劇団あとの祭り 番外公演

「三人の地蔵」

作/中島充雅

< その11 地蔵ボーリング >

 

 

念仏が続くさなか…。

 

地蔵3  あきらめちゃだめだよ。顔をあげて。顔をあげて。顔をあげて。

女  えっ。この声は。

 

女、立ち上がる。

 

女  闇に閉ざされた私の心に呼びかけるこの声は…。

地蔵1  君は闇に閉ざされたわけじゃない、

少し眠ってしまっただけさ、だけさ、だけさ…。

地蔵3  さって、目を開けて、開けて、開けて…。

女  いや、私はもう壊れたの。私は彼と一夜を過ごすことができない。

放っておいてちょうだい。

地蔵2  ほっておけないよ。だってほら、僕たちは友達じゃないか、ないか、ないか。

女  友達って、あなた達は誰。

地蔵3  忘れたのかい。私たちのことを。

地蔵1  忘れたのかい。僕たちの存在を。

地蔵2  忘れたのかい。僕たちに君がしてくれたことを。

女  あなた達は誰。

 

輪唱

 

地蔵3  地蔵だよ。地蔵だよ。地蔵だよ。

地蔵1  地蔵だよ。地蔵だよ。地蔵だよ。

地蔵2  地蔵だよ。地蔵だよ。地蔵だよ。

女  あはあはあは。

 

女、倒れる。

地蔵達、駆け寄る。

 

地蔵2  おい、しっかりするんだ。

地蔵3  だめ、死んじゃだめ。

地蔵1  だめだ、脈が弱くなっている。

地蔵3  見て、この子泣いてる。

地蔵1  よっぽど悔しかったのさ。

地蔵2  くっそー、誰が彼女をこんな目にあわせたんだ。

日本   あんたらやん。

地蔵1  彼女にとって、今夜は大切な日なのに。

地蔵3  彼女にとって邪魔なものは。

地蔵1  僕たちにとっても邪魔なものだ。

地蔵2  くそー、俺は今、燃えている。

地蔵達  燃えている。

地蔵1  燃えてるかー。

地蔵3  燃えてるさー。

地蔵2  燃えてるよー。

地蔵1  じぞー。ファイファイファイ

地蔵達  オー。

地蔵1  やっつけるぞー。

 

その頃。

 

婆子1  もっとこう腰をのばす。

婆子2  あー。

婆子1  のばす。

婆子2  うー。

婆子1  曲がりっぱなしですよ。

婆子2  老人の青春と腰は帰ってこないんですよ。

婆子1  その怒りをぶつけなさい。

婆子2  そーれ、ボーリングだー。  

 

婆子達、ボーリングを転がす。

ボーリングのピンのように、はじき飛ばされる地蔵達。

地蔵達がはじき飛ばされる音が響き、ドアを突き破る音。

地蔵達、去る。

 

女、びっくりして起きる。

静寂。

 

婆子1  ストライク。

婆子2  やったね。ぱし。

婆子1  やったね。ぱし。

女  何、何、今の何。

 

女、起きて、ドアを見る。

 

女  あー、壊れてるードアー。ドア、倒れちゃってるじゃない。

婆子1  やったね。ぱし。

婆子2  やったね。ぱし。

女  何やったの。

婆子達  そーれ、ボーリングだー。

女  ボーリングったって、地蔵は、地蔵。

婆子1  ゴロゴロゴロ。

婆子2  パッカーン。

婆子達  ボーリングだー。

女  あー、もー、おばあちゃん、どうしてくれるのよ。大家さんになんていえばいいのよ。

婆子1  壊れましたー。

婆子2  破けましたー。

女  今夜どーすんのよ。ドアがなかったら困るじゃない。もうすぐ彼が…。

婆子達  彼!

女  …彼が来るの。

婆子1  か、彼って、男かい。

女  あたりまえでしょ。

婆子2  ももももももももしかして。

婆子1  ととととととととまりかい。

女  …うん。

婆子1  やったね。

婆子2  やったね。

女  だから、今夜はおばあちゃんたちに、帰って欲しいの。だってさ、ねー。

彼、泊まってくしさー。…あ、あれ、そういえば、もう5分たってるんじゃ

…あれ。あれ。

婆子1  どうしたの。

婆子2  どこいくの。

女  ちょっと見てくる。

婆子達  きゃ。

 

女、外を見に行く。

 

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