長い間。

 

撃鉄を上げる音!

 

木場  とったぜ、大神。…この距離ならはずさない。

大神  …お互い様だぜ、木場…。

 

間。遠くで聞こえる汽笛。

 

木場  なぜ撃たない?

大神  お前こそ。

 

間。

 

木場  大神…。

大神  …ん?

木場  …俺たちは所詮、犬だ。…たてがみを生やすほど立派でもないくせに

羊の沈黙も認めない。だがな…犬死にはしない。

大神  …下手なしゃれだ。

 

笑う二人。

その声は、だんだん大きくなり、ついには絶叫になる。

 

めぐり来る、灯台の明かり。

照らし出される、二人。

二人、互いに銃口が、相手の心臓に触るほどの位置まで接近している。

まさに必勝の位置。

 

二人  !

 

銃声!

弾丸は、確かに二人に当たる。

紅にそまる互いの視界。

 

灯台の明かりが遠ざかると共に、二人の意識も遠のく。

 

暗転。

 

***

 

ミサキ、かけてくる。

大神、足を投げ出して、倒れている。

 

ミサキ  …うそ…。

 

ミサキ、近づく。

 

大神  …3年前…。

ミサキ  !

大神  ここで、銃撃戦があった。

ミサキ  …ええ。

大神   木場はその中で、禁断の煙草の味を覚えた。

ミサキ  …ええ。

大神  俺は吸わなかった。

ミサキ  …。

大神  なぜならば…ライターを持っていなかったからだ。

ミサキ  …ええ。

 

大神、震える手でポケットから煙草を出す。

袋を開ける。が、その途中で、箱を落とす。

大神、架空の煙草の箱を拾う。

マイムで箱を開け、一本出す。

 

大神  火。

ミサキ  …。

 

ミサキ、ライターを出すと、架空の煙草につけてやる。

風があって、うまくつかない(らしい)。

大神、ミサキの手を手探りでつかむと、握り締めて、火をつける。

 

吸う。

深く深く吸う。

 

ミサキ、離れる。

 

ミサキ  …救急車、呼んでくる…。

大神  ミサキ!

 

立ち止まる、ミサキ。

 

大神  …いい火加減だ…。

ミサキ  …。

 

ミサキ、走り去る。

 

大神、笑う。

大神、笑いながら、もう一服吸う。

架空の煙草を、深く深く吸う。

 

そして、吐き出すことなく、うなだれる。

 

港に、朝日がのぼる雰囲気。

動かない大神。

 

暗転。

 

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